ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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灰かぶりの過去

ヂェーヴィチ協会西部支部――支部長室。

 

重厚な扉が閉まると同時に、室内に静寂が戻る。

 

ナイスネイチャは机に肘をつき、こめかみを軽く押さえた。

 

ナイスネイチャ「……あちゃ〜……」

 

深いため息が、ゆっくりと零れる。

 

ナイスネイチャ「オグリさん……また増やしちゃったか、連絡先……」

 

タマモクロス「……ほんま、すまんな支部長……」

 

珍しく、タマモクロスの声に覇気がない。

 

目の前の“相棒”が規格外すぎるがゆえに、責任を感じているのだ。

 

ナイスネイチャ「まあ……うん、いいよ。こればっかりはタマモさんのせいじゃないし……」

 

少しだけ苦笑してから、ぼそりと続ける。

 

ナイスネイチャ「……協会長には私から報告しておくから……アイネスさん、また倒れないといいけど……」

 

オグリキャップ「?」

 

オグリは首を傾げるだけだった。

 

本当に、自分が何をしたのか分かっていない顔だ。

 

ナイスネイチャ「……ねえ、オグリさん」

 

少しだけ声色が変わる。

 

柔らかいが、どこか踏み込む響き。

 

ナイスネイチャ「ひとつ、聞いてもいい?」

 

オグリキャップ「ああ、なんだろうか」

 

ナイスネイチャ「オグリさんって……裏路地出身なんだよね?」

 

オグリキャップ「ああ」

 

即答。

 

迷いは一切ない。

 

ナイスネイチャ「……どうやって、生き残ってきたの?」

 

部屋の空気が、わずかに張り詰める。

 

ナイスネイチャ

「いや……23区とかじゃない限り即死ってわけじゃないのは分かるけど……母子家庭で、後ろ盾もなしにここまで来るのって……正直、おかしいレベルだよ」

 

タマモクロスも腕を組み、黙って頷く。

 

オグリは少しだけ考えてから、答えた。

 

オグリキャップ

「……私の家は、“人差し指”の縄張りにあった」

 

ナイスネイチャ

「……人差し指?」

 

タマモクロス

「……あの“指令”に従っとる連中か」

 

空気がわずかに張り詰める。

 

オグリキャップ

「母さんは、1人で私を育ててくれた」

 

静かな声だった。

 

オグリキャップ

「仕事をしながら……人差し指から届く指令も全部こなしていた」

 

ナイスネイチャ

「……それ、かなり危ない指令もあったんじゃない?」

 

オグリキャップ

「ああ。でも母さんは、全部やり遂げた」

 

迷いのない断言。

 

そこに疑問は一切なかった。

 

オグリキャップ

「私を守るために」

 

ナイスネイチャ

「……」

 

タマモクロス

「……強い人やな」

 

オグリキャップ

「母さんは強い。誰よりも」

 

少しだけ、誇らしそうに。

 

ナイスネイチャ

「……それで、フィクサーに?」

 

オグリキャップ

「ああ。恩返しだ」

 

即答だった。

 

オグリキャップ

「仕送りをして……母さんを守れる力を手に入れるために」

 

タマモクロスは視線を逸らす。

 

軽口を叩く気には、なれなかった

 

――その“母親”がどれだけの地獄を生きていたのか。

 

想像するだけで、胸が重くなる。

 

だが――

 

しばらくして、タマモクロスが口を開く。

 

タマモクロス

「……なあオグリ。もう一個ええか?」

 

オグリキャップ

「なんだ?」

 

タマモクロス

「お前の“強さのきっかけ”や」

 

じっと見据える。

 

タマモクロス

「ウチはチビども守るために、死ぬ気で働いて、耐えてここまで来た。でもお前の強さ……なんか“質”が違う気がすんねん」

 

ナイスネイチャも頷く。

 

ナイスネイチャ

「……分かる。あれは努力だけで辿り着く領域じゃない」

 

沈黙。

 

ほんの一瞬だけ。

 

そしてオグリは答える。

 

オグリキャップ「……あの人のおかげだ」

 

ナイスネイチャ「……あの人?」

 

オグリキャップ「人差し指の、神託代行者

 

――空気が凍る。

 

ナイスネイチャ「……っ!?」

 

タマモクロス「……は?」

 

その名の重さは、2人とも理解している。

 

“神託代行者”。

 

それは単なる上級幹部ではない。

 

都市災害――“星”にすら数えられる怪物。

 

オグリキャップ「あの人が、私を鍛えてくれた」

 

あまりにも軽い口調。

 

だが内容は、あまりにも異常だった。

 

オグリキャップ

「指令だから、と言っていた」

 

ナイスネイチャ

「……指令で“育成”?意味わかんないんだけど……」

 

オグリキャップ

「私もよく分からなかった」

 

あっさりと言う。

 

オグリキャップ

「でも、あの訓練のおかげで今の強さがある」

 

言葉が出ない。

 

人を育てる理由が“指令だから”。

 

あまりにも、この都市らしい狂気。

 

タマモクロス

「……つまり人差し指が、お前を作ったってことか」

 

オグリキャップ

「? 違うぞ」

 

首を振る。

 

オグリキャップ

「私を育てたのは母さんだ」

 

タマモクロス

「ちゃうわ!!そっちやない!!」

 

ナイスネイチャ

「……はぁ」

 

だが、そのズレすら“オグリらしい”と感じてしまう。

 

タマモクロス「……どんなやつやったんや、その神託代行者は」

 

オグリキャップ「そうだな……」

 

少し考え、

 

オグリキャップ「いろんな武器を使っていた」

 

ナイスネイチャ「……武器を持ち替えるタイプ……?」

 

オグリキャップ「ああ。戦い方は……アンジェリカに似ていた」

 

ナイスネイチャ「……黒い沈黙に」

 

その瞬間、

 

ナイスネイチャの脳裏に、ひとつの記録がよぎる。

 

――ツヴァイ協会南部支部壊滅事件。

――犯人:人差し指の神託代行者。

――特徴:多武装戦闘。

 

ナイスネイチャ(……まさかね)

 

背筋に、冷たいものが走る。

 

ナイスネイチャ(もし同一人物なら……オグリさんは、“化け物に育てられた化け物”ってことになる)

 

だが、それは――

 

ナイスネイチャ(……言わない方がいい)

 

オグリキャップ「……また、会えたらいいな」

 

ぽつりと呟く。

 

そこにあるのは、恐れではなく――

 

純粋な“再会への期待”。

 

タマモクロス「……」

 

タマモクロスは、ゆっくり息を吐く。

 

タマモクロス「……その時はウチも行くで」

 

短く、それだけ言った。

 

タマモクロス「1人で会わせるわけにはいかんからな」

 

オグリキャップ「ああ、分かった」

 

ナイスネイチャ「……」

 

ナイスネイチャは2人を見つめる。

 

怪物と、それを守ろうとする相棒。

 

ナイスネイチャ(……この子、本当にギリギリの上に立ってる。強さも、心も、全部が)

 

静かに、しかし確かに思う。

 

ナイスネイチャ(だからこそ――私たちが見てないと、ダメなんだよね)

 

窓の外では、

 

今日も“都市”が、何事もなかったかのように動いている。

 

その裏で、

 

怪物は静かに、日常を続けていた。

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