ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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外郭図書館 隠れた星

外郭、都市近郊地帯

 

都市の外――外郭。

そこは、頭によって不純物に認定された者たちが追放される、いわば都市の外側にあるゴミ捨て場に近い場所だった。

 

都市内部ですら安全と言える場所は少ない。

だが外郭は、それとは比べ物にならないほど危険で、過酷で、そして広大だった。

 

荒涼とした大地。

吹きつける風。

どこまでも続くかのように見える不毛の地。

その上には、危険な生物や怪物が静かに、しかし確実に息づいている。

 

少なくとも、まともに過ごすには相応の実力が要る。

それでもなお、外郭で暮らす人間は僅かながら存在していた。

身を寄せあい、小さな集落を作り、細々と日々を繋いでいる。

 

……無論、その生活がいつまで続くかは誰にも分からない。

 

「相変わらず荒涼としてるね外郭って。流石にこんなところで暮らすのはウチでもごめんかな?」

 

セブン協会長トランセンドは、伊達眼鏡の奥で周囲を見渡しながらそう言った。

 

その隣でデュランダルが頷く。

 

「とはいえ、エイト協会の人たちのように仕事、あるいは自ら好んで外郭で活動する方々もいるのは事実ですけどね」

 

「まあその辺は各々の目的があるからね。外郭って都市の禁忌が適用されない自由地帯だし、頭に目をつけられないようにするのは最適なんでしょ」

 

その少し後ろを、フリオーソが呆れたような顔でついてくる。

 

「……はぁ、結局2人とも図書館に向かうんですね……」

 

「まあね〜。頭にダメ元で申請してみたら通っちゃったから、こりゃもう行くしかないでしょ? ウチもセブン協会長としてずっと気になってたからね、図書館については」

 

「……問題は起こさないようにしてくださいね。あくまで調査という名目なので、喧嘩を売りに行く訳ではないのですから」

 

「もちろんだよん」

 

やがて、3人は外郭の大地にそびえる巨大な建造物を見つけた。

 

それは、樹木のようにも見える、不気味なほど堂々とした建物だった。

 

「おっ、あれが図書館かな? 分かりやすい見た目してるねほんと」

 

「ええ、では向かいましょうか」

 

---

 

図書館 入口

 

「いや〜、ついに来たねぇ図書館。なんていうか中々古風な場所だね。こうして実際に見ると、T社20区のアンティークな雰囲気に近いかな?」

 

「そうですね……でも、ここで数多の実力者たちが敗れて本にされたというのですから、気をつけるに越したことはないでしょう」

 

図書館の入口を見上げていると、パチン、という乾いた音がした。

 

突如として、ひとりの女性が現れる。

司書風の服を着ているが、ただ者ではない気配を纏っている。

 

「歓迎いたします、ゲストの皆様」

 

「おっ、噂をすればかな?」

 

フリオーソがわずかに姿勢を正す。

 

「もしかして貴方が館長の……」

 

「ええ。私が館長のアンジェラよ。……また都市のフィクサー協会から来たのかしら?」

 

トランセンドが軽く手を挙げる。

 

「話が早いね〜。ウチはトランセンド、セブン協会の協会長だよん。こっちは秘書のフリオーソ」

 

「はっ、セブン協会東部1課所属フリオーソと申します」

 

「私はセンク協会本部長のデュランダルです」

 

アンジェラは3人を順に見たあと、少しだけ目を細めた。

 

「……2協会の幹部がまとめてくるなんて珍しいわね。……何が目的かしら?」

 

「いや、別に喧嘩を売りにきたって訳じゃないんだけどね。ちょっとここにいるっていうローランさんに会いたいんだけどいいかな?」

 

「ローランに?」

 

「そうそう。まあ、ちょっとした取材と個人的な興味で色々聞きたいことがあるんだよね。黒い沈黙のこととか、諸々をね」

 

アンジェラは少しだけ肩をすくめた。

 

「そういうことなら別に良いわ。着いてきなさい」

 

「感謝するよん」

 

---

 

図書館内部

 

無数の書架。

静謐で、幻想的で、しかしどこか息苦しいほどの空気。

本の匂いと、戦場の気配が、奇妙に同居している場所。

 

その一角で、呼ばれてきたローランが3人と向き合っていた。

 

