ヂェーヴィチ協会 西部支部 オフィス
静かな室内に、紙を擦る音だけが響く。
タマモクロス
「オグリ〜……始末書、終わったか……?」
オグリキャップ
「ああ、今終わったところだ」
ペンを置く音。
タマモクロス
「はぁ〜……ほんま……なんでウチまで巻き添えやねん……」
オグリキャップ
「すまないタマ。この埋め合わせは必ずする」
タマモクロス
「ええって別に……どうせいつものことやしな……」
オグリキャップ
「そうか。なら分かった」
タマモクロス
「……なあオグリ、ひとつ聞いてええか?」
オグリキャップ
「なんだ?」
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タマモクロス
「なんで“今”やったんや?」
オグリキャップ
「……?」
タマモクロス
「黒い沈黙との約束、だいぶ前の話やろ?なんで今さら果たしたんや」
オグリキャップ
「順番が来たからだ」
タマモクロス
「順番……?」
オグリキャップ
「ああ。順にやっているだけだ」
あまりにも当然のように言う。
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タマモクロス
「……いやいやいや。約束に順番もクソもあるかいな」
オグリキャップ
「あるだろう?」
タマモクロス
「普通はな、“出来るやつからやる”んや。出来へんもんは諦める。そういうもんやろ」
オグリキャップ
「……?」
わずかに首を傾げる。
オグリキャップ
「タマは何を言っているんだ?」
タマモクロス
「は?」
オグリキャップ
「約束は守るものだろう?」
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沈黙。
タマモクロス
「……出来ない約束もあるやろ」
オグリキャップ
「出来ない約束とは?」
タマモクロス
「いやだから──」
オグリキャップ
「私は知らない」
即答。
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オグリキャップ
「アンジェリカの約束は、ローランとアルガリアに一発ずつだった」
タマモクロス
「……ああ」
オグリキャップ
「アルガリアはもういない。だからローランだけでも殴った」
タマモクロス
「……」
オグリキャップ
「半分は守れた」
淡々と。
まるで“結果報告”のように。
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タマモクロス
「……なあオグリ」
オグリキャップ
「なんだ?」
タマモクロス
「ひとつ確認させてくれや……」
少し、声が低くなる。
タマモクロス
「お前……今まで、“守らんかった約束”ってあるんか?」
オグリキャップ
「ない」
即答。
タマモクロス
「……は?」
オグリキャップ
「全て、何かしらの形で果たしている」
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タマモクロス
「……あほか!!」
机を叩く。
タマモクロス
「なんやその執念!!お前ほんまにウマ娘か!?」
オグリキャップ
「?」
タマモクロス
「それもう“人間のやり方”ちゃうやろ……幻想体のそれやで……!」
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オグリキャップ
「母さんが教えてくれた」
静かに言う。
オグリキャップ
「約束は守るものだと」
タマモクロス
「……」
オグリキャップ
「だから守っているだけだ」
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タマモクロス
「……それでも限度があるやろ」
オグリキャップ
「限度?」
タマモクロス
「命賭けるような約束や!死んだら終わりやろが!」
オグリキャップ
「死ななければいい」
一切の迷いがない。
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タマモクロス
「ッッッ……!!」
頭を抱える。
タマモクロス
「……なんでや……」
小さく呟く。
タマモクロス
「なんでそんな真っ直ぐでいられるんや……」
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オグリキャップ
「タマは怒っているのか?」
タマモクロス
「違うわ……呆れとるんや……」
一息つく。
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タマモクロス
「……なあオグリ」
オグリキャップ
「なんだ?」
タマモクロス
「お前のお母ちゃんは……なんて言っとるんや?」
オグリキャップ
「約束を守ると褒めてくれる」
少しだけ、柔らかくなる声。
オグリキャップ
「頭を撫でてくれる。暖かい」
タマモクロス
「……」
オグリキャップ
「……だが」
少しだけ間が空く。
オグリキャップ
「時々、悲しそうな顔をする」
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タマモクロス
「……そっか」
それ以上は聞かない。
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オグリキャップ
「タマ」
タマモクロス
「なんや?」
オグリキャップ
「約束を守ることは、大切だろう?」
タマモクロス
「……」
オグリキャップ
「だから守っているだけだ」
タマモクロス
「……ああ」
小さく頷く。
タマモクロス
「お前はそれでええ」
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少しだけ、間を置いて。
タマモクロス
「……せやけどな」
オグリキャップ
「?」
タマモクロス
「ウチも約束したいんや」
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オグリキャップ
「なんだ?」
タマモクロス
「2つや」
指を立てる。
タマモクロス
「絶対に死なへんこと」
オグリキャップ
「……」
タマモクロス
「もうひとつ」
真っ直ぐ見る。
タマモクロス
「ウチの約束を、最優先にすることや」
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オグリキャップ
「……理由は?」
タマモクロス
「簡単や」
少しだけ笑う。
タマモクロス
「お前、危なすぎるんや」
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タマモクロス
「冗談でも全部本気にする。出来へん約束も、出来るまでやる。止まらん」
オグリキャップを見る。
タマモクロス
「そんな奴、いつか死ぬ」
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タマモクロス
「……せやから」
少しだけ声が強くなる。
タマモクロス
「“生きて帰る”ことを最優先にせえ」
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オグリキャップ
「……」
数秒の沈黙。
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オグリキャップ
「分かった」
タマモクロス
「……」
オグリキャップ
「タマとの約束、最優先にする」
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タマモクロス
「……へへ」
少しだけ安心したように笑う。
タマモクロス
「それでええ」
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オグリキャップ
「タマ」
タマモクロス
「なんや?」
オグリキャップ
「私も約束する」
タマモクロス
「?」
オグリキャップ
「タマを死なせない」
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タマモクロス
「……」
少しだけ目を伏せて。
タマモクロス
「……おおきに」
約束は、人を縛る。
約束は、人を繋ぐ。
そして──
約束は、怪物に“優先順位”を与えた。