【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第四訓 ヤンデレが許されるのは二次元だけ

 ポン!

 軽快な音を立てて、コルク銃が弾を発射する。

 宙を飛んだコルクは、二つの商品の間で跳ね、両方を棚から落下させた。

「うおおおおおカッケェェェ!!」

「へへ。昔っから射撃(コレ)は得意なんだ」

 目をキラキラさせて称賛する神楽に、黒羽はコルク銃を肩に担いで胸をぐっと張った。耳も尻尾もピコピコ動いて満更でもなさそうだ。

 そんな彼女に、店主のグラサン男が申し訳なさそうに顔を寄せた。

「…あの、お嬢ちゃん。もーそろそろ勘弁してくんないかな。オジサンとこの商品無くなっちゃうよ」

 長谷川泰三(マダオ)は口ではそう言いながら、内心かなり怖かった。

 こいつらに関わるとロクなことがない。

「何言ってるアルか。バーさんからもらった金はまだたんまりあるアル」

「いや、そっちの心配じゃなくてこっちの売り上げの……」

「おい黒羽。次あの菓子の箱頼むわ」

「イエッサ!」

「オイぃぃ!! 何娘を便利屋扱いしてんだテメェェェ!!」

「娘じゃねーって言ってんだろ!!」

 その間に、黒羽はいそいそと次の的を狙う。

 だが、トリガーを絞る寸前、狙っていた商品が別の誰かに撃たれた。

「!! 何奴!?」

 バッと振り向くと、そこには二人の狙撃手(スナイパー)がいた。

「これは失礼したな。 好敵手を見つけた故、ついつい手を出してしまった」

 グラサンをかけたオールバックの男と、ショートボブの小柄な女。

 長谷川が目を見開いて詰め寄った。

「てっ、テメーらは……殺し屋兄妹!!」

 そこにいたのは、兄・一星(イーシン)と妹・一龍(イーロン)の狙撃手兄妹。長谷川がかつて自殺志願のために狙撃を依頼し、アッサリ断られた相手だ。

「なんでテメーらここにいんだよ!! 誰だ、誰を()りに来た!?」

「勘違いするな。僕らは単に祭りを楽しみに来ただけだ」

「前にも言ったが、俺たちはカタギ連中には手を出さない。標的にしていいのはクズだけだ」

「俺はいいってか!! 俺の店は標的にしてもいいってか!?」

 せっかく見つけた職場を奪われてたまるかと、長谷川は声を荒げた。

 だが、一星はフッと一笑にふした。屋台の向こうを見ながら。

「それよりいいのか? 俺たちよっぽどデカいゲストがおなりだぞ?」

「え?」

 長谷川が聞き返した時だった。

 ポンッ。

 一発の小さな音とともに、二つの商品が同時に落ちた。

 その場にいた全員が驚き、黒羽の隣に現れた男を凝視した。

 目立たないが、上等な浴衣を着た男が、コルク銃を構えて商品棚を見つめている。一般人(モブ)と変わらない顔立ちだが、彼を見た瞬間、銀時と長谷川は固まった。

 知ってる、というか、知らない奴はいない。

「お…、(あん)ちゃんやるね。オレと同じ技を使うとは」

「…兄ちゃんではない」

 男は銃を降ろし、振り向いた。

「今はただの、将ちゃんだ」

 江戸幕府征夷大将軍・徳川茂々が、そこにいた。

 ―――……しょっ。

 銀時と長谷川、そしてその向こうにいた土方は目を剥いた。

 

 ―――しょっ……しょっ……しょっ……将軍かよォォォォォォ!!

 

 彼に対して最悪な記憶しかない銀時たちは、震えながら将軍を凝視した。

 しかし、目の前にいるのが征夷大将軍で露ほども知らない黒羽は、呑気にも茂々の肩を気軽に叩いた。

「そうかそうか。将ちゃんオメー、その技をオレの前で使ったってことは俺への挑戦と受け取っていいんだな?」

「うむ。競える相手は滅多にいないからな。手加減はせんぞ」

「上等だ!! どっちが一番討ち取れるか競争だコラァ!! そこの兄妹も付き合え!!」

 ドンドンドン!

 ドパパパパパパパパ!!