「あ〜……総記の階の指定司書のローランだ。……セブン協会とセンク協会の偉い連中が来たって聞いたけど……俺になんか用か?」

 

「おお、君がローランね。セブン協会の協会長トランセンドだよん」

 

「秘書のフリオーソと申します」

 

「センク協会の本部長デュランダルです」

 

トランセンドは、さも当然のように言った。

 

「まあ今回来た理由なんだけど、簡単に言えばローランさんに取材にきたんだよね。具体的には、ローランさんの得物のデュランダルと必殺技のFuriosoについて」

 

「俺のデュランダルとFuriosoについて?」

 

「そそ。この間、ローランさんの友人のオリヴィエさんと少しばかり話をしたんだけど、たまたまデュランダル本部長とフリオも一緒に居てね。そこから2人の名前繋がりでローランさんの話に繋がって、色々興味が出来たから会いに来たってわけ。オリヴィエさんも言ってたよ、2人を見てローランさんのことを想起したって」

 

ローランは、少しだけ目を丸くする。

 

「そういうことか……まあ確かに、俺の技と武器の名前のウマ娘がいるってのはなんだか親近感を覚えるが……そんなことで協会長が協会を留守にしていいのかよ?」

 

「だいじょぶだいじょぶ。溜まってた仕事は片付けて来たし。……で、色々聞きたいことはあるけど、まずは……ローランさんのデュランダルってどんな武器なの?」

 

「ああ、これだな」

 

ローランは黒い沈黙の手袋から、鞘に収められた黒い長剣を取り出した。

 

「……まあ一言でいえば、俺の長年の相棒だな。煙戦争の時代からこいつには何度も助けられてきたよ。かれこれ十数年近く壊れたことは一度もないし、切れ味も落ちたことはないからさ」

 

「これがデュランダルですか……」

 

「私と同じ名前を冠した剣……!」

 

「アンジェリカと一緒に都市の星だった血染めの夜を討伐した時も、このデュランダルが最後まで一緒だったからな。頑丈さに関しては結構気に入ってるぞ」

 

「なるほど、頑丈さが売りと……アンジェリカさんの形見の武器群とはまた違う思い入れがある感じかな?」

 

「ああ、黒い沈黙の武器と手袋はアンジェリカの形見だから大切なものであることは変わりないとはいえ、あくまであいつから借りてるだけだからな」

 

トランセンドが興味深そうに身を乗り出す。

 

「確かアンジェリカさんの武器は、アラス工房、ケヤキ工房、老いた少年工房、狼牙工房、ムク工房、クリスタルアトリエ、ロジックアトリエ、ホイールズインダストリーの8つの工房製の武器なんだよね」

 

「そうだ。あいつが特に気に入ってたのはケヤキ工房のメイスと斧だったな。……あいつ結構馬力があったから、工房製の武器でも十分強かったんだよな。まあもちろんどれも1級品だけどな。安物を特色フィクサーが買うわけないし。とはいえ、1回俺が興味本位でムク工房の最高級品を触って壊した時はまじで焦ったこともあったな」

 

「なるほど……それにしても、相方で奥さんとはいえ、他人の武器の使い方と戦い方を遜色ないほど真似できるのは中々すごいと思います。ローランさん自身の才能でしょうか?」

 

「あいつの戦い方は1番近くで見てたからな。元々誰かの真似をするってのは得意だったし、デュランダルと合わせて12種類の武器を使い分けるっていうのもすぐに慣れたよ」

 

デュランダルが、少しだけ声を弾ませる。

 

「ではローランさんが編み出したという必殺技のFuriosoは、どのように思いついたのです?」

 

「Furiosoか……まあ一言でいえば、俺の都市に対する溜まった恨みや怒りを吐き出すための、がむしゃらな技って感じだな。あまり思い出したくはないが、我を見失って暴れてた時期に編み出したんだ。なんだかんだで今じゃ俺の持ち技になってるけどな。アンジェラからも、俺と言えばフリオーソって言われてるし」

 

「一応オリヴィエさんから話は聞いてるよ。12種全ての武器を用いて相手を微塵切りにする技って」

 

