【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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最終幕 絆
最終訓 永遠のキズナ


 ざわざわと、風が髪を揺らす。

 心地よい風に包まれながら、銀時は一人、目を開けた。

 金色の草原と、青い空の下。一人の着物の女が、銀時を見つめていた。

 クセのある長い銀髪を肩に垂らし、狼の耳をぴんと立てる。尾をふわりと動かして、足元の草木を揺らす。

 女―――伏は、銀時を見つめたまま、その顔に微笑をたたえ、口を開いた。

「どうだ? 銀時」

 伏は優しい笑顔で、銀時に問いかける。

「強かったろう? 私の娘は」

 短い、けれど愛のこもった言葉に、銀時も笑みをこぼした。

「ああ…。俺たちの、自慢の娘だ」

 その言葉に、伏は少しだけ驚きの表情を浮かべる。だがやがて満面の笑みを返した。

 そして、銀時の視界は、金色の光に包まれていった―――――――。

 

 

「!!」

 寝台の上で、銀時は今度こそ目を覚ました。

「銀さん!! よかった、気が付いたんですね!?」

「銀ちゃんンンン!!」

 顔を覗き込んでいた新八と神楽が歓声を上げるのを聞きながら、銀時は寝転がったまま辺りを見渡した。

「……ここは」

「松平公の戦艦の中です。重傷者を収容して、いま地球に帰還するところです」

 銀時は天井を仰ぎ、「そうか」と短く返した。その時、そこに姿の見えない三人の人間を思い出し、眉を寄せた。

 それに気づいた新八が、そっと目を伏せた。

「……ネズミさんも兎姫さんも、爆発の直後から行方が分からなくて……」

「気づいたらいなくなってたアル」

「…………」

 銀時は二人の顔を見つめた。

「……黒羽は、どこ行った?」

「…………」

 新八と神楽は、黙って目をそらした。

 二人の心情を慮ってか、傍にいた坂本が口を開いた。

「おんしらを助けた時には、もう姿は見えんなっとったぜよ……」

 言いかけた坂本の襟首を、銀時は急に起き上がり、締め上げ始めた。

「! 銀さん!!」

「……なんで」

 ぎりぎりと力を強めながら、銀時は食いしばった歯の間から声を漏らした。

「なんで置いていきやがった……!! なんのために俺たちはここまで来たと思ってんだ!!」

「銀時……」

 見かねた桂が止めようとするも、銀時は止まらない。

「今すぐ引き返してくれ……あいつを一人にする気か!!」

「いい加減にするぜよ!!」

 たった一つの、言葉。

 それだけで銀時は勢いをそがれてしまった。

「あいつは、自分の意思でおんしらを守るために残った。それを無駄にする気か」

「…………」

 銀時はうつむく。手から力を抜き、頭を抱えて黙り込む。

 銀時を見下ろし、坂本は息をつく。

「……少し、頭を冷やすぜよ」

 坂本は振り返り、そのまま銀時の前から去った。桂も何も言わず、坂本に続いていく。だが二人ともその背には憂いが漂い、目に見えるようだった。

 新八が何か言おうとしたとき、その肩を土方が掴んで止めた。

 振り返って見上げると、土方は険しい表情で首を振る。近藤も沖田も、山崎も鉄之助も、新選組の面々も目をそらしながら、新八と神楽を外へと促した。

 銀時を一人残し、全員が退出していく。

「……バカヤロー」

 誰もいなくなった一室で、銀時は歯を食いしばる。

 その言葉の先は、娘か、自分か。

「何が約束だ、チクショー」

 銀時の目じりを、熱い何かが伝った。

 

 *

 

 アニマは、完全に滅びた。

 スマートブレインは元々、アーク復活のために大量のエネルギー・龍脈(アルタナ)を星から抽出し続けていた。それが、惑星(ほし)の寿命を縮める結果となった。

 しかし、アーク自身の復活は不完全で、本来持つはずだった不死の力が発動せず、銀時たちの最後の一撃により、葬ることができたのだという。

 

「…そして惑星のエネルギーを収束していたアークが倒れたことで、惑星も徐々に活動能力も低下。アークが滅びるとオルフェノクも滅びるという伝説も、奇しくも実話になったということですね」

 報告書を手に、佐々木がひとりごちる。

 ただ、傍の机の上に座っていた信女は、反応を示さなかった。

「…………」

「おや、不機嫌そうですね。女友達がいなくなって寂しいのですか?」

 信女は相変わらずの無表情だが、微妙に変化があったらしい。佐々木のほうに目を向けることなく、机の上から降りる。

 そのまま無言で退出しようとした時、佐々木のケータイが鳴った。

 メールを開いた佐々木は、おもしろげな表情で画面を見つめた。

「おやおや、これは何とも」

 漏れた声に、信女は訝しげな表情を浮かべた。

 

