大量の情報が、黒羽の脳に流れ込んだ。
始めは何がなんだか分からなかった黒羽だったが、それでようやく理解した。
これが、どんな道具なのか。
ギン、と目に力を込め、前に一歩踏み出す。
「…借りるぞ、
一言つぶやいて、鉄人の左ハンドルを握る。一気に引き抜いてその場でクルリと回ると、その先から紅い光が迸り、光の刃が生み出された。
ブゥゥゥン、と某宇宙戦闘ロボットのように剣を唸らせ、黒羽は切っ先を武装兵たちに向け、睨みつける。
その顔に、仮面が自動的に移動して張り付いた。
一列に並んだ武装兵の銃剣から、再び光弾が発射された。
コンマ数秒の世界の中、凶悪な光の牙が確実に黒羽を狙い、迫っていく。
しかし、牙が届くと思われた瞬間、紅い閃光が弾けた。
バチィィィッ
光が走り、火花が散る。
無数に飛来する光弾を、黒羽の剣が次々に両断していく。貫いていく光の筋が、黒羽に届く寸前で弾け、花火のように散っていく。
宙に跳び、尾を風に舞わせながら、武装兵の猛襲を片っ端から防いでいく。
ガンッ ガキッ ガガガガガガッ
静かに舞い、討つ、討つ、討つ!
ダンッ
地を蹴り、光弾の雨の中から離脱し、ベルトのケータイを一旦外す。開いて、中のボタンに別のコードを打ち込む。
すると、ケータイが横にくの字に折れ、銃に変形した。
ジャキンッとアンテナ部分の銃口を向け、トリガーを絞った。
ドドドドドッ
紅い光弾が飛び、一発も漏れることなく、武装兵たちの銃剣を弾き飛ばし、装甲の弱い部分を撃ち抜いた。
バタバタと倒れていく武装兵たちの中に降り立ち、ブゥン、と光剣をふるう。
武装兵たちはフラつきながら、取り落した銃剣を手に立ちあがり始めた。
仮面の下から金の瞳でギロリとにらみ、黒羽は光剣を構えた。
前後左右、あらゆる方向から武装兵たちが斬りかかる。銃を使わないのは、同士討ちを防ぐためだ。
黒羽は光剣を逆手に持ち替え、斬撃を流れるように受け流していく。
当たらない。スーツの性能のおかげだろうか、体が軽く、勝手に動いてくれるようだ。
自然と、黒羽は笑みがこぼれた。
弾いた隙を突き、光剣を一閃する。が、浅かったのかすぐに斬り返された。
放たれる刺突を右へ左へ躱し、一瞬の隙をついて相手の剣を持つ手を掴み、引き寄せる。よろめいた兵の腹に膝を叩き込むと、強烈な力で兵は吹っ飛んだ。
その背後から、捨て身で兵が斬りかかった。
「!!」
咄嗟の判断が遅れた黒羽は、戦場で固まるという愚を犯した。迫る凶刃を前に、硬直してしまった。
だが、その刃が届く寸前で、武装兵の方が吹っ飛んだ。
黒羽の目に、木刀を突き出した一人の男の姿が映る。銀時だ。
「銀さっ…」
「素人が出すぎなんだよ!!」
怒りながら、木刀で迫ってくる武装兵を張り倒す。
黒羽は赤面しながら、「くっ」と呻きながら剣を構えなおした。
苛立たしげに歯を食いしばると、銀時に無断で懐に手を突っ込む。
「おっ、おい!」
制止の声も聞かず、黒羽はアイテムの一つのカメラを取り出す。
脳に流れ込むデータに従い、一部を立てて握ると、黒羽はメリケンサックのようにそのカメラを兵の胸に叩き込んだ。
ドフンッ、と聞きたくない音とともに、兵が吹っ飛ぶ。
黒羽は、自分が徐々に高揚してきていることに気付かなかった。また、笑みがこぼれる。
一方で、銀時は武装兵の様子に疑問を抱いた。
動きが明らかに鈍い。
最初に比べて、明らかに動きが鈍くなっている。
―――なんだ、コイツら。
それは皆、黒羽が傷をつけた連中だった。光弾が装甲を貫いた跡や、斬撃の跡が、ボディスーツの部分に残っている。
だが、それらは脇であったり肘であったり、急所には遠い部分ばかりだ。
その時、銀時の目に、黒羽の光剣が映った。
―――!!
アレか!!
