M社13区 巣 とある料理店
落ち着いた照明と、静かな食器の音。
都市にしては珍しい、穏やかな空間。
アーモンドアイ
「久しぶりね、オグリさん。変わらず元気そうで何よりだわ」
オグリキャップ
「ああ、君も息災で何よりだ。……頑張っているんだな」
アーモンドアイ
「当然よ。私は常に“完璧”であり続ける存在だもの」
オグリキャップ
「そうか」
アーモンドアイ
「……オグリさんは?問題とか起こしてない?」
オグリキャップ
「ない。配達は全て滞りなく終えている」
アーモンドアイ
「ならいいわ。……お互い、まだ生きてるってことね」
オグリキャップ
「ああ」
アーモンドアイ
「……それにしても、ここ結構いい店じゃない?普段来るの?」
オグリキャップ
「いや、たまにだ」
一拍。
オグリキャップ
「だが今日は友達との食事だからな。奮発するのも悪くない」
アーモンドアイ
「……っ///」
(この人、無自覚でこういうこと言うのよね……)
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その時。
チリン、と扉の鈴が鳴る。
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シンボリルドルフ
「ここだ。以前来て気に入ってな」
ジェンティルドンナ
「なるほど、確かに落ち着いた良い店ですわ」
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オグリキャップ
「ルドルフ」
シンボリルドルフ
「……おや、オグリキャップ。奇遇だな」
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距離が縮まる。
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シンボリルドルフ
「ジェンティル、彼女がこの店を教えてくれた友人だ」
ジェンティルドンナ
「初めまして。シ協会北部支部長、ジェンティルドンナですわ」
オグリキャップ
「オグリキャップだ。よろしく頼む」
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シンボリルドルフ
「……そちらの方は?」
オグリキャップ
「友達のアーモンドアイだ」
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シンボリルドルフ
「ほう……“水色の女王”か」
アーモンドアイ
「シ協会協会長にご挨拶申し上げます」
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一瞬の緊張。
しかしすぐに崩れる。
シンボリルドルフ
「奇遇だな。私もオグリキャップの友人だ」
アーモンドアイ
「……本当に広い交友関係ね」
オグリキャップ
「そうだろうか?」
ジェンティルドンナ
「異常ですわね、特色が他の特色と複数も繋がるなんて...」
オグリキャップ
「……?」
シンボリルドルフ
「良ければ相席してもいいか?」
オグリキャップ
「ああ」
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食事が始まる
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シンボリルドルフ
「アーモンドアイ、E.G.Oを開花させたと聞いた」
ジェンティルドンナ
「特色でも稀有な例ですわ。誇るべきです」
アーモンドアイ
「ありがとう」
オグリキャップ
「交流試合で見た。強かった。また戦いたい」
アーモンドアイ
「ふふ、次も私が勝つわ」
穏やかな空気。
だが──
シンボリルドルフ
「オグリ、君は問題を起こしていないか?」
オグリキャップ
「問題はない」
ジェンティルドンナ
「ふふ、流石ですわね」
オグリキャップ
「だが始末書を書くことにはなったな」
アーモンドアイ
「へぇ?何かやらかしたの?」
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オグリキャップ
「図書館に行った」
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空気が止まる。
シンボリルドルフ
「……図書館、だと?」
アーモンドアイ
「まさか……“あの”?」
オグリキャップ
「ああ、外郭の図書館だ」
ジェンティルドンナ
「……理由は?」
オグリキャップ
「約束を果たすためだ」
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シンボリルドルフ
「内容は?」
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オグリキャップ
「ローランを殴ることだ」
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完全な沈黙。
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シンボリルドルフ
「……伝説のフィクサー、チャールズ事務所の元隊長ローランのことか?
