ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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過去の傷と記憶

T社20区 T社本社前・夜

 

時間操作特異点の影響で、街灯の光は永遠に同じ色、同じ強さで凍りついている。

セピアの空の下、契約の更新を終えたエアグルーヴは、紫の軍装を鳴らして歩き出した。

 

 

「さて、仕事も終えたし帰るとするか」

その瞬間。

横から猛スピードで突っ込んできた影と激突。

 

 

「うっ! 貴様どこを見て歩いているんだ!」

 

「いやーごめんごめん! 急いでて!」

エアグルーヴの瞳が、鋭く細まる。

 

 

「……って! お前はお尋ね者ミスターシービー!」

シービーは一瞬びくりとしたが、すぐに笑顔に戻る。

 

 

「あれ? よく見たらエアグルーヴじゃん?」

エアグルーヴは即座にウーフィ協会の槍斧を構えた。

刃が夜の空気を切り裂く音が響く。

 

 

「都市の不純物とこんなところで出会えるとは……!

 ウーフィ協会からは見つけ次第始末せよと通達されている。

 よって貴様を逃がすつもりはない!」

 

 

シービーは両手を上げて、苦笑い。

「ちょっと待ってよ! アタシは別に戦うつもりはないからさ!」

 

 

「問答無用!」

槍斧が振り下ろされようとした瞬間。

 

 

「……ルドルフの話でもしてあげるから」

動きが、ぴたりと止まった。

エアグルーヴの瞳が、わずかに揺れる。

シービーは微笑みながら、静かに続ける。

 

 

「ルドルフの最近の動向が知りたいでしょ?

 教えてあげるから、一旦武器しまってよ」

長い沈黙。

エアグルーヴはゆっくりと槍斧を下ろした。

 

 

「……いいだろう。

 ただし、少しでも変な動きを見せたら即座に捕まえる」

 

 

「ふふ、それじゃ人目のつかないところへ行こうか」

二人はT社本社の影、誰もいない廃ビルの裏へと移動した。

 

 

「ここならいいかな?」

 

 

「それで、ルドルフ協会長の何を教えてくれるんだ?」

シービーは壁に背を預け、遠くを見るように語り始めた。

 

 

「とりあえずアタシの知ってることは全部教えるよ。

 最近の話をするなら、ルドルフ最近寝れてないみたいなんだよね」

 

 

「それは貴様が都市を騒がせているからだろう?どの協会も貴様の身勝手な行動の対応に追われているんだ」

 

 

「いやまあ、それもあるかもしれないけど。

 なんか最近また理想と現実に悩んでるみたいで。...アタシだって元同僚たちのことは心配してるんだからあんまり人でなしみたいには言わないでよ?」

エアグルーヴは目を伏せた。

 

「……そうか」

 

「やっぱりルドルフのこと心配?」

 

「貴様に言う義理はない。」

 

「そっか。じゃあ独り言で続けるけど。

 ルドルフったら、どうやらアタシの自由な行動と不純物指定、そしてシ協会の協会長としての立場で苦しんでるみたいなんだよね」

 

エアグルーヴは黙ったまま、拳を握りしめる。

 

「でもさ、アタシはルドルフの理想は間違ってないと思ってる。

 もちろん仕事に対する責任感も立派だと思うよ」

 

 

「ならもし貴様が同じ立場ならどうする?

 理想と現実、どちらを取るんだ?」

シービーは空を見上げて、笑った。

 

 

「うーん……両方かな?」

 

「両方だと? 貴様ふざけるのもいい加減に……」

 

 

「結構本気だよ?

 理想を実現した上で現実にも向き合う。

 多分ルドルフなら優秀だし出来ると思うよ。

 最も、一人じゃなかったらだけど」

 

 

「何が言いたい?」

 

 

「優秀なサポートが必須ってこと。

 今はジェンティルがいるけど、最低でもあともう一人必要かな。

 例えば……君とか」

エアグルーヴの肩が、ぴくりと震えた。

 

 

「……私はもう、あの人の傍に立つ資格はない。

 ほっといてくれ」

シービーは優しく、でもはっきりと告げた。

 

 

「でもさエアグルーヴ。

 君も本心ではルドルフのこと今でも慕ってるんでしょ?

