A社1区 ― A社本社 会議室
都市の中心に聳える巨大な塔。
それが A社本社。
都市を支配する存在――
頭。
その実体がこのA社であり、
都市の秩序、特許、禁忌、翼の監視までもが
ここから管理されている。
本社の中層階。
外部の者が決して入ることの出来ない
重厚な扉の奥に、
一つの会議室がある。
長円形の巨大な机。
その周囲には、
同じ装束の者たちが並んでいた。
黒いコート。
金色のハニカムパターン。
都市でそれを身につける者は
ただ一種類しか存在しない。
調律者。
都市最強の執行者。
禁忌違反者を完全に抹消する存在。
今、その24人が
一堂に会していた。
もし一般人がこの光景を見れば
こう思うだろう。
まるで悪の組織の幹部会議だ。
だが都市では違う。
彼女たちこそが
秩序そのものだった。
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長机の上座に座るウマ娘が
静かに口を開いた。
クモハタ
A社調律者。
1区担当。
A社内でも特に権限が強いエージェント。
クモハタは緑茶を一口飲んで言った。
クモハタ
「……じゃあ今月の会議を始めるよ。各自報告を」
静かな空気の中、
順番に報告が始まる。
エリナ
「B社2区、禁忌違反はすべて処刑者で対処済み。調律者の出動はなし」
ユリネ
「C社3区、同じく」
スージー
「D社4区、元より問題ありませんわ」
ダリア
「E社5区、同じく」
ノル
「F社6区、以下同文」
ミミ
「G社7区、問題なし」
テト
「I社9区、大丈夫だよん」
ムク
「J社10区、特に変化なし」
ルミ
「K社11区、問題ございません」
そして。
机の一角に座る人物が口を開く。
ジェナ
ジェナ
「L社12区、同じくよ」
テミー
「M社13区!大丈夫だよ!」
ノーズ
「N社14区、N社に不穏な動きがありますが現状は問題なし」
フミ
「O社15区、問題なし」
ジュリ
「P社16区、特には」
そして。
一人のウマ娘が静かに言った。
黒い長髪。
壁際の席。
影の薄い少女。
マンハッタンカフェ
マンハッタンカフェ
「……Q社17区、問題ございません」
その後も報告は続く。
レル
「R社18区、R社はまだクローン規定違反はしてない」
シュナ
「S社19区、問題なし」
エリサ
「T社20区、同じく」
ライ
「U社21区、以下同文」
ギン
「V社22区、ノープロブレムよ」
テン
「W社23区、W社が倒産寸前なこと以外は変わらず」
ルリ
「X社24区!問題なしだコノヤロー!」
ヨロミ
「Y社25区、同じく」
すべての報告が終わる。
クモハタは軽く頷いた。
クモハタ
「うんうん、A社1区でも問題は起きてないし。全体的には平和だね」
彼女は手元の資料を閉じる。
「それじゃあ、会議に入ろうか」
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クモハタは静かに言う。
「最初の議題、そろそろH社8区の後任を決めようか」
その言葉で
会議室の空気が少しだけ変わる。
H社8区。
そこはかつて
ある調律者が担当していた。
その名は――
ガリオン。
だが彼女は
ロボトミーコーポレーションで消えた。
空席になったまま
既に15年以上が経っている。
クモハタは続けた。
「上層部からも苦言を言われてるんだ」
すると
机を叩く音がした。
ルリ
「おいおい!まさかアタシらの中から兼任決める気か!?」
彼女は吐き捨てる。
「ガリオンのしり拭いは御免こうむるぜ!」
スージーが優雅に笑う。
スージー
「ふふ、ルリは血の気が多いですわね。慣例通り新しい調律者を雇用するのが当然でしょう?」
ルリ
「あぁん!?」
クモハタは苦笑した。
「それが出来ればね、でもA社内に候補者がいないんだ」
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エリナが手を挙げた。
「では、A社専属フィクサーオルフェーヴルは?」
クモハタは首を振る。
「彼女は外部契約、フィクサー協会への人質でもある。調律者には出来ない」
ジュリが呟く。
「では私たちの中から兼任を?」
クモハタ
「当分はそれだね」
テト
「じゃあ誰にするのん?」
その瞬間。
ルリが指を突きつけた。
「ジェナでいいだろ!」
会議室が一瞬静かになる。
ルリはニヤニヤ笑った。
「図書館でガリオン回収に失敗したんだからな」
ノーズも頷く。
「そうですね、回収を命じられたにも関わらずガリオンさんを連れて帰って来れなかった責めは負うべきかと」
ジェナ
「うっ……そ、それは図書館の連中とガリオンの抵抗が激しくて…!」
ルリ
「その割に最初は舐めプしてたらしいな?処刑者に任せて自分は見てただけだってな!」
ジュリ
「あれは確かにどうかと思いましたね」
ジェナ
「うう……」
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その時。
クモハタが静かに言った。
「……そういうけどさ、マンハッタンカフェを除いて君たち全員一回は舐めプして長話してるよね?」
その言葉に図星を突かれる全員。
「うっ……」
カフェだけが
静かにコーヒーを飲んでいた。
マンハッタンカフェ
「……やれやれ」
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クモハタは言った。
「……じゃあ、8区の兼任はカフェに任せるよ」
次の瞬間。
マンハッタンカフェ
「ブーッ!」
コーヒーを吹き出した。
マンハッタンカフェ
「ごほっ……!な、なんで私に……!?」
クモハタは笑った。
「君が一番真面目だから」
カフェはしばらく沈黙した。
そして小さく言う。
「……分かりました」
ジェナ
「ε-(´∀`*)ホッ」
クモハタはすぐ追撃する。
「それはそれとしてジェナ、君は負担をかけた分カフェの仕事を手伝ってあげるように」
ジェナ
「……はい」
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クモハタは資料をめくる。
「じゃあ」
「次の議題」
会議はまだ続く。
この部屋にいる者たちは
都市の頂点に立つ存在。
翼。
フィクサー。
企業。
裏路地。
そのすべてを
彼女たちは上から見下ろしている。
そしてもし。
都市の秩序を乱す者が現れたなら。
調律者は動く。
その時。
その存在は
都市から完全に消える。
まるで――
最初から存在しなかったかのように。