X社24区 ― 深夜 / 闇組織アジト
薄暗いアジトの内部。
血と油の臭いが混じる中、金色のハニカム模様のコートが揺れる。
ルリ
「くそがぁ!!」
怒号が空間を震わせた。
「てめぇらが禁忌犯したせいでよぉ!!クモハタのヤツに始末書書かされた直後に出動とか――ふざけてんのか!!」
背後に控える2名の処刑者(足爪)
その存在すら気にせず、ルリは前に踏み出す。
「……こうなったら禁忌に違反したヤツ、現時刻を持って全員処刑だ。一人も逃がすな!!」
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敵が動くより先に。
ルリが腕を振る。
「おらァ!!柱!!」
空間が歪み、巨大な質量が前方へと叩き込まれる。
――ドゴォン!!
壁も、人も、存在ごと押し潰す一撃。
続けざまに。
「妖精!!」
無数の光が飛び散り、逃げる者の肉体を切り裂く。
「……で、線で終わりだァ!!」
細く、見えない刃。
それが走った瞬間。
残っていた敵の首が、音もなく落ちた。
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その光景は。
遠く離れたA社本社で、リアルタイムで観測されていた。
モニター越しに映る、血の海。
その前で、コーヒーの香りが漂う。
マンハッタンカフェの執務室。
マンハッタンカフェ
「……ルリさん、相変わらず機嫌が悪そうですね」
スージーが優雅に微笑む。
スージー
「ふふ……野蛮ですこと」
ヨロミ
「ですが、調律自体は極めて正確ですね」
ジュリがカップを差し出す。
ジュリ
「そうだね~。カフェ、コーヒーおかわり」
カフェは静かに頷く。
「……分かりました、キリマンジャロです」
ジュリ
「ありがとう。...にしても、ルリったらご丁寧に長い説明はしてるね」
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モニターの中で、ルリは叫ぶ。
ルリ『てめぇら!!裏路地の夜の間は家屋破壊は禁止って分かってんだろうが!!』
スージーがくすりと笑う。
「ふふ……粗暴ではありますが、仕事をしている時の彼女は――とても美しいですわ」
ジュリ
「え?そう?」
スージーは目を細める。
「ご覧なさい。荒々しく見えて特異点の操作は極めて精密、処刑者への指示も完璧。……あれは“本物”ですわ」
ヨロミ
「意外ですね、スージーさんがそこまで評価しているとは」
スージーは肩をすくめる。
「長い付き合いですもの。良いところも悪いところも、全部知っていますわ」
少しだけ、声のトーンが柔らかくなる。
「……ああ見えて、可愛げもありますのよ」
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カフェがぽつりと呟く。
「……もしかして、好きなんですか?」
一瞬。
空気が止まる。
ジュリ
「え、マジ?」
ヨロミ
「……なるほど」
スージーは一瞬固まり――
そして、視線を逸らした。
「……まあ、特別な感情があるのは事実ですわ」
小さく息を吐く。
「ですが全然気づいてくれませんのよ」
ヨロミ
「その態度では当然かと」
スージー
「……うるさいですわ」
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カフェは静かに言う。
「……調律者といえど、都市に住む人間です。感情を持つこと自体は……自然なことです」
ジュリ
「だったらさ、さっさと告ればいいじゃん?別に社内恋愛禁止とかないし」
ヨロミ
「ええ、現代では同性間の関係も一般的です」
スージー
「なっ……!わたくしから告白!?そんな……!」
明らかに動揺している。
だが。
カフェの次の言葉が、それを止めた。
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「……先延ばしにしていると、本当に手遅れになりますよ」
カフェの目は、モニターの向こうではなく。
もっと遠くを見ていた。
「ガリオンさんのように、調律者とて死なない存在ではありません」
ジュリ
「そうそう、“赤い霧”みたいなのがまた出てきたら?」
ヨロミ
「その時、後悔しても遅いかもしれません」
スージーは黙る。
カップを見つめる。
しばらくして、小さく呟いた。
「……分かっていますわよ」
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スージー
「……カフェさん」
「わたくしにも、おかわりを」
カフェは静かにコーヒーを注ぐ。
「……どうぞ」
スージーはそれを受け取り、口をつける。
「……美味しいですわ」
モニターの中では。
ルリが最後の一人を叩き潰していた。
怒号と破壊。
そのすべてが終わる。
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――調律者。
都市の頂点に立つ存在。
禁忌を裁き。
違反者を消し去る者。
だがその本質は。
血に塗れた執行者であると同時に。
コーヒーを飲みながら恋の相談をする、ただの人間でもあった。
カフェは最後に一口飲む。
「……」
静かな苦味が、口に広がる。
その味は。
どこか現実を思い出させるものだった。