アーモンドアイ
「……意味が分からないわ」
オグリキャップ
「アンジェリカとの約束だ」
ジェンティルドンナ
「黒い沈黙……」
オグリキャップ
「彼女に言われた。もし自分に何かあった後、アルガリアとローランが暴れたら殴れと」
シンボリルドルフ
「……それで?」
オグリキャップ
「アルガリアは既に死んでいた。だからローランを殴った」
アーモンドアイ
「……それだけのために?」
オグリキャップ
「約束だからな」
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静かに。
迷いなく。
オグリキャップ
「約束は守るものだ」
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シンボリルドルフの視線が変わる。
シンボリルドルフ
「……オグリキャップ」
低く、重く。
シンボリルドルフ
「“守るべき約束”と“そうでない約束”の区別はしているか?」
オグリキャップ
「?」
オグリキャップ
「約束に違いはないだろう?」
アーモンドアイ
「……っ」
ジェンティルドンナ
「……」
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空気が冷える。
アーモンドアイ
「……だからって図書館に乗り込んで伝説のフィクサー殴るなんてぶっ飛んでるわ」
オグリキャップ
「それで無断で行ったことを怒られて始末書を書かされた。ちゃんと書いたぞ」
ジェンティルドンナ
「当たり前ですわよ……」
シンボリルドルフ
「はぁ……オグリの天然さや純粋さは知っているつもりだったがここまでとは……」
アーモンドアイ
「……それにしても、黒い沈黙とも知り合いだったなんて、オグリさんって本当に交流関係広いのね」
オグリキャップ
「む……私の関係はそんなにおかしいのだろうか……」
ジェンティルドンナ
「特色フィクサーにコネを作るなんて並大抵のことでは出来ませんわよ……」
オグリキャップ
「そうなのか?」
シンボリルドルフ
「……オグリキャップ、君の連絡先は誰が把握してるんだ?一応見せてくれ」
オグリキャップ
「ああ」
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提示される端末。
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スクロール。
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シンボリルドルフ
「……」
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止まる。
シンボリルドルフ
「……なんだ、これは」
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ジェンティルドンナ
「?」
アーモンドアイ
「どうしたの?」
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見せられる画面。
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アルガリア
アンジェリカ
アーモンドアイ
イオリ
ヴェルギリウス
シンボリルドルフ
ハイセイコー
ライスシャワー
朱色の十字
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沈黙。
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「「はっ?」」
ジェンティルドンナ
「……ははは、目の錯覚ですわね。なんか特色の名前が並んでるように見えますわ」
アーモンドアイ
「そうね、きっとこれは私たちが疲れてるのよ。有り得ないものが見えたわ」
シンボリルドルフ
「……オグリキャップ」
オグリキャップ
「?」
シンボリルドルフ
「まさかとは思うがこの全員と、面識があると言うんじゃないだろうな?
ジェンティルドンナ
「いやいや協会長、流石にそれは……」
オグリキャップ
「友達だ」
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その一言。
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アーモンドアイ
「……友……達……?」
ジェンティルドンナ
「……一応聞きますわね。青い残響や紫の涙とはどういう関係でしたの?」
オグリキャップ
「アルガリアやイオリはアンジェリカ経由で知り合ったんだ。そのあとからはよく頼み事をしてきたな。任務の手伝いとか色々頼まれた。手伝ったら食事を奢ってくれたんだ」
ジェンティルドンナ
(それは利用されてるのでは……?)
シンボリルドルフ
「黒い沈黙は……?」
オグリキャップ
「アンジェリカは私にローランやアルガリアの喧嘩の愚痴を話してくれた。それでもしもの時の約束も残してくれたんだ」
シンボリルドルフ
「ふむ、そこは普通の関係か……」
アーモンドアイ
「じゃあ次、赤い視線は?」
オグリキャップ
「ヴェルギリウスは彼が経営してるという保育園やフィクサー事務所によく配達で行って知り合った。子供たちも事務所の人も優しかったな。……ただ、最近は連絡がこない。忙しいのだろう」
ジェンティルドンナ
「ディエーチ協会本部長のライスシャワーさんやハナ協会支部長のハイセイコーさんは?」
オグリキャップ
「今でも時々会う仲だ。よく食事に行く」
シンボリルドルフ
「……では朱色の十字は?」
オグリキャップ
「彼に荷物の配達を繰り返していたら仲良くなった。彼が親しいというドンファンというフィクサーと一緒に3人で食事に行った。本名は教えてくれなかったから十字と呼んでいたな」
シンボリルドルフ
「……そうか」
理解が、追いつかない。
アーモンドアイ
「……貴女にとって“友達”って何?」
オグリキャップ
「一緒に食事をする相手だ」
ジェンティルドンナ
「……それだけで?」
オグリキャップ
「ああ」
沈黙。
アーモンドアイ
「……怪物ね」
ジェンティルドンナ
「ええ、ある意味で」
シンボリルドルフは立ち上がる。
シンボリルドルフ
「少し席を外す」
店の外。
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コール音。
スピードシンボリ『珍しいね、ルドルフ。君から電話を掛けてくるなんて』
シンボリルドルフ
「スー様、要請があります」
短く、だが確信を持って。
シンボリルドルフ
「12協会協会長による緊急会議の招集を」
スピードシンボリ『……議題は?』
一拍。
シンボリルドルフ
「ヂェーヴィチ協会所属、特色フィクサー」
静かに告げる。
シンボリルドルフ
「灰色の怪物の危険性について」
スピードシンボリ
『……分かった。準備しておこう』
通話終了。
店内では。
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オグリキャップ
「……ルドルフは忙しそうだな」
何も知らずに、料理を口に運ぶ。
アーモンドアイはその姿を見て、小さく呟く。
アーモンドアイ
「……ねえオグリさん」
オグリキャップ
「なんだ?」
アーモンドアイ
「“約束”、全部守るつもり?」
オグリキャップ
「当然だ」
迷いはない。
アーモンドアイ
「……そっか」
その目は、ほんの少しだけ曇っていた。