【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第五訓 やんちゃだったあの頃はもう記憶の彼方

 騒がしい通りで、一際騒がしい声が響いた。

「お妙さァァァん!!」

 真選組局長、近藤勲ことゴリラだった。

「今宵こそ、俺と一緒にランデ……」

「フン!!」

「ぶびゅらばっ!?」

 ピョーンと飛んだ近藤の顔面に、妙の鉄拳がめり込んだ。勢いはそれで収まらず、拳は近藤の体ごと大地に叩き込まれ、半径1メートルほど陥没させた。

「…まったく、銀さんったらどこ行っちゃったのかしら。黒羽ちゃんともはぐれちゃったし」

「やつのことだ。どこぞの菓子にでも釣られているのだろう」

 それもそうね、と言いながら近藤を踏み潰し、妙とその友人、柳生九兵衛は前に進んだ。ゴリラは完全に無視だった。

 歩きながら、九兵衛は顎に手をやって唸った。

「しかし驚きだ。あいつに昔そんな甘い思い出があったとは」

「そりゃ、銀さんだって男の人だもの~。女の子のリコーダーとかブルマとか甘酸っぱい思い出くらい持ってるわよ」

「…いや、そういった思い出は甘酸っぱいというよりゲロ並に酸っぱい気が……」

 銀時に対してあまり良い評価を持っているとは言えない九兵衛も、妙の発言に眉をひそめた。

「妙殿の言う通りですよ、若!」

 二人の背後から、長髪と細目の男、東城歩が顔を寄せた。

「銀時殿にだってソ○プやク○ブ、○○○○や××××など男女の思い出くらい……」

「それはお前だけだろーが!!」

 真面目な顔でそうのたまう登場に、妙と九兵衛の二人の蹴りが見事に決まった。顔面にもろに喰らった東城は、鼻血を噴いて倒れた。

 まったく、と不機嫌に東城を見下ろしていると、復活した近藤(ゴリラ)が近寄ってきた。

「あの…、さっきから万事屋の野郎の甘い思い出とか聞こえてきたんですが。黒羽って誰ですか?」

 そう尋ねられると、妙は珍しく邪険に扱わずに応対した。

「アニマってところから来た女の子よ。銀さんの昔のお友達の娘さんなんですって」

「……え、アニマっすか?」

 すぐに近藤は顔をこわばらせ、妙はその様子に首を傾げた。

「そいつは、かなり厄介なことになりそうですよ」

 

 *

 

 (さっちゃん)の魔の手から逃れた銀時と黒羽は、噴水の傍で荒い息をついていた。

 ゼーヒューゼーヒューと、互いの顔を見ながら息を整える。

 ややあって、黒羽が口を開いた。

「…………誰、あの狂戦士(バーサーカー)

「うちのストーカーのくノ一だ」

 短く答えると、黒羽は渇いた笑みをこぼした。

「へへ…。銀さんモテたんだ」

「うるせー。あんなんに惚れられても困るわ。もう少しで何か持ってかれるところだったんだぞ」

「くくっ…違げーねェ」

 黒羽はふらつきながらも、噴水の縁にドスンと腰を下ろした。

 夕と夜の(はざま)の空を見上げ、黒羽はふと思った。

「……なぁ、そーいえば」

「何よ」

 一拍の後、黒羽は思い切って尋ねた。

「…お袋って昔、モテてたか?」

「…………ああ」

 ぼんやりしながら、銀時は答えた。

「……お袋さ、昔のことなんも話してくんなかったの。小っちゃい頃せがんでも、全然教えてくんなくってさ」

「…………そうか」

「…やっぱ、恥ずかしかったのかな。ガキの頃の話なんか」

「………………」

 それきり、沈黙が続いた。

 ざわざわと風が木々を薙ぎ、電灯に明かりがつき始めると、唐突に銀時は口を開いた。

「……十年、ちょい前になるかな」

 

 

 ―――天人との圧倒的戦力差を前に、弱腰だった幕府を押しのけ、剣を取った侍たち。

    だが彼らもまた、その圧倒的火力差をその身で理解することとなった。

    そしてその戦略は、無数の団体によるげりら戦へ移行していった。

 

「…ん? あれ、何コレ」

 

 ―――銃撃戦においては圧倒的優位に立った天人勢であったが、

    地上における白兵戦では、その成果は思わしくなかった。

    侍と呼ばれる戦士。

    その力を前にし、天人もまた恐れを抱くようになっていったのだ。

 

「ねェ、ちょっと何コレ。え? こういう感じ? こういうカンジで進めていくの?」

 

 ―――そんな中、戦場にある噂が流れた。

    「真っ白の髪の、化け物がいる」と。

 

「つーかこのナレーションの人誰? え? ベルトさん? ベルトさんだよねこれ」

 

