ヂェーヴィチ協会西部支部
支部長室
昼下がり。
書類の音。
遠くの配達準備の気配。
そして――
食事の音。
オグリキャップ
「もぐもぐ……」
漫画みたいに大きなおにぎりを持っている。
いや。
持っているというより、
消えている。
ナイスネイチャ
「……オグリさん、最近どう?」
少し柔らかい声だった。
支部長の声ではなく、
年上の同僚の声だった。
ナイスネイチャ
「困ったこととかない?」
オグリキャップ
「もぐもぐ……ないぞ」
即答だった。
オグリキャップ
「タマが助けてくれるから心配はしてない」
その言葉に
タマモクロスは少しだけ視線を逸らす。
タマモクロス
「……こないだは中指から食事に誘われたけどな」
ナイスネイチャ
「うげ……西部の中指?」
タマモクロス
「せや、末姉や」
部屋の空気が少しだけ変わる。
ナイスネイチャ
「……幹部じゃん」
タマモクロス
「長兄長姉やないだけマシやけどな、でも連絡先交換しよった」
ナイスネイチャ
「……止められなかった?」
タマモクロス
「止めたら帳簿に書かれる」
静かな声だった。
都市の常識だった。
タマモクロス
「止められる訳ないやろ」
オグリキャップ
「?だが優しかったぞ」
オグリキャップ
「何かあったら守ると言ってくれた」
タマモクロス
「あいつらの守るは過剰すぎんねん!!」
珍しく声が強い。
タマモクロス
「その対価は何や?オグリの情報網の利用やぞ。オグリの実力考えたら割に合わなすぎるわ」
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ナイスネイチャ
「まあでもさ」
少しだけ間を置く。
ナイスネイチャ
「中指って刺激しなければ大人しいじゃん?」
タマモクロス
「……」
ナイスネイチャ
「なら許容範囲じゃない?」
沈黙。
短い。
でも重い。
タマモクロス
「……ウチはな」
ゆっくり言う。
タマモクロス
「オグリがどんどんおかしな方向行くのが嫌なんや」
オグリキャップ
「?」
タマモクロス
「昔のこいつは、特色とはいえただ天然なだけのウマ娘やった
今は違う。都市中の連中が、オグリキャップを“情報媒体”として扱っとる」
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静かだった。
でも怒っていた。
タマモクロス
「オグリの意思が無視されとる。そんなの、見て見ぬふり出来るわけないやろ」
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沈黙。
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オグリキャップ
「……タマ、泣いてるのか?」
タマモクロス
「……誰や」
小さな声だった。
タマモクロス
「誰がこいつから警戒心の概念消したんや……」
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ナイスネイチャ
「……ならさ」
優しい声だった。
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ナイスネイチャ
「タマモさんだけでも、オグリさんを個人として扱えばいいんじゃない?繋ぎ止めるためにさ」
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タマモクロス
「……せやな、ウチがおる限り、オグリは物やない。オグリキャップという1人のウマ娘や」
オグリキャップ
「タマ、何をそんなに悩んでるんだ?お腹が空いたのか?」
タマモクロス
「……なんでもない」
少し笑う。
タマモクロス
「あんたのことは、ウチが守ったる。ずっとや」
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オグリキャップ
「?ああ、ありがとう」
ナイスネイチャ
「……重いねぇ」
オグリキャップ
「?」
ナイスネイチャ
「はいはい」
空気を切り替える。
ナイスネイチャ
「辛気臭い話はここまで!2人とも!そろそろ次の配達!」
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オグリキャップ
「もぐもぐ……分かった」
ナイスネイチャ
「えっと……次の依頼は……」
書類を見る。
止まる。
タマモクロス
「どないした?」
ナイスネイチャ
「……ごめん」
静かに言う。
ナイスネイチャ
「また面倒なことになりそう」
タマモクロス
「……まさか」
ナイスネイチャ
「次の配達先」
一拍。
ナイスネイチャ
「N社本社」
空気が止まる。
タマモクロス
「……最悪や」
オグリキャップ
「?」
オグリキャップ
「N社は危ないのか?」
タマモクロス
「……危ないどころやない」
タマモクロス
「都市でも指折りの、思想屋や」
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そしてその頃。
都市のどこかで。
灰色の線は。
まだ伸び続けていた。