ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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怪物の鼓動

リンバスカンパニー本社――LCE部署研究棟・隔離室。

 

分厚い防壁に囲まれたその空間は、戦闘のために作られた“箱”だった。

逃げ場はない。隠れる場所もない。

 

ただ、ぶつかるだけの場所。

 

その中央に立つのは――オグリキャップ。

 

そして向かい合うのは、7人の囚人。

 

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ドンキホーテ「おおおお!!特色殿との手合わせとは光栄の極みでありまする!!」

 

ロージャ「でもさぁ……ほんとに強いの?」

 

ヒースクリフ「拍子抜けだったら笑うぞ?」

 

良秀「……油・デ」

 

シンクレア「“油断するなデクの坊”って意味です……」

 

イシュメール「……とにかく、やれば分かるわ」

 

グレゴール「はぁ……胃が痛くなってきたな……」

 

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オグリキャップは静かに一歩踏み出す。

 

巨大なハンマーを、軽く持ち上げる。

 

それだけだった。

 

それだけ――のはずだった。

 

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オグリキャップ「では……始めるとしよう。ヴェルギリウスの頼みだ……ちゃんとやろう」

 

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その瞬間。

 

“空気”が変わった。

 

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外で見ていた者たちが、同時に息を呑む。

 

ウーティス「……っ!?気配が……」

 

イサン「……先程までとは別人なり」

 

ムルソー「戦闘モードへの移行を確認。危険度、急上昇」

 

ホンル「わぁ……急に怖くなりましたね」

 

ファウスト「ええ、ですが特色の実力を見る貴重な機会です」

 

タマモクロス「……オグリ、お前……」

 

ダンテ【……これ、まずくない?】

 

ヴェルギリウス「……」

 

ただ一人、ヴェルギリウスだけが静かに見ていた。

 

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オグリキャップ「……いつでも来い」

 

---

 

その一言。

 

それは“開始の合図”であり、“死線の宣言”でもあった。

 

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ドンキホーテ「いざ参るでありまする!!」

 

最初に飛び出したのはドンキホーテ。

 

槍を構え、一直線に突撃する。

 

完璧な初動。迷いのない一撃。

 

――だった。

 

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オグリキャップ「遅い」

 

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“その声だけが聞こえた”。

 

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次の瞬間。

 

ドンキホーテの体が宙を舞っていた。

 

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ドンキホーテ「ぬわああああああああ!?」

 

壁に叩きつけられる。

 

鈍い衝撃音。

 

だがそれ以上に――

 

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ホンル「……今、誰かオグリさんの動き見えました?」

 

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沈黙。

 

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イサン「……否」

 

ムルソー「動作の結果は理解可能。しかし過程は視認不可」

 

ウーティス「……速すぎる……!」

 

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イシュメール「な、何を……!?」

 

オグリキャップ「弾いて、殴っただけだ」

 

グレゴール「“だけ”で済むか!?」

 

シンクレア「そんな大きな武器で……!?」

 

オグリキャップ「ああ、出来る」

 

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ヒースクリフ「……上等だ」

 

良秀「……良い」

 

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イシュメール「全員で行きます!」

 

ヒースクリフ「おう!!」

 

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六人が同時に動く。

 

前衛・後衛・側面。

 

一応の連携。

 

だが――

 

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オグリキャップは、一歩も動かなかった。

 

ただ、ハンマーを構える。

 

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オグリキャップ「……ふん!」

 

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――轟音。

 

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ドゴォン!!!