 ―――ある者は言う。

    その者、白き夜叉と共に、白銀の髪と尾をなびかせ、戦場を駆る。

    鈍く光る二本の刃を鳴らし、敵を葬る。

    赤く輝く双眸は闇夜に妖しき閃光を残し、その技は刹那に終わる。

 

    ある者は言う。

    彼の者は人にあらず、生き物にあらず。

    背に備えた二本の牙で、獲物を食らい尽くし、葬る。

    白き衣が、返り血で黒く染まるまで暴れ回る、人狼の姫。

    月夜に吼える、獣将。

    夜叉《おに》と共に、戦場を狩るもの。

 

    乾 伏。またの名を――――――狗神。

 

 

「いや知んねーけどそんな奴ぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 銀時が話し終えると同時に、目を剥いて叫んだ黒羽。もう黙ってなどいられなかった。

「なんだそれェェェ!? なんでお袋がんな中二全開の呼び名授かってんだぁぁぁ!?」

「他にも獣姫(ビーストプリンセス)、双牙の姫、狼妃とかいろいろ呼び名があったけど、結局全部本人が名乗りたがらなくて、いつの間にか本人自体が忘れられていったな」

「そりゃいやだわ! そんだけ痛々しい名前いっぱいつけられたら歴史の表舞台から逃げたくなるわ!!」

 いつの間にか日はとっくに沈んでいた。電灯の僅かな明かりがあるだけの寂しい空間で、黒羽の声が虚しく響き渡った。

「つーかそーゆーカンジなの!? 学び舎が一緒で甘い思い出とかそんなんじゃないの!?」

「バッカ。オメー、俺らの時代でんな学園ラブコメが成立するわけねーだろ」

「……ああ、そうか。そういや、そうか」

 戦争中だもんな……と黒羽は肩を落とした。

 だがすぐにまた、険しい表情で腕を組み、むーと唸った。

「しっかし想像つかねー。オレの知ってるお袋って言ったら、ずーっと部屋で文字に向き合ってる理系女子のイメージだかんなー」

「あー…。そういやアイツ、基本武器整備担当だったな」

「インテリってところだけ共通してんのね」

 言ってから、黒羽はハァと息を吐いた。母親の痛々しい二つ名の真相はこういう事だったのか。……知りたくなかった。

「だが結局、なーんではるばる地球に来たのか、そいつだけは分からずじまいでな」

「? あんたも知らねーの?」

「聞いても教えてくんなかった」

「あっそ」

 銀時はそう適当に返事をすると、黒羽の隣にどっかりと座った。

 しばらく二人で、夜空をボーっと見上げ、揃ってため息をつく。星はまだちらほらとしか見えないが、雲もなくいい景色になりそうだ。

 祭りはまだ盛況だろうか。そう黒羽が思っていると、銀時が唐突に口を開いた。

「なぁ、アニマってどんな所だ?」

「ん?」

「お前の故郷なんだろ?」

 銀時に聞かれて黒羽は顎に手を当てて「ん〰〰」と唸った。

「…あんまし、いい所じゃないかな。地表の大半が砂漠化して、水も貴重になっちまったもんだから国も衰えるし。かなり過酷な星だよ」

「…そうか」

 聞いてから、銀時は虚空を見つめた。

「…アイツは、そんな世界から、地球(ここ)に来たのか」

「いや、違うよ」

 突然言われた言葉に、銀時の思考は一瞬停止した。

 ややあってから、銀時は「あん!?」と吠えながら詰め寄った。

「え、アニマって伏の故郷の星じゃねーのか!?」

「いや、俺が生まれたのはアニマだけど、母さんは違う。名前は知らね―けど、別の星だよ」

 黒羽は身を乗り出し、銀時と視線を合わせた。

「母さんの生まれた星は、惑星間で起きた戦争で疲弊して、星として使い物にならなくなっちまったんだ」

 言ってから、黒羽は足元の噴水の根元を見下ろした。

 何匹もの蟻が集まって、列を成している。黒羽の食べ残しでも落ちていたのだろうか。

「アニマは、そういった行き場を無くした連中が集まってできている星なんだ」

 

 *

 

「惑星アニマは、何百種もの天人や部族が集結して構成された多民族国家。惑星間戦争や環境破壊、内戦で星を追われた者が宇宙を漂流し、流れ着いた星で国を興した結果、それぞれの種族から排出された首長が集い統治する国家となった星です」

 佐々木の説明に、新八たちは静かに耳を傾けた。

「同じ立場であるためか、種族間での衝突もなく、その団結性に目をつけられ惑星間平和条約にも加盟するほどでした」

「…それの、どこが厄介なんですか?」

 新八が尋ねると、佐々木は若干眉を寄せた。

「実はごく最近、アニマの情勢が変わってきてまして。…アニマでは内乱が勃発しているのです」

「!!」

「内乱!? なんでっ…」

「多民族国家を、独裁しようと出しゃばってきたヤツらがいたからだ」

 驚く新八に応えた土方は、腕を組んで不機嫌さをあらわにした。

 

