ヂェーヴィチ協会本部――休憩室。
検診を終えたばかりのオグリキャップは、椅子に腰掛けながらぽつりと呟いた。
オグリキャップ「……お腹が空いたな」
即座に隣からツッコミが飛ぶ。
タマモクロス「あんたはいつも空いとるやろ」
オグリキャップ「む……そんなことはない。満腹の時だって、少しはある」
タマモクロス「“少しは”なんやな……」
呆れ半分、納得半分。
タマモクロスは肩をすくめた。
そこへ軽やかな足音。
アイネスフウジン「あはは……ひとまずオグリちゃん、検診はこれで終わりなの!西部支部に帰って大丈夫なの!」
オグリキャップ「そうか。助けになったなら良かった、アイネス」
素直な返答。
その無垢さに、アイネスは少しだけ苦笑する。
アイネスフウジン「協力ありがとなの。ほんと助かったの」
タマモクロスがその肩を軽く叩く。
タマモクロス「オグリ、今日はお利口さんやったし……帰り、なんか奢ったるわ」
一瞬でオグリの目が輝いた。
オグリキャップ「本当か!?感謝する、タマ!」
タマモクロス「ただし!出禁になるほど食うたらアカンで!」
オグリキャップ「む……わ、分かっている……!」
明らかに怪しい返事だった。
二人はそのまま部屋を後にする。
扉が閉まる音が、やけに静かに響いた。
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アイネスフウジンは、その背中を見送ってから、小さく息を吐く。
アイネスフウジン「……やっぱり、いいコンビなの」
そして振り返る。
アイネスフウジン「それじゃあ――報告書、まとめるの!」
部屋の奥では、すでに二人が資料に目を通していた。
トランセンド「了解だよん」
ゼンノロブロイ「ええ、始めましょう」
机の上には、異様な数値が並んでいた。
“最低威力:27”
“推定最大威力:100以上”
そのどれもが――常識から外れている。
ハナ協会本部・協会長室。
静寂の中、ページをめくる音だけが響く。
スピードシンボリは、ゆっくりと報告書を閉じた。
スピードシンボリ「……ふむ」
対面に立つのは、ドリームジャーニー。
ドリームジャーニー「単発ながら、総威力100を超える可能性……ですか」
スピードシンボリ「しかも、それを精神力で安定させている」
スピードシンボリの声は落ち着いている。
だが、その内側には明確な警戒があった。
ドリームジャーニー
「厄介ですね」
ジャーニーは淡々と続ける。
「協会所属の特色でも、総威力100を超える技はほぼ存在しません」
スピードシンボリ「つまり――正面からの“数値勝負”では勝てない」
短い沈黙。
スピードシンボリは視線を落とす。
スピードシンボリ「……同系統の者はいたか?」
ドリームジャーニー「火力特化、という意味であれば……」
ジャーニーは一瞬だけ言葉を選ぶ。
ドリームジャーニー「かつての都市最強――“赤い霧”」
スピードシンボリ「カーリーか」
懐かしむような、しかし距離を置いた響き。
ドリームジャーニー
「彼女の“大切断”は測定不能。オグリキャップを遥かに上回ります」
スピードシンボリ「……だが、もういない」
ドリームジャーニー「はい。机上の空論です」
現実へ引き戻すように、会話が切れる。
ジャーニーは次の資料を差し出した。
ドリームジャーニー「現役であれば――シンボリルドルフ協会長。“死の境界”」
スピードシンボリは小さく頷く。
スピードシンボリ「あれは“当たれば終わり”の技だ」
ドリームジャーニー「ですが数値上は総威力10。割合ダメージ型です」
スピードシンボリ「つまり――数値のぶつかり合いには弱い」
結論は、明白だった。
ジャーニーが静かに告げる。
ドリームジャーニー「オグリキャップの“威力”に対抗できる者は、現状存在しません」
スピードシンボリは目を閉じる。
わずかな思考の後、決断を下した。
スピードシンボリ「……ならば対策は一つだ」
目を開く。
スピードシンボリ「デバフによる無力化。これを全協会で共有する」
ドリームジャーニー「了解しました」
スピードシンボリ「それでも基本威力27〜40……特色でも油断はできないが」
ドリームジャーニー「“勝てる可能性”は確保できます」
スピードシンボリ「それで十分だ」
報告書は、静かに閉じられた。
その頃。
裏路地――屋台。
油の香りと、人のざわめき。
オグリキャップは、幸せそうに箸を動かしていた。
オグリキャップ「……ふふ、美味しいな」
その顔は、戦闘中のそれとはまるで別物だった。
タマモクロスは、その様子をじっと見てから笑う。
タマモクロス「……ほんま、ええ顔して食うよな」
オグリは頷く。
オグリキャップ「ああ。ご飯を食べると、満たされて……幸せになれる」
少し考えて、続けた。
オグリキャップ「みんなでこうして、平和に過ごせるのが嬉しいんだ」
タマモクロスは一瞬、言葉を失う。
そして――小さく笑った。
タマモクロス「……そっか」
屋台の灯りが、二人を照らす。
都市のどこかで、“怪物”の対策が練られているその時も。
その怪物は――
ただ、静かに笑っていた。