ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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新生L社

A社1区、A社本社。

調律者執務室。

 

都市の支配機構たるA社の中枢には、黒と金の威圧感が常に満ちている。

だが、そこにいる者たちの仕事は、必ずしも常に血生臭いものばかりではなかった。

 

書類。

報告書。

監視記録。

案件ごとの精査。

そして、必要ならば戦力の派遣。

 

調律者執務室は、そのすべてが集約される場所の一つだった。

 

その日、任務から戻ったばかりのオルフェーヴルが、淡々と報告を行っていた。

 

「……これにて案件は完了した」

 

白く豪奢な衣装を纏った特色フィクサー――金色の暴君。

A社専属という、普通のフィクサーとは別格の立場にいる彼女は、今日も一切の疲労を見せていないように見えた。

 

それを受け取る側にいる調律者クモハタは、湯呑みを傾けながら穏やかに頷いた。

 

「...うん、無事に終わったみたいだね。見事な仕事ぶりだよ、オルフェーヴル」

 

「この程度、余にかかれば造作もない」

 

即答だった。

 

クモハタはくすりと笑う。

 

「ふふ、流石金色の暴君。それじゃあ、いつも通りジェナの手伝いに戻ってくれ。...あと形式的な手続きとして、今回の案件の報酬金の5割はA社が徴収するよ。あくまで君はA社の専属だからね。他所からの依頼を受けた以上、相応の手数料は頂かないと」

 

オルフェーヴルは眉ひとつ動かさない。

 

「好きにすれば良い。余は金に興味はない」

 

「うん、なら問題ないね。下がっていいよ」

 

「...では失礼する」

 

オルフェーヴルが退室すると、部屋には再び静寂が戻った。

 

クモハタは報告書に目を落としながら、淡々と計算を始める。

 

「...都市の星案件の5割となればそれなりの額だし、A社の予算に反映しておかないとね」

 

A社専属。

それは名誉であると同時に、実務上の制約でもある。

オルフェーヴルは自由に依頼を受けられる立場ではなく、A社の一員として都市の秩序に組み込まれているのだ。

 

---

 

オルフェーヴルは執務室を離れ、そのままA社本社内の休憩区画を抜けていく。

向かった先は、12区担当調律者ジェナの執務室だった。

 

「報告終わったのね、オルフェ」

 

調律者ジェナは、机上の書類の山から顔を上げることもなく言った。

しかし、その声は彼女なりの労いを含んでいる。

 

「うむ」

 

「なら仕事に戻るわよ。A社の業務は常に忙しいんだから」

 

「分かっておる」

 

A社本社の仕事は、戦闘だけではない。

むしろ、その後始末と整理の方が遥かに多い。

特に調律者は、禁忌違反への対処だけでなく、都市の制度や各区の状況、特異点や翼の動向まで把握しなければならない。

 

ジェナの机には、12区に関連する書類が積まれていた。

それだけではない。

ロボトミーコーポレーションの崩壊によって空席となったL社の後釜審査に関する資料まで並んでいる。

 

オルフェーヴルは迷わず、書類の仕分けを手伝い始めた。

戦うよりも、こうして整理する方が今の彼女の役割に近い。

 

ジェナは紙束を捌きながら、淡々と呟く。

 

「...12区は相変わらず組織同士のいざこざが多いわね。さっさと後継企業が現れて管理して欲しいものなんだけど」

 

12区。

かつてのL社支配区域。

ロボトミーコーポレーションの崩壊後、図書館が跡地に現れ、利権争いを食い荒らした。

その後、残響楽団が総取りしたことで一時は落ち着いたものの、図書館は外郭へ放逐され、残響楽団も壊滅。

今では再び空白地帯として、第二の争奪戦が始まっている。

 

オルフェーヴルは書類に目を通しながら言った。

 

「12区か。久しく訪れておらぬが、今もなお阿鼻叫喚らしいな」

 

「ええ。23区のW社も危機的状況だけど、12区はそもそも翼が存在していない状況だから、どうしようもないわ」

 

「...確か、リンバスカンパニーが12区の後釜を狙ってるんだったな」

 

ジェナは淡々と答える。

 

「そうよ。新生L社...なんて名乗り始めてるみたいで、数ヶ月もすれば翼になってるかもね」

 

オルフェーヴルは手を止めることなく、少しだけ考えた。

 

「だが、翼になるには特異点の特許保有と頭への税金の納付など、色々な手続きが必要なはずだ。リンバスカンパニーに出来るのか?」

 