 そうじゃなきゃ、そんなこと言わないでしょ。

 別に資格なんて必要ないと思うよ。

 気持ちの問題なんだから」

長い沈黙。

風が二人の間を吹き抜ける。

 

 

「……気持ちの問題……か。

 まったく。お尋ね者に諭されるとはな」

シービーは立ち上がり、緑のマントを翻した。

 

 

「ふふ、ちょっといい表情するようになったね。

 それじゃ、そろそろ行こうかな」

 

 

エアグルーヴは背を向けたまま、静かに言った。

「……私は何も見ていないし、誰とも会っていない。

 とっとと行け」

 

シービーは小さく手を振り、影に溶けるように消えていく。

「じゃ、待たね。」

 

残されたエアグルーヴは、一人、夜空を見上げた。

昔の傷が疼く。

理想と現実の狭間で、

一度は離れたはずの道が、

今、ほんの少しだけ、

再び近づいた気がした。

 

「……やれやれ。

 ハナ協会への言い訳を考えておくか」

 

彼女は槍斧を肩に担ぎ、

静かに歩き出した。

 

ふと、エアグルーヴは一枚の写真を取り出す

 

「...シービー、お前も何か抱えているのか?」

 


 

十数年前 C社3区 終生事務所

 

「シービー!また余の指示を無視して勝手な行動をしおって...!貴様は協力という言葉を知らないのか!?」

 

「いいじゃんオルフェ、結果的に依頼は解決できたんだし。」

 

「だがそれで必要のないひと悶着を起こしただろう!?」

 

「落ち着けって!シービーにオルフェも。久しぶりに事務所総出で対応した大口案件を解決したんだし、終わり良ければ総て良しだろ?」

 

シービーとオルフェの喧嘩を仲裁するエース

 

「ははは...まあエース。オルフェーヴルとシービーの喧嘩はこの事務所の醍醐味だ。それになんだかんだ言いつつもコンビで対応した任務はしっかり解決してるのが彼女たちなんだ。大目に見てあげようじゃないか」

 

報告書を書きながら宥めるルドルフ

 

「...でもルドルフ、二人が喧嘩して家具とかが壊れるとせっかくの依頼金がパーになるので止めてほしいのですが...」

 

帳簿と向き合いながら収支計算をしているエアグルーヴ

 

「エアグルーヴは相変わらず真面目だな、放っておけばいいだろ」

 

ソファでいつものように寝っ転がってるブライアン

 

「ブライアン!お前はお前で寝てばかりいないで事務仕事ぐらい手伝え!」

 

「ふん、私は面倒事には関わりたくないんだ」

 

「ふふ!相変わらずこの事務所は賑やかね!」

 

「はぁ...騒がしいわね...でも、これも愛かしら...」

 

所長机で書類を片付けつつ楽しそうな笑みを浮かべるマルゼンとその傍で紅茶を飲みながら呆れるラモーヌ

 

「マルゼン所長...もうちょっとあの二人には厳しくしてくださいよ...特色同士の喧嘩はシャレになりませんので...」

 

「大丈夫よエアグルーヴ、あの子達は本心では互いに大切なパートナーだと思ってるから、本気で殺しあったりはしないわ」

 

「それは分かってますけど...でも二人揃って特色に昇格出来たというのにこうも喧嘩ばかりでは示しが...」

 

「うーん、まあそれはそうね。二人とも!あんまり騒がしくするならあたしが相手になるけどいい?」

 

「...チッ、マルゼンの奴に免じて今日は勘弁してやるシービー。次の任務までには協調性を身に着けておけ」

 

「はーい」

 

マルゼンの一声で喧嘩をやめるシービーとオルフェ

 

纏まりがないがどこか居心地がいい、事務所

過去の温かい記憶

 

「...そういえばルドルフ、貴女ここしばらく事務所に寝泊まりしてるようだけど、あの子たちは大丈夫なのかしら?」

 

「テイオーとツヨシのことか?二人なら私の仕事が落ち着くまでシリウスが面倒を見てるから問題はないさラモーヌ。それにスー様もいることだしな」

 

「シリウスはともかく...スピードシンボリ協会長?あの方ハナ協会長なだけあって忙しいはずだけど大丈夫なのかしら?」

 

「ああ...クリスエスが手伝ってることもあってスー様自身も時間に余裕はあるみたいでな...むしろテイオーとツヨシも喜んでるよ」

 

「そう、ならいいのだけれど...あまりほったらかしにすると娘二人から嫌われるわよ」

 

ラモーヌがルドルフに忠告する

 

「だ、大丈夫さラモーヌ。私だって仕事が落ち着いたら一度家に帰るよ...」

 

「なら出来るだけ早くね。何かあっても私は助けないわよ」

 

「ははは...手厳しいな...」

 

苦笑するルドルフ

 

「...そういえばルドルフ、貴女にスカウトが来てたはずよね。確かシ協会から」

 

マルゼンが聞く

 

「ああ、...まあ受けるつもりはないが」

 

「ほう?確かにシ協会は過酷だが、かの深緑の皇帝はそんな仕事をやる自信がないのか?」

 

