ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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優雅なお嬢

ドデカ協会本部、訓練所。

 

協会本部の地下に近い位置にあるその訓練所は、実戦を想定して造られていた。

無機質な石床。

斬撃痕の刻まれた壁。

吹き抜け気味の高い天井。

そして、ただ広いだけではなく、重量武器の振り回しや高速移動にも耐えうる空間強度。

 

フィクサーたちが腕を磨く場所であり、同時に、自分がどこまで通じるのかを確認する場所でもある。

 

その中央で、リバティアイランドが一人、武器を振っていた。

 

「...ふっ、はっ」

 

呼吸と共に繰り出される大鎌の軌道は、滑らかだった。

橙色の軌跡が空間に細く残り、すぐに消える。

薙ぐ。

引く。

回す。

踏み込む。

左脚の義体が床を踏み鳴らし、重心移動を支える。

 

その動きは舞うように美しい。

だが、見た目だけの演舞ではない。

 

大鎌の刃先は常に人の急所を通る位置をかすめ、

振り抜きの角度は防具ごと肉を断つ前提で設計されている。

軌道の優雅さと殺意の高さが両立していた。

 

少し離れた位置から、その姿をドゥラメンテとサトノクラウンが見守っていた。

 

ドゥラメンテは腕を組み、リバティの一挙一動を見逃さないように視線を向けている。

サトノクラウンは壁際に軽く寄りかかりながら、どこか余裕ある様子で観察していた。

 

ドゥラメンテが低く言う。

 

「...動きは良いな。忌々しいほどに、あの青い残響を彷彿とさせるものだ」

 

その声音には苛立ちと、認めざるを得ないという諦めが混ざっていた。

 

サトノクラウンは目を細める。

 

「そうね。...でも、アルガリアさんに比べるとぎこちないわ。」

 

ドゥラメンテは短く鼻を鳴らす。

 

「...まあ、流石に特色相手と比べると見劣りするさ。アルガリアの戦い方は独特だったからな」

 

それは嫌悪していても否定できない事実だった。

 

青い残響アルガリア。

残響楽団を率いて都市中を混乱へ叩き込んだ、最悪の犯罪者。

だが、それ以前の彼は間違いなく優秀な特色フィクサーだった。

 

洗練された立ち振る舞い。

見る者を惹きつける美しさ。

そして、一度噛み合えば逃げ場を失わせる独特の戦闘理論。

 

サトノクラウンが思い出すように言う。

 

「確かアルガリアさんって、微細に振動する大鎌を扱って、相手の動きと共鳴して速度や破壊力を徐々に上げていく、1度ハマると手がつけられなくなるタイプだったわね。」

 

ドゥラメンテは頷いた。

 

「ああ。...だが、あれはアルガリアが絶対音感などの技能を持っていたことがでかい。故に、リバティには真似出来ない」

 

リバティアイランドは素振りを続けながら、その言葉を聞いていた。

 

(...師匠から聞いたアルガリアさんのようには行きませんね)

 

刃が空を裂く。

橙色の軌跡がまた残る。

 

(廉価品で終わってしまいます)

 

自嘲に近い認識だった。

 

それでも、彼女の大鎌の扱いは明らかに三級フィクサーの域を超えていた。

踏み込みの迷いがない。

腕力任せではなく、刃の重さと義足の反動を理解している。

技量だけ見れば、すでに二級に片足を突っ込んでいてもおかしくない。

 

ドゥラメンテはその動きを見ながら、苦々しく呟く。

 

「...こうして見てると本当にあの男を思い出す。ムカムカするが...認めざるを得ないな」

 

サトノクラウンは少しだけ笑った。

 

「アルガリアさんのこと、本当に嫌ってるのね」

 

ドゥラメンテは即答する。

 

「当然だ。残響楽団に12協会含めてどれだけの組織が被害を受けたと思ってる?」

 

一拍置いて、さらに低く。

 

「...少なくとも、協会長クラスは全員嫌ってる。」

 

