【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第七訓 使うのと使いこなすのは別物

 大量の情報が、黒羽の脳に流れ込んだ。

 始めは何がなんだか分からなかった黒羽だったが、それでようやく理解した。

 これが、どんな道具なのか。

 ギン、と目に力を込め、前に一歩踏み出す。

「…借りるぞ、オートバジン(・・・・・・)

 一言つぶやいて、鉄人の左ハンドルを握る。一気に引き抜いてその場でクルリと回ると、その先から紅い光が迸り、光の刃が生み出された。

 ブゥゥゥン、と某宇宙戦闘ロボットのように剣を唸らせ、黒羽は切っ先を武装兵たちに向け、睨みつける。

 その顔に、仮面が自動的に移動して張り付いた。

 一列に並んだ武装兵の銃剣から、再び光弾が発射された。

 コンマ数秒の世界の中、凶悪な光の牙が確実に黒羽を狙い、迫っていく。

 しかし、牙が届くと思われた瞬間、紅い閃光が弾けた。

 バチィィィッ

 光が走り、火花が散る。

 無数に飛来する光弾を、黒羽の剣が次々に両断していく。貫いていく光の筋が、黒羽に届く寸前で弾け、花火のように散っていく。

 宙に跳び、尾を風に舞わせながら、武装兵の猛襲を片っ端から防いでいく。

 ガンッ ガキッ ガガガガガガッ

 静かに舞い、討つ、討つ、討つ!

