【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第八訓 ポンコツとハイテクは紙一重

「……まったくもって、未知のエネルギーだ」

 そう言って、ゴーグルをかけた老人は、ベルトをゴトリと置いた。

 江戸一番の機械技師にして、かつて将軍の暗殺を図り指名手配された男、平賀源外だ。

「こんなもん、長年機械(からくり)と向き合ってきて初めて見るわい」

「装甲も見たことがない」

 そういうのは、水色の髪を束ねた若い女、刀鍛冶の鉄子だ。

「これほどの硬度を有する鉄は、私の記憶にはない。多分、戦艦の砲撃にも耐えられるほどの代物だ」

「それ、どんなマジンボーン?」

 半目で、黒羽はボソッと呟いた。

 逃げた銀時たちは、トランクボックスとその中身を持って、このからくり堂に駆け込んでいた。そして、興味を持ったのが源外と鉄子だったのだ。

「アンタ達も妙なもの押しつけられたもんだね。しかも相手は、あんたの過去を知ってる奴らときた」

「お袋のことも知ってるみたいだったぞ?」

「次から次へと、難儀だねェ」

 何故かいたお登勢が、やれやれといった風に言う。

 ついに銀時が尋ねた。

「つーかバーさん、なんでいるの?」

「源外のジーさんに呼ばれたからだよ」

 フーと煙草の煙を吐き、簡潔に答える。

 その疑問に、源外が答える。

「この機械(からくり)共の思考を読み取るのに、たまの力が必要だったんだよ」

[はじめまして、黒羽様]

 黒羽の前で、緑色の髪の娘が頭を下げた。一見人間のようだが、実は高性能な機械であるという家政婦、たまだ。

「あ、どうも」

 つられて、黒羽も頭を下げた。

 源外はベルトから離れ、黒羽の傍に立つ鉄人の装甲を叩いた。

「こいつの出所を調べようと思って、プログラムに侵入しようとしたんだが、頑丈なセキュリティでガチガチに守られてやがる。たまには、このオートバジンとやらの心を開いてもらおうと思ってな」

「ンだよ、まだるっこしいな」

 頭をかきながら、銀時は鉄人、オートバジンに近づいた。

「そんなめんどくせーことしねーで、直接聞いてみりゃいいじゃねーか。頭ん中勝手に覗かれりゃあ、そりゃ無口にもなるわ」

 オートバジンの前に立ち、銀時はその顔を見上げた。

「オイ、ガンダムもどき。おめーは一体どっから来たんだ?」

 銀時は、いつもの気だるげな雰囲気で尋ねる。だが、鉄人は一言も発さず、無言を貫いていた。

 ヒクッと、銀時の眉が顰められた。

「オイ、なんとか言え。このポンコツ」

 そう言って、装甲をいささか強くバン、と叩く。すると、オートバジンはいきなりウィーンと振りかぶったかと思うと。

 

 ドガシャアアアア!!

 

 いきなり銀時の顔面に、オートバジンの硬い拳がめり込んだ。

「ごべらぁ!?」

 銀時は倒れこそしなかったが、鼻血を流しながら呆然と突っ立った。

「オイぃぃ!! 何しやがんだこの鉄クズがぁぁぁ!!」

 我に返った銀時が怒鳴るも、オートバジンは一言も返事をしない。

 代わって、源外が答える。

「敵対行為と判断されたみてーだな。最初に主とみなした相手以外は攻撃対象となるらしい」

「攻撃基準低すぎるだろーが!! 悪ノリした部長にも鉄拳飛ぶレベルだぞあれ!!」

「まあまあ銀さん、落ち着けよ」

 怒る銀時を、黒羽が宥めた。

「考えてみりゃ、あの時こいつはオレを助けに来てたじゃねーか。つまり、オレを主として助けにきたってことだろ?」

 ズイ、と銀時を押しのけ、黒羽は胸を張って相対した。

「オイ、オートバジン。まずは忠誠の証として、オレに跪きな」

 だが、やっぱり答えない。

「……おい、なんか言えポンコツ」

 黒羽は不機嫌さをあらわにしながら、銀時の例を思い出して比較的軽く叩いた。

 すると。

 

 ドガシャアアアア!!

