【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第六訓 「変身」って誰が考えたんだろね

「おっ…お前は……」

 目を見開く銀時の前に現れた、フードの男。

 男はゆっくりとフードを降ろし、その顔をあらわにしていく。

 まず現れたのは、縦に裂けた金色の獣の目。額と頬に入った、黒い線状の模様と、金の髪に入った黒のメッシュ。そして、黒い虎の耳。

 凶悪な肉食獣の目で、男は銀時たちを見やった。

「よぉ、白夜叉殿」

 虎男は、轟く低い声でそう言った。

「あっ、お前……!!」

 黒羽より五、六歳年上(実際のところ分からないが)に見える青年を見て、黒羽が声を荒げた。

「お前か……」

「知ってんのか?」

 銀時が問いかけるも、黒羽はただ歯をむき出し、唸りながら男を睨むばかりだ。

「別に、お前に用は無いんだがな……」

「てめぇ、よくも抜け抜けと!!」

 怒りに駆られ、黒羽が拳を振り上げて駆け出した。

 青年はフンと鼻で笑うと、殴りかかってくる黒羽を片手で軽くいなした。

「うわっ」

 流された黒羽はたたらを踏み、男をキッと睨みつけた。

 殺気立つ黒羽を、男は冷めた目で見降ろす。

「お前に用は無いんだよ、小娘」

「こっちにはあるんだよ!」

 再び殴りかかって噛みつく黒羽。だが男はそれらを軽く躱していく。

 ザザッと地を踏み、黒羽は仁王立ちする。

「…心当たりがないな」

「いや、忘れたとは言わせねェ!! オレの大切なものを奪ったお前の仕打ちを、オレは忘れねェ!!」

 意気込む黒羽。それを見て、銀時の雰囲気も変わった。

「…どういう事か話してくれるか」

 ザワザワと銀時の髪が揺れた。

 刃のように鋭く尖った視線に、男も僅かに怯んだ。

「…こいつは」

 黒羽が、震える声を絞り出す。

「こいつは」

 バッと顔を上げ、指を突き付けた。

 

「オレの昼飯盗み食いしやがったんだ!!」

 

「どんな理由だァァァァァァ!?」

 目を剥いた銀時が、ズバァァンと黒羽の頭をはたいた。シリアスムードが完全に台無しであった。

「お前どんだけ安い罪で人憎んでんだ!! こーゆーのはもっとこう人生に関わる告白とかじゃないのぉ!?」

「ふざけんな! あの後大変だったんだぞ!? 盗み食いしたコイツ追っかけて変な暗い道に迷い込むわ、そのまま出られなくて一晩彷徨うわ、足踏み外してモジャモジャの上に落ちるわで散々だったんだ!!」

「それが真相だったんかィィィ!!」

 まさかそんなしょーもない境遇で自分たちは出会ったのか、と銀時は頭を抱えた。本当にしょーもない。

 男はそれを見て、おもむろに懐に手を突っ込むと、取り出した飴をばらまいた。

「……ホレ、飴だ食え」

「わ―――い」

「一発で餌付けされてんじゃねーよ!!」

 コロッと笑顔になって飛びついた黒羽だった。

 冷ややかな目でその様子を見ていた男は、ややあってから銀時の方へ向き直った。

「…これで邪魔はなくなった。会いたかったぞ、白夜叉殿」

「…………」

 銀時は目を細め、男を睨んだ。

「名乗るのが遅れたな。オレの名は(うしとら)カクサ。お前に用があってきた」

「…人を撲殺しようとしてきた奴とは仲良くなりたくねーがな」

 ククッとカクサは笑った。耳障りな笑い方だった。

「あれはスマンかったな。単なるテストのつもりだったんだ」

「俺ァ、抜き打ちテストだの勝手に試されるの嫌いなんだけど」

 ムガモゴと飴をむさぼっている黒羽ををほったらかしにしながら、男二人の舌戦は繰り広げられた。

「安心しろ。…アンタは合格だよ」

「………で?」

 ヒクヒクと痙攣する頬。銀時は目の前の小馬鹿にした態度の男にブチ切れそうになりながら、カクサの話の続きを促す。

「伏姫の同士がどんな男か、と思ってね」

「!!」

 思わず、腰の木刀に手が伸びる。それを、カクサは手で制した。

「落ち着け。俺は敵じゃない」

 なおも警戒を続ける銀時に嘆息し、カクサは続けた。

「単刀直入に言おう、白夜叉殿。我々に力を貸してほしい」

「!?」

 その言葉に、銀時と飴に夢中になっていた黒羽は目を見開いた。

 その時だった。

 祭りの会場から、爆発音が聞こえたのは。

「!?」

「なんだ!?」

 

