ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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灰色の怪物という存在

ハナ協会 本部 大会議室

 

都市の中枢に位置する、ハナ協会本部。

 

その最奥にある大会議室は、

“都市の意思”が決定される場所だった。

 

円卓。

 

その周囲に座るのは、12協会の頂点に立つ者たち。

 

それぞれが一つの組織を背負い、

それぞれが一つの都市の側面を象徴する存在。

 

――本来ならば、ここに“例外”は存在しない。

 

だが。

 

その日、その場には明らかな異物が紛れ込んでいた。

 

---

 

オグリキャップ

 

ヂェーヴィチ協会 西部1課所属。

特色フィクサー「灰色の怪物」

 

彼女だけが、協会長ではない。

 

スピードシンボリ

「……全員揃ったようだね。では始めようか」

 

その声は穏やかだが、場の空気を完全に支配していた。

 

フェノーメノ

「はっ」

 

グラスワンダー

「しかし……議題が開示されていませんが……」

 

ヒシアマゾン

「ああ、アタシら何も聞いてねえぞ?」

 

ヤエノムテキ

「……いえ」

 

静かに目を細める。

 

ヤエノムテキ

「ここに“いるはずのない人物”がいる時点で、ある程度は察せられます」

 

その一言で、空気が変わる。

 

視線が、集まる。

 

円卓の一点――

 

オグリキャップへ。

 

トランセンド

「まあ、そりゃそうだよね〜」

 

セイウンスカイ

「でもさ〜……なんでオグリさんなの?」

 

軽い口調とは裏腹に、その目は鋭い。

 

セイウンスカイ

「この人、“一番問題起こさないタイプ”でしょ?」

 

アイネスフウジン

「お、おおおオグリちゃん!?なんかやらかしたの!?」

 

ゼンノロブロイ

「……信じがたいですね。彼女はむしろ“優良”なフィクサーでしたが……」

 

ナカヤマフェスタ

「少なくとも、規律違反で呼ばれるタイプじゃねえな」

 

ドゥラメンテ

「……説明を求める。スピードシンボリ協会長」

 

スピードシンボリは小さく肩をすくめた。

 

スピードシンボリ

「実はね、私も詳細は聞いていないんだ」

 

わずかなざわめき。

 

スピードシンボリ

「今回の招集はルドルフの要請だ」

 

フェノーメノ

「シ協会長が……?」

 

スピードシンボリ

「だから説明は彼女から。……ルドルフ」

 

---

 

シンボリルドルフが、静かに立ち上がる。

 

その動作一つで場の視線が固定される。

 

シンボリルドルフ

「……説明と言っても、言葉で済む話ではありません」

 

一拍。

 

シンボリルドルフ

「これを見ていただいた方が早い」

 

差し出されたのは、一台の携帯端末。

 

スピードシンボリ

「これは?」

 

シンボリルドルフ

「オグリキャップのものです。ここに登録された連絡先を見てください」

 

グラスワンダー

「連絡先……ですか?」

 

ヒシアマゾン

「おいおい……まさかそれが議題か?特色とはいえ交流関係に口出しするのは違うだろ?」

 

ヤエノムテキ

「……プライバシーの侵害では?」

 

スピードシンボリ

「まあいい。まずは確認しよう」

 

軽く画面に触れる。

 

スクロール。

 

そして――

 

スピードシンボリの表情が変わった。

 

---

 

スピードシンボリ

「……なるほど」

 

その一言には、明確な重みがあった。

 

---

 

ナカヤマフェスタ

「おい、なんだそれ」

 

スピードシンボリ

「ジャーニー、映してくれ」

 

 

ドリームジャーニー

「承知しました」

 

---

 

端末が接続される。

 

モニターに映し出される一覧。

 

そして。

 

“それ”を見た瞬間。

 

グラスワンダー

「……はっ?」

 

ゼンノロブロイ

「……あはは……」

 

乾いた笑いが漏れる。

 

ゼンノロブロイ

「疲れているのでしょうか……あり得ない名前が見えるのですが……」

 

ドゥラメンテ

「……いや、現実だ」

 

淡々と読み上げる。

 