 明らかにコルク銃じゃない音とともに、陳列棚の上の商品が一瞬で吹っ飛んだ。

「やめてェェェ!! オジサンの店がァァァァ!!」

 悲痛なオッサンの叫びなど無視され、射撃対決が勃発した。

 

 

「…………」

 通りでは、目と口を全開にした土方が凍りついていた。

 そんな彼に、佐々木は一言。

「ね? 言ったでしょ?」

「言ったでしょ、じゃねーだろ!!」

 心なしかドヤ顔を向けてくる佐々木に、土方は目を剥いた。

「庶民の祭りが見たいということで。松平殿は私用で出られないという事なので私が代理を務めたまでですよ」

「いや、あの男の場合私用つってもキャバクラか娘絡みしかあり得ねーと思うけど!?」

 言いながら、土方は佐々木の肩を掴んでガクガクと前後に揺さぶった。

「ちょっ……もういい帰れ! 悪ぃこといわねーからあの野郎(松平)呼び戻して帰れ!! 将軍だけならまだしもアイツらがいたらロクなことになんねーぞ!!」

「何を大袈裟な……。エリートに抜かりは……」

 佐々木が言いかけた時だった。

 

 

「アラ、銀さん」

「ん?」

 射的対決の起こる屋台に、車椅子に乗った女性、日輪(ひのわ)とその息子、晴太、死神太夫と恐れられる月詠(つくよ)が立ち寄った。

「どうしたオメーら。地上()に来るたァ珍しいな」

「吉原じゃこんな祭りはあまりしないからね。ついつい来ちゃったのさ」

 大型遊郭の主である日輪は、そうカラカラ笑って頬に手を置いた。

「相変わらず騒がしい所じゃの、ここは」

「銀さん、オイラも射的やっていい?」

「いいけどほとんどこの姉ちゃんに食われてっぞ?」

「……え? 誰? この姉ちゃん」

 訝しげな顔で、晴太は黒羽の横顔を見つめた。

 黒羽は神楽や茂々と話し込んでいて、こちらを向いていない。

 仕方なく、銀時が「おーい、黒羽さんよー」と呼びかけた。

「ん? 何、銀さん」

 ふわりと髪をなびかせ、黒羽は振り返った。

 次の瞬間、晴太の脳天に、一筋の雷光が走った。

 ふわふわと柔らかそうな銀の髪と、すっとした顔立ち。そして、髪の奥にある輝く金の瞳。ドツボだった。

 その時晴太には、なんかもうキラキラした美少女しか映っていなかった。

 思わず直立になり、ビシッと敬礼する少年。

「こっ、こっ、こっ、こんばんは!! せっ、せっ、晴太と言います!!」

「……は?」

 ガチガチになって突如挨拶してきた見知らぬ少年に、黒羽は首を傾げて一文字声を漏らした。

「……銀さん、こちらのお嬢さんは?」

 気のせいだろうか、日輪の声が固い。冷や汗を流しながら、黒羽を見つめている。

 またか、と銀時は思った。

 説明を面倒に思いながら、日輪に向き直った。

「ああ、コイツはな……」

 だが、一人の女がそれを手で制した。

「…いや、もういい」

「え?」

 まだ何も言ってね―けど。

 そう思いながら、銀時は月詠を凝視した。

 月詠はなんか、どんよりした雰囲気を背負って立ち尽くしていた。

 なんか顔色も悪く、目はどこを向いているのかも分からないほどそらされている。

「…いや、まだ何も」

「いや、よい。もうわかったから」

「いや分かってねーだろ。話聞けよ」

「いやもうよい。じゃ、邪魔したの」

「いや、今はその空気邪魔だから。え、何? 今お前何をどう理解したの?」

 だんだん空気がギスギスしてきた。見ると月詠の体も震えている。

「わっちは気にせん。二人でとくと楽しんでいるがよい。末永くお幸せに!!」

「ちょっと待てェェェェ!!」

 ついにはダッと駆け出した月詠に銀時は叫んだ。

「オイぃぃぃ!! お前だけなんか勘違いの方向間違ってんだろがァァ!!」

「…あのー、銀さん。…なんかゴメン」

 一瞬で銀時と月詠の関係を理解したらしい黒羽が、頭をかきながら謝罪した。

「ゴメンじゃねーよ。さっきからなんか謂れのない疑いばっかかけられてんだけど。真選組(バカども)の反応だけまともに思えるんだけど。何なのコレ、なんなのオレ!?」

「…やっぱ、日頃の行いじゃね?」

 目をそらしながら、黒羽はそう結論付けた。

 その言葉に、銀時はハッとなった。

「……日頃の?」

 訝しげな表情になった黒羽を余所に、銀時は冷や汗を流した。

「え、ちょっと待って。…このパターンで行くと次に来るのって……」

 そう呟いた時だった。

 