 

「ぶべらァ!?」

 さっきと全く同じ構図で、鉄拳が飛んできた。

「なんでだァァァァ!?」

「攻撃的、高圧な態度に対しても敵対意識とみなすようだな」

「沸点低すぎるだろコイツぅぅぅ!!」

 思わず殴りかかろうとする銀時と黒羽。それを、新八と神楽が羽交い絞めにした。

「落ち着いてください二人とも!!」

「また拳骨来るアルヨ!? また制裁来るアルヨ!?」

「うるせぇぇ!! このポンコツだけは許しておけねェェェ!!」

廃棄処分(スクラップ)にすんぞコラァァァ!!」

 うがァァァァ、と野獣と化す銀時と黒羽に、源外は一人ため息をついた。

「ったく何のためにたまを呼んできたと思ってんだ? お前らは最初からお呼びじゃねーんだよ。オイ、たま」

[了解しました源外様]

 たまはそう答えると、オートバジンの顔の前に手をかざし、目を閉じた。

 キュィィィンという電子音に気付いた黒羽が、訝しげにたまの方を見やった。

「…おい、何やってんのアレ?」

機械(からくり)と対話してんのさ」

 黒羽の疑問に、お登勢が答えた。

「そうすることで、たまは機械の不調の原因を調べたり、故障を直したりできるのさ」

 そうこうしているうちに、電子音が大きくなり、たまとオートバジンは光に包まれていった。

 

 

[飲む? 差し入れよ]

 暖かなビルの屋上で、OLの制服を着たたまが、缶コーヒーを差し出した。その相手は、ネクタイを巻いたオートバジンだ。

「うぉっ!? なんだコレ!?」

「出た! 機械たちの午後の昼休み!!」

 思わず声をあげる黒羽の横で、新八が言った。と言っても新八たちの姿はこの空間にはないが。

[また課長とぶつかったの? あの人、人に嫌味を言うのが趣味みたいな人だから、気にしても仕方がないわよ]

「…………」

 オートバジンは何も言わず、コーヒーをすする。口がどこにあるのか知らないが。

[そんなふうに何も言わず、一人で抱え込んだりしないで。私たち機械は、みんなで協力し合ってこそ真の力を発揮するのよ? コミュ障だからってひがんだりしないで]

「…………」

[部長は厳しいけど、あなたには期待しているのよ。みんなも何も言わないけど、ちゃんとあなたの努力する姿を知ってる]

 言ってから、たまは俯き、頬を染めた。

[…わ、私も…、信じてるから……]

「…………」

 オートバジンはやはり喋らない。だが、僅かに顔をそむけた。

 何故か、目に見えない桃色の空間が広がっていた。

「…………」

「何コレェェェ!? なんか勝手にドラマティックになってるよ!? 明らかにコイツら同僚だけの関係じゃねーよ!?」

「マジでか。たまあんなん好みアルか」

 頬を染めてモジモジするたまと、黙々とコーヒーを飲むオートバジン。近寄りがたい雰囲気の中で、時が過ぎていく。

「つーか何やってんのあの子!? 心開けっつー話なのになんで話しかけ辛くしてんの!?」

「たまァァァ!! 幸せになりなぁぁぁぁぁ!!」

「ババア参加すんなァァァ!!」

 ギャーギャーと騒がしい外野。そんな時。

「…期待ですか」

 そんな声が、たまとオートバジンの間から聞こえた。

「私には、縁遠い言葉ですね」

 絶望した表情で、そんなことを言う電脳天使が、そこにいた。

 それを見た新八が、目を剥いて叫んだ。

「ブルー霊子どっから出てきたァァァァァァ!?」

 青い髪に、白いワンピース。痛々しく巻かれた包帯に、首にくくられて、どこに繋がっているか分からないロープ。そして、折れた白い翼。その正体は、都市をまるごと昇天させるほどの力を持つ天使型ウイルス、ブルー霊子だった。

「オイぃぃぃ!! 懐かしのキャラが次々に登場してっぞォォォ!!」

「つーかあの子生きてたの!?」

 シーンでは、俯くブルー霊子の肩をたまが抱いていた。

[だ…、大丈夫よ。ここのみんなはあなたを必要としているわ。自信を持って]

「…………」

 励ますたま。オートバジンもまた、いたたまれなかったのかブルー霊子の肩をポンと叩いた。

「おい桃色空間が一瞬で真ブルーに染められてんぞ!! 何してくれてんだあの女ァァァァ!!」

 ふわふわした空気が、一瞬で重っ苦しく変わり果てたその時。

 バタン、と背後の扉が開かれた。

「オイ、お前ら。いつまでだべってるつもりだ。もう休憩時間は終わりだぞ」

 と、頭部が原付バイクとなったスーツの男が、声をかけた。後輪部分には、墨字で『銀』と書かれていた。

「原チャリ部長!!」

「原チャリ部長って誰だァァァァァァ!?」

 目を剥いた銀時が叫んだ。

「誰だあの新キャラ、まさか俺のか!? 俺の原チャリか!?」

[度重なる事故で入院と退院を繰り返し、その都度不死鳥の如く復活し続けた歴戦のサラリーマン、原チャリ部長だわ]

