ディエーチ協会東部支部
メジロドーベルからの勧誘を受け、東部ディエーチ協会に所属することになったラヴズオンリーユー、グランアレグリア、クロノジェネシス、カレンブーケドールの4人。
手続き自体は滞りなく進み、彼女たちは正式にディエーチ協会の一員となった。
そして今日、その初仕事の日を迎えていた。
支部の制服に身を包んだ4人は、東部支部の支部長室前に並んでいた。
黒い司書服に黄色いスカーフ。
ディエーチ協会らしい、知識と記録の匂いがする装いだ。
メジロドーベルは4人を見渡し、少し満足げに頷いた。
「……うん、4人とも中々様になってるじゃない」
クロノジェネシスは、自分の袖を少し整えながら周囲を見回す。
「これがディエーチの制服ですか……」
グランアレグリアは、袖口を軽く持ち上げて笑った。
「おお〜! 中々着心地良いね!」
カレンブーケドールも、実際に体をひねって確認する。
「しかも、見た目より動きやすいです」
ラヴズオンリーユーは、自分の胸元を見下ろして少しだけ息を吐いた。
「……これからここで、私たちの新しい仕事が始まるのね……」
その言葉には、少しの緊張と、少しの決意が混じっていた。
過去の事務所では、彼女の“愛”は壊れ、仲間たちを巻き込んでしまった。
だからこそ、今度はもう一度、壊さないように。
4人で一緒に。
そういう空気が、彼女の中にあった。
メジロドーベルはそんな4人を前に、改めて説明を始める。
「えっと、まずはディエーチ協会の基本について説明するけど、貴女たちはディエーチ協会の仕事についてどこまで知ってるかしら?」
クロノジェネシスが最初に答えた。
「確かディエーチ協会の専門は、知識の収集と研究、そして記録と聞いています。都市の蔵書の管理や、地下遺跡の探索調査も担っていると……」
「そうね」
ドーベルは頷いた。
「基本はそんな感じよ。あとは昔からの慣習で、都市の孤児や貧困層への保護もやってるわ。ただ最近は、エイト協会と合同で外郭の調査をしたり、ハナやセブンと共同でE.G.Oの研究をしたり……意外と仕事の幅は増えてるわ。臨機応変に対応していかないとダメよ」
グランアレグリアは勢いよく頷いた。
「は、はい!」
ドーベルは続ける。
「とりあえず、まずはディエーチの雰囲気に慣れるために雑用から始めてもらうわ。手始めに書庫の整理をお願い」
「分かりました」
ラヴズオンリーユーが即答する。
4人はそろって支部内へ案内され、書庫へ向かった。
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ディエーチ協会の書庫は、まるで小さな図書館のようだった。
壁一面に並ぶ書架。
年代ごと、案件ごと、遺跡ごと、地方ごとに細かく分けられた書類と記録。
そして、そのすべてがディエーチの財産だった。
4人は言われた通り、整然と書架を整理し始める。
事務所時代の仕事とは勝手が違う。
しかし、元々が高位フィクサーであり、現場対応にも慣れている彼女たちは、すぐに要領を掴んだ。
グランアレグリアは棚の位置を一瞬で覚え、
カレンブーケドールはラベルのずれを丁寧に直し、
クロノジェネシスは資料の分類を的確にまとめ、
ラヴズオンリーユーは全体の流れを見ながら作業を進めていく。
無駄な会話はない。
だが、空気は重くない。
むしろ静かな集中が、そこにはあった。
――それが終わった頃には、書庫の乱雑さはすっかり消えていた。
数時間後、支部長室。
メジロドーベルは書類仕事の合間に、4人の作業報告を見直していた。
「ふふ、あの4人も素直で良い子たちだし、これなら問題なさそうね。あとは協会長への報告もしておきましょう」
そう呟き、端末を手に取る。
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同時刻、ディエーチ協会西部本部、協会長室。
ゼンノロブロイは、メジロドーベルからの電話を受け取っていた。
隣には本部長のライスシャワーが待機している。
「そうですか、ラヴズさんたちはディエーチでもやっていけてるんですね」
電話越しのメジロドーベルの声は、どこか安心した色を帯びていた。
『ええ、あの様子なら問題なさそうよ。頼もしい戦力が加わって東部支部としては嬉しいかぎりね』
ゼンノロブロイは、静かに微笑む。
「ふふ、ドーベルさんも面倒見が良いですね。それならあとは私がハナ協会に報告しますので、4人のこと、お願いしますよ」
『もちろんよ、任せて』
通話が切れる。
短い電子音が、支部長室の静けさに吸い込まれた。
ゼンノロブロイは少しだけ安心したように息をつく。
「……ふふ、東部支部の人手不足は問題でしたが、特色含め元高位フィクサーが4人増えて、ディエーチとしても好ましいですね」
ライスシャワーは、少し不安そうにその横顔を見る。
「うん……でも、もし何かあったらディエーチが責任取ることになるけど大丈夫かな……」
その声には、いつもの控えめさと、他人の不幸を気にしてしまう優しさがあった。
ゼンノロブロイは穏やかに答える。
「流石に大丈夫ですよ。ラヴズさんら4人の様子は落ち着いていますし、不穏な兆候もありません。ライスさんの心配性は分かりますが、今回ばかりは何も起きませんよ」
「それなら……良いんだけど……」
その時だった。
ジリリリリン!
