ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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カワイイ情報

ヂェーヴィチ協会西部支部、支部長室。

 

昼下がりの柔らかな光が差し込む部屋の中央で、今日もまた、ひとつの異様な光景が繰り広げられていた。

 

オグリキャップが、いつものように両手で抱えるほど大きなおにぎりを食べている。

 

それだけなら、まあオグリキャップの日常として片付く。

問題は、その様子を三人の大人が揃って無言で見守っていることだった。

 

オグリキャップ

「もぐもぐ……」

 

ナイスネイチャ

「……可愛いね」

 

タマモクロス

「可愛いな」

 

アイネスフウジン

「可愛いの」

 

三者三様に、しかし結論だけは綺麗に一致していた。

 

もぐもぐと口を動かしていたオグリが、ようやく顔を上げる。

 

オグリキャップ「? なんでみんな私を見つめてるんだ?」

 

ネイチャは頬杖をついたまま笑う。

 

ネイチャ「いや〜、オグリさんのことを再認識してただけだよ」

 

タマモクロスも腕を組んで頷いた。

 

タマ「やっぱオグリはオグリやな」

 

アイネスはしみじみと胸の前で手を組む。

 

アイネス「うん、オグリちゃんはオグリちゃんなの」

 

オグリはそれを聞いても、結局よく分かっていない顔のままだった。

 

オグリ「? そうか」

 

それだけ言って、またおにぎりに戻る。

 

ナイスネイチャはそんな様子を見つめながら、ふと隣を見た。

 

ネイチャ「……ていうか、なんで協会長が西部支部にいるの?」

 

アイネスフウジンは即答した。

 

アイネス「……だって、もうオグリちゃんを直接見ないと安心できなかったの」

 

その声は半分本気で、半分泣き言だった。

 

アイネス「目を離してたら、オグリちゃんがどこか遠くに行っちゃいそうだったの……」

 

タマモクロスが小さく肩をすくめる。

 

タマ「ある意味、もう十分遠い存在にはなっとるけどな」

 

ネイチャも苦笑交じりに続けた。

 

ネイチャ「今までの属性に加えて、翼の理事の孫娘だもんね〜」

 

オグリがまた顔を上げる。

 

オグリキャップ「もぐもぐ……翼の理事とは凄いのか?」

 

タマモクロスがすぐさま反応した。

 

タマ「当たり前や!」

 

思わず声が大きくなる。

 

タマ「オグリはそもそも翼について理解しとるか!? この世界の支配者やぞ! その組織の幹部が理事や! つまり本来なら特色フィクサーでもそう簡単には会えん連中や!」

 

オグリは素直に頷いた。

 

オグリキャップ「そうなのか。凄いな」

 

ネイチャが目を細める。

 

ネイチャ「……その理事の直系親族がオグリさんなんだけどね……」

 

アイネスは机に突っ伏したくなるのをこらえるように額を押さえた。

 

アイネス「やっぱりオグリちゃんは理解してないの……」

 

タマモクロスは深いため息をつく。

 

タマ「はぁ……」

 

ネイチャは改めて現状を整理するように言った。

 

ネイチャ「そういえば協会長、ハナ協会には報告するの?」

 

アイネスは珍しくきっぱり首を振った。

 

アイネス「流石にしないの、だってハナ協会に伝わったら、ほかの協会にも伝わるの」

 

タマモクロスが補足する。

 

タマ「ネイティヴダンサー理事にも、信頼できる者だけにって言われたしな」

 

アイネスは強く頷いた。

 

アイネス「なら、その信頼に応えるためにも秘密にするの」

 

タマモクロスは腕を組んだまま、少しだけ不安そうな顔をした。

 

タマ「まあオグリ本人が、よく分からんまま言わへんとは限らんけど……」

 

ネイチャは即座に笑って返す。

 

ネイチャ「大丈夫じゃない?オグリさんの頭の中、多分お母さんとの約束を守ることと食事のことしかないよ」

 

アイネスもそれには納得したらしく、真面目に頷いた。

 