 江戸城の天守閣の最上階。

 征夷大将軍徳川茂々は、江戸の町をぼんやりと眺めていた。

 そばに控えていた松平が、たばこの煙をくゆらせながらそれを見つめた。

「……どうしたよ、将ちゃん。庶民の友達がいなくなって、寂しくなっちまったかい?」

 からかうようでも、それは将軍を気遣うものだ。

 茂々はそんな松平に、ふっと笑って見せた。

「……そうでもないぞ」

 そういって、将軍は窓の外を眺める。

 雲一つない、いい天気だ。

 自然と、茂々の顔に笑みが浮かんだ。

 

 そのころ、かぶき町は妙なざわめきに包まれていた。

「…オイ、聞いたか。黒羽ちゃんまだ戻ってこねーんだってよ」

「ほんとかよ、何があったんだ?」

「なんでも、他所の星の事件に巻き込まれたらしいぜ」

 道行く人々が、スナックお登勢で姿を見せていた可愛らしい少女のことを噂し、暗い表情になる。

「そのせいか、銀さんも最近元気ないってよ」

「嘘だろ、あの銀さんが!?」

「…何でも、マジの娘だったらしいじゃねーか、あの子」

「何があったかは知らねーが、親父として辛いことがあったんだろうなぁ……」

 その噂は、かぶき町の誰もが耳にし、気持ちを暗く沈めさせていた。

 

「…そう、銀さんが」

 茶屋の席に座る妙もまた銀時の心を案じ、憂いの表情を浮かべていた。

「ああ。…正直、僕も見ていられなかった」

 九兵衛もまた、沈んだ声を漏らす。

 そのほかにも、月詠や猿飛、日輪といった江戸の華が集まり、共に席を分け合っていた。

「うちも晴太が落ち込んでてね。一晩中泣き明かしてたよ」

「思えば、わっちらが勝手に距離を取って、ろくな話も出来んかったな……」

「あんたの場合勝手に勘違いしてただけだけどね」

 月詠と同じく、その後ろのさっちゃんも重い空気を背負っていた。

「……考えてみれば、もうちょっとまともな接し方があったわよね」

「ああ、そうじゃな」

「最初から私、おかしかったって今はよくわかるわ」

「ああ、そうじゃな」

 さっちゃんは虚空を仰ぎ、ふぅ、とため息をつく。

「身寄りもなく、一人心細く江戸にやってきて、ようやく父親にあって、たくさん話したかったろうに、…私ったら、あんなふうにぶつかっちゃって……。答えなんて、最初からあったじゃないの」

「猿飛……」

 月詠が振り返り、さっちゃんの背中を見つめる。

「誰のことか、いつからとか関係ないじゃない。……私が母親になれば済む話じゃない」

「何の話をしとるんじゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 途中からおかしくなったさっちゃんのつぶやきに、月詠は思わず突っ込んだ。

「どっからそんな話になった!! なぜそうなった!!」

「いや、だってそうじゃない? 銀さんの娘なら私の娘も同然なわけだし、あの子もあの子で母親が亡くなってるなら私に甘えればいい話だし、最初からそのことに気付いてればもーちょっと優しく接しときゃ今頃落ちてただろーになーって」

「そーいう問題か!?」

 モラルもくそもへったくれもない。

 呆れた表情で、妙も九兵衛もさっちゃんを見つめる。

「そもそも、愛しあう二人の間に割って入るのはアレじゃと最初から……」

「アンタまだ勘違いしとったんかィィィィィ!!」

 ヒートアップし始めたストーカーとツンデレの会話。

 そんな四人のすぐ近くで、団子をかじっていた一人の浪人がいた。大きな丸いネズミの耳と伸びたひげをピクリと揺らし、その小柄な浪人は、一人笑った。

 

 ターミナルの格納庫。

 一機の宇宙船の横で、桂と坂本は向かい合っていた。

「いろいろと世話になったな、坂本」

「ガハハハ!! 今回の商いは大損こいてしもうたからのう!! まぁ、このツケは金時にいずれ返してもらうかの!!」

 やかましく豪快に笑う坂本。だが唐突にまじめな顔になった。

「…ヅラ。金時は大丈夫じゃろうか?」

「ヅラじゃない桂だ。分からんが…、いつまでも立ち止まっている奴ではなかろう」

「…ほーかの」

 二人は深刻な顔でうつむく。

 だがやがて、笑みを浮かべて拳を合わせた。

「またな、坂本」

「いずれの、ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ」

 再会を誓い合う二人の男。

 それを、積み荷の陰から一人の編み笠を被った女が覗いていた。女は長いうさぎの垂れ耳をピクリと動かし、やがて小さな微笑みを浮かべた。

 

