シ協会本部
協会長室
そこは静かな部屋だった。
静かすぎるほど静かだった。
壁も床も天井も、黒に近い灰色で統一されている。
その中に走る紅いラインだけが、刃のように空間を切り裂いていた。
第四協会――シ協会。
統括のハナ。
治安維持のツヴァイ。
工房管理のトレス。
それらのように都市の基盤を支える協会とは違う。
だがある意味では。
それらと同じくらい重要な役割を担っている協会だった。
暗殺。
都市の均衡は、時に「消す」ことで維持される。
シ協会はそのために存在している。
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シンボリルドルフ
「……はぁ」
珍しく深い溜息だった。
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ユジンが静かに口を開く。
ユジン
「協会長、困っているというのは……やはり」
シンボリルドルフ
「灰色の怪物だ」
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ユジン
「……ですよね」
机の上には並んでいた。
報告書。
依頼書。
照会文書。
そのすべてが。
同じ対象を指していた。
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灰色の怪物。
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シンボリルドルフ
「見てみろ」
依頼書の束を軽く叩く。
シンボリルドルフ
「彼女の暗殺依頼がこれでもかというほど来ている」
ユジン
「南部支部でも同様です。彼女のいる西部ではないのに、大量に依頼が舞い込んでいます」
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シンボリルドルフは少し考えた。
そして静かに問う。
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シンボリルドルフ
「どう見る?」
ユジン
「灰色の怪物を失わせることで、都市機能を間接的に停止させようとしている」
シンボリルドルフ
「……惜しい」
ユジン
「というと?」
シンボリルドルフは椅子に深く腰掛け直した。
シンボリルドルフ
「彼女はまだインフラではない」
ユジン
「……」
シンボリルドルフ
「セブン協会の分析でも、接触数は増えているが反復接触はまだ少ない。
つまり構造として完成する前だ」
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ユジン
「……なるほど」
理解する。
ユジン
「機能し始める前に消す」
シンボリルドルフ
「そういうことだ」
少し沈黙が落ちる。
ユジン
「では、受注しますか?」
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シンボリルドルフは立ち上がった。
窓の外を見る。
都市が広がっている。
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シンボリルドルフ
「シ協会は、誰にでも平等な死。
それが理念だ」
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だが。
少しだけ声が変わる。
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シンボリルドルフ
「特色を殺すなら相応の代価が必要だ」
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振り返る。
シンボリルドルフ
「過去最高額の案件は?」
ユジン
「S社左議政暗殺。約500億眼です」
シンボリルドルフ
「なら、オグリキャップはその1000倍だ」
ユジン
「……実質的な拒否ですね」
シンボリルドルフ
「違う、払えない依頼は受けないだけだ」
そして静かに付け加える。
シンボリルドルフ
「依頼者情報は、セブン協会とハナ協会へ共有しろ」
ユジン
「ブラックリストですね」
シンボリルドルフ
「そういうことだ」
少しだけ間が空く。
シンボリルドルフ
「一応聞くが、暗殺するとしたらどうする?」
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ユジンは考えた。
プロとして。
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ユジン
「毒、食事を利用します。健啖家を考えればそれが妥当でしょう。特色相手に戦闘は分が悪い」
シンボリルドルフは笑った。
静かに。
シンボリルドルフ
「誰でもそう考える」
そして言う。
シンボリルドルフ
「だが無意味だ」
ユジン
「え?」
シンボリルドルフ
「以前本人に聞いた。彼女は、経口毒が効かない」
ユジン
「……本当ですか?」
シンボリルドルフ
「健啖家も極まればそうなるらしい」
ユジン
「つまり」
シンボリルドルフ
「不意打ちか正面戦闘だ」
ユジン
「……」
シンボリルドルフ
「そしてどちらも現実的ではない」
沈黙。
シンボリルドルフ
「出張るなら支部長級、あるいは私だ」
ユジン
「協会長の一撃で10割を削る死の境界なら可能性は……」
シンボリルドルフ
「当たれば殺せる。だが、当たると思うか?」
ユジン
「……無理でしょう」
シンボリルドルフ
「そういうことだ」
そして最後に言う。
シンボリルドルフ
「通常勤務を徹底する、灰色の怪物に関わること以外はな」
ユジン
「了解しました」
静かな部屋に再び沈黙が戻る。
シンボリルドルフは小さく呟いた。
「ただの友人だった。それが今では都市の新しい構造だ。人も変われば変わるものだな」
そして。
ほんの少しだけ優しく言った。
「だが私は、オグリキャップを構造としてではなく、友人として接する」
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協会長ではなく。
一人のウマ娘として。