ドゥラメンテ

「青い残響。黒い沈黙。紫の涙。赤い視線。朱色の十字……」

 

ヒシアマゾン

「……おい、全部特色じゃねえか……!」

 

ざわめきではない。

 

それは理解の拒絶だった。

 

ナカヤマフェスタ

「……オグリキャップ」

 

低く問う。

 

ナカヤマフェスタ

「こいつら、どういう関係だ?」

 

アイネスフウジン

「き、きっと理由あるよね!?ね!?」

 

---

 

そして。

 

オグリキャップは。

 

何の迷いもなく答えた。

 

オグリキャップ

友達だ

 

沈黙。

 

フェノーメノ

「……友達……?」

 

ヤエノムテキ

「……定義を問います」

 

オグリキャップ

一緒に食事をした

 

---

 

一拍。

 

---

 

オグリキャップ

「だから友達だ」

 

その瞬間。

 

何人かの思考が停止した。

 

トランセンド

「……食事?」

 

オグリキャップ

「ああ。配達の時に話をして、そのあと食事に行った」

 

セイウンスカイ

「……それ、青い残響とも?」

 

オグリキャップ

「アルガリアはアンジェリカ経由だ。よく頼み事をされた」

 

グラスワンダー

「……内容は?」

 

オグリキャップ

「仕事の手伝いだ。終わったら食事を奢ってくれた」

 

ゼンノロブロイ

「……それだけで?」

 

オグリキャップ

「ああ。美味しかった」

 

---

 

その“価値基準”に。

 

会議室の全員が気付く。

 

---

 

スピードシンボリ

「……なるほど」

 

ヤエノムテキ

「……理解しました」

 

グラスワンダー

「ええ……これは……」

 

脅威だと。

 

ヒシアマゾン

「……食い物で動く特色、ってことかよ……」

 

トランセンド

「しかも、断らない

 

セイウンスカイ

「やばいね〜これ」

 

ナカヤマフェスタ

「……ギャンブルどころじゃねえな」

 

オグリキャップは、ただ首を傾げる。

 

理解していない。

 

自分が何を示しているのかを。

 

シンボリルドルフが口を開く。

 

シンボリルドルフ

「……オグリキャップ」

 

オグリキャップ

「なんだ?」

 

シンボリルドルフ

「君は友達が約束をしてきたらどんなことでも守るのか?」

 

オグリキャップ

「出来るものなら守る」

 

即答。

 

ヤエノムテキ

「貴女にとって守れない約束とは?」

 

オグリキャップ

「……間違っていることは手伝えない。アルガリアは都市を滅茶苦茶にしてた、そういうのは手伝えないし、止めるべきだと思った。……ただ、私ではアルガリアに勝てないから、タマやほかの友達を守ることしか出来なかったが」

 

その答えに、わずかな救いが見える。

 

だが――

 

グラスワンダー

「……青い残響との関係は?」

 

オグリキャップ

「アンジェリカの兄だったからだ」

 

静かに続ける。

 

オグリキャップ

「友達の家族は大切にするべきだ」

 

その一文が、すべてを覆す。

 

ヒシアマゾン

「……盲信かよ……」

 

トランセンド

「いや、それ以上かも」

 

セイウンスカイ

「“フィルターがない”んだよね〜」

 

ナカヤマフェスタ

「……全部同列に置いてやがる」

 

善悪も。

 

立場も。

 

危険性も。

 

“友達”という一言で。

 

会議室に、重苦しい沈黙が落ちる。

 

そして。

 

スピードシンボリが、静かに呟いた。

 

スピードシンボリ

「……これは確かに」

 

目を細める。

 

スピードシンボリ

怪物、だね」

 

その言葉に、誰も反論しなかった。

 

ただ一人。

 

オグリキャップだけが。

 

オグリキャップ

「?」

 

何も理解していなかった。

 

災害。伝説。英雄。

都市の歴史そのものとすら言える、特色フィクサーたちの名。

 

それらが――まるで友人リストのように並んでいる自身の連絡先について。

 


 

ナカヤマフェスタが深くため息を吐く。

 

ナカヤマフェスタ

「……なんも考えてねえ顔してんな」

 

