ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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自由の令嬢

ドデカ協会、協会長室。

 

協会長室の扉が閉まると、外の空気が少しだけ遠のく。

厚い扉と静かな室内は、ここが単なる執務室ではなく、協会そのものの意思決定が行われる場所なのだと自然に感じさせた。

 

その中央で、ドゥラメンテは机越しに座り、呼び出した部下へ視線を向けていた。

向かいに立つのはリバティアイランド。

その隣には、いつものように本部長サトノクラウンがいる。

 

机の上には、数枚の紙。

書き直した跡のあるメモ。

候補を並べた走り書き。

そして、その中からようやく残されたひとつの名称。

 

ドゥラメンテはその紙を指先で軽く押さえながら、少しだけ言いづらそうに口を開いた。

 

「...どうだろうか、リバティ。出来るだけ君の個性を表現出来るように考えたつもりだが...」

 

普段の彼女なら、もっと簡潔に要件だけを伝える。

だが今日は違った。

部下に命令を下すのではなく、部下の未来に関わる何かを渡そうとしている。

それが分かるだけに、言葉の端にわずかな不器用さが滲んでいた。

 

リバティアイランドは、紙面に書かれた文字を見つめる。

 

橙色の令嬢

 

その二つ名を、静かに読み上げた。

 

「橙色の令嬢...わざわざ考えてくれたのですか?」

 

その問いに、ドゥラメンテは明らかに少しだけ視線を逸らした。

 

「...別に...大したことはしていない」

 

いかにも取り繕うような声音だった。

 

「ただ、いずれドデカ協会の看板を背負うことになるだろうフィクサーの二つ名がダサいと、メンツが立たないから考えただけだ」

 

どう見ても照れ隠しだった。

 

だがリバティアイランドは、その不器用な言い訳を暴くような真似はしなかった。

ただ、優雅に微笑む。

 

「...ふふ、ありがとうございます。」

 

その礼は、軽いものではなかった。

自分のために時間を使ってくれたこと。

自分の未来を“あるもの”として考えてくれたこと。

その全てを、ちゃんと受け取った声だった。

 

サトノクラウンが空気を和らげるように言う。

 

「それじゃあリバティちゃん、とりあえずこの称号で良い?」

 

リバティアイランドは迷わず頷いた。

 

「もちろんです。」

 

その返答には、どこか誇らしさがあった。

まだ正式に色付きになったわけではない。

まだ称号を都市に刻んだわけでもない。

それでも、その名が自分に与えられうる未来として置かれたことが、嬉しくないはずがなかった。

 

ドゥラメンテはそこで、話題を少し現実へ戻す。

 

「...リバティ、任務の方はどうだ? 紫の涙の手伝いは順調か?」

 

リバティアイランドは背筋を正して答える。

 

「はい。今のところ都市悪夢ぐらいは片付けています」

 

その口から自然に“都市悪夢”という単語が出るあたり、もう彼女のいる位置は明らかに三級の枠を越え始めていた。

 

サトノクラウンがすぐに次を問う。

 

「都市悪夢ね...なら都市の星は?」

 

リバティアイランドは少しだけ慎重に答える。

 

「師匠の援護という形でなら、何度か鎮圧に行きました。...流石に正面からは戦ってませんが」

 

ドゥラメンテはその返答を聞いて、表情をわずかに和らげる。

 

「...だが、都市の星の任務に出れるようになったのは誇っていい。流石だな」

 

そこにあったのは協会長としての評価であり、上司としての素直な賞賛でもあった。

 

サトノクラウンも同意する。

 

「リバティちゃんも、特色の昇格はまだでも、近いうちに一級フィクサーには届きそうね。」

 

リバティアイランドは、その言葉に少しだけ目を伏せて笑う。

 

「そうですか。ふふ、師匠には感謝してもしきれませんね」

 

その言い方は相変わらず少しアルガリアを思わせる。

だが以前よりも、そこにリバティ本人の柔らかさが混ざるようになっていた。

 

ドゥラメンテは、そこで率直に言った。

 

「...紫の涙の指導力が特色随一という評判も、こうして結果を目の当たりにすると、ぐうの音も出ないな」

 

少し悔しそうですらある声音だった。

 

「強い連中ならいくらでもいるが、強い者を育てれる者は多くない」

 

その通りだった。

 

都市には強者がいる。

特色級。

都市の星に届く者。

翼の戦闘員。

五本指の幹部。

上を見れば、戦うだけならいくらでもいる。

 

だが、壊れかけた者を立て直し、伸び悩んだ者をもう一段上へ押し上げ、しかもその先で色付き候補にまで育てられる人間は少ない。

 

イオリの恐ろしさは、まさにそこにある。

 

ドゥラメンテは紙に目を落としてから、再びリバティを見る。

 

「リバティ、一応イオリにも君の特色の称号案については伝えておく」

 

その声は、先ほどより自然だった。

 

「特色の審査...受かるといいな」

 

リバティアイランドはほんの少しだけ目を見開いたあと、静かに頷く。

 

「はい。協会長たちが考えてくれた称号に似合うフィクサーになれるように頑張ります」

 

その言葉は綺麗だった。

綺麗すぎるくらいに、今の彼女らしい返答だった。

 

それを聞いたサトノクラウンは、少しだけ表情を引き締めて忠告する。

 

「...リバティちゃん、特色を目指すのは良いけど、焦らなくていいからね」

 

そこで一度区切り、柔らかく、しかしはっきりと続けた。

 

「命大事にね」

 

その一言だけは、どんな称号よりも重かった。

 

特色。

色付き。

その言葉は華やかに聞こえる。

だが実際には、より危険で、より過酷で、より死に近い任務へ足を踏み入れることでもある。

 

だからこそ、サトノクラウンは今この場でそれを言った。

 

リバティアイランドも、その重みは理解しているのだろう。

真面目に頷いた。

 

「分かりました」

 

協会長室の中に、短い静けさが落ちた。

 

橙色の令嬢。

それはまだ仮の名だ。

だが、その名がこうして本人の前で交わされた瞬間から、少しずつ現実味を帯び始めている。

 

ドゥラメンテは、それを表には出さずとも感じていた。

サトノクラウンも、たぶん同じことを思っている。

 

リバティアイランドが本当にその名を背負う日が来るのか。

その時、今の模倣はどこまで彼女自身のものになっているのか。

そして、その先でも生きていられるのか。

 

まだ何も確定していない。

だが、未来というものはこういう時に少しだけ輪郭を持つ。

 

リバティアイランドは改めて紙を見つめた。

 

橙色の令嬢。

 

優雅さ。

可憐さ。

少しの危うさ。

そして、まだ完成していない何か。

 

今の自分に、それは確かによく似ている気がした。

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