ツヴァイ協会本部 救護室
静かな部屋。
規則的な機械音だけが、微かに響いている。
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バンブーメモリー「……ん……」
まぶたが、ゆっくりと開く。
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フェノーメノ「あっ……起きましたか、協会長」
椅子から立ち上がる。
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バンブーメモリー「……メノ……さん……?」
焦点の定まらない視線が、彼女を捉える。
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フェノーメノ「はい。フェノーメノであります」
静かに、しかし確かな声で答える。
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バンブーメモリー「あれ……あたし……何を……」
言葉が途切れる。
記憶の断片が、脳裏に浮かぶ。
バンブーメモリー「……あ……」
顔が歪む。
バンブーメモリー「……あたし……ねじれて……」
フェノーメノ「……覚えているのですか」
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バンブーメモリー「……うっすらと……」
目を伏せる。
バンブーメモリー「……あたし……最低っすね……」
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フェノーメノ「……ですが、戻りました」
一歩近づく。
フェノーメノ「ご無事で、何よりです」
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バンブーメモリー「……良くないっすよ……」
拳を握る。
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バンブーメモリー「あたし……協会長失格っす……」
声が震える。
バンブーメモリー「守るどころか……皆に迷惑かけて……なんで、助けたっすか……」
顔を上げないまま。
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バンブーメモリー「倒せば……よかったのに……」
沈黙。
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フェノーメノ「……協会長」
まっすぐに告げる。
フェノーメノ「助けると判断したのは、私です。もしそれが誤りであったなら──どうか私を処罰してください」
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バンブーメモリー「……やめてくださいっす……!」
顔を上げる。
バンブーメモリー「そんなこと……出来るわけないじゃないっすか……」
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フェノーメノ「……ならば」
一歩も引かず、言い切る。
フェノーメノ「勝手にいなくなることも、許しません」
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バンブーメモリー「……っ」
言葉を失う。
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フェノーメノ「私の上司は──バンブーメモリー協会長、ただ一人です」
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バンブーメモリー「……ムリっすよ……」
首を振る。
バンブーメモリー「もう……あたしには無理っす……いっそ……メノさんが協会長をやればいいっす……あたしは……ここにいる資格なんて……」
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フェノーメノ「いいえ」
即答だった。
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フェノーメノ「貴女の居場所は、ここです。ツヴァイの協会長は──貴女しか有り得ません」
バンブーメモリー「でも……」
言葉が続かない。
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フェノーメノ「ならば、ハナ協会に直談判します」
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バンブーメモリー「……え……?」
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フェノーメノ「今のツヴァイに必要な協会長は、貴女だけだと」
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バンブーメモリー「……なんで……そこまで……」
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フェノーメノ「決まっているでしょう」
わずかに目を伏せる。
フェノーメノ「私は、貴女を慕っています。昔も、今も貴女について行くと決めたのです」
顔を上げる。
真っ直ぐに。
フェノーメノ「だから──今度は、貴女が頼ってください。お願いします、協会長」
沈黙。
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バンブーメモリーの目に、涙が浮かぶ。
バンブーメモリー「……あたし……」
震える声。
バンブーメモリー「……協会長で……いいんすか……?こんな……情けないあたしで……」
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フェノーメノ「問題ありません」
即答。
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フェノーメノ「一人で背負う必要はないのです。全員で、守ればいい。私は……ずっと貴女の傍にいます」
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バンブーメモリー「……っ」
涙が、こぼれる。
バンブーメモリー「……ほんと……敵わないっすね……」
小さく、笑った。
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ハナ協会本部 協会長室
静かな部屋。
重厚な空気。
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スピードシンボリ「……そうか」
書類から目を上げる。
スピードシンボリ「バンブーメモリーは回復したか」
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ドリームジャーニー「はい。命に別状はありません。しかし……」
一拍置く。
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ドリームジャーニー「協会長がねじれとなり、負傷者を出した以上──処分は不可避かと」
スピードシンボリ「……当然だね」
静かに頷く。
スピードシンボリ「だが、問題はその後だ。彼女を外した場合、代替はいるのか?」
ドリームジャーニー「フェノーメノ支部長が適任かと」
スピードシンボリ「それがねぇ……」