「...私が求めてるのは幸福な者が一人でも増えることだ、暗殺ではそれは出来ないからな。私としては理想はハナ協会、次点でツヴァイだ。」

 

「へぇ、相変わらずルドルフって理想を追い求めてるよね」

 

「まあルドルフらしいっちゃらしいけどな!」

 

「ええ...でも、都市でそんな理想は生半可なことでは通用しないわよ?」

 

ラモーヌが厳しく言う

 

「分かってるさラモーヌ、私はそう簡単に折れたりしないよ」

 

「ルドルフ、私はその理想を見てみたいです。だからどこまでも付き合います」

 

「エアグルーヴ...だが君にもウーフィ協会からスカウトが来てたはずだが?」

 

「いえ、私はルドルフのサポートがしたいので...行くならルドルフと同じ協会です」

 

「そうか...ならいずれはよろしく頼む」

 

「はい...!」

 

そんな様子を見ながらぶっきらぼうに鼻を鳴らすブライアン

 

「ふん、私はついていかないぞ」

 

「ああ...ブライアンはセンクだったか?」

 

「そうだ、あそこは私の性に合っていそうだしな。次の依頼を解決したらセンクに行くつもりだ」

 

「そうか...寂しくなるな」

 

「...まあ何かあれば協力はしてやる。なんだかんだであんたには世話になったしな」

 

「!そうか...助かるよ」

 

「ふふ、もうみんなも独立する時期ね。オルフェちゃんやシービーちゃんは今後のことは考えてるのかしら?」

 

「余はいずれはフリーで動くつもりだが...こやつの手綱を握っていないと何をしでかすか分からないからな。シービーと共に行く」

 

「まあアタシ的にもオルフェといるのはなんだかんだで楽しいし...ついていこっかな」

 

「そう、ならエースちゃんは?」

 

「あたしはマルゼンについていくよ。マルゼンの強さには憧れがあるしな」

 

「そういうことならおっけーよ!ラモーヌちゃんは?」

 

「私はまだ決めてないわ...でも、しばらく都市を回って...私の愛を探すつもりよ」

 

「そう、もうみんなこれからについては大体決めてるのね。それじゃあこの事務所もあと少しで畳むことになりそうね」

 

マルゼンスキーが名残惜しそうにする

 

「...だが、ここの事務所は正直に言えば悪くなかった。騒がしかったがな」

 

「まあ師匠に紹介してもらってから加入したけどアタシもなんだかんだで楽しかったよ。色々滅茶苦茶したけどね」

 

「へへ!あたしたちみんな自由だったけど、誰も死ななかったからな!」

 

「ええ...最後まで無事に生き残れましたから」

 

「ああ、マルゼンの統率のおかげもあるが、それ以上に個性豊かで飽きることがなかった」

 

「ふん...だが、事務所を離れてもやることは変わらん。任務をして生きるだけだ」

 

「だけど...この事務所には愛があったわね」

 

各々が事務所での充実してた日々への思いを言う

 

「ふふ!それじゃあ写真でも撮りましょ!ほら、みんな並んで!」

 

「...まあ、今日ぐらいは付き合ってやる」

 

「オルフェったら素直じゃないね~」

 

「黙れシービー!」

 

「ははは、本当にこの事務所は変わらないな」

 

「それじゃあ行くわよ~!」

 

パシャリ

 

「うん!良い感じに撮れたわ!じゃあみんなのスマホに送っておくわね!」

 

「感謝しますマルゼン所長。...ところで次の任務は決まってるのですか?」

 

「そうね...確か都市悪夢の「泡沫の叢雲」という案件がかなり厄介みたいで都市の星一歩手前と言われてるわ。」

 

「ほう?中々面白そうではないか」

 

「へ~?じゃあそれをこの事務所での最後の任務にする感じ?」

 

「まあみんなが良いならそうするつもりよ」

 

「余は構わん」

 

「アタシも良いよ」

 

「あたしもだぜ!」

 

「私も大丈夫だ」

 

「問題ないです」

 

「なんでもいい」

 

「大丈夫よ」

 

「ふふ!決まりね!それじゃあ最後の大仕事に向けて準備するわよ!」

 


 

そして現在...

 

「...あれから十数年か。あの出来事から...もうそんなにか...

...つい感傷的になってしまったな。...ひとまず帰るとしよう」

 

過去の仲間たちは今も生きてる。

しかし、あの事務所での最後の任務で起きた出来事は、今も傷を残している




エアグルーヴ
ウーフィ協会南部1課 1級フィクサー
規律に厳しい、厳格で仕事真面目なウマ娘だが柔軟な発想も出来る
昔あるフィクサー事務所に所属しており、その頃の思い出を結構引きずっている
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