ヂェーヴィチ協会 西部支部 6課オフィス
書類の音、足音、報告の声。
雑然としていながらも、どこか活気のある空間。
新人たちが、今日も都市を生き延びるために働いている。
キタサンブラック
「ただいま戻りました!」
サクラバクシンオー
「おかえりなさいキタサンブラックさん!配達はいかがでしたか!」
キタサンブラック
「はい!時間も場所も間違えずに、しっかり届けられました!」
サクラバクシンオー
「素晴らしいです!!完璧ですね!!」
キタサンブラック
「えへへ、ありがとうございます!」
周囲のフィクサーたちも、少しだけ笑う。
まだ拙いが、確実に成長している新人。
それが分かるからこそ、誰も茶化さない。
サクラバクシンオー
「キタさんもだいぶ慣れてきましたね!どうでしょう、次からはもう少し難易度の高い依頼にも挑戦してみませんか!」
キタサンブラック
「難しい依頼…ですか?」
サクラバクシンオー
「はい!成功すれば上の課への異動も見えてきます!5課、あるいは4課も夢ではありません!」
キタサンブラック
「それって…出世、ってことですか?」
サクラバクシンオー
「その通りです!!」
キタサンブラック
「……あたしも、いつか1級フィクサーに…?」
サクラバクシンオー
「ええ、なれますとも!!」
力強く言い切る。
サクラバクシンオー
「道のりは長く険しいですが!キタさんなら必ず辿り着けます!!」
キタサンブラック
「……はい!」
キタサンブラック
(あたしも……いつか)
(誰かを守れる、強いフィクサーに──)
その時。
オフィスの入口が、ざわついた。
「……え、あれって」
「まさか……」
オグリキャップ
「失礼する。バクシンオーはいるか?」
空気が、一瞬で変わる。
キタサンブラック
(……え?なんか……すごい人……?)
サクラバクシンオー
「やや!オグリさんじゃないですか!!」
キタサンブラック
(オグリ……?)
周囲がざわめく。
「灰色の怪物だ……」
「西部1課の……特色フィクサー……!」
キタサンブラック
「……特色……」
その言葉が、やけに重く響いた。
オグリキャップ
「ネイチャから書類を届けて欲しいと言われてな。持ってきた」
サクラバクシンオー
「ありがとうございます!!特色なのにわざわざ!」
オグリキャップ
「関係ない」
即答。
オグリキャップ
「頼まれたからやっただけだ」
キタサンブラック
(……なんだろう、この人……すごい人のはずなのに……全然偉そうじゃない……)
サクラバクシンオー
「ではせっかくですので!!6課の皆に激励をお願いできますか!!」
ざわっ、と空気が固まる。
オグリキャップ
「分かった」
全員の視線が集まる。
新人たちは背筋を伸ばす。
オグリキャップ
「……」
一瞬だけ、考えるように間を置いて。
オグリキャップ
「みんな」
静かな声。
それなのに、やけに響く。
オグリキャップ
「ヂェーヴィチの仕事は過酷だ、死ぬこともある。逃げたくなることもあるだろう」
キタサンブラック
(……!)
オグリキャップ
「それでもここにいるなら、やりきれ」
短い。
だが、重い。
オグリキャップ
「分からないことがあれば1課に来てくれ。私が話を聞く」
少しだけ、間。
オグリキャップ
「待っている」
「……は、はい!!」
オグリキャップ
「では失礼する」
何事もなかったかのように去っていく。
オフィスにはしばらく静寂が残っていた。
キタサンブラック
「……」
自分の手元を見る。
さっきまで普通に書いていた報告書の文字が、少しだけ震えている。
サクラバクシンオー
「……ふふ」
キタサンブラック
「バクシンオー部長?」
サクラバクシンオー
「驚きましたか?」
キタサンブラック
「は、はい……!だってあの人……特色で……」
サクラバクシンオー
「ええ、西部支部の“頂点”の一人ですね!」
キタサンブラック
「……あんな人に、なれるんでしょうか」
ぽつりと漏れる。
サクラバクシンオーは少しだけ考えてから、はっきり言う。
サクラバクシンオー
「なれません!」
キタサンブラック
「えっ!?」
サクラバクシンオー
「正確には、“同じにはなれません”です!」
指を立てて続ける。
サクラバクシンオー
「オグリさんは特別です!あの人の強さも、在り方も、正直言って普通ではありません!」
少しだけ、声を落とす。
サクラバクシンオー
「……あの人は、“止まらない”んです」
キタサンブラック
「止まらない……?」
サクラバクシンオー
「はい!どれだけ傷ついても、どれだけ無茶でも、前に進み続ける!だから“怪物”なんです!」
少しだけ笑う。
サクラバクシンオー
「でもですね!」
サクラバクシンオー
「“近づく”ことは出来ます!」
キタサンブラック
「……!」
サクラバクシンオー
「キタさんが今やっていること──一つ一つの配達を確実にこなすこと、人を助けたいと思う気持ち、それを続けていけば、必ず“上”に行けます!」
キタサンブラック
「……はい!」
サクラバクシンオー
「それに!」
少しだけニヤッとする。
サクラバクシンオー
「さっきのオグリさんの言葉、覚えてますか?」
キタサンブラック
「……“1課に来たら相談に乗る”……」
サクラバクシンオー
「ええ!」
周囲のフィクサーが苦笑する。
「いやでもあれ本気かどうか……」
「オグリさんだからなあ……」
サクラバクシンオーは断言する。
サクラバクシンオー
「本気ですよ!」
キタサンブラック
「……!」
サクラバクシンオー
「だからキタさん、“行ってみてください”」
キタサンブラック
「えっ……!?」
サクラバクシンオー
「もちろん今すぐじゃなくていいです!でも、迷った時、壁にぶつかった時──“憧れに頼る”のも、立派な選択です!」
静かに。
キタサンブラックは拳を握る。
キタサンブラック
「……はい!いつか……胸を張って、1課に行きます!」
サクラバクシンオー
「その意気です!」
その時。
オフィスの隅で誰かがぽつりと呟く。
「……でもさ、オグリさんに相談って、逆に怖くないか?」
「分かる……“出来るまでやればいい”とか言われそう……」
別のフィクサーが苦笑する。
「でもあの人、絶対見捨てないよな」
その言葉に、キタサンブラックは小さく頷いた。
キタサンブラック
(あの人は……きっと、誰も置いていかない)
ペンを握り直す。
キタサンブラック
「よーし!まずは目の前の仕事からですね!」
サクラバクシンオー
「その通りです!爆進あるのみです!!」
オフィスに再び活気が戻る。
そしてその日。
ひとりの新人フィクサーの中に──
確かな“目標”が生まれた。
その頃──
廊下。
オグリキャップは静かに歩いていた。
オグリキャップ
「……」
少しだけ振り返る。
オグリキャップ
「……頑張っていたな」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。
そしてまた、前を向く。
止まらずに。
憧れは、道標になる。
だがそれは、同じ道を歩けという意味ではない。
それぞれが、それぞれのやり方で進む。
その先に──
“色”は宿る。