SMART BRAIN(スマート ブレイン)社?」

 人波の中を歩く妙と九兵衛、東城は思わず聞き返した。

「電子関係で最近台頭してきた連中ですよ。他をしのぐ高度な技術を有し、すでに他惑星にいくつも支社があるとか」

「そういえば聞いたことがあるな。いつだったか父……パパ上に付き添ってパーティーに参加した時に重鎮が参加していたか……」

「若の誕生日にも、一応顔を見せていましたね、そういえば」

「…それで、その企業がなぜそんな……?」

「……………」

 近藤は腕を組み、低く唸った。

「…普通の電子機器工業ならまだよかったんですがね。あの会社はちと黒い噂がありまして…」

 九兵衛が先を促した。

 近藤は覚悟を決めた顔で続けた。

「スマートブレインは、裏では秘密裏に兵器を開発している……と」

「!!」

 三人は目を見開いた。

「確定ではないんですが、幕府は既にほかの同盟惑星と共同で調査を進めているようです。向こうの意図が見えない以上、妥当だと思えますが……」

「ねぇ、近藤さん」

 話す途中の近藤を、妙が止めた。

「ん?」と顔を上げた近藤の目に、妙に引きつった顔の妙の姿が映った。

「スマートブレインって、会社なんですよね?」

「え? ええ、そうらしいですが」

 怪訝な顔になった近藤の前で、妙は指を差した。

「じゃあ、そのロゴマークって、あんな風なのですか?」

「え!?」

 バッと振り向くと、その先には、複数の男たちがいた。

 全身黒ずくめの格好に、黒いグラサン。その背には、真ん中のAが大きく描かれた〝SMARTBRAIN〟のロゴマーク。

 グラサンの下で、一人の男の目が、ギョロリと動いた。

 

 *

 

 夜もすっかり更けたが、銀時はまだ祭りの会場に戻れずにいた。

 (さっちゃん)がどこにいるか分かったもんじゃないからだ。

「……なァ、銀さん。もういいんじゃねーの?」

 耐えきれなくて、黒羽は銀時に尋ねた。だが、銀時はその視線をはねのけた。

「バカヤロー。あの女が今どこに潜んでるかわかんねーんだぞ? それに将軍巻き添えになってんのに堂々と出ていけるわけねーだろ」

「…ん? 将軍? 誰が?」

「………………」

 もう答える気も起きなかった。

 すると、黒羽の方から話題を変えてきた。

「にしても、身の危険で言ったらアニマ(あっち)地球(こっち)も変わんねーな。毎日アドベンチャーだぜ」

「火事と喧嘩とヤンデレは江戸の華だからな」

「いやいらねーよ! 最後の華だけいらねーよ!!」

 盛大にツッコむ黒羽。ふとその顔が、くしゃりと喜色に歪んだと思うと。

「ぅっ……くはははははは!!」

 いきなり、腹を抱えて笑い出した。

 目を丸くする銀時の前で、目ににじんだ涙をぬぐう。

「…でも、こっちの方が楽しい」

「…そーかい」

 それを聞いて、銀時はフッと笑った。

「よかったじゃねーか。これからは毎日楽しいことだらけだぜ? ヅラのところで楽しくやんな」

「あっ……」

 銀時がそういうと、黒羽は途端に口を閉ざして俯いた。

 その様子に、銀時は眉をひそめた。

「? …どうした?」

「……………」

 無言になった少女を見つめ、待つ。

 ややあって、黒羽は肩を震わせながら口を開いた。

「……あの、さあ」

 表情は見えないが、尻尾が不安気に垂れて揺れている。

 分かりやすい奴だ。銀時はそう思った。

「もし…、もしよかったらだけど」

 黒羽が、ゆっくりと顔を上げる。

 その顔は、不安と期待で上気し、赤く染まっていた。

「…オレを……、オレをアンタの………!!」

 その時だった。

 

「みーつけた」

 

「!?」

 二人は目を見開き、跳び上がるようにして身構えた。

 木々の中に、誰かいる。

「手間かけさせやがって。おかげで苦労したぜ」

 その誰かは、灯りの方へと歩きだした。

 深くかぶったフードの下で、口がニヤリと歪む。

「おっ…お前は……」

 銀時は表情を険しくしてソイツを睨んだ。

 自分の命を狙い、偶然か意図的にか、黒羽と引き合わせた人物。

「よぉ、白夜叉殿」

 撮影所で出会った、フードの影が、そこにいた。

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