苦笑する。
スピードシンボリ「彼女、バンブーメモリーの下以外では働かないらしい」
ドリームジャーニー「……それはまた」
スピードシンボリ「見事な忠誠心だ」
わずかに目を細める。
スピードシンボリ「ならば──答えは一つ」
ドリームジャーニー「……では処分内容を」
スピードシンボリ「バンブーメモリーは一年間の停職、その間──フェノーメノを協会長代行に任命する」
ドリームジャーニー「承知しました」
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静かに決定が下される。
だがそれは、失墜ではない。
再起のための時間。
そして──
“盾”が、一人のものではないと証明するための期間だった。
リウ協会本部 協会長室
静寂。
畳の上に正座する
ヤエノムテキ
手元には一通の通達書。
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ヤエノムテキ「……ふむ」
静かに目を通す。
ヤエノムテキ「“一年間の停職処分”……ですか」
紙を閉じる。
ヤエノムテキ「……甘い、と言うべきか」
一瞬の間。
ヤエノムテキ「……あるいは、妥当」
側に控えていた部下が口を開く。
「協会長、今回の件……どうご覧になりますか?」
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ヤエノムテキ「そうですね……」
ゆっくりと立ち上がる。
ヤエノムテキ「本来であれば──」
視線が鋭くなる。
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ヤエノムテキ「“協会長がねじれた”時点で、討伐が選択されてもおかしくはありません」
「……」
ヤエノムテキ「ですが、今回は違う」
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ヤエノムテキ「彼女は“守ろうとして”ねじれた。その結果が暴走であったとしても……根幹は、あくまで“守護”」
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静かに目を閉じる。
ヤエノムテキ「……私には、否定できません」
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「協会長……?」
ヤエノムテキ「リウは“勝利”を掲げる協会です。ですが……勝利のために守るものを見失えば、それはただの暴力に過ぎない」
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目を開く。
ヤエノムテキ「バンブーメモリーは……その逆に行き過ぎた。守ることに囚われ、戦う意味を見失った」
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静かに息を吐く。
ヤエノムテキ「……だからこそ、やり直す機会を与えられたのでしょう」
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「では、今回の処分は──」
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ヤエノムテキ「妥当です」
即答。
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ヤエノムテキ「むしろ……」
わずかに口元が緩む。
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ヤエノムテキ「良い部下を持ちましたね、彼女は」
フェノーメノの姿が脳裏に浮かぶ。
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ヤエノムテキ「……あの者がいる限り、ツヴァイは、まだ折れません」
静かに、しかし確信を持って。
ヤエノムテキ「次に会う時は──“盾”としてではなく、一人の戦士としての彼女を見たいものです」
セブン協会本部 協会長室
書類の山。
情報の海。
椅子にだらしなく座る
トランセンド
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トランセンド「へぇ〜……そう来たかぁ」
手元の報告書をひらひらさせる。
トランセンド「停職一年。で、その間メノさんが代理っと」
フリオーソ「妥当な判断かと」
トランセンド「うーん……“妥当すぎる”かな」
フリオーソ「と言いますと?」
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トランセンド「だってさぁ」
椅子をくるりと回す。
トランセンド「今回の件、“ツヴァイの弱さ”モロに出ちゃったでしょ」
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トランセンド「トップが潰れて、ねじれて、現場が崩壊しかけた。普通なら信用ガタ落ちだよ?」
フリオーソ「……確かに」
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トランセンド「でもさ」
少しだけ真面目な顔になる。
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トランセンド「それでも“救った”んだよね。自分たちのトップを。しかも、他協会巻き込んででも。これ、普通できないよ」
フリオーソ「……見捨てる方が合理的ですからね」
トランセンド「そーそー」
指を鳴らす。
トランセンド「合理で言えば“切り捨て”一択。でもあいつらはやらなかった」
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トランセンド「だから──」
ニヤリと笑う。
トランセンド「“面白い”んだよね、ツヴァイ」
フリオーソ「……評価としては?」
トランセンド「上がった」
即答。
トランセンド「脆さは見えた。でも同時に“芯の強さ”も見えた。特にメノさん。アレ、完全に組織の軸になるタイプだよ」
フリオーソ「では、今回の処分は」
トランセンド「バランス型だね。罰は与える、でも切らない。しかも代理がメノさんっていう“最適解”」
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肩をすくめる。
トランセンド「さすがハナ協会、無難に最善手打ってきたって感じ」
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一拍。
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トランセンド「……でもさ」
少しだけ声のトーンが落ちる。
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トランセンド「バンブーさんが戻ってきた時。同じこと繰り返したら、次はないよ」
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フリオーソ「……」
トランセンド「だから」
軽く笑う。
トランセンド「ちゃんと“壊れ方”覚えて戻ってきてほしいね。中途半端に強い人間が一番危ないんだからさ」
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書類を机に置く。
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トランセンド「ま、期待してるよ。フェノーメノ代行さん」