 *

 

 祭りは、阿鼻叫喚の地獄へと変わっていた。

 屋台が破壊され、火が爆ぜ、売り物が壊されていく。

 人々の悲鳴が響く中で、彼らは動いていた。

 全身を銅褐色の装甲に包み、のっぺりとしたフルフェイスのヘルメットを装着した戦闘員らしき一団。刃が付いた銃を手に、隙のない統率された動きで散開し、会場を蹂躙していく。

 一団が一列に並び、銃を放った。

 逃げ遅れた人々がその餌食になり、鮮血が舞った。

 リーダーらしき一隊員が手を上げて何か合図を出そうとした時、その顔面に硬い靴底がめり込み、踏み潰された。

「いけェェェェ!! これ以上好き勝手にさせるなァァァ!!」

 刀を抜いた近藤が雄叫びを上げ、真選組隊士が謎の武装集団に斬りかかっていく。刀と銃剣が互いに火花を散らした。

「局長ォ、副長ォ!! なんなんですかコイツらァ!?」

「俺が知るか!!」

 一人を渾身の力で叩き斬りながら、土方は怒鳴り、「チッ」と舌打ちした。

「妙な予感が当たりやがった」

 ぼやきながら、かかってくる数人を斬り倒す。

 剣戟の中を、白銀の閃光が走る。一団の間を走り終えたとき、人斬り沖田の動きが止まった。

 途端にグシャリと崩れ落ちた武装集団に、沖田はにやりと笑った。

 

 

 ドゴン、と鈍い音が轟いた。

「ほあちゃああああ!!」

 神楽の強烈な蹴りが、武装兵を吹っ飛ばした。

 吹っ飛ばされた兵は、ボーリングのように他の武装兵たちを薙ぎ倒す。

 背後から迫った者には、自慢の傘の一撃を放ち、今度は野球のようにぶっ飛ばす。

「ちょえええ!!」と逆立ちになって、コマのように回転しながら敵をぶっ飛ばす横で、新八が兵をせき止める。

「うおりゃっ!!」

 隙をついて、足払いをかけて一気に縛り上げる。

 その時兵の胸に、あるロゴマークが彫られているのに気が付いた。

「! このマークって…」

 

 

 ドンドンドンッ

 轟音とともに、兵の装甲に穴が開く。

 刀と拳銃を構え、佐々木は標的を見据えた。

「総員、上様の保護を最優先とし、民間人を速やかに誘導しなさい。エリートの名にかけて、凡人に手を出させるな」

 その横で、凶悪な銀の閃きが走り、一瞬で数人の武装兵が倒れた。

「久し振りに……全部斬っていいんでしょ?」

 そういって、信女は次なる獲物を追った。隊士とともに、敵を狩っていく。

 奮闘する侍達。

 圧倒しているかのように思われた戦局は、次の瞬間一気に覆った。

 倒したはずの武装兵。その指先がピクリと動いたかと思うと、まるで死霊のようにゆらりと起き上がったのだ。

「!?」

 目を見開いた佐々木と信女の前で、武装兵は銃剣を振り下ろした。

 

 *

 

