ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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怪物と親指

都市――M社13区 裏路地。

薄暗い路地に、二つの影が並んで歩いていた。

 

タマモクロス「オグリ、今日はもう寄り道はせんで。お腹空いててもなしや」

 

オグリキャップ「そうか……分かった。帰ってから食べることにしよう」

 

タマモクロス「せやで。裏路地にいるとどこからどんなやつに狙われてもおかしくないからな」

 

オグリキャップ「大丈夫だ、タマがいるからな。信頼している」

 

タマモクロス「っ……(こいつホンマに……///)」

 

ほんの一瞬、空気が緩む。

 

――だが。

 

ピクリ、とタマモクロスの耳が動いた。

 

タマモクロス「……オグリ、前から誰か来よるで。複数人や」

 

オグリキャップ「?」

 

暗がりの奥から現れたのは、赤いコートとハットの集団。

 

タマモクロス「……親指やな。オグリ、ウチから離れんなよ」

 

オグリキャップ「ああ」

 

先頭のウマ娘が一歩前に出る。

 

シンザン「……初めましてだね、灰色の怪物。わたしはシンザン、親指のアンダーボスさ」

 

オグリキャップ「オグリキャップだ。よろしく頼む」

 

シンザン「うんうん、挨拶の礼儀はしっかりしてるね」

 

タマモクロス「……なんの用や」

 

シンザン「まあそう警戒しなさんな。今日は軽い挨拶と――ちょっとした提案さ」

 

シンザンの視線は、真っ直ぐオグリに向けられていた。

 

シンザン「灰色の怪物、今日はもう仕事は残ってるんかい?」

 

オグリキャップ「いや、これから帰るところだ。お腹が空いたから早く帰って食事にする」

 

タマモクロス「オグリ!!」

 

シンザン「へぇ……ふふ」

 

シンザンは楽しそうに笑った。

 

シンザン「なら、私らが奢ってもいいよ」

 

オグリキャップ「いいのか?」

 

タマモクロス「……っ」

 

シンザン「もちろん。金はあるからね。青白の稲妻も一緒でいい」

 

タマモクロス(断ったら戦闘……ここは乗るしかないか……)

 

タマモクロス「……分かった。行くでオグリ」

 

---

 

親指管轄の飲食店。

落ち着いた店内に、異様な緊張が漂っていた。

 

シンザン「ここは親指が懇意にしてる店だ。好きなだけ食っていい」

 

オグリキャップ「本当か!感謝するシンザン!」

 

シンザン「……」

 

一瞬、シンザンは目を細める。

 

シンザン「……あんた、本当に名前で呼ぶんだね」

 

オグリキャップ「母さんに教わった。人は名前で呼ぶのが礼儀だと」

 

シンザン「……そうかい」

(親指向き……いや、それ以上に――)

 

オグリはもう食べ始めている。

 

タマモクロス「……はぁ」

 

シンザン「さて、本題に入ろうか」

 

空気が変わる。

 

シンザン「灰色の怪物――親指に来ないかい?」

 

タマモクロス「……っ!」

 

オグリキャップ「親指に?」

 

シンザン「ああ。待遇は保証する。ルールも私が直々に教えてやる」

 

タマモクロス(来た……!)

 

シンザン「給金も今と同等。母親も親指の名で守る。悪い話じゃないだろ?」

 

オグリキャップ「……」

 

一瞬の沈黙。

 

オグリキャップ「……やめておく」

 

タマモクロス「……!」

 

シンザン「へえ?理由は?」

 

オグリキャップ「母さんが言っていた。指には関わるなと。だから行けない」

 

シンザン「……そうかい」

 

タマモクロスの手が、静かに武器から離れる。

 

緊張が解けた。

 

シンザン「なら仕方ないね。勧誘は諦めるよ」

 

タマモクロス(助かった……!)

 

だが――

 

シンザン「その代わり、一つ頼みがある」

 

タマモクロス(まだ終わらんか……!)

 

オグリキャップ「なんだ?」

 

シンザン「連絡先、交換してくれない?」

 

タマモクロス「……は?」

 

シンザン「飯代代わりってことでさ」

 

オグリキャップ「いいぞ」

 

タマモクロス「早いわ!!」

 

ぴっ。

 

通信端末が静かに光る。

 

シンザン「……ありがとう。これで十分だ」

 

---

 

店の外。

 

タマモクロス「お前なぁ!!簡単に教えすぎやろ!!」

 

オグリキャップ「?頼まれたからな」

 

タマモクロス「はぁ……」

 

オグリキャップ「だが、悪い人ではなかったぞ」

 

タマモクロス「……せやな。悪い“だけ”やないのが厄介なんや」

 

二人は夜の裏路地へと消えていく。

 

---

 

一方その頃――

 

ヂェーヴィチ協会 本部。

 

アイネスフウジン「……オグリちゃん……」

 

机に突っ伏しながら、報告書を握りしめる。

 

アイネスフウジン「親指とまで繋がるなんて……めちゃくちゃなの……」

 

深いため息。

 

アイネスフウジン「もう……管理できないの……」

 

その声は、疲労と――ほんの少しの諦めを含んでいた。

 

---

 

そして。

 

親指のアンダーボス、シンザンは静かに笑う。

 

「勧誘は失敗。でも――目的は達成」

 

灰色の怪物。

 

それはもはや一個人ではない。

 

都市全体を繋ぐ“結節点”として――

確実に、利用され始めていた。

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