それは個人的な感情ではなく、むしろ職務上当然の嫌悪に近い。

都市において、あの男が撒いた混乱は軽くない。

協会という協会が、その後始末と損害計算に追われた。

 

サトノクラウンもそれには異論がない。

 

「まあ、それもそうね」

 

その時、リバティアイランドが最後の振りを止めた。

 

大鎌の穂先が静かに下がる。

呼吸を整え、背筋を伸ばして二人へ向き直る。

 

「...終わりました。協会長、本部長」

 

ドゥラメンテは短く頷く。

 

「...ああ、お疲れ様リバティ」

 

サトノクラウンは素直に称賛した。

 

「見事だったわよ。扱いの難しい大鎌を見事に使いこなしてるじゃない」

 

リバティアイランドは、どこか満足げに微笑む。

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

その笑みは以前より落ち着いていて、どこか見せることを覚えたような表情だった。

それが余計にドゥラメンテを複雑な気持ちにさせる。

 

ドゥラメンテは真っ直ぐに問うた。

 

「...リバティ、お前、本気でアルガリアのようになりたいのか?」

 

リバティアイランドは迷わなかった。

 

「もちろんです」

 

大鎌の柄を片手で軽く支えながら、静かに言う。

 

「...優雅で華麗で芯のあるフィクサー...それが私の目標です」

 

ドゥラメンテの胸に、またあの嫌な感覚が差す。

目指しているものが“青い残響”であること自体が、まだ受け入れ難い。

 

「そうか...」

 

短くそう返すしかなかった。

 

リバティアイランドは、少しだけ表情を和らげた。

 

「...協会長、怒ってますか?」

 

その問いには、かつての彼女らしい素直さが少しだけ残っていた。

ドゥラメンテはそこに、わずかな救いを感じる。

 

「...怒ってはいない。複雑なだけだ」

 

リバティアイランドは小さく頷く。

 

「そうですか。」

 

ドゥラメンテは、そこで大きく息をついた。

 

「...はぁ、もうこの際お前が無事ならなんでもいい」

 

本音だった。

 

「間違ったことだけはするな。アルガリアの優雅さや華麗さは百歩譲って認める。だが、あの男の末路まで似せるのはやめろ。良いな?」

 

リバティアイランドは、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「ふふ、分かってますよ」

 

その返答がどこまで本気かは分からない。

だが少なくとも、今は頷いた。

 

ドゥラメンテは次を問う。

 

「...色付きも目指すのか?」

 

リバティアイランドは視線を落とさず答える。

 

「そうですね。やはりフィクサーである以上、特色に憧れはあります」

 

その言葉に嘘はなかった。

強くなる以上、頂点を意識しないフィクサーはいない。

まして彼女はいま、再起の途中にいる。

ただ立ち直るだけでなく、その先を見始めているのだ。

 

ドゥラメンテは、そこで協会長としての顔をはっきり出した。

 

「...なら、特色を目指す以上覚悟はしておけ。そう簡単な道のりではない」

 

口調が自然と厳しくなる。

 

「それに特色になれば厳しい任務も増える。特色になった上で生き残れるようにするんだ。分かったな?」

 

リバティアイランドは姿勢を正し、素直に応じる。

 

「ええ、協会長」

 

サトノクラウンもそこで柔らかく声をかけた。

 

「頑張ってね、リバティちゃん」

 

「ありがとうございます、本部長」

 

その返答を聞きながら、ドゥラメンテはふと別のことを考えていた。

 

(...リバティの特色の称号案、考えておくか)

 

まだ早い。

まだ確定でもない。

だが、そう考えてしまう程度には、彼女の成長を認めている自分がいた。

 

青い残響の模倣。

危うい憧れ。

変わってしまった口調。

気に入らない要素はいくらでもある。

 

それでも。

 

彼女は生きている。

前を向いている。

戦えるようになっている。

 

ならば上司として願うのは、結局ひとつだった。

 

強くなれ。

そして生き残れ。

 

青い残響ではなく、

リバティアイランドのまま。

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