その一言に、数人が小さく同意するように息を漏らした。

 

やがて、静かに口を開いたのはグラスワンダーだった。

 

グラスワンダー

「オグリさん、なぜ貴女はそこまで約束を守るのですか?」

 

問いは穏やかだったが、その内側には鋭い観察の意図が込められていた。

 

オグリは迷いなく答える。

 

オグリキャップ

「母さんとの約束だからだ」

 

その言葉に、数人の眉がわずかに動く。

 

トランセンドが顎に手を当てる。

 

トランセンド

「お母さんとの?」

 

オグリキャップ

「ああ」

 

オグリは頷く。

 

オグリキャップ

「母さんは約束は守るものと教えてくれた。だから守ることにしている」

 

あまりにも単純で、あまりにも強固な理屈。

 

セイウンスカイが苦笑混じりに口を挟む。

 

セイウンスカイ

「ちょっと待って、つまりオグリさんはお母さんとの約束を守るために、全部の約束守ってるってこと?」

 

オグリキャップ「ああ」

 

即答だった。

 

オグリキャップ

「母さんは私を裏路地でたった一人で育ててくれた。だから恩返しがしたい」

 

その言葉には、飾り気が一切ない。

ただ純粋な感情だけがあった。

 

ドゥラメンテが腕を組み、慎重に問う。

 

ドゥラメンテ

「……他には?」

 

オグリキャップ

「人は名前で呼ぶ、ルールは守る、友達は大切にする」

 

淡々と並べられる「約束」。

 

ナカヤマフェスタが肩をすくめる。

 

ナカヤマフェスタ

「……どこの家庭でもするような普通のいいつけだな」

 

だが――問題はそこではない。

 

ヤエノムテキが一歩踏み込む。

 

ヤエノムテキ

「もし、その約束同士が矛盾した場合は?例えば、友達が誰かを殺してほしいと言ったら?」

 

空気がわずかに張り詰める。

 

オグリは少しだけ考え――そして答えた。

 

オグリキャップ

「断る」

 

即断だった。

 

オグリキャップ

「友達は大切にするべきだ。でも間違ってることは止めないといけない」

 

その言葉に、アイネスフウジンが安堵の息を漏らす。

 

アイネスフウジン「よ、良かったぁ……!」

 

だがフェノーメノはさらに問いを重ねる。

 

フェノーメノ

「では、約束を守るためにルールを破る必要がある場合は?」

 

オグリは僅かに視線を落とした。

 

オグリキャップ

「……破らない方法を探す」

 

フェノーメノ「無理なら?」

 

オグリキャップ

「全部じゃなくても、出来るだけ守れる方法を探す」

 

その回答に、ゼンノロブロイが静かに分析を口にする。

 

ゼンノロブロイ

「……柔軟性はある、けれど基準は単一ですね」

 

ナカヤマフェスタがじっとオグリを見る。

 

ナカヤマフェスタ

「……お前、人を疑ったことはあるか?」

 

オグリキャップ

「……間違ったことをしそうなら止める」

 

オグリは真っ直ぐに答える。

 

オグリキャップ

「でも、悪いことをしないなら手伝いたい」

 

その言葉に、グラスワンダーが続ける。

 

グラスワンダー

「では、青い残響の連絡先を残している理由は?」

 

オグリキャップ

「あれは間違っていた」

 

オグリははっきりと言った。

 

オグリキャップ

「でも、友達だった過去は消えない。だから忘れないように残してる」

 

――それは、都市ではあまりにも異質な価値観だった。

 

アイネスフウジンが恐る恐る尋ねる。

 

アイネスフウジン「オグリちゃんにとって、正しいことってなに?」

 

オグリキャップ「母さんが教えてくれたこと」

 

迷いはなかった。

 

オグリキャップ

「それを守っているかどうかで決める」

 

スピードシンボリが静かに頷く。

 

スピードシンボリ

「……なるほど、行動原理は理解した」

 

シンボリルドルフが続ける。

 

シンボリルドルフ「一番大事な約束は?」

 

オグリキャップ「母さんとの約束」

 

シンボリルドルフ「次は?」

 