 ダンッ

 地を蹴り、光弾の雨の中から離脱し、ベルトのケータイを一旦外す。開いて、中のボタンに別のコードを打ち込む。

 すると、ケータイが横にくの字に折れ、銃に変形した。

 ジャキンッとアンテナ部分の銃口を向け、トリガーを絞った。

 ドドドドドッ

 紅い光弾が飛び、一発も漏れることなく、武装兵たちの銃剣を弾き飛ばし、装甲の弱い部分を撃ち抜いた。

 バタバタと倒れていく武装兵たちの中に降り立ち、ブゥン、と光剣をふるう。

 武装兵たちはフラつきながら、取り落した銃剣を手に立ちあがり始めた。

 仮面の下から金の瞳でギロリとにらみ、黒羽は光剣を構えた。

 前後左右、あらゆる方向から武装兵たちが斬りかかる。銃を使わないのは、同士討ちを防ぐためだ。

 黒羽は光剣を逆手に持ち替え、斬撃を流れるように受け流していく。

 当たらない。スーツの性能のおかげだろうか、体が軽く、勝手に動いてくれるようだ。

 自然と、黒羽は笑みがこぼれた。

 弾いた隙を突き、光剣を一閃する。が、浅かったのかすぐに斬り返された。

 放たれる刺突を右へ左へ躱し、一瞬の隙をついて相手の剣を持つ手を掴み、引き寄せる。よろめいた兵の腹に膝を叩き込むと、強烈な力で兵は吹っ飛んだ。

 その背後から、捨て身で兵が斬りかかった。

「!!」

 咄嗟の判断が遅れた黒羽は、戦場で固まるという愚を犯した。迫る凶刃を前に、硬直してしまった。

 だが、その刃が届く寸前で、武装兵の方が吹っ飛んだ。

 黒羽の目に、木刀を突き出した一人の男の姿が映る。銀時だ。

「銀さっ…」

「素人が出すぎなんだよ!!」

 怒りながら、木刀で迫ってくる武装兵を張り倒す。

 黒羽は赤面しながら、「くっ」と呻きながら剣を構えなおした。

 苛立たしげに歯を食いしばると、銀時に無断で懐に手を突っ込む。

「おっ、おい!」

 制止の声も聞かず、黒羽はアイテムの一つのカメラを取り出す。

 脳に流れ込むデータに従い、一部を立てて握ると、黒羽はメリケンサックのようにそのカメラを兵の胸に叩き込んだ。

 ドフンッ、と聞きたくない音とともに、兵が吹っ飛ぶ。

 黒羽は、自分が徐々に高揚してきていることに気付かなかった。また、笑みがこぼれる。

 一方で、銀時は武装兵の様子に疑問を抱いた。

 動きが明らかに鈍い。

 最初に比べて、明らかに動きが鈍くなっている。

 ―――なんだ、コイツら。

 それは皆、黒羽が傷をつけた連中だった。光弾が装甲を貫いた跡や、斬撃の跡が、ボディスーツの部分に残っている。

 だが、それらは脇であったり肘であったり、急所には遠い部分ばかりだ。

 その時、銀時の目に、黒羽の光剣が映った。

 ―――!!

    アレか!!

 銀時の視線を知ってか知らずか、黒羽は光剣を持ち替え、ケータイの表にはめられていたメモリーカードを取り外し、光剣の持ち手に挿した。

 一層光が強まり、光剣が更なる熱を帯びる。

 ブオンッと唸りを上げ、光剣を武装兵に向けて振りかざした。

「オラァァァァ!!」

 怒号を上げて、武装兵のガードを潜り抜け、斬り捨てていく。斬撃でスーツを叩き斬り、風圧で一気に吹っ飛ばす。

「はいィィィ次ぃぃぃぃ!!」

 気合を込めるように吠え、下から兵の腹を突き上げる。力と技の全てを込めて、向かい来る敵を薙ぎ倒す。

 その姿は、まるで嵐そのものだ。

 銀時も負けてはいられない。襲い来る兵を蹴り飛ばし、渾身の木刀の一撃を叩き込んでいく。片方に敵が向かえば、もう片方がそれを援護し、戦う。

 初戦闘の上、出会ったばかりにもかかわらず、二人はなかなかの連携を見せ、共闘し戦場に立っていた。

「す…すごい」

 武装兵の銃弾を恐れて隠れていた新八は、思わず呟いた。

 今の銀時と黒羽は、端から見れば親子そのものだ。

 阿吽(あうん)の呼吸で戦場を駆け、火花を散らせるその姿。鈍い打撃音と耳鳴りのような音を響かせ、二人は互いの髪を揺らす。

 その光景に見とれていると、突然神楽が身を乗り出した。

「銀ちゃんたちにだけ任せてなんかいられないネ!! 私も行くアル!!」

「え!? ちょっとォォォ!!」

 言うが早いか、神楽は慌てる新八を置いて兵たちに踊りかかった。

「ほあちゃあああ!!」

 威勢の良い声とともに、フラついていた兵の一人に跳び蹴りをかます。

 兵は勢い良く吹っ飛ぶと沈黙し、そのまま動かなくなった。

 ちょえええ!! と回転蹴りを放つ神楽の周りで兵たちが次々に吹っ飛び、ガシャンッ、ガシャァァンと墜落していく。それらもまた沈黙したまま、起き上がることはなかった。

 好機とばかりに、近藤が声を張り上げる。

「今だァァァ!! この機を逃すなぁぁぁぁ!!」

 刀を掲げ、隊士たちに令を飛ばす。勢いを取り戻した真選組と見廻り組によって、武装兵は見る間に捕縛されていった。

 黒羽は兵の一人を斬り捨て、銀時の方を向いた。

「銀さん!! そのポインター貸してくれ!!」

「はぁ!?」

「いいから!!」

 説明する暇もない。

 もぎ取るように銀時からポインターを受け取ると、一部を引っ張って伸ばす。そして先程のメモリーを取り外し、ポインターに挿す。

 次に右脚を出し、脛の横部分にポインターを装着すると、ケータイを開いて中のボタンを一つ押した。

EXCEED CHARGE(エクシード・チャージ)