 頭上から、無数のクナイが飛来し、射的屋を粉砕して銀時たちに襲い掛かった。

 

「ぎぃゃあああああ!!」

 間一髪、銀時と黒羽はその攻撃をかわした。

 銀時は転がりながら体勢を立て直し、黒羽は空中でくるくると回転して見事に着地した。煙の立ち込める前で、黒羽は叫ぶ。

「なっ……、何事ォォォォ!?」

「! ちょ、ちょっと待て」

 おののく黒羽と銀時。

 すると二人の前で、立ち込めていた煙が少しずつ晴れていく。

 そして二人の目の前に現れたのは、ブリーフ一丁になって、白目で気絶する茂々の姿であった。

「将ちゃんんんんんん!!」

 なんでブリーフ!? と叫ぶ黒羽。ライバルが裸に剥かれた彼女の心境はどのようであるだろうか。

「オイハーメルン(ここ)でもこの扱いか将ちゃんんん!!」

 別の理由で、銀時は叫ぶ。その時だった。

 聞き覚えのある声が聞こえたのは。

「あ〰〰あ。外しちゃったぁ」

「!!」

 ゴキィッ、と音がして、茂々の股間が踏み潰された。

 ゆらりと揺れる、淡い藤色の髪と忍装束のマフラー。そして、妖しく輝く紅い縁の眼鏡。ゴキゴキと拳から音を立てながら、元御庭番衆、さっちゃんこと猿飛あやめはギョロリと眼を向けた。

「一緒にくたばってくれたらよかったのになぁ〰」

 彼女の眼は、病んでいた。

「なんかすげー怖ェ人来たぞォォォォォ!!」

 一瞬で銀時の陰に隠れながら、黒羽は涙目で叫んだ。

「ねェ、なんなのコレ。ただでさえ出番が無いのに何コレ。顔すら出てない女に男取られるって何? ふざけてんの?」

「オイ、なんか勝手にヤンデレ属性追加されてっけど!?」

「怖えーよ今にも鉈とか出してきそうだよ!!」

 ゆらゆらゆらつきながら、さっちゃんは銀時たちに近づく。

 すると次の瞬間、眼鏡をギランと輝かせて、無数のクナイをどこからともなく抜き出した。

「認めない……認めないわよ!! 銀さんと私以外の女との愛の結晶なんてェェェ!!」

 そう吠えて、猿飛はクナイを手に爆走してきた。凶悪な笑顔とともに。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 絶叫しながら、銀時と黒羽は逃げ出した。

 どーしてこうなる、と理不尽を恨みながら。

 後には、白目を剥いた征夷大将軍と、グラサンの割れたオッサンの屍だけが残されたのだった。

 

 

「………………」

「な、言っただろ?」

 絶句する佐々木の隣で、土方はさっき言われた言葉をそのまま返した。

 そんな中、難を逃れた日輪と晴太が、呆然となっていた新八達に近づいた。

「…で、結局あの子は一体誰なの?」

「ホントに銀さんの子なの?」

 月詠姉知らないままになっちゃったけど…。と付け加えながら、二人は尋ねた。

「いや、昔の知り合いの子らし―けど。…銀さん自身その人となんかあったみたいですけど」

「え、マジで?」

「そういやぁ、どこの出身のお嬢さんなんでぃ? 地球出身でないのは明らかだが…」

 沖田が尋ねると、新八は答えた。

「惑星アニマって言ってました」

「!!」

 すると、土方と沖田、そして佐々木までもの表情が一変した。

 目を見開き、難しい顔になる。

「……そいつはまた」

「厄介な所から来ましたね」

 仲の良くない二人が、揃えてそう言った。

「え?」

 思わず漏れた新八の声。

 それは、怪しく吹いた風に、かき消された。

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