 会場のいたるところで、爆発が起きる。

 突然の事態に、黒羽は茫然となった。

「…………なんだよ、これ」

 銀時は表情を険しくし、カクサを睨みつけた。

「オイ、どうなってんだ!?」

「ちっ…、とうとうここまで嗅ぎ付けたか!」

 カクサは答えず、腰に手を回して、何かを取り外した。

 トランクボックスらしきそれを片手に持ち、ボタンを押してロックを外す。

 そしてそれを、無言のまま銀時に投げ渡した。

「………え?」

 呆然となる銀時に、カクサは一言。

「好きに使え」

 それだけ言って、背を向けた。

「俺は逃げる。今奴らに捕まるワケにはいかないからな」

 言うが早いか、カクサは一目散に駆け出し、森の中に消えていった。

「……え? ちょ……、ちょっと待って?」

 銀時は頬を引くつかせながら固まった。 

「ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん!? 意味わかんないんだけどォォォ!?」

 渡されたトランク片手に、銀時は叫んだ。

「急に渡されてなんですのんコレェェ!! むしろこっちが説明してちょ!?」

「……ぎ、銀さん」

 狼狽える銀時の肩を、黒羽が叩いた。「ん?」と眉をひそめた銀時の前で、黒羽は辺りを指さした。つられて、見やると。

 完全に周囲は、例の武装兵たちに取り囲まれていた。

 ムンクの『叫び』のような表情で固まった二人に向かって、武装兵は一斉にその銃口を向け始めた。

 

 

 ドフォォォォォン。

 祭りの一角がまた爆ぜた。

 銃弾の飛び交う中で、屋台を盾にした土方と沖田と近藤、佐々木と信女は忌々しげに顔をしかめた。信女はいつも通りの無表情だったが。

「斬っても斬っても倒れねェ! どうなってやがんだ!?」

「好きなだけ斬れてもコレじゃ面白くねェや。雲か煙斬ってるみてぇだ」

「…認めたくないけど同感」

「言ってる場合か!!」

 その五人に、離れた屋台の陰にいる新八がツッコんだ。神楽も隣で耳を押さえている。

 銃声が無限に響く中、大声でなければ聞こえもしない。

「こんな時に…、銀さんたちはどこに…!!」

 思わず、そう呟いた時だった。

「い"や"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」

 知った悲鳴が聞こえて、新八は「え?」と声を漏らして振り向いた。

 瓦礫同然となった屋台を乗り越え、銀時と黒羽が猛烈な勢いで飛び出してきたのだ。新たに武装兵を導きながら。

「え"え"え"え"え"え"え"!?」

 盛大にダイビングして新八と神楽の元に隠れた二人に、新八はまた叫んだ。

「ちょっとォォォォ!? 何やってんですかアンタらァァ!?」

「増えてんだろーが!! 普通に何人か削ってこいよお前らァァァ!!」

 目を剥いて怒鳴る新八と神楽に、銀時と黒羽はキッと睨み返した。

「うるせぇぇぇ!! あんなもん木刀一本でどうにかできるワケねーだろ!! 五右衛門じゃねーんだよ!!」

「オレに関しちゃ丸腰だぞ!! ひのきの棒すらないんだぞ!? あるとすりゃさっき渡された変なこのかばん……」

 怒鳴り返した二人が固まり、同時に銀時の手元を見下ろした。

 そしてすぐに、くわっと目を見開いてトランクボックスに掴みかかった。

「今でしょォォォォ!! 今しかないでしょォォォォ!!」

「こうなったらもう何でもいい!! 来いぃぃぃ何かしらの秘密道具ぅぅぅ!!」

 事情は知らないが、渡されて「好きに使え」という事なら使わせてもらおう。というかもう使わせろ、と銀時と黒羽はトランクを思いっきり粉砕するようにこじ開けた。

 入っていたのは、一本のベルトと。

 携帯電話などの家電製品だった。

「……………」

「あの、スイマセン。秘密道具、家電しか入ってないんですけど」

 覗き込んだ新八と神楽は、微妙な顔でそう言った。

「ふざけろよォォォォォ!! 期待した俺たちもアレだけど!! あの野郎信用しちゃった俺もアレだけど!!」

「どーすんのよコレ、どーすんのオレら!?」

 まったく同じリアクションの銀時と黒羽は、それぞれカメラとポインター、ベルトとケータイを持って狼狽える。

 その時、頭上にわずかに影が落ちた。

「!!」

 微量の灯りを背に、武装兵の一人が銃剣で斬りかかってきたのだ。

「うぉっ!?」

 四人は一斉に別方向に回避し、地面に転がった。

 攻撃が外れた武装兵は、標的を一人に絞った。

 ぐるりと向けた仮面の先にいたのは、躓いたらしい黒羽だった。

「黒羽!!」

 銀時が呼んで身を起こすも、またも銃撃が始まり、近づけない。

「あっ……」

 咄嗟に動けない黒羽の前で、武装兵は静かに銃剣を構え、渾身の力で振り下ろした。

 黒羽は動けず、目をつぶることしかできなかった。

「黒羽ァァァァァ!!」

 間に合わない。届かない。

 誰もがそう思ったその時だった。

 