オグリキャップ「タマとの約束」

 

シンボリルドルフ「その次は?」

 

オグリキャップ「みんなとの約束」

 

――優先順位が明確だった。

 

スピードシンボリが目を細める。

 

スピードシンボリ「母親ありき、か」

 

ヤエノムテキが低く呟く。

 

ヤエノムテキ

「完全な制御不能ではない……」

 

しかしドゥラメンテが切り込む。

 

ドゥラメンテ

「だが、友達と認定すれば疑わないのは致命的だ」

 

トランセンドが肩をすくめる。

 

トランセンド

「しかもその条件ゆるゆる〜。ご飯奢ったら友達認定だもんね」

 

グラスワンダーも頷く。

 

グラスワンダー

「利用される可能性は依然として高いですね」

 

オグリは首を傾げるだけだった。

 

そして――

 

スピードシンボリが結論を告げる。

 

スピードシンボリ「オグリキャップ単体は危険ではない」

 

ゼンノロブロイが補足する。

 

ゼンノロブロイ

「ええ、彼女自身は都市を壊す存在ではありません」

 

グラスワンダーが静かに指を鳴らす。

 

グラスワンダー「ですが――」

 

その音が、妙に大きく響いた。

 

グラスワンダー「悪意が介入すれば、一転して最も危険な存在になります」

 

ナカヤマフェスタが笑う。

 

ナカヤマフェスタ

「約束守る、裏切らない、腕が立つ。三拍子だな」

 

トランセンドがぼそりと呟く。

 

トランセンド

「……これ、精神操作されたら終わりじゃない?」

 

沈黙。

 

ヤエノムテキが目を伏せる。

 

ヤエノムテキ

「……考えたくありません」

 

セイウンスカイがオグリを見る。

 

セイウンスカイ

「オグリさん、自分の意思ってあるの?」

 

オグリキャップ「ある」

 

オグリは即答した。

 

オグリキャップ

「恩返しがしたい」

 

ただそれだけだった。

 

ドゥラメンテが問う。

 

ドゥラメンテ

「それが食事でもか?」

 

オグリキャップ

「ああ、食事は大事だからな。」

 

当然のように。

 

ヒシアマゾンが頭を抱える。

 

ヒシアマゾン

「……真っ直ぐ過ぎるだろ……」

 

そして最終判断が下る。

 

スピードシンボリが静かに告げた。

 

「オグリキャップは純粋すぎる。都市に染まっていない。だが――何色にも染まる」

 

シンボリルドルフが続ける。

 

シンボリルドルフ「善意の塊であるが故に、悪意に弱い」

 

しかし。

 

スピードシンボリ「ストッパーはある」

 

スピードシンボリが指を立てる。

 

「母親とタマモクロス。この2つが最優先だ」

 

ヒシアマゾンが頷く。

 

ヒシアマゾン「なら、そこに縛りを増やせばいい」

 

スピードシンボリ「そうだ」

 

スピードシンボリは結論を下した。

 

スピードシンボリ「第三の約束として、12協会との約束を結ばせる」

 

内容は明確だった。

 

単独で依頼を受けない。

 

必ず報告・連絡・相談を行う。

 

危険な呼び出しには監視を付ける。

 

それは――「鎖」だった。

 

だが同時に、「守り」でもある。

 

アイネスフウジンが優しく声をかける。

 

アイネスフウジン「オグリちゃん、約束してくれる?」

 

オグリキャップ「ああ」

 

オグリは頷く。

 

オグリキャップ「約束は守る」

 

その言葉に、誰もが複雑な表情を浮かべた。

 

ヤエノムテキが小さく呟く。

 

ヤエノムテキ

「……理解しているのでしょうか、自分のことを」

 

フェノーメノが静かに答える。

 

フェノーメノ

「いいえ、だからこそ――奇跡なのです」

 

ゼンノロブロイが眼鏡を押し上げる。

 

ゼンノロブロイ

「そしてその奇跡は、簡単に災害へと変わる」

 

会議室に、再び重い沈黙が落ちた。

 

その中心で――

 

ただ一人。

 

灰色の怪物は、何も変わらない顔で首を傾げていた。

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