アイネス「なら大丈夫なの。オグリちゃんは自慢とかしないタイプだから、漏れる心配は少ないの」

 

タマモも頷く。

 

タマ「理事の方も秘匿は徹底しとるって言っとったからな。セブン協会でも探れんようにって」

 

ネイチャ「まあ翼の機密情報だもんね〜。当然だよ」

 

アイネス「なら安心なの!」

 

その時だった。

 

支部長室の電話が、やけに大きく鳴り響いた。

 

ジリリリリン。

 

ネイチャが振り返る。

 

ネイチャ「およ? 電話だね」

 

受話器を取る。

 

ネイチャ「はいもしもし、こちらヂェーヴィチ協会西部支部。……あ、ダンツさんじゃん。どしたの?」

 

一拍。

 

ネイチャの顔つきが少し変わる。

 

ネイチャ「……うん、うん。……セブン協会のカレンチャン支部長が? ……分かった、直ぐに向かう」

 

受話器を置くと、部屋の空気が少しだけ張った。

 

アイネスが眉を寄せる。

 

アイネス「どしたの、ネイチャ?」

 

ネイチャ「北部支部のダンツさんから」

 

ネイチャは簡潔に言う。

 

ネイチャ「今、ヂェーヴィチ協会北部支部に、北部セブン協会のカレンチャン支部長が来てるんだって」

 

タマモクロスの顔が引きつる。

 

タマ「ダンツフレーム支部長からの電話か……セブンのカレンチャン支部長っていうと……」

 

ネイチャが嫌なものを思い出したような笑いを浮かべる。

 

ネイチャ「あの“カワイイ”を何より重視してる厄介なウマ娘だよ。一度カワイイって目をつけたものの情報を、全部知ろうとするヤバい子」

 

アイネスが不安そうに目を瞬かせる。

 

アイネス「……なんでヂェーヴィチに?」

 

ネイチャ「ダンツさん曰く、ヂェーヴィチにとって無視できない情報を手に入れたから、直接話に来たんだって」

 

ネイチャは少し間を置いてから続けた。

 

ネイチャ「オグリさん関連だそうだよ」

 

アイネスの顔が一気に曇る。

 

アイネス「なんで西部に直接来ないの?」

 

ネイチャ「西部セブンのフォーエバーヤング支部長にバレないようにしたいんだって」

 

ネイチャの声も、だんだん真面目になっていた。

 

ネイチャ「それだけ重要な情報ってことっぽいよ」

 

タマモクロスが低く唸る。

 

タマ「セブン協会内で共有拒否って……カレンの奴、えらい用心深いやないか」

 

アイネスは少し考え込んだあと、すぐに決断した。

 

アイネス「……ともかく行くの。オグリちゃん、出かける準備してほしいの」

 

オグリはちょうど最後の一口を飲み込んだところだった。

 

オグリキャップ「もぐもぐ……分かった」

 

---

 

ヂェーヴィチ協会北部支部、支部長室。

 

西部支部より少し落ち着いた内装のその部屋で、ダンツフレームが所在なさげに立っていた。

 

ダンツフレーム「あっ、皆さん。わざわざごめんなさい……」

 

ネイチャ「いいってことよ、ダンツさん」

 

ネイチャが軽く手を振る。

 

ネイチャ「……で」

 

その先のソファに視線を向ける。

 

カレンチャン

「やっほー♡ 久しぶりネイチャさん♡ オグリさんもちゃんといるね♡」

 

左耳の赤いリボンが揺れる。

いかにも“カワイイ”を体現したような少女が、満面の笑みで座っていた。

 

その隣には、側近のマヤノトップガンがいる。

 

マヤノトップガン「やっぱりアイネス協会長も来たんだね〜。マヤの直感フルヒット〜!」

 

タマモクロスが顔をしかめる。

 

タマ「……マヤノのやつも居るんか……」

 

カレンチャンは楽しそうに言う。

 

カレン「だってマヤノちゃんはカレンの側近だもん♡ 当たり前だよ♡」

 