 ベルトから光が放たれ、足のラインを通り、ポインターにエネルギーが溜まっていく。

 黒羽は立ち上がると、両足をそろえて高くジャンプした。空中でくるりと回ると、兵に向かって右脚を突き出した。

「おりゃあああ!!」

 紅いエネルギーに包まれたキックが、炸裂した。

 

 

 怒号や、剣戟の音が響く中。

 屋台の瓦礫の陰から、カクサは戦況を眺め、舌打ちした。

「ちっ……、余計なことをしやがって」

 カクサの見つめる先には、銀時と、共に戦っている黒羽がいた。

 忌々しげに顔をしかめると、カクサは戦場に背を向け、傍にあったサイドカーに乗る。エンジンをかけ、アクセルをふかす。戦場には、その音は届かず、カクサに気付く者はいなかった。

 ふとその時、カクサはケータイを取り出し、ボタンを押して耳にかけた。

「……ああ。俺だ」

 電話の向こうの相手に、カクサは不機嫌そうに答えた。

「…ああ。少しアクシデントが起きた。……大丈夫だ」

 そういって、カクサは目を細めた。

「…わかっている。ここで失敗すれば、全てが水の泡だ」

 カクサは通話を終え、ケータイを閉じる。

 そしてサイドカーのアクセルを全開にし、猛烈なスピードでその場から走り去り、姿を消した。

 

 *

 

 煙が上がり、変わり果てた祭りの会場。

 その一角で、黒羽はどっかりと腰を下ろした。

「…はぁ、しんど」

 手をついて空を仰ぎながら、黒羽はベルトを外す。途端に戦闘スーツが消失し、黒羽は元の浴衣姿に戻った。

 ふと、隣でへたり込む銀時の方に身を寄せる。

「よぉ、銀さん。大丈夫か?」

 黒羽が聞くと、銀時はひらひらと手を振った。

「ガキに心配されるほど老化は進んでねーよ」

「その調子じゃ大丈夫そうだな」

 悪態に悪態を返し、黒羽はため息をついた。

 ふと、銀時が顔を上げた。

「つーか何よあの兵器。え? 連邦軍の新兵器?」

「知らねーよ」

「つーかさっきからあっちのガンダムも動かねーし。何? アムロが乗ってんの?」

「いやだから知らねーよ」

 そして、二人して振り返り、背後に立つ銀の鉄人を見上げた。

 さっきまで銃を乱射して暴れていたコイツは、何も言わず微動だにしない。つーかいつの間に背後に来てたの?

「……なんなのコイツ。なんでさっきから何も言わないの? なんでこんな息苦しくなんなきゃなんないの?」

「いや、だから知らないってば」

 気の抜けた会話をしていると、そのそばに誰か立った。

「オイ、何やってんだ。早く来い」

「!」

 振り向くと、煙草をくわえた土方が、指で後ろを差していた。

「事情聴取だ。同行してもらうぞ」

 その言葉に、黒羽と銀時はあからさまに嫌な顔になった。

「ハァ!? 何も悪いことしてねーのに!? むしろこっちは被害者だろが!!」

「しゃーねーだろ。下手人は全員この有様だし。少しは捜査に協力しろ一般人」

「職権乱用だ!! 訴えるぞポリ公!!」

「そりゃオメーだろうが!! なんださっきの兵器。立派な銃刀法違反だボケ!!」

「うるせー正当防衛だボケ!!」

 噛みつくだけ噛みついた二人は、キッと鉄人の方を睨んだ。

「じゃ―アレも同罪だよな!! 腕に銃ついてるもんな、コブラだもんな!!」

「黙秘しててもちゃんと聞きだせよな!! 諦めんなよな!!」

「無茶いうんじゃねーよ! どこに口があんだ!?」

 らちが明かない、と黒羽は今度は近くにいた武装兵の一人を睨んだ。

 その場にしゃがみ込み、頭部をガッチリと掴む。

「こーなったのもテメーらのせいだ!! 祭りも台無しだわしょっ引かれるわ……ただで済むと思うなよ!!」

 そう怒鳴って、ガクガクと揺さぶろうと持ち上げたその時。

 

