ヂェーヴィチ協会 西部支部 支部長室
昼下がりの支部長室。
窓から差し込む光の中で。
ひときわ巨大な三角形のおにぎりがゆっくりと消えていっていた。
原因は当然――
オグリキャップだった。
オグリキャップ
「もぐもぐ……」
ナイスネイチャは机に肘をつきながら、しばらくその光景を眺めていた。
そしてふと口を開く。
ナイスネイチャ
「ねえ……いつも思うんだけどさ。そのどデカおにぎり誰が作ってるの?」
オグリキャップは少し嬉しそうに答えた。
「食堂で作ってもらっている。無理を言っているのは分かっているが、それでも作ってもらえてるんだ。
嬉しいな」
タマモクロスが横でため息をつく。
タマモクロス「食堂のやつら全員燃え尽きとるけどな……」
ネイチャが苦笑する。
ナイスネイチャ「まあほどほどにね……」
オグリキャップは素直に頷いた。
オグリキャップ「断られたら無理には言わない」
ネイチャは小さく笑う。
ナイスネイチャ「ならいいよ」
そして書類を開いた。
ナイスネイチャ「じゃあ今日の配達先確認するね」
タマモクロスが即座に反応する。
タマモクロス「またどっかの翼とか組織ちゃうやろな……」
ネイチャは軽く笑いながら紙をめくる。
ナイスネイチャ「あはは、さすがにそんな――」
手が止まった。
ナイスネイチャ「……えっ」
空気が変わる。
オグリキャップ
「どうしたんだ?」
タマモクロス
「なんや!?案の定翼か!?」
ネイチャは少し迷ってから言った。
ナイスネイチャ
「いやまあ、翼は翼だけど……オグリさんってさ、出身どこだっけ?」
オグリキャップ
「裏路地だ」
ネイチャ
「いやそうじゃなくて、何区?」
オグリキャップ
「6区だ」
タマモクロスが静かに言う。
タマモクロス「……まさか」
ネイチャが書類を閉じた。
ナイスネイチャ「うん……F社からの依頼」
沈黙。
タマモクロス
「……6区の翼」
その瞬間だった。
オグリキャップの表情がぱっと明るくなる。
オグリキャップ「!なら母さんに会えるな!タマ!帰りに実家に寄っていいか!」
その声は心底嬉しそうだった。
だからこそ。
タマモクロスの顔は曇った。
「……ええけど、F社からの依頼はホンマか……?」
ネイチャはもう一度確認する。
ナイスネイチャ「名義は完全にF社。間違いないよ」
タマモクロスが静かに聞く。
タマモクロス「オグリ、F社と関わったことあるか?」
オグリキャップ
「ない、特色になってからもない」
タマモクロス
「巣に移ろうとしたことは?」
オグリキャップ
「一度だけ母さんに相談した。だが母さんが無理に巣に住む必要はないと言った」
沈黙。
ネイチャ
「……裏路地の人が?巣を断るの?」
普通ではありえなかった。
都市において巣は安全、裏路地は危険。
それは常識だった。
オグリキャップ
「母さんは言っていた、巣も良い場所とは限らないと」
ネイチャとタマモクロスが視線を交わす。
タマモクロス
「……なあオグリ、ウチも母ちゃんに会ってええか?」
オグリキャップ
「いいぞ、親友として紹介しよう」
ネイチャが静かに言う。
ナイスネイチャ「……その前に連絡しといた方がいいんじゃない?」
オグリキャップ
「そうだな」
電話を取り出す。
呼び出し音が鳴る。
数秒後。
『もしもし?オグリ、久しぶりね。貴女から連絡してくるなんて珍しいじゃないの』
優しい声だった。
オグリキャップ
「母さんか、久しぶり。今度実家に帰るから待っててくれ」
『帰ってくるの?ふふ、おやすみでも貰えたの?』
オグリキャップ
「今度F社に配達に行くことになったからその帰りに寄って良いって言われたんだ」
その瞬間だった。
声の温度が変わった。
『……F社に?……もしかしてF社の本社?』
オグリキャップ
「ああ!久しぶりに会えるのが楽しみだ!」
沈黙。
そして――
『……ねえオグリ、その依頼断って貰える?』
空気が凍った。
オグリキャップ「?なんでだ……?久しぶりに母さんに会えるなら私、頑張って配達を……」
『良いから!』
声が響く
『オグリ、絶対にF社の本社には行かないで!少なくとも巣には入っちゃダメ!』
オグリキャップ
「か、母さん……?」
『……ごめんなさい、大きな声出して。でも、良いオグリ、F社には行かないで。母さんとの約束。良い?』
その声は。
切実だった。
『貴女と会えなくても私は平気だから……』
オグリキャップ
「……分かった」
『いい子ね、愛してる』
通話が切れる。
沈黙。
タマモクロス
「……なんて言うた?」
オグリキャップ
「F社の本社や巣には行くなと……」
ネイチャが静かに聞く。
「……怒鳴り声が漏れてたけど、今までそういうことあったの……?」
オグリキャップ
「いや、母さんがあそこまで大きな声を出したのは少なくとも私は知らない……」
タマモクロス
「……なんかあるな」
ネイチャ
「……ねえオグリさん、オグリさんってさ、母子家庭なんだよね?」
オグリキャップ
「あ、ああ」
ナイスネイチャ
「お父さんの話って聞いたことある?」
オグリキャップ
「いや、優しい人で早くに亡くなったとは話していたが詳しいことは……」
タマモクロス
「……きな臭いな」
ネイチャが決断する。
ナイスネイチャ
「タマモさん、F社は一人で行って。情報だけ持って帰ってきて」
タマモクロス
「任せとき」
ネイチャはオグリを見る。
ナイスネイチャ
「オグリさん、休暇出すからお母さんに会いに行こう」
オグリキャップ
「……いいのか?」
ネイチャは微笑む。
ナイスネイチャ
「上司として挨拶しないとね」
オグリキャップは少し安心した顔で言った。
「ありがとう」
そして小さく呟いた。
「……母さん、どうしたんだろう」
その疑問はまだ、都市の誰も答えを知らなかった。