シ協会本部 最上階・協会長執務室
窓の外には、常に濁った夕焼けが広がっている。
執務机の前、黒地に赤のラインが入った軍服に深緑のマントを羽織った、シ協会長にして特色フィクサー、深緑の皇帝「シンボリルドルフ」は、静かに書類にサインをしていた。
扉が静かに開き、黒のドレススーツに身を包んだ北部シ協会支部長、ジェンティルドンナが入室する。
長い髪を後ろで束ね、腰に収められた重厚な長槍が、わずかに金属音を立てた。
「ではジェンティル、今回もよろしく頼んだ。
北部支部での暗殺任務、任せたぞ」
ルドルフは顔を上げず、穏やかに告げる。
「もちろんですわ、協会長。
わたくしの仕事に不備はございません」
ジェンティルドンナは深く一礼し、完璧な所作で応えた。
その声は凛として、しかしどこか優しさを孕んでいる。
しかし、シ協会は暗殺を専門とする協会、当然ながら協会長と支部長たる彼女たちも、一流の暗殺者であった
一見しただけではそんな素性が分からないように、ルドルフは小さく笑い、書類を閉じた。
「ああ、いつも頼りにしている」
一瞬の沈黙。
ジェンティルドンナは、意を決したように口を開いた。
「……協会長。
以前から気になっていたことがございます。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
ルドルフはゆっくりと椅子から立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「ふむ。話せる範囲なら構わない」
ジェンティルドンナは一度だけ息を吸い、静かに問うた。
「なぜ、あなたはシ協会にいらっしゃるのですか?
あなたの理想主義のお人柄を考えれば、ハナ協会やA社のような、管理と統率を司る組織こそが本望のはず。少なくともこの暗殺を良しとするシ協会には似合わないと思いますが...
入れなかったのですか? それとも、入りたくなかった?」
部屋の空気が、わずかに重くなった。
ルドルフは背を向けたまま、遠くの空を見据える。
「……残念だが、私は私の過去について語るつもりはない」
静かな、しかし決して揺るがぬ声だった。
「だが、少しだけ教えておこう。
今は、ハナ協会にもA社にも、入りたくはない」
ジェンティルドンナの瞳が揺れた。
「……! 申し訳ありません。
出過ぎた真似をいたしましたわ」
ルドルフは振り返り、柔らかな笑みを浮かべる。
「いや。仕事を完璧にこなしてくれる君になら、構わない」
そして、静かに付け加えた。
「それでは、頼んだぞ。ジェンティル」
「分かりましたわ」
ジェンティルドンナはもう一度深く頭を下げ、踵を返して室を出る。
扉が閉まる音が、静かに響いた。
残されたルドルフは、再び窓の外を見やった。
「……ジェンティル」
独り言のように、呟く。
「私の過去を知ったら、君はどう思うかな」
その声は、誰にも届かないほど小さかった。
「いずれ、話すよ」
深緑のマントが、夕焼けの赤に染まる。
彼女の瞳に映るのは、かつて失った理想の欠片と、今も抱き続ける、届かない幸福への願い。
シ協会は「平等な死」を売る。
だが、彼女は「幸福な生」を与えたいと願っている。
その矛盾を抱えたまま、
深緑の皇帝は今日も、暗殺の命令を下す。
誰かの死が、誰かの幸福に繋がるなら。
それが、彼女に許された唯一の救いだった。
だから、彼女はここにいる。
理想を捨てきれず、現実を受け入れながら、
この血塗られた椅子に、座り続ける。
シンボリルドルフ
シ協会協会長 特色フィクサー「深緑の皇帝」
12協会の1つ、シ協会の協会長でありながら特色フィクサーの称号を持っている一線級のフィクサーで、都市の星相手でも互角に渡り合える実力の持ち主。 ディストピア世界の都市の中で幸福な者を一人でも多くするという理想主義を掲げているが、中々出来ないのが現状で理想と現実の狭間で苦しんでいる
ジェンティルドンナ
北部シ協会支部長
シ協会の支部長ということで任務に厳格であり常に正確な仕事を心掛けている。 ルドルフからの信頼が厚く立場上は上司と部下の関係だが、両者とも内心では対等と思っている。 礼儀作法が身についてるなど華奢な身体でお嬢様らしい振る舞いだが見かけによらず物凄い怪力の持ち主。