 スナックや夜の店にとって、日中は準備時間だ。

 お登勢はたばこの煙をくゆらせ、たまが店の前を掃くのを眺める。キャサリンもビールケースを運び、開店準備を進めていく。

「ご苦労様。もう夜まで休んでていいよ」

[いいえ、お登勢様。私はまだ働けます]

 たまが箒を手に言うと、お登勢はため息をついた。

「いいのさ、今夜も客足が遠のきそうだからね」

「ジャ、シッカリヤットケヨ」

「おめーは何様だ!?」

 スパン、とキャサリンの頭をはたくと、お登勢は煙草の煙を消した。

「…そーかい。それじゃ、ついでに上の掃除もしてきてやってくれんかい?」

[え?]

 たまが思わずそう返すと、お登勢は苦笑を漏らした。

「まったく、どうしようもないとこばっかあいつに似ちまいやがって……」

 そういうお登勢の前を、一人の侍が通り過ぎていった。編み笠を深くかぶり、尻から白い尾を垂らす彼女は、微笑を浮かべながら歩き去っていく。

 その顔を見たキャサリンとたまが目を見開く。

 お登勢は微笑みながら、たまの肩をたたいた。

「あのバカがいつでも帰ってきていいように、綺麗にしといてやりな」

 優しい声で、お登勢は言う。

 その言葉に、侍は小さく笑みをこぼした。

 

 江戸の町を、陰鬱な表情で新八と神楽が歩いていた。目は銀時以上に死んでいて、歩き方にも覇気がない。ため息が重く漏れる。

 そんな二人は刹那、一人の侍とすれ違う。

 銀の髪をなびかせ、微笑みながら歩き去る侍の姿に、新八と神楽は目を見開いて硬直する。

 数秒ののち、幽霊でも見たかのようにぎょっとなって振り向くが、もうその姿は見えない。だが、二人は確信を持った。

 二人は顔を見合わせると、歓声を上げて走り出した。

 

「…やれやれ」

 ケータイの画面を見つめながら、佐々木はつぶやいた。

「誰に似たんでしょうねぇ、あんな男の遺伝子持ちというのに」

 そこにあるのは、一通のメール。それを見た信女は、彼女にしては珍しい微笑みを浮かべ、静かに退出していった。

「死んでまで返信するようなまめなメル友、そういませんよ」

 メールの中には、デフォルメされた狼少女のイラストと、

『ありがとな』

 という、そっけない文面があった。

 

 どんよりとした雰囲気を背負いながら、銀時は江戸の町を徘徊していた。

 食欲もなく、宇治銀時丼も、パフェも口に入らない。パチンコに行く気にもならず、ジャンプも読む気にならない。依頼もないし、やる気もやることもなく、ただただ街をさまようばかり。

 だがある時、見覚えのある銀髪を目にし、銀時は固まり、立ち止まった。

 二人はすれ違い、互いの髪を揺らす。

 銀時の思考はうまく働かなかった。ただ、様々な疑問が浮かんだ。

 なぜ、姿を現さなかったのか。

 どこにいたのか。

 どうしていたのか。

 だが同時に、それらすべてがどうでもよくなった。

 ふっと微笑み、銀時は離れていく背中に笑いかけた。

「……いつでも帰って来いよ」

 その言葉に、侍はその足を止めた。

 銀時はにやりと笑みを深め、憎たらしくも、どこか憎めない表情を、娘に向けた。

「お前の家は、いつだってここだ」

 侍は、黙ってその言葉を聞く。

 そして彼女は、満面の笑みで、振り返ったのだった。

 

「……約束、したからな。必ず、あんたの所に戻ってくるって」

 

 人の世で、受け継がれていくもの。

 それは、意志や想い、目に見えぬもの。

 その中にはきっと、約束も含まれているのだ。

 

                              《―完―》




あとがき

自分が小説や物語を読んでいて常々思うのは、この後主人公はどうなるんだろう、ということです。
たとえ物語が終わっても、その世界では当然時間は流れていくわけで、作品では語られない物語も当然あるというわけになります。こういった作品を書いている我々は、否応がなくその世界から一部分を切り取り、一つの脚本として仕上げなければなりません。
これがなかなか難しい。改めてプロの人たちがどんだけ大変なことしてんのかよくわかります。
けれど、こうしてどんな世界なのか想像し、書き連ねていくことが、私にとってとても充実したものであるのは変わりません。
私にとっての銀魂の世界が、みなさんの心に残るような作品に仕上がっていれば、と思います。
最後になりますが、みなさんに聞いておきます。

銀さんたちって、こんなキャラでよかったんでしたっけ?
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