マヤ「マヤと支部長はニコイチだもんね〜」

 

マヤノもにこにこしながら頷いた。

 

アイネスはまずダンツに向き直った。

 

アイネス「……ひとまずダンツちゃん、貴女は席を外してほしいの。西部支部の子とあたしだけで話すの」

 

ダンツ「は、はい!」

 

ダンツフレームはぺこぺこと頭を下げながら退室していく。

 

扉が閉まると、アイネスはすぐに本題へ入った。

 

アイネス「……それで、オグリちゃんの情報ってなんなの?」

 

カレンチャンは、まるでプレゼントを開ける直前みたいな顔で言った。

 

カレン「じゃあ率直に言っちゃうけど〜。オグリさんって、F社の血族なんだよね?」

 

ナイスネイチャ

「んな!?」

 

タマモクロス

「……どうやって知ったんや?」

 

声が低くなる。

「ネイティヴダンサー理事が、翼の特異点並の機密情報として徹底的に秘匿して、セブン協会でも知れんはずや」

 

マヤノトップガンは得意げに胸を張った。

 

マヤノ「マヤたちのこと、甘く見すぎだよ〜」

 

カレンチャンもにっこり笑う。

 

カレン「ディープ情報のサーチ能力なら、セブン協会トップのカレンたちに知れないことはないよ〜♡だってオグリさん、カワイイって思ってたから♡」

 

マヤノが畳みかける。

 

マヤノ「だからマヤが徹底的に調査して〜」

 

カレンチャン

「把握したの♡令嬢のオグリさんなんて、カワイイじゃん♡」

 

ネイチャは露骨に警戒する。

 

ネイチャ「……その情報、どうするつもり?まさか12協会で共有したり……」

 

カレンチャンはすぐに首を振った。

 

カレン「流石にしないよ。かわいくないもん。だってヤングさんやトランさんには知られたくないもんね〜」

 

アイネスが慎重に確認する。

 

アイネス「つまり、セブン協会北部支部だけの秘密ってことなの?」

 

カレン「そうだよ♡ 安心して♡」

 

タマモクロスはなおも睨むように問いかける。

 

タマ「……なら何が目的や?」

 

カレンチャンは、きらきらした目でオグリを見た。

 

カレン「そうだね。カレンはカワイイものにしか興味がないの。その点、オグリさんはカワイイの要素てんこ盛り!まるで御伽噺の主人公!」

 

マヤノも勢いよく乗る。

 

マヤノ「マヤでも理解できないものなんて初めてだから、すっごく気になるんだ〜!」

 

カレンチャンは手を合わせた。

 

カレン「だからね♡ カレンたちのお願い聞いてくれたら、この情報は厳重に保管するよ♡」

 

アイネスが目を細める。

 

アイネス「お願い?」

 

カレンチャンは満面の笑みで宣言した。

 

カレン「オグリさんにカワイイ格好させたいんだけど、やってもいい?」

 

支部長室の空気が一瞬で固まった。

 

ネイチャが引きつる。

 

ネイチャ「か、カワイイ格好……?」

 

カレンチャンはうんうんと勢いよく頷く。

 

カレン「オグリさんって令嬢なんだよ? ならお嬢様みたいなカワイイ格好が絶対に似合うよ!」

 

マヤノ

「マヤも見てみた〜い!」

 

アイネスは慌てて反論した。

 

アイネス

「いやいや! オグリちゃんはお嬢様とかそういうキャラじゃないの!だってこんなでかいおにぎり食べてるお嬢様いるの!?」

 

カレンチャンは全く怯まない。

 

カレン

「まあ大人っぽい服は似合わないと思うけど〜、オグリさんの属性って典型的な箱入り娘だと思うんだよね。純粋天然世間知らずお嬢様……ほら、ならフリフリ系のドレスとリボンなら絶対似合うよ!」

 

タマモクロス

「な、なんやて?」

 

ネイチャ

「いやいや、流石にそんなオグリさんは……」

 

