外郭・図書館 総記の階
埃と古書の匂いが漂う薄暗い回廊。
かつて無数の命が本になった場所は、今はただ静寂だけが支配している。
扉が軋み、小さな影が現れた。
「誰かと思えば珍しい客人ね。
どういう風の吹き回しかしら、ステイゴールド」
黄金のマントを翻した、小柄なウマ娘がにやりと笑う。
「いや、久しぶりに都市の近くまで来たからな。
様子を見に来ただけさ」
奥から、ローランが苦笑しながら近づいてきた。
「まったく、特色とはいえ外郭を隅々まで歩いたのは
後にも先にもお前だけだろうな」
ステイゴールドは肩をすくめる。
「言っとくけど私の目的は旅をすることだからな。
気が向いたらまたどっか別のところに行くだけさ」
アンジェラは金の瞳を細めた。
「やはりあなたは変人ね。
そういえば、あなたとよく似た性格の特色が今、都市で話題になってるわよ。
外郭にまで噂が届くぐらいに」
「都市の不純物に指定されてからあちこち逃げ回ってるらしいが、
頭を敵に回してよく何ヶ月も生きていられるもんだ」
ステイゴールドの目が興味深そうに光る。
「へぇ、そいつは面白いな。
なんて奴だ?」
「確か……ミスターシービーという名前だったはずよ」
「ミスターシービー……ああ、思い出した。
オルフェの友人か」
「なんだ、知ってるのか?」
「私の弟子の一人がそいつと同僚だったはずだ。
オルフェーヴルって言ってな、特色になれるくらいの実力はある。
ひょっとしたら今、シービーと追いかけっこしてるかもな」
「奇妙な縁ね。
あなたとよく似たウマ娘が、あなたの弟子と戦ってるなんて」
ステイゴールドは小さく笑った。
「まあ、オルフェにはドリームジャーニーって参謀もついてる。
勝てるかは知らんが、あいつらなら大丈夫さ」
「信頼してるんだな、弟子たちのことを」
「信頼ってほどでもないが、
都市でも逞しく生きていけるだけの実力は持ってるからな」
「弟子たちに会う気はないのかしら?」
ステイゴールドは遠くを見るような目で答えた。
「会いたい気持ちがないわけじゃないが、
都市に戻るのは面倒だしな。
それにあいつらなら、私がいなくてもやっていけるさ」
「良い関係なんだな」
ステイゴールドは踵を返し、黄金のマントを翻す。
「それじゃあ私はそろそろ行くよ。
あんたらも頑張りな」
小さな背中が、書架の奥へと消えていく。
「……不思議なウマ娘ね」
「ああ、見た目はチンチクリンだが、
どこか達観してて仙人と話してる気分だ」
アンジェラは静かに微笑んだ。
「それじゃローラン、私たちも仕事に戻りましょう」
「そうだな。
後でビナーに紅茶でも入れてもらうか」
二人の足音が、静かに響く。
外郭の風が吹き抜け、
かつて「光」を求めた図書館は、
今も静かに、
旅人と行人たちの物語を見守り続けていた。
どこか遠くで、
緑と金が交錯し、
自由と暴君が、
永遠に追いかけ合う。
その物語は、まだ終わらない。
ステイゴールド
特色フィクサー「黄金の行人」
何人かのウマ娘フィクサーを育てた伝説の指導者。チンチクリンな見た目をしてるものの実力に関しても一流の特色の名に恥じない優れたフィクサー。ある時から外郭を中心に活動しており、世界の果てを見た人物。