 

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衝撃が空間を叩き潰す。

 

空気が震え、床が軋む。

 

そして――

 

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イシュメール「がはっ……!?」

 

ヒースクリフ「っっ!!?」

 

ロージャ「うそ……でしょ……」

 

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全員が、まとめて吹き飛ばされた。

 

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静寂。

 

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ウーティス「……ありえない……」

 

タマモクロス「せやから言うたやろ。これでも“手加減”や」

 

ムルソー「納得した。確かに“怪物”だ」

 

ホンル「皆さん、綺麗に気絶してますね」

 

 

ダンテ【……ヴェルギリウス。あれ、どれくらい強いの】

 

ファウスト「戦力評価を求めています」

 

ヴェルギリウス「……総合力は俺と同等か、やや下。だが……」

 

一瞬だけ視線が鋭くなる。

 

「パワーと持久力は、特色随一だ」

 

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オグリキャップ「……お腹が空いたな」

 

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数分後。

 

囚人たちは目を覚ます。

 

ドンキホーテ「す、すごいでありまする!!何も見えなかったでありまする!!」

 

オグリキャップ「あれでも遅い方だ、速さだけならタマの方が上だ」

 

タマモクロス「やめぇや、変なハードル上げんな」

 

---

 

ヒースクリフ「チッ……俺たちも強くなってたつもりだったが、遠いな、特色は……」

 

シンクレア「で、でも……これから何を……?」

 

オグリキャップは、少しだけ考えてから答える。

 

---

 

オグリキャップ「生き残る術を教える」

 

グレゴール「……具体的には?」

 

---

 

オグリキャップ「簡単だ」

 

その言葉は、あまりにも軽かった。

 

オグリキャップ「君たち12人で私と戦う」

 

「そして、私が一度だけ放つ“全力の一撃”。それを、誰か一人でも耐えれば終わりだ」

 

---

 

沈黙。

 

---

 

ロージャ「……それだけ?」

 

オグリキャップ「ああ」

 

イシュメール「……簡単すぎません?」

 

オグリキャップは、静かに首を振る。

 

---

 

オグリキャップ「君たちは死んでも蘇ることができる。だが、それは常にではない」

 

その瞳は、真っ直ぐだった。

 

「なら、どんな状況でも“生き残れる”ようにするべきだ」

 

タマモクロス(……こいつ……ほんま、ちゃんと考えとるやんけ)

 

ムルソー「理にかなっている。だが先ほどの手加減を見る限り、成功確率は極めて低い」

 

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ヴェルギリウス「それでいい。それすら出来なければ――いずれ死ぬ」

 

オグリキャップ「……休憩が終わったら始めよう」

 

そして、最後に。

 

オグリキャップ「全力の時は、手加減はしない」

 

その一言が。

 

この訓練の“本質”を、すべて物語っていた。

 

これは訓練ではない。

 

“生き残るための選別”だ。

 

張り詰めた空気の中、最後の戦いが始まろうとしていた。

 


 

シンクレア「……オグリさんの本気を耐えるなんて……」

 

声が震えている。

 

イシュメール「条件は整理できました

準備は可能、対策も自由――その上で“一撃を耐える”」

 

---

 

オグリキャップは静かに頷く。

 

---

 

オグリキャップ「そうだ。私を弱体化させるも君たちが耐久値を上げるも、どう動くかは君たち次第だ」

 

---

 

ヒースクリフ「なら話は早ぇ、耐える役を決めて、他は全部サポートだ」

 

ロージャ「まあベタだけどそれが一番現実的ね」

 

グレゴール「俺たち全員が生き残る必要はない……“一人”でいいんだからな」

 

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イサン「……ならば観測が要となる」

 

ムルソー「攻撃属性の特定は必須」

 

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ダンテ【……観測する】

 

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PDAに映し出される、異様な数値。

 

その場の空気が凍る。

 

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シンクレア「……ちょっと待ってください

基本威力40……コイン威力……60って……」

 

ロージャ「……冗談でしょ」

 

ホンル「しかもダメージ増加がありますね~」

 

ヒースクリフ「“食いしばり無効”って書いてあるぞおい……」

 

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ダンテ【……何これ……】

 

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ファウスト「結論は出ています。正面から受ければ、通常は即死です」

 

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沈黙。

 

だが――

 

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イシュメール「なら“通常じゃなければいい”」

 

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その一言で空気が切り替わる。

 