「現状、ほとんど問題はないわ」

 

ジェナは書類をめくる。

 

「ロボトミーコーポレーションと同じエネルギーのエンケファリンの精製に、その他の事業、他所の翼に劣らない十分な資産...12区を平定すれば、そのまま翼にしても良いくらいよ」

 

「...リンバスカンパニーといえば、あやつらは何をしておる頃か...」

 

ジェナが顔を上げた。

 

「あいつら?」

 

「昔、余が所属していたフィクサー事務所の所長と同僚がリンバスカンパニーに所属しているのだ。所属はリンバスカンパニーのLCCA部署...と言っていたな」

 

ジェナはすぐに答えた。

 

「ああ、特色フィクサー深紅の天女マルゼンスキーと1級フィクサーのカツラギエースね。一応リンバスカンパニーに対してはB社が注視してるから、基本的にその様子は全て把握してるけど、知りたい?」

 

オルフェーヴルは少しだけ目を細める。

 

「...何をしておるのだ?」

 

ジェナは、手元の資料を確認しながら答えた。

 

「マルゼンスキーとカツラギエースは基本的にコンビで動いていて、都市のあちこちを移動してるみたいよ。最近はI社9区を訪れたりね」

 

「...確か、黄金の枝というものを集めているのだったな」

 

「そうよ」

 

ジェナはうなずく。

 

「黄金の枝に関してはディエーチ協会も独自に回収して分析したそうだけど、完全解明は出来てないわね。一応頭としても興味深いものだから、報告書は全て提出させてるわ」

 

オルフェーヴルはわずかに眉をひそめた。

 

「...あやつら、黄金の枝を集めて何をしようというのだ...」

 

「さあね」

 

ジェナは肩をすくめる。

 

「一応言っておくけど、彼女たちはあくまでサブで集めてるだけで、主に活動してるのはリンバスカンパニーのLCB部署という連中よ。リンバスカンパニーの遊撃部隊で、これまで数々の任務を成功させて、評判と悪名を得ているわ」

 

「ほう、具体的には?」

 

「いくつかの翼から依頼を受けたり、指相手に喧嘩売ったりね。例えば直近では、五本指の同盟組織だった蜘蛛の巣という場所を焼き討ちしてるわね」

 

オルフェーヴルは少しだけ口元を歪めた。

 

「指相手に喧嘩を売るか...なるほど、実力はあるようだな」

 

「頭や協会も活動は把握してるわ」

 

ジェナは事もなげに続ける。

 

「...今は14区に向かって移動中みたいね」

 

「...14区、というと...」

 

「N社ことナーゲル・ウント・ハマー社の支配区域よ。LCB部署とはまあまあ因縁があるみたい」

 

オルフェーヴルは静かに笑った。

 

「...今度は翼相手に喧嘩を売るか。怖いもの知らずだな」

 

「今に始まったことじゃないわよ」

 

ジェナは書類の端を揃えながら言う。

 

「2ヶ月程前には、H社こと鴻園生命工学グループのトップと戦ったみたいだし」

 

「翼のトップと?」

 

「そう。そして勝った結果、H社トップの後継にリンバス社が懇意にしている人物が就任して、リンバス社はその後見人になった...結果的にひとつの翼を味方につけたってわけ」

 

オルフェーヴルは呆れとも感心ともつかない表情を浮かべた。

 

「...翼の代表もすげ替えるとは、随分好き勝手しておるのだな」

 

「だから、評判と同時に悪名も上がってるのよ。やり手だけど関わると面倒な相手って感じで」

 

オルフェーヴルは、しばし黙っていた。

 

そして、ふいに低く言う。

 

「...そんな連中とつるんで...マルゼンやエースがとばっちりを受けないと良いがな...」

 

ジェナは一瞬だけ視線を上げた。

 

「そこまでは分かんないわ」

 

それから、すぐに話を切り替える。

 

「...さて、リンバスカンパニーの話はここまで。仕事に戻るわよ」

 

「分かった」

 

オルフェーヴルもまた、無駄なことは言わなかった。

 

白く豪奢で傲慢な特色フィクサー。

だがその内側では、旧知の者たちの安否を案じ、都市の情勢を冷静に見極めている。

そして今は、A社専属として頭のために働くという、彼女自身にとっても特殊な立場にいる。

 

一方でジェナは、淡々と書類を処理しながら、次の12区後釜問題と、リンバスカンパニーの動向を同時に追っていた。

 

都市は今日も、誰かが壊し、誰かが埋め、誰かが記録することで回っている。

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