 もぎっ

 

 いとも簡単に、その首がもげた。

「…………」

 呆然となって、言葉を失う黒羽と一同。

 氷と化した黒羽は、大量の汗を流して、ギギギとぎこちなく振り向く。

「え、いや、オレ、そんなつもりじゃ……」

 銀時と土方の方を向く。

 無言で目をそらされた。

 神楽や新八、他の隊士の方を見る。

 やはり目をそらされた。

「ちっ……違っ……オレそんなつもりじゃ…………」

 青ざめた黒羽の目に、みるみる雫があふれ出し、零れていく。

「ぅっ……うああああああああああああああああああああああ!!」

 ついに絶叫した黒羽は、もげた首を投げ飛ばし、逃走を開始した。投げた首は、近藤にぶつかった。

「ごふっ!?」

「オイィィィ逃げんなァァァ!!」

 その時、今が好機とばかりに銀時たちも逃げ出した。

「黒羽さんんんん!!」

「待つアルヨ黒羽ァァァァァ!!」

「お前らが待てェェェェ!!」

 叫ぶも意味がなく、みるみるうちにその背中が遠くなっていく。

「…ったく、アイツら………ん?」

 腕を組んだ土方が、後で押しかけようと思っていたその時。

 その横を、例の鉄人も逃げ出していった。

「お前も行くんかぃぃぃぃ!!」

 無駄に、走るフォームが美しかった。

 その時、はるか先を走っていた黒羽が何かに躓く。

 声をあげる間もなく、黒羽が前のめりに倒れる。その衝撃で、下にいた武装兵の四肢と首がバラバラになり、散らばって犠牲者が増えた。

「もっとエライことになったァァァァァ!!」

 スプラッタなシーンを見せられた土方が目を剥いた。

「もういい止めろォォォ!! これ以上罪を犯す前に誰か止めてやれェェ!!」

「…土方さん」

 令を飛ばす土方に、しゃがんでいた沖田が声をかけた。

「あん?」

「心配しなくても、殺人にはなりやせんよ」

 そう言って沖田は、もげた首を持ち上げて、断面を下に向けた。

「どうやら敵さん、真っ当な生き物じゃなかったようでぃ」

 その断面からは、大量の灰がこぼれ落ちていた。

 

 *

 

「……以上で、報告は終わりです」

 広い長官室の中央に立ち、佐々木は締めくくった。

「はいよ。お疲れさん」

 答えたのは、立派な制服に、サングラスをかけた初老の男。警察庁長官にして、〝破壊神〟という異名を持つ男、松平片栗虎。デスクに足をかけ、佐々木をねぎらった。

「にしてもいきなり面倒な奴が出張ってきやがったな。まさかアニマが……」

「いかがするおつもりで?」

 問う佐々木。

 それに松平は、グラサンの奥で冷たく目を向けた。

「決まってんだろ。…江戸に牙向けるってんなら、その前に食い殺すってだけだ」

「…了解しました」

 佐々木は返答も短く、退出しようとする。

 その背中に向かい、松平は口を開いた。

「佐々木ぃ、お前も、牙は常に磨いとけ。上狙ってんならな」

 佐々木は一瞬足を止め、再び歩き出した。

 退出してすぐの廊下。その途中で待っていた信女を連れ、佐々木は思う。

 ―――…牙ならいつも研いでいますよ。

 自然と、その口角が上がった。

 ―――長官の(その)椅子を狙ってね。

 

 

 佐々木が退出してから、松平はふと、懐から携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけた。

「…あ、阿音ちゃん? 悪いんだけど今週お店行けそうにないわ。うん。来週はちゃんと顔見せっから」

 長官室で松平は一人、キャバ嬢との約束の電話にいそしんだ。

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