だが、そこで三人の脳裏に同時に浮かんでしまった。

 

フリルのついたドレス。

大きめのリボン。

少し戸惑いながらも、言われるままに着せ替えられたオグリキャップ。

 

そして、妙に似合っている姿。

 

タマモクロスが最初に口を開く。

 

タマ「……なんか想像できるな」

 

ネイチャも正直だった。

 

ネイチャ「うん、箱入り娘だ」

 

アイネスはもはや悟ったように頷く。

 

アイネス「箱入り娘なの」

 

カレンチャンがにっこり笑う。

 

カレン「でしょ♡だからぁ〜、しばらくオグリさんで着せ替えしてもいい?」

 

タマモクロスが渋い顔でネイチャを見る。

 

タマ「……どうする?」

 

ネイチャは数秒考えて、正直に言った。

 

ネイチャ「……正直に言うね。1回だけ見てみたい」

 

アイネスも真顔で続ける。

 

アイネス「同意なの」

 

タマモクロスは天を仰いだ。

 

タマ「……なあオグリ」

 

オグリはようやく会話に呼ばれたことに気づいたように顔を上げる。

 

オグリ「もぐもぐ……なんだろうか」

 

タマ「今から違う服に着替えてほしいんやけど、かまへんか?」

 

オグリキャップ「いいぞ」

 

即答だった。

 

カレンチャン

「やったー!」

 

マヤノトップガン

「ならマヤがコーディネートしてあげるもんね〜!」

 


 

その頃。

 

セブン協会本部、協会長室では。

 

トランセンドが机に頬杖をつきながら、フォーエバーヤングの報告を聞いていた。

 

トランセンド「へぇ。ヂェーヴィチの人たち、北部に向かったの?」

 

フォーエバーヤングが肩をすくめる。

 

フォーエバーヤング

「うん、間違いない。オグリさん連れて北部支部に向かった。それでちょーっと気になったから、北部セブン支部に連絡したらさ。マヤノちゃんと一緒に、支部長のカレンチャン、外出中だって」

 

トランセンドの口元が少しだけ上がる。

 

トランセンド「……ふ〜ん?カレンのやつ、ウチらを欺こうとしてるんだ?」

 

フォーエバーヤングは楽しそうに笑った。

 

フォーエバーヤング

「どうする、トランさん?」

 

トランセンド「決まってんじゃん」

 

トランセンドは即答した。

 

トランセンド「探り入れるよ。カレンがどんな情報手に入れたのか、ウチらも探る」

 

フォーエバーヤング

「了解! アタシに任せて!」

 

それを聞いていたビリーヴが静かに口を挟む。

 

ビリーヴ「……お二人とも、セブン協会が分裂するようなことは控えてくださいね。カレンチャン支部長にだって考えがあってのことなんですから」

 

エアシャカールは露骨に面倒くさそうな顔をした。

 

エアシャカール「あいつの謎行動も珍しくはねぇだろ。放っとけばいいのによ」

 

トランセンドはにこにこと笑う。

 

トランセンド「いやいや、上司として部下に報告を求めるだけだよ。報連相は社会の常識じゃ〜ん」

 

エアシャカールは舌打ちした。

 

エアシャカール「チッ……カレンのやつは独断行動が多いから、こいつらとは相性が悪いんだよな……」

 

フリオーソは、いつものように胃を押さえたくなる気持ちを必死にこらえていた。

 

フリオーソ「はぁ……全く、協会長にヤング支部長は……」

 

ビリーヴが静かに小瓶を差し出す。

 

ビリーヴ「フリオーソさん、良ければ胃薬あげましょうか?」

 

フリオーソ「ありがとうございます本部長……」

 

こうして、灰色の怪物を巡る「カワイイ情報」は、またしても都市のあちこちで新たな波紋を広げようとしていた。

 

そしてその中心にいるオグリキャップ本人は、今まさに別室でフリルとリボンを盛られようとしている。

 

何も知らないまま。

いつも通りに。

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