銀時の視線を知ってか知らずか、黒羽は光剣を持ち替え、ケータイの表にはめられていたメモリーカードを取り外し、光剣の持ち手に挿した。
一層光が強まり、光剣が更なる熱を帯びる。
ブオンッと唸りを上げ、光剣を武装兵に向けて振りかざした。
「オラァァァァ!!」
怒号を上げて、武装兵のガードを潜り抜け、斬り捨てていく。斬撃でスーツを叩き斬り、風圧で一気に吹っ飛ばす。
「はいィィィ次ぃぃぃぃ!!」
気合を込めるように吠え、下から兵の腹を突き上げる。力と技の全てを込めて、向かい来る敵を薙ぎ倒す。
その姿は、まるで嵐そのものだ。
銀時も負けてはいられない。襲い来る兵を蹴り飛ばし、渾身の木刀の一撃を叩き込んでいく。片方に敵が向かえば、もう片方がそれを援護し、戦う。
初戦闘の上、出会ったばかりにもかかわらず、二人はなかなかの連携を見せ、共闘し戦場に立っていた。
「す…すごい」
武装兵の銃弾を恐れて隠れていた新八は、思わず呟いた。
今の銀時と黒羽は、端から見れば親子そのものだ。
その光景に見とれていると、突然神楽が身を乗り出した。
「銀ちゃんたちにだけ任せてなんかいられないネ!! 私も行くアル!!」
「え!? ちょっとォォォ!!」
言うが早いか、神楽は慌てる新八を置いて兵たちに踊りかかった。
「ほあちゃあああ!!」
威勢の良い声とともに、フラついていた兵の一人に跳び蹴りをかます。
兵は勢い良く吹っ飛ぶと沈黙し、そのまま動かなくなった。
ちょえええ!! と回転蹴りを放つ神楽の周りで兵たちが次々に吹っ飛び、ガシャンッ、ガシャァァンと墜落していく。それらもまた沈黙したまま、起き上がることはなかった。
好機とばかりに、近藤が声を張り上げる。
「今だァァァ!! この機を逃すなぁぁぁぁ!!」
刀を掲げ、隊士たちに令を飛ばす。勢いを取り戻した真選組と見廻り組によって、武装兵は見る間に捕縛されていった。
黒羽は兵の一人を斬り捨て、銀時の方を向いた。
「銀さん!! そのポインター貸してくれ!!」
「はぁ!?」
「いいから!!」
説明する暇もない。
もぎ取るように銀時からポインターを受け取ると、一部を引っ張って伸ばす。そして先程のメモリーを取り外し、ポインターに挿す。
次に右脚を出し、脛の横部分にポインターを装着すると、ケータイを開いて中のボタンを一つ押した。
【
ベルトから光が放たれ、足のラインを通り、ポインターにエネルギーが溜まっていく。
黒羽は立ち上がると、両足をそろえて高くジャンプした。空中でくるりと回ると、兵に向かって右脚を突き出した。
「おりゃあああ!!」
紅いエネルギーに包まれたキックが、炸裂した。
怒号や、剣戟の音が響く中。
屋台の瓦礫の陰から、カクサは戦況を眺め、舌打ちした。
「ちっ……、余計なことをしやがって」
カクサの見つめる先には、銀時と、共に戦っている黒羽がいた。
忌々しげに顔をしかめると、カクサは戦場に背を向け、傍にあったサイドカーに乗る。エンジンをかけ、アクセルをふかす。戦場には、その音は届かず、カクサに気付く者はいなかった。
ふとその時、カクサはケータイを取り出し、ボタンを押して耳にかけた。
「……ああ。俺だ」
電話の向こうの相手に、カクサは不機嫌そうに答えた。
「…ああ。少しアクシデントが起きた。……大丈夫だ」
そういって、カクサは目を細めた。
「…わかっている。ここで失敗すれば、全てが水の泡だ」
カクサは通話を終え、ケータイを閉じる。
そしてサイドカーのアクセルを全開にし、猛烈なスピードでその場から走り去り、姿を消した。
*
煙が上がり、変わり果てた祭りの会場。
その一角で、黒羽はどっかりと腰を下ろした。
「…はぁ、しんど」
手をついて空を仰ぎながら、黒羽はベルトを外す。途端に戦闘スーツが消失し、黒羽は元の浴衣姿に戻った。
ふと、隣でへたり込む銀時の方に身を寄せる。
「よぉ、銀さん。大丈夫か?」
黒羽が聞くと、銀時はひらひらと手を振った。
「ガキに心配されるほど老化は進んでねーよ」
「その調子じゃ大丈夫そうだな」
悪態に悪態を返し、黒羽はため息をついた。
ふと、銀時が顔を上げた。
「つーか何よあの兵器。え? 連邦軍の新兵器?」
「知らねーよ」
「つーかさっきからあっちのガンダムも動かねーし。何? アムロが乗ってんの?」
「いやだから知らねーよ」
そして、二人して振り返り、背後に立つ銀の鉄人を見上げた。
さっきまで銃を乱射して暴れていたコイツは、何も言わず微動だにしない。つーかいつの間に背後に来てたの?
