都市北部 親指支部
重厚な木製の机。壁には整然と並ぶ銃器と弾薬。
その中心で、赤いコートのウマ娘が書類をめくる。
シンザン「ほうほう……」
紙に記された名を、ゆっくりと指でなぞる。
シンザン「オグリキャップ……灰色の怪物、ねぇ」
ふ、と口元が緩む。
シンザン「裏路地出身、母子家庭、そして特色……それでいて……人を疑わない、か」
一枚、資料をめくる。
そこには戦闘記録と、人脈一覧。
シンザン「……最高じゃないか」
その声は、明らかに“評価”ではなく“選別”だった。
シンザン「こういう子はねぇ、ちゃんと躾ければ化けるんだよ」
立ち上がり、コートの裾を払う。
シンザン「礼儀も、規律も、全部叩き込めばいい。親指の“駒”としては、極上だね」
少しだけ間を置いて、肩をすくめる。
シンザン「……とはいえ、協会とドンパチはゴメンだ。ゴッドファーザー様も嫌がるだろうしねぇ」
振り返ると、控えていたカポ達が姿勢を正す。
シンザン「接触だけにしとこうか、“勧誘”って形でね」
「了解しました」
シンザン「西部かぁ……遠いねぇ。でもまあ、あたしが一番向いてるって言われちゃあ仕方ない」
帽子を軽く押さえ、笑う。
シンザン「――楽しみだねぇ、“怪物”」
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L社12区 人差し指サイド
白い外套の集団が、無言で街を進む。
グローリア「ねえねえエスター〜」
無機質な巨体から、無邪気な声が響く。
グローリア「灰色の怪物ってどうするの〜?」
エスター「……現時点で“指令”はない」
歩みを止めず、淡々と答える。
エスター「従って、干渉の必要もない」
ヒューバート「……だが」
低い声が割り込む。
ヒューバート「対象の出自は我々の管轄下だ。母親は現在も指令を遵守している」
グローリア「じゃあ守るの〜?」
エスター「ああ」
短く、確定の言葉。
エスター「対象そのものには干渉しない。だが、その基盤は保護対象だ」
ヒューバート「指令に従うのみだ」
グローリア「そっか〜」
楽しげに笑う。
グローリア「じゃあ誰かが灰色の怪物のママに手出したら〜壊しちゃっていいんだね♪」
エスター「……その通りだ」
人差し指は、ただ進み続ける。
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U社21区 中指
薄暗いアジト。壁には無数の刻印と帳簿。
リカルド「灰色の怪物、ねぇ……」
帳簿をめくりながら鼻で笑う。
リカルド「甘ぇな」
長妹「兄貴、どうします?」
リカルド「南部は関わらねぇ」
即答だった。
リカルド「ああいうのはな、近くの家族に任せるのが筋だ」
末弟「西部の方に?」
リカルド「ああ」
帳簿を閉じる。
リカルド「仲間にできりゃ最高だがな……まあ、あの性格だと長くはもたねぇだろ」
薄く笑う。
リカルド「誰かに利用されるか、壊れるか……どっちかだ」
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西部 薬指ギャラリー
光と色彩に満ちた空間。
キャンバスの前で、ひとりの芸術家が呟く。
マエストロ「灰色の怪物……」
筆を止める。
マエストロ「……美しいですね」
ドーセント「利用なさらないのですか?」
マエストロ「ふふ」
小さく笑う。
マエストロ「ああいう存在は“素材”としては難しい。純粋すぎる」
視線を上げる。
マエストロ「だが……一度、見てみたいですね。我々の“芸術”を、どう感じるのか」
少しだけ声が低くなる。
マエストロ「――壊れるか、それとも、理解するか」
ドーセント「では監視を?」
マエストロ「ええ、他の指の動向も含めて、ね」
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ヂェーヴィチ協会 西部支部
平和な空気。
机の上には山盛りの食事。
オグリキャップ「もぐもぐ……美味しいな」
タマモクロス「……ほんまに食ってばっかやな」
ナイスネイチャ「まあ、いつも通りだねぇ」
外の世界とは無関係に、時間は穏やかに流れる。
オグリキャップ「……明日の配達も楽しみだ」
その言葉に、誰も“これから起こること”を重ねない。
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都市の各所で動き出す思惑。
* 支配しようとする者
* 守ろうとする者
* 利用しようとする者
* 観察する者
そして――
何も知らず、ただ日常を生きる怪物。
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灰色の怪物はまだ知らない。
自分がすでに――
都市の“争点”になり始めていることを。