「そうだ。ロジックアトリエの銃、アラス工房のランス、老いた少年工房のハンマー、ムク工房の刀、狼牙のガントレットと短剣、ケヤキ工房のメイスと斧、ホイールズインダストリーの大剣、クリスタルアトリエの双剣、そしてデュランダル。俺のありったけをぶつけるんだ。一応こだわりもあって、最後のフィニッシュはアンジェリカの武器じゃなくて俺のデュランダルって決めてるよ」

 

トランセンドは感心したように吹き出した。

 

「へぇ、中々派手そうだね。必殺技なだけあって、やっぱり並の人間なら耐えられないでしょ?」

 

「一応俺の必殺技だからなFuriosoは。普通の人間であれば、何度死んでもお釣りが来るぐらいだよ」

 

その物騒すぎる一言に、フリオーソの顔がわずかに引きつる。

 

トランセンドは、少し考えるような表情をしたあと、ふいに言った。

 

「なるほどね〜。……ねえフリオ、ちょっと頼みたいことあるんだけどいいかな?」

 

「……なんか嫌な予感しますけどなんでしょうか?」

 

「せっかく図書館に来て伝説のフィクサーのローランさんに会えたんだし、1回手合わせしてみない? デュランダル本部長と一緒に」

 

「なんでですか!?」

 

「だってフリオはローランさんの技を冠してるわけだし、デュランダル本部長は剣の名前だし、偶然とはいえ縁があるんだから中々良いと思うんだけどどうかな?」

 

「嫌ですよ! 私、貴方の秘書とはいえ2級フィクサーですよ!? 元1級フィクサーのローランさんに勝てるわけありませんって!」

 

「そうです。それにトランセンド協会長、今回の図書館へ赴いたのはあくまで調査です。戦いに来たわけではないので、そういうことは控えた方が……」

 

トランセンドは、にこっと笑った。

 

「……ローランさんのデュランダルと剣を交えれるかもしれないよ?」

 

「やはり伝説のフィクサーローランさんの実力を知るというのは立派な調査ですからね。ええ、これは紛うことなき調査ですとも!」

 

デュランダルが一瞬で手のひらを返し、フリオーソが絶望の顔になる。

 

「し、しかしトランセンド協会長が乗り気でも図書館の人達がどう思うかは……!」

 

ローランが、心底面倒くさそうな顔をする。

 

「正直俺も面倒くさいんだけど……」

 

その時だった。

 

「面白そうね。ローラン、せっかくだし接待してあげなさい。貴方も全力を出して構わないわ」

 

アンジェラの声だ。

 

「……やっぱりアンジェラはこう言うよな」

 

「へへっ、というわけでフリオ、館長様の許可も頂いたし、準備お願いね。ウチは戦いの様子を記録するために不参加だからよろしく」

 

「……はい」

 

色々諦めたフリオーソが、渋々前へ出る。

 

図書館の招待は、こうして“接待”へと変わった。

 


 

黒い沈黙の接待

 

総記の階には、壁際までぎっしりと本が積まれていた。

紙の匂い、革表紙の重み、そして静寂。

だがその静けさは、戦いの前にだけ訪れる薄い膜のようなものだった。

 

黒いスーツに身を包み、手袋をはめたローラン。

そして向かいに立つデュランダルとフリオーソ。

三人が、それぞれの得物を構えたまま見据え合う。

 

「よし、そろそろ始めるか」

 

「よろしくお願いします!」

 

「はぁ……まあ、やるからには全力でいきます」

 

部屋の端では、トランセンドとアンジェラが静かにその様子を眺めていた。

 

「フリオとデュランダルさんの実力はウチも中々評価してるけどね〜。伝説のフィクサーローランさんにどこまで渡り合えるかな?」

 

「さあね。けれど、ローランはこの図書館では3番目の実力者よ。そう簡単には勝てない相手と思ってちょうだい」

 

「ちなみに1番目と2番目は?」

 

「元赤い霧のゲブラーと、元調律者のビナー。今は席を外してるけどね」

 

「へぇ? ……まあ今は戦いを見守ろっか」

 

ローランは静かに手袋を握り、

デュランダルはセンク協会のレイピアを、

フリオーソはセブン協会の長剣を、それぞれ正面へ向けた。

 

「じゃあ3人とも準備は良い?」

 

「もちろんです!」

 

「いつでもどうぞ」

 

「おう、いいぞ」

 

「……始め」

 

トランセンドの合図と同時に、三人が同時に踏み込む。

 

「サリュー!」

 

「ムリネ!!」

 

デュランダルとフリオーソが、鋭い斬撃をほぼ同時に放つ。

二方向から迫る刃を、ローランは最小限の動きでいなした。

 

「おっと、流石に動きはいいな。ならこっちも行くぞ、デュランダル!」

 

手袋の内側から瞬時に武器を引き抜き、ローランが反撃する。

金属音がいくつも重なり、火花が散った。

 

ガキン! キン!

