ヂェーヴィチ協会 西部支部 支部長室
受話器を握ったまま、ナイスネイチャは固まっていた。
ナイスネイチャ
「えっ……いざって時の代理に、私が?」
アイネスフウジン(電話越し)
『そうなの!ネイチャなら出来るの!お願いなの!』
ナイスネイチャ
「いやいやいや……私はそういう器じゃないって……」
アイネスフウジン
『西部支部での評価、ちゃんと聞いてるの!面倒見もいいし、判断も早いし、信頼も厚い!』
ナイスネイチャ
「うーん……」
少しの沈黙。
ナイスネイチャ
「……そこまで言われたら、断れないか」
ため息交じりに笑う。
ナイスネイチャ
「分かりましたよ。やるだけやってみます。……期待はしないでくださいね?」
アイネスフウジン
『ありがとなの!ハナ協会にも報告しておくの!準備よろしくね!』
通話が切れる。
チリン……
ナイスネイチャ
「……いやいやいやいや!」
頭を抱える。
ナイスネイチャ
「なんで私が協会長代理なんて……支部長だって成り行きみたいなものなのに……」
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ガチャ
タマモクロス
「邪魔するで〜。って、なんやその顔」
オグリキャップ
「具合が悪いのか?」
ナイスネイチャ
「いや違う違う……」
事情を説明する。
タマモクロス
「あー、例のやつか。ツヴァイの件で回ってきた再発防止策」
オグリキャップ
「ネイチャが協会長になるのか?」
ナイスネイチャ
「ならないならない!あくまで“もしもの時”の代理だから!」
オグリキャップ
「そうか。だがネイチャなら出来ると思う」
タマモクロス
「せやせや!もっと自信持たんかいな!」
ナイスネイチャ
「うう……嬉しいけど、重いってそれ……」
タマモクロス
「いざって時はウチらもおる。1人で背負う必要なんてないで」
オグリキャップ
「ああ。ヂェーヴィチ全員で支える」
ナイスネイチャ
「……そっか」
少しだけ、表情が柔らぐ。
ナイスネイチャ
「ありがとう。……じゃあ私も、ちゃんと守らないとね」
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ナイスネイチャ
「……っていうか、2人は何しに来たの?」
オグリキャップ
「仕事の報告だ」
タマモクロス
「ホイールズインダストリーの配達、無事完了や!」
ナイスネイチャ
「おお、それはご苦労さま。大口だったでしょ?」
タマモクロス
「せやな〜。あそこの武器、一回使ってみたいわ」
オグリキャップ
「アンジェリカも世話になっていると言っていたな」
ナイスネイチャ
「……アンジェリカって、“黒い沈黙”の?」
タマモクロス
「は?知り合いなんか?」
オグリキャップ
「ああ。何度か依頼を受けてな。その縁で友達になったんだ」
回想
薄暗い裏路地の居酒屋。
アンジェリカ
「聞いてくださいよオグリさん!またお兄ちゃんとローランが喧嘩して――」
オグリキャップ
「それは大変だな」
アンジェリカ
「本当に!仲裁する身にもなってほしいんです!」
オグリキャップ
「……理由は、やはり君か?」
アンジェリカ
「まあ、そうですね。お兄ちゃんはシスコンだし、ローランは反発するし」
苦笑する。
アンジェリカ
「でもまあ……家族、なんですよね」
オグリキャップ
「……大切にされている証だ」
アンジェリカ
「……そういうものですかね」
少しだけ、柔らかい顔になる。
アンジェリカ
「……私、昔は家族なんていなかったんです」
静かに語る。
アンジェリカ
「実験に使われて、捨てられて……気づいたら、お兄ちゃんしかいなかった」
オグリキャップ
「……」
アンジェリカ
「でも、ローランと出会って……やっと“普通”になれた気がしたんです」
そして──
アンジェリカ
「だから、お願いがあるんです」
オグリキャップ
「なんだ?」
アンジェリカ
「もし私がいなくなって……あの2人が暴れたら」
少し冗談めかしながら笑って。
アンジェリカ
「代わりに、1発ずつ殴ってください」
オグリキャップ
「……ああ、承知した」
回想終了
オグリキャップ
「……ということがあった」
ナイスネイチャ
「……そっか」
タマモクロス
「で、その2人の末路がアレや」
ナイスネイチャ
「青い残響は死亡……ローランは図書館、か」
沈黙。
タマモクロス
「……オグリはどう思っとる?」
オグリキャップ
「簡単だ」
静かに言う。
オグリキャップ
「2人とも、アンジェリカの想いを踏みにじった」
ナイスネイチャ
「……」
オグリキャップ
「だから、約束通り殴る」
あまりにも、真っ直ぐに。
ナイスネイチャ
「……いやいやいや、それ冗談でしょ?」
オグリキャップ
「ローランは外郭の図書館にいるのか」
ナイスネイチャ
「え、ちょっと待って」
オグリキャップ
「なら行ってくる」
ナイスネイチャ
「は!?!?」
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タマモクロス
「待てやオグリィ!!」
腕を掴むが──
びくともしない。
タマモクロス
「なんやこの馬鹿力!?止まらん!?」
オグリキャップ
「大丈夫だ。すぐ戻る」
ナイスネイチャ
「大丈夫じゃないって!!申請も無しに図書館行くとか正気!?」
オグリキャップは、ただ前を向いていた。
その目には──迷いがない。
怪物は、怒らない。
ただ──
約束を守るだけだ。
外郭 図書館
ローラン
「ぶえっくしゅん!!」
アンジェラ
「どうしたのローラン?」
ローラン
「……なんか、嫌な予感がするんだよな……」
アンジェラ
「誰かに恨まれているんじゃないの?」
ローラン
「いやいや、そんなわけ……」
少しだけ、間が空く。
ローラン
「……ない、よな?」