ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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Arbiter's Rest Time

A社1区 ― A社本社 調律者執務室

 

A社本社の一角。

調律者専用の執務区画。

 

外の廊下とは打って変わって、そこは静寂に包まれている。

分厚い壁。遮音処理された空間。

都市の喧騒すら遠い。

 

その中でも、ひときわ静かな部屋。

 

――マンハッタンカフェの執務室。

 

本来であれば、彼女が一人、

静かにコーヒーを淹れながら書類に目を通すだけの場所。

 

……のはずだった。

 

しかし、今日は違う。

 

テミー

「……お〜!このコーヒー、すっごく飲みやすい!」

 

ギン

「Very good……実に素晴らしい味わいです」

 

ムク

「確かに悪くはねぇな、酸味も苦味も控えめで、コクがしっかりしてる」

 

テト

「さっすが〜、調律者一のコーヒー好き、

“カフェ”の名前に恥じないね〜」

 

静寂とは程遠い空間になっていた。

 

カフェはカップを持ったまま、わずかに眉を下げる。

 

「……それは良いのですが……」

 

ゆっくりと視線を巡らせる。

 

テミー。

ムク。

テト。

ギン。

 

――4人。

 

「……あの、テミーさんはともかくなぜ皆さんがいるのですか……?」

 

---

 

テトが悪びれもせず笑う。

 

テト

「いや〜カフェちゃんのコーヒーの噂、前から聞いててさ。ちょうどテミーちゃんとの話が聞こえたから、せっかくだしご相伴に預かろうかなって」

 

カフェは小さくため息をつく。

 

「……覗き見なんて趣味が悪いですよ」

 

ムクが肩をすくめる。

 

ムク

「まあまあ、堅いこと言うなって。別に減るもんじゃねぇだろ?」

 

カフェは一瞬だけ考え、視線を机へ落とす。

 

そこには一つの袋。

 

上質な紙袋に包まれた、明らかに高価な代物。

 

「……まあ、いいですけど。お土産もいただきましたし……」

 

ギンが満足げに頷く。

 

ギン

「ふふ、コピ・ルアク。こういうこともあろうかと思って入手しておいたんですよ。カフェさんには垂涎の1品でしょう?」

 

カフェの目がわずかに揺れる。

 

「……それは否定しませんが……」

 

ギン

「Win-Win、というやつです。私たちは貴女のコーヒーを楽しめる。貴女はその豆を得る」

 

テミーが申し訳なさそうに言う。

 

テミー

「なんかごめんねカフェ……騒がしいの苦手なのに……」

 

カフェは首を横に振る。

 

「……構いません。コーヒー好きが増えるのは、悪いことではありませんから」

 

---

 

ふと、ギンが思い出したように言う。

 

ギン

「oh、そういえば貴女と紅茶派のガリオン氏は仲が悪かったですね」

 

部屋の空気がわずかに変わる。

 

カフェは静かにカップを置いた。

 

「ええ……あの人は調律の仕事以外、不真面目でしたし」

 

少し間を置く。

 

「それに彼女が殉職したせいで8区の仕事まで回ってきましたから……」

 

テミーが苦笑する。

 

テミー

「ガリオンってさ〜舐めプ癖ひどかったしね。しかも相手が翼でもないただの研究所だったからまあ油断するよね」

 

ムクが鼻で笑う。

 

ムク

「まあ結果はあれだ。赤い霧に持ってかれて相打ち、ついでに頭の情報も抜かれた」

 

ギン

「ええ、調律者の殉職など前例がない。上層部は相当混乱したようです」

 

カフェは目を伏せる。

 

「……」

 

その沈黙は、わずかに重かった。

 

---

 

ムクが思い出すように言う

 

ムク

「あいつ、ロボトミーの前の調律は涼しい顔してやってたのにそのあとまさか死ぬなんて思わなかっただろうな」

 

ギン

「確か、ロボトミーの研究所を除くと彼女が最後に行った調律は……」

 

テミー

「ロボトミーの直前にH社で発生した鳥鴣人の1件だったはずだよ。」

 

テトが手を叩く。

 

テト

「そうだ!その話の流れでさ、面白いもの見せてあげるよ」

 

ギン

「おや?」

 

テトは懐から一枚の写真を取り出す。

 

「資料庫から借りてきた、コーヒーのお供にどうかなって」

 

カフェの視線が自然と向く。

 

そこに写っていたのは――

 

調律の記録。

 

ガリオン。

そして足爪四名。

 

血。

 

死体。

 

崩壊した施設。

 

そして――

 

異形の存在。

 

ムク

「ああ……こんな感じだったな」

 

ギンは冷静に分析する。

 

「柱、錠前、妖精、鎖……特異点をフル活用した殲滅戦。見事なものです」

 

テミー

「わたしらも外郭の亜人種の調律は珍しくないけどこの時はガリオンも結構本気の調律だったね」

 

テト

「そりゃそうだよ、1匹でも外に逃げたら都市が滅びかねないもんね。当たり前だよん」

 

カフェは静かに呟く。

 

「……H社、外郭の亜人種を都市内で製造した事件……」

 

彼女の指先が机に触れる。

 

「……あの時、製造法を知る者も存在もすべて消された」

 

ムク

「ついでに家門も一つ潰れたな」

 

ギン

「ええ、五大家門から四大家門へ。頭の“調律”は徹底しています」

 

---

 

しばらく沈黙。

 

誰も、その光景に感情を示さない。

 

それは彼女たちにとって――

 

ただの仕事の記録だからだ。

 

やがてムクが口を開く。

 

ムク

「それはそうとカフェ、おかわりあるか?」

 

ギン

「私も、もう一杯いただきたいですね」

 

カフェは静かに立ち上がる。

 

「……ええ、少々お待ちを」

 

湯を沸かす音。

 

豆を挽く音。

 

静かな所作。

 

部屋に再び、コーヒーの香りが満ちる。

 

先ほどまで語られていた惨劇など、

まるで最初から存在しなかったかのように。

 

カフェはカップを差し出す。

 

「……どうぞ」

 

テミーが笑顔で受け取る。

 

「ありがと!」

 

ギン

「Wonderful……」

 

ムク

「やっぱいいな」

 

テト

「最高〜」

 

カフェは自分のカップを持つ。

 

そして、ゆっくりと一口。

 

「……」

 

苦味と香りが、静かに広がる。

 

都市の頂点にいる彼女たち。

 

その日常は。

 

血と死と禁忌の上に成り立ちながらも。

 

こうして――

 

何事もなかったかのように続いていくのだった。

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