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ファウスト「麻痺によるコイン威力の無効化」

 

イサン「攻撃レベルの低下」

 

ロージャ「ダメージ減衰の重ね掛け」

 

ムルソー「被ダメージ軽減の最大化」

 

グレゴール「……で、俺が生き残るってわけか」

 

ウーティス「適任だ。人格の耐久値、属性耐性、すべて最適」

 

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グレゴールは苦笑する。

 

グレゴール「はは……やっぱりそうなるか」

 

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ダンテ【……いける、やろう】

 

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――準備完了。

 

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全員が隔離室へ。

 

再び、対峙。

 

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オグリキャップ「……準備はいいか?」

 

ファウスト「ええ」

 

ダンテ【……戦闘開始】

 

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ドンキホーテ「いざ作戦開始でありまする!!」

 

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最初に動いたのはイサン。

 

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イサン「願いの石――」

 

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不可視の圧が、オグリを縛る。

 

---

 

オグリキャップ「……むっ」

 

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ファウスト「成功です」

 

「これで主たる脅威は削減されました」

 

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そこからは一斉展開。

 

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良秀「威・下」

 

ヒースクリフ「落とせ!」

 

イシュメール「防御重視!」

 

ロージャ「全部盛りよ!」

 

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威力低下、攻撃レベル低下、ダメージ減衰。

 

同時に、味方へ防御バフが積み上がる。

 

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ムルソー「必要処理、完了」

 

ホンル「綺麗に整いましたね〜」

 

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そして最後。

 

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グレゴールが前に出る。

 

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グレゴール「……よし、来いよ怪物」

 

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オグリキャップは静かに全員を見る。

 

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オグリキャップ「……終わったか?」

 

イシュメール「ええ」

 

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シンクレア「……お願いします……!」

 

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一瞬の静寂。

 

オグリキャップ「……では」

 

ハンマーを構える。

 

三つの光――“望”が浮かび上がる。

 

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空気が軋む。

 

重力すら歪む。

 

タマモクロス「……来るで」

 

ヴェルギリウス「……」

 

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オグリキャップは、跳んだ。

 

オグリキャップ「――ふん!!!!!!」

 

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叩きつけられる、“怪物の鼓動”。

 

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ドゴォォォォォォン!!!!!!

 

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世界が揺れる。

 

衝撃が全てを飲み込む。

 

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そして――静寂。

 

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全員、倒れていた。

 

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煙の中。

 

ただ一人。

 

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グレゴール「……っ……ぐ……」

 

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膝をつきながらも――立っていた。

 

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グレゴール「……生きてる……ぞ……」

 

沈黙の後。

 

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タマモクロス「……耐えよったな」

 

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ヴェルギリウスが、わずかに頷く。

 

ヴェルギリウス「……ああ」

 

オグリキャップは、ハンマーを下ろす。

 

オグリキャップ「……見事だ」

 

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その言葉は、短く。

 

だが確かな“評価”だった。

 

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イシュメール(倒れたまま)

「……これが……特色……」

 

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シンクレア「……無茶苦茶だ……」

 

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ドンキホーテ「しかし……!!我らは耐えたでありまする……!!」

 

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ダンテ【……やった】

 

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ファウスト「ええ……理論は……証明されました……」

 

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オグリキャップは、少しだけ考えてから言う。

 

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オグリキャップ「君たちは強い。だが――」

 

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全員の方を見る。

 

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「一人では生き残れない」

 

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静かに、続ける。

 

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「それでも、今みたいに誰かを生かすために全員が動けば――生き残れる」

 

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それが。

 

怪物の出した“答え”だった。

 

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タマモクロス「……ええ訓練やったな」

 

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ヴェルギリウスは何も言わない。

 

ただ、ほんの僅かに目を細めた。

 

かつて守れなかったものを思い出すように。

 

---

 

そして。

 

怪物式トレーニングは――

 

確かに、彼らに“生き残る術”を刻み込んだのだった。

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