「完全に俺の原チャリじゃねーか!! なんで故障しただけで英雄扱いされてんの!?」

 カオスの中、原チャリ部長は悠然と歩み寄り、ブルー霊子の頭をくしゃくしゃと撫でた。…本人はちょっと迷惑そうだった。

「たとえ今は出番が無くとも、いつかきっと必要とされる時が来る。俺もまた、あの人の足として、パートナーとして走る日を、いつも待っている」

 そう言って、原チャリ部長はたまとオートバジンの顔を見つめた。

「そして必要とされた時、導いてやるのがお前たち、先輩だ」

 笑っているのか、ライトを光らせた原チャリ部長が、オートバジンの肩をポンと叩いた。

「期待してるぞ、新人」

 すると。

 

 ドガシャアアアア!!

 

 鉄拳が、炸裂した。

 

 

 からくり堂の前に、バラバラになった原チャリが転がった。

[…残念ながら、意志疎通は失敗。原チャリ部長が犠牲となってしまいました]

 たまはさっきとは打って変わって、ただ淡々と言い切った。

「…おお、原チャリ部長よ。しんでしまうとはなさけない」

「情けないじゃねーよ!! 原チャリ部長ォォォォ!!」

「…ムカついたアル。上から目線がムカついたアル」

 残骸を抱える銀時に、神楽がボソッと言った。

「つーかどうすんですかコレ。会話は失敗するし、銀さんの原チャリはまた大破するし」

 半目でぼやく新八。そんな中、たまが動いた。

[ですが、多少の収穫はありました]

「え?」

 目を丸くする新八の前で、たまは例のケータイを操作した。

 途端にオートバジンは蒸気を噴き出して宙に浮き、みるみるうちに変形していく。数秒のうちに、鉄人は銀色のオートバイへと変化した。

「うぉぉ!! かっけェェ!!」

「うわっ…なんですかコレ!?」

[彼のデータの中に、変形用のコマンドが存在しましたので、もしかして、と思いまして]

 カッケー、と呟きながら触る神楽を見ながら、たまは答えた。

 その時、考え込んでいた源外は、おもむろに口を開いた。

「…銀の字。思うにコイツは、お前たちのうちの誰かを護ったんじゃなく」

 そして、ベルトとケータイを見やった。

「そいつを持っていたものを守るために現れたんじゃねーかと思う」

「…………」

 銀時は無言で、ベルトを見下ろした。源外の言葉には、納得できる。

 黙っていると、源外は深くため息をついた。

「……どちらにせよ、もうこいつにはあんまり関わんね―方がよさそうだ」

「え?」

 聞き返した一同の前で、源外はトランクボックスの蓋にスパナを引っ掛け、一気にベリリとはがした。

「!!」

 目を見開く銀時たちの目に映ったのは、SMART BRAINの文字。

 それを見下ろし、源外は頭をかく。

「こいつが一体、何の目的で、誰の命令でここに来たのかはわからねェ。…だが、これ以上関わってもロクなことにならねェってのは確かだ」

 源外は一同を見渡し、トランクボックスを閉じた。

「こいつは俺が預かる。お前らはこのこと、一切口外するな」

 いつになく真面目な様子の言外に、銀時たちはただ頷くことしかできなかった。

 

 *

 

 星空の下。銀時と黒羽は二人、万事屋の前で向かい合っていた。

「お前…、これからどうすんだ?」

「今、ヅラの所に行っても、警察がうろうろしてるから迷惑かけるだろうし。どっか適当に野宿でもするよ」

「…そうか」

 銀時は背を向けると、ヒラヒラと手を振った。

「せいぜい頑張れよ」

「……大人としてその反応はどうよ……」

 口をへの字に曲げた黒羽は、不機嫌そうに唸りながら背を向けた。

 そんな背中に、銀時は。

「何かあったらまた来い。…俺は万事屋だからな」

 そう、ぶっきらぼうに言って、去っていった。

 思わず、立ち止まって振り返る黒羽。

「…………」

 姿が見えなくなるまで見送っていた黒羽は、ややあってから微笑む。

 そして、万事屋の看板を見上げると、いたずらを思いついた子供のように、ニヤリと笑ったのだった。




これにて《天の巻》は終了です。
続きは当分先になると思います。
待ってくれている方はご了承ください。
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