「……なんなのコイツ。なんでさっきから何も言わないの? なんでこんな息苦しくなんなきゃなんないの?」
「いや、だから知らないってば」
気の抜けた会話をしていると、そのそばに誰か立った。
「オイ、何やってんだ。早く来い」
「!」
振り向くと、煙草をくわえた土方が、指で後ろを差していた。
「事情聴取だ。同行してもらうぞ」
その言葉に、黒羽と銀時はあからさまに嫌な顔になった。
「ハァ!? 何も悪いことしてねーのに!? むしろこっちは被害者だろが!!」
「しゃーねーだろ。下手人は全員この有様だし。少しは捜査に協力しろ一般人」
「職権乱用だ!! 訴えるぞポリ公!!」
「そりゃオメーだろうが!! なんださっきの兵器。立派な銃刀法違反だボケ!!」
「うるせー正当防衛だボケ!!」
噛みつくだけ噛みついた二人は、キッと鉄人の方を睨んだ。
「じゃ―アレも同罪だよな!! 腕に銃ついてるもんな、コブラだもんな!!」
「黙秘しててもちゃんと聞きだせよな!! 諦めんなよな!!」
「無茶いうんじゃねーよ! どこに口があんだ!?」
らちが明かない、と黒羽は今度は近くにいた武装兵の一人を睨んだ。
その場にしゃがみ込み、頭部をガッチリと掴む。
「こーなったのもテメーらのせいだ!! 祭りも台無しだわしょっ引かれるわ……ただで済むと思うなよ!!」
そう怒鳴って、ガクガクと揺さぶろうと持ち上げたその時。
もぎっ
いとも簡単に、その首がもげた。
「…………」
呆然となって、言葉を失う黒羽と一同。
氷と化した黒羽は、大量の汗を流して、ギギギとぎこちなく振り向く。
「え、いや、オレ、そんなつもりじゃ……」
銀時と土方の方を向く。
無言で目をそらされた。
神楽や新八、他の隊士の方を見る。
やはり目をそらされた。
「ちっ……違っ……オレそんなつもりじゃ…………」
青ざめた黒羽の目に、みるみる雫があふれ出し、零れていく。
「ぅっ……うああああああああああああああああああああああ!!」
ついに絶叫した黒羽は、もげた首を投げ飛ばし、逃走を開始した。投げた首は、近藤にぶつかった。
「ごふっ!?」
「オイィィィ逃げんなァァァ!!」
その時、今が好機とばかりに銀時たちも逃げ出した。
「黒羽さんんんん!!」
「待つアルヨ黒羽ァァァァァ!!」
「お前らが待てェェェェ!!」
叫ぶも意味がなく、みるみるうちにその背中が遠くなっていく。
「…ったく、アイツら………ん?」
腕を組んだ土方が、後で押しかけようと思っていたその時。
その横を、例の鉄人も逃げ出していった。
「お前も行くんかぃぃぃぃ!!」
無駄に、走るフォームが美しかった。
その時、はるか先を走っていた黒羽が何かに躓く。
声をあげる間もなく、黒羽が前のめりに倒れる。その衝撃で、下にいた武装兵の四肢と首がバラバラになり、散らばって犠牲者が増えた。
「もっとエライことになったァァァァァ!!」
スプラッタなシーンを見せられた土方が目を剥いた。
「もういい止めろォォォ!! これ以上罪を犯す前に誰か止めてやれェェ!!」
「…土方さん」
令を飛ばす土方に、しゃがんでいた沖田が声をかけた。
「あん?」
「心配しなくても、殺人にはなりやせんよ」
そう言って沖田は、もげた首を持ち上げて、断面を下に向けた。
「どうやら敵さん、真っ当な生き物じゃなかったようでぃ」
その断面からは、大量の灰がこぼれ落ちていた。
*
「……以上で、報告は終わりです」
広い長官室の中央に立ち、佐々木は締めくくった。
「はいよ。お疲れさん」
答えたのは、立派な制服に、サングラスをかけた初老の男。警察庁長官にして、〝破壊神〟という異名を持つ男、松平片栗虎。デスクに足をかけ、佐々木をねぎらった。
「にしてもいきなり面倒な奴が出張ってきやがったな。まさかアニマが……」
「いかがするおつもりで?」
問う佐々木。
それに松平は、グラサンの奥で冷たく目を向けた。
「決まってんだろ。…江戸に牙向けるってんなら、その前に食い殺すってだけだ」
「…了解しました」
佐々木は返答も短く、退出しようとする。
その背中に向かい、松平は口を開いた。
「佐々木ぃ、お前も、牙は常に磨いとけ。上狙ってんならな」
佐々木は一瞬足を止め、再び歩き出した。
退出してすぐの廊下。その途中で待っていた信女を連れ、佐々木は思う。
―――…牙ならいつも研いでいますよ。
自然と、その口角が上がった。
―――
佐々木が退出してから、松平はふと、懐から携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけた。
「…あ、阿音ちゃん? 悪いんだけど今週お店行けそうにないわ。うん。来週はちゃんと顔見せっから」
長官室で松平は一人、キャバ嬢との約束の電話にいそしんだ。