古めかしい、だが味のあるディエーチ協会の電話がけたたましく鳴る。
ゼンノロブロイは少しだけ眉を上げた。
「おや、今度はなんでしょうか?」
受話器を取る。
「はい、こちらゼンノロブロイ」
すると、電話の向こうから慌ただしい声が聞こえた。
『あっ! 協会長! すみません突然電話掛けて……!』
声の主は、南部支部長のアグネスデジタルだった。
ゼンノロブロイは、少しだけ声を落ち着かせる。
「デジタルさん、どうしましたか? 何か南部支部でありました?」
『そ、その〜……今南部ディエーチ協会宛に手紙が届いて……』
「手紙?」
『T社20区の……サイモンさんから……』
ゼンノロブロイは一瞬だけ目を細めた。
「……サイモン……もしかして、セントサイモンさんですか?」
『は、はい……』
隣でライスシャワーが小さく息を呑む。
「セントサイモンって……確か20区の長老血鬼の……」
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血鬼。
都市に古くから存在する吸血鬼の種族。
かつてはとある邸宅で起こった伝染病から生まれたとされ、200年以上前に人間との戦争に敗れた結果、今では都市の各区に一人ずつ長老血鬼が存在し、その規律のもとでひっそりと暮らしている。
正確には、完全な敵対ではなく、情報提供などで協会や組織に協力する代わりに、人間から生存に必要な少量の血を受け取る――持ちつ持たれつの関係だ。
ただし、規律を無視して暴れる血鬼もいるため、その存在は依然として恐れられていた。
ゼンノロブロイは、手紙の件を確認する。
「それで手紙にはなんて書いてましたか?」
『えっと……ディエーチ協会に依頼したいことがあるので、我が屋敷に来て欲しいと……』
ゼンノロブロイは少し考える。
「血鬼の第一眷属からの依頼とは……珍しいですね」
ライスシャワーは、少し青ざめた顔で尋ねた。
「でも大丈夫なのデジタルさん……? 確か血鬼の第一眷属って、凄く強いよね……」
血鬼は総じてかなりの強さを持つ。
特に始祖の血鬼に近い上位眷属は、都市の星クラスの実力者ばかりだ。
そんな相手の屋敷へ行くとなれば、いくらディエーチ協会でも気が重い。
しかもセントサイモンは、超がいくつ付くかわからないほど気難しい。
無闇な殺生をするわけではないが、普通に怖いタイプの血鬼ウマ娘である。
あまり関わりたくない、というのが正直なところだ。
『だ、大丈夫です! 私だってディエーチ南部支部長ですから!』
「……本音は?」
『滅茶苦茶怖いですぅ……!!』
ライスシャワーは思わず肩をすくめる。
「ど、どうするのロブロイさん……?」
ゼンノロブロイは少し沈黙してから、決断した。
「……ちょっと待っててください」
彼女は東部支部へ電話をかける。
今回の件は、単なる依頼確認ではない。
ラヴズオンリーユーたち4人が、実際にどこまで動けるのかを見る機会でもある。
そう考えれば、ちょうどいい。
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東部支部、支部長室。
メジロドーベルの端末が鳴る。
彼女はすぐに出た。
「……え、ラヴズたちをデジタルの護衛に!?」
電話の向こう、ゼンノロブロイの声は真剣だった。
『ええ。なので今すぐ4人を南部支部に派遣してください。第一眷属の血鬼は、特色フィクサーでギリギリタイマンが出来るかどうかの相手なので、何かあった時のためにお願いします』
メジロドーベルは、さすがに一瞬言葉を失う。
「わ、分かった……じゃあ4人に説明したら、すぐに向かわせるから……」
『お願いします』
通話が切れる。
ドーベルはしばらく天を仰ぎ、それから深く頭を抱えた。
「……ああもう、なんで初日からこうなるの……!」
初仕事の整理が終わったばかりだというのに、今度は血鬼の屋敷。
しかも相手は第一眷属。
ディエーチとしては、無視できない案件だった。
だが同時に、これはラヴズオンリーユーたちにとっても新しい実戦の始まりだった。
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ディエーチ協会の初仕事。
それは、単なる書庫整理では終わらなかった。
知識を集め、記録を残す協会。
その一員として、ラヴズオンリーユーたちはまたひとつ、都市の深い側面へ踏み込んでいくことになる。
そしてその先に待つのは、
血鬼という都市の夜の種族。
情報と血、礼節と恐怖、そして依頼。
彼女たちの“再出発”は、すでに静かに動き始めていた。