ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

210 / 210
ギャンブル

J社10区 巣 カジノ

 

ハナフダと別れたあとも、ナカヤマフェスタとシリウスシンボリはカジノを満喫していた。

 

ルーレットコーナー。

ディーラーの声が場内に響く。

 

「黒の20!」

 

「だぁー! またハズレかよ!」

 

ナカヤマフェスタは、少しだけ肩を落とした。

先ほどの花札では見事な逆転勝ちを収めたものの、運というものは気まぐれだ。

今の彼女には、その余韻はもうない。

 

シリウスシンボリが肩を竦める。

 

「ナカヤマ、さっきの五光の運はどこ行ったんだ? さっきから外れてばっかりじゃねえか。私は順当に勝ててるってのによ」

 

「チッ……運が途切れちまったか……」

 

「まっ、ここはゴールドランクだしな。極端に賭けず気楽にやってれば大負けはしないのが幸いだな」

 

「だが……イカサマも横行はしてるがな」

 

「私らはしないから関係ないことさ。ダイヤモンドクラスならともかく、イカサマは見抜けない方もマヌケだからな」

 

「それもそうだな」

 

ギャンブルにおいてイカサマは御法度だ。

しかし実際のところ、あまりにも露骨すぎなければ“勝負を盛り上げる程度の小細工”として見逃されることもある。

 

この区では、勝負の主役はあくまで客同士だ。

つまり、イカサマを見抜けずに負け続けるような者にも責任がある。

それがこの都市のルールだった。

 

もっとも、そんな理屈が通るのは、あくまで下位ランクまでの話だ。

 

ナカヤマフェスタがふと視線を上げる。

 

「……そういえば、なんかスタッフどもが騒がしいな。やけにザワついてるし、連絡を取り合ってるように見える」

 

「上でなんかあっただろうよ。プラチナクラス辺りは富裕層なんかの上客が多いしな」

 

その時、黒スーツのスタッフが小走りで近づいてきた。

 

「失礼します。ウーフィ協会のナカヤマフェスタ協会長。少々よろしいでしょうか?」

 

「……一応客で来てる私をそう呼ぶってことは、なんか依頼か?」

 

「はい。これからこのカジノのブルーダイヤモンドクラスで大勝負が始まるのですが、その立会人をするフィクサーが誰も名乗りあげなくて……そこで協会長様にぜひ立会人になっていただきたく……」

 

ナカヤマフェスタは、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「ブルーダイヤモンドクラスの立会人だと? 誰もやりたがらないって……一体何があったんだ? 少なくともここに常駐してるフィクサーたちにとっては、キャリアになる千載一遇のチャンスのはずだが」

 

「それが……プレイヤーの1人が親指のカポでして……」

 

シリウスシンボリが、あからさまに嫌そうな顔をした。

 

「親指? また面倒な客が紛れ込んだものだな。指が関わるギャンブルとなったらそりゃあやりたがらねえわけだ」

 

「そんな奴がなんでブルーダイヤモンドクラスにいるんだ? やっぱり相応に強いのか?」

 

「はい、このカジノのトッププレイヤーの1人です。親指のルールを押し付けることもせず、カジノのルールに従ってるので、流石に出禁にすることもできず……」

 

ナカヤマフェスタは、しばらく黙ったあと、短く笑った。

 

「なるほどな……分かった。引き受けるから案内してくれ」

 

「はい、こちらです」

 

---

 

ブルーダイヤモンドクラス

 

上層階に上がると、空気が変わった。

 

下層の喧騒とは真逆に、そこには厳粛で、重く、静かな空間が広がっていた。

明かりも少ない。

空気もどこか張り詰めている。

 

シリウスシンボリが懐かしそうに息を吐いた。

 

「ブルーダイヤモンドクラスか……私も来るのは久しぶりだ」

 

「……卓はどこだ?」

 

「こちらです」

 

案内された卓には、すでに二人の男性が座っていた。

 

一人は、いかにも巣の上流階級といった風貌の男。

そしてその対面に座るのは、親指の赤いコートとハットを着こなした、整った口ひげの男だった。

 

ナカヤマフェスタは、その男を見てすぐに理解した。

普通の客ではない。

親指の気配が、まるで肌に刺さるようだった。

 

「ウーフィ協会の協会長ナカヤマフェスタだ。今回の立会人を任された。言っておくが、ここでは指も翼も関係ない。双方ともにカジノのルールには従うように」

 

男は、落ち着いた声で答えた。

 

「ええ……存じておりますとも。今の私は一介のギャンブラー。今だけはギャンブルのルールに従いますよ」

 

ナカヤマフェスタは、あえて淡々と返した。

 

「なら良いな。あんたも親指が相手だからって、遠慮はなしでいいぞ」

 

対戦相手の男が、少し青ざめながらも言う。

 

「あ、ああ……もちろんだ。親指だからって怖くねえぞ……」

 

シリウスシンボリは、後ろから冷めた声を落とす。

 

「……いざって時はウーフィ協会東部支部長として私も介入するからな。ナカヤマ1人とは思わないように」

 

「ならそろそろ始めるぞ。ゲームは何をする予定なんだ?」

 

「ポーカーでございます」

 

「OK、なら私がディーラーもしよう。トランプを用意してくれ」

 

「はっ」

 

封印シール付きのトランプが持ち込まれる。

未使用の証。

つまり、この場にいる誰も手を付けていない。

 

ナカヤマフェスタは慣れた手つきで封を切り、カードをシャッフルした。

 

その時、親指のカポが静かに口を開く。

 