 ドゴォォォォッ

 

 何か強烈な衝撃音と共に、武装兵の体が吹っ飛んだ。

「…………え?」

 いつまでたっても予想していた衝撃が襲ってこないことに気付いた黒羽が、恐る恐る目を開く。するとそこにいたのは。

 銀色の鉄人だった。

 背と左腕には、黒いタイヤ。ゴツゴツとしたボディを持つそいつは、黄色いバイザーのような目をゆっくりと向けた。

 どうやら、コイツが助けてくれたらしい。

 そうらしいのだが、黒羽はすぐには反応できなかった。

「……なんなんだ、お前」

 思わずそう呟く黒羽に、鉄人は無言でベルトとケータイ―――さっき黒羽が落とした機械《からくり》道具を押し付けた。

「なっ…、なんだよ、付けろってかよ」

 抗議するも、鉄人は答えない。ただじっと黒羽を見つめるばかりだ。

 その時、一人と一体の前で、地面が小さく爆ぜた。銃撃が再開したのだ。

 わっわっわっと慌てる黒羽の前に、鉄人が立ちはだかって盾になった。かと思うと、左腕を前に突きだし、ホイールを回転させ始めた。

 ドガガガガガガガガガッ

 ホイール部分から何かが無数に飛び出した。マシンガンだ。

 お返しとばかりに、鉄人はマシンガンで猛襲を始めた。

 守ってくれるのはありがたいが、至近距離にいて、狼の耳を持つ黒羽としてはいい迷惑だ。

「なんなんだよ、もう!! 訳わかんねェぇぇ!!」

 銀時も黒羽も、動くことができずに頭を抱えるばかりだ。

 そんな時、銀時は近くに白い冊子が落ちていることに気付いた。拾いあげて、書いてある題に、眉をひそめる。

「あん!?〝ファイズギア〟!? なんだコレ!?」

「えっ、なんですか銀さっ…」

 同じように見た新八が、目を見開き叫んだ。

「黒羽ちゃんんん!! 説明書あったよォォォォ!!」

「!!」

 それを聞いた黒羽は、頷いて表情を改めた。

「新八、読んで!!」

 叫びながら、ベルトを腰に巻く。

「えっと…、ケータイにコードを撃ってENTERキー押して、ベルトに挿して完了だそうです!」

「そのコードは!?」

 その瞬間新八たちの隠れていた屋台の器具に引火したのか、大爆発が起きた。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

「ええええええええええ!?」

 肝心な所の説明が聞けなかった。どーせいっちゅうんじゃ。

 そう思いながら、三人の身を案じた黒羽の脳裏で、何かが閃いた。

 

 ―――あん!?〝ファイズギア〟!?

 

 思い出した。

 銀時は、確かにそう言っていた。

「………555(ファイズ)?」

 呟くと、足元で跳弾が起こった。

 迷っている暇はない。

 ケータイを開き、「5」のキーを3回押し、ENTERを押す。

Standing By(スタンディング・バイ)

 低い、電子音声が鳴る。

 ケータイを閉じ、右手で高く掲げる。

 その時、何故かその言葉が頭に浮かんだ。

 

「変身!!」

 

 ケータイをベルトに縦に刺し、横に倒す。

Complete(コンプリート)

 ベルトから、光が迸った。

 胸と四肢に紅い光のラインが走り、銀の装甲が形成されていく。胸に分厚い装甲が生まれ、両手足も鎧が包む。

 菱形のパーツが構成され、縁日の面のように頭の横に張り付いた。同じように紅いラインが走り、黄色い半月状のバイザーがある、狼の面だ。

 甲高い起動音が鳴る。

 

 対オルフェノク用戦闘強化装甲〝ファイズギア〟――――――起動。

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