「そういえば立会人様に挨拶がまだでしたね。わたしの名はダービー。D'.A.R.B.Y。Dの上にダッシュがつきます」

 

「ダービーか……その名前、覚えておこう。……よし、配るぞ」

 

---

 

1戦目

 

ポーカーは、5枚の手札が配られ、それを一度だけ交換し、その役で勝負するゲームだ。

単純だが、賭け金が乗ると一気に心理戦になる。

 

「ところで、今日の賭け金はいくらなんだ?」

 

「チップは双方それぞれ6枚ずつ。1枚で1億眼です」

 

「計12枚で12億眼か……大勝負だな」

 

ダービーが薄く笑う。

 

「ええ……だから私としても久しぶりに楽しめそうですよ。さて、私が先手ですね……」

 

手札を見たあと、静かに言う。

 

「ならここは……コールします」

 

場代と合わせて2枚のチップが出る。

 

相手の男もコール。

そして交換タイム。

 

「2枚チェンジ」

 

「3枚チェンジだ!」

 

ナカヤマフェスタは、カードが何であるかを瞬時に把握していた。

長年の勝負勘だ。

カードを触れた感触で、おおよその中身が分かる。

 

最後の選択。

 

「じゃあ2人とも、最後はどうする?」

 

「コールです」

 

「コールだ!」

 

「よし……カードオープン!」

 

結果は、ダービーがツーペア。

相手はストレートだった。

 

「よっしゃあ!」

 

「おお……中々やるじゃないですか。そう来なくては面白くない」

 

ナカヤマフェスタは、表情を変えずに次のカードを配る。

 

「よし、次のゲームだ」

 

---

 

しかし2戦目、3戦目。

流れは妙にダービーに傾いた。

 

ナカヤマフェスタは、次第に違和感を覚え始める。

 

ダービーは強い。

しかし単純に運が良いだけではない。

 

(……ダービーには既にスリーカードがあったはずだが、それを蹴るだと?)

 

彼女は気付く。

ダービーは“勝てる役”をあえて捨てることがある。

そして、その後の一手で相手の心を折りに来る。

 

それはただのギャンブルじゃない。

**相手の判断そのものを壊すやり方**だった。

 

3ゲーム終了時点で、チップはダービーが10枚、相手が2枚。

相手は完全に追い込まれる。

 

ナカヤマフェスタは、静かに断言した。

 

(……なるほど……こいつは厄介な相手だな。少なくとも……このおっさんではダービーには勝てない)

 

---

 

4戦目

 

ここで負ければ、相手は終わりだった。

最低チップが足りなくなるからだ。

 

相手は必死に叫ぶ。

 

「ご、5枚チェンジだ!」

 

「ほらよ」

 

配られたのは、Aのフォーカード。

一気に希望が見えた。

 

ダービーも交換を行う。

 

「2枚チェンジ」

 

そして――。

 

「私はレイズします」

 

「レ、レイズ!?」

 

「ええ……残り8枚合わせて10枚ベットです」

 

相手は目を見開いた。

 

「ば、ばかな……! 俺のチップは2枚だぞ!」

 

「足りない分は借金で賄ってもいいですよ。親指としてはそれで構いません」

 

ナカヤマフェスタが確認する。

 

「……ここのカジノのルールではどうなんだ?」

 

「はい。不足金は当カジノが立て替えする代わりに、債務者には返済プログラムを受けてもらうことになっております」

 

「……ということだ。どうするんだ?」

 

「い、良いだろう! 勝負だ!」

 

「よし……カードオープン!」

 

「どうだ! Aのフォーカードだ!」

 

ダービーは、微笑みすら崩さずに言う。

 

「……残念でしたね。ストレートフラッシュです」

 

相手は、言葉を失った。

 

「……そ、そんな……」

 

ナカヤマフェスタは、静かに勝敗を宣告する。

 

「そこまで、チップが底をついたから、この勝負ダービーの勝ちだ」

 

相手は、そのまま床へ崩れ落ちた。

 

ダービーは、何事もなかったかのようにスタッフへ言う。

 

「ふふ、それでは、お金はいただいて行きますよ。スタッフ、いつも通り親指の口座に振り込んでおくように」

 

「は、はい!」

 

敗者はスタッフに引きずられ、奥へ連れて行かれる。

 

---

 

帰ろうとするダービーに、ナカヤマフェスタが声をかけた。

 

「……あんた、随分強いんだな。親指のカポなのに賭場に入り浸って大丈夫なのかよ?」

 

ダービーは、少しだけ口角を上げる。

 

「ご心配なく。私の趣味は親指の規律の範疇ですから。それではナカヤマフェスタ協会長。いずれまた会う時があれば」

 

そう言って、ダービーは賭場を後にした。

 

シリウスシンボリが、少し低い声で問う。

 

「……ナカヤマ、あいつどんな感じだ?」

 

ナカヤマフェスタは、しばらく黙ってから答える。

 

「……イカサマなしでも既にやばいが……イカサマがありならなんでもやってくるタイプだ。……私以外が立会人だったら、見抜けないサマをしてもおかしくない。幸い、協会長の前でサマをするほど馬鹿じゃなかったか」

 

「そうか……あいつとゲームする時が来たら気をつけないとな」

 

「ああ……さて、それじゃあ私らも帰るか」

 

「そうだな」

 

ナカヤマフェスタは、スタッフへ軽く手を振った。

 

「スタッフ、立会依頼の報酬は今日はなしで良い。……面白いものが見れたからな」

 

「分かりました。どうぞお気をつけておかえりください」

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