 

「っ! 一撃が重い……! これが伝説の1級フィクサーの力……!」

 

「でも、防げないほどではありません! まだまだです!」

 

デュランダルとフリオーソは完璧ではないものの、十分に息の合った連携でローランに食らいつく。

対するローランは、デュランダルを主軸にしつつ、必要に応じて他の武器へ持ち替え、二人の呼吸をずらしていく。

 

アンジェラが静かに呟いた。

 

「あの2人、別協会の所属なのに良い連携ね。流石はフィクサー協会の幹部といったところかしら?」

 

「まあね〜。完璧にはできないけど、あの2人ならある程度なら即興で相手に合わせることは出来なくもないよん。とはいえ、ローランさんも2人の連携を崩すために時々違う武器で翻弄してるのも流石だね」

 

ローランは肩を回しながら、少しだけ口角を上げた。

 

「どうした? もうバテたのか? まだ俺はそこまで本気じゃないぞ」

 

「ふぅ……! いいえ、まだまだです!」

 

「貴方の戦い方は大体分かって来ました。私だってまだ行けます!」

 

「そう来なくちゃな!」

 

ガキン! キン! ドゴォン! バァン!

 

剣戟が重なり、図書館の空気が熱を帯びていく。

三人の足運びは速く、武器の軌跡はどんどん鋭く、激しくなっていった。

 

そしてしばらくして、ローランがふっと息を吐く。

 

「よし、そろそろ温まってきたし本気で行くぞ」

 

その言葉と同時に、彼は黒い認識阻害の仮面を被った。

空気が変わる。

さっきまでの軽口混じりの応酬が、ひとつ段階を上げた。

 

「っ! 来ますよフリオーソさん!」

 

「はい!」

 

デュランダルとフリオーソが先手を取ろうと踏み込む。

だが――

 

「遅い!!」

 

ローランは二人の攻撃を、手にしたデュランダルで弾いた。

そして、そのまま一気に踏み込む。

 

「行くぞ、Furioso!」

 

バンバン! ザシュ! ドン! ザシュン!

ザシュザシュザシュザシュ! ザシュ!!

ドゴォ! ドン! ドゴォン! ザシュ! バァン! ザシュ! ザシュ! ザシュ!

 

ロジック、アラス、老いた少年、ムク、狼牙、ケヤキ、ホイールズインダストリー、クリスタル。

都市の工房が生んだ武器群が、予測不能な連撃となって襲いかかる。

 

「ぐっ……!」

 

「速い……!」

 

最後にローランは、デュランダルで二人へ三連の斬撃を叩き込んだ。

 

「トドメだ! デュランダル!」

 

「ぐはぁ!」

 

「ぐっ……!」

 

二人が同時に膝をつく。

接待は、そこで終わった。

 

アンジェラが、淡々と告げる。

 

「そこまで。接待終了よ」

 

トランセンドが息を漏らす。

 

「うーん、流石に勝てなかったか。まあでも結構頑張ってたほうだね」

 

フリオーソは肩で息をしながら、何とか顔を上げる。

 

「はぁ……はぁ……これが伝説のチャールズ事務所元隊長のローランさん……」

 

デュランダルも、レイピアを下ろして静かに礼をする。

 

「ふぅ……お見事でしたローランさん。このデュランダル、まだまだ未熟であったと自覚いたしました」

 

ローランは仮面を外し、少しだけ肩をすくめた。

 

「お前たち2人も十分強かったよ。流石は協会の幹部だな」

 

フリオーソが、ぐったりしたまま視線をトランセンドへ向ける。

 

「はぁ……協会長、これで十分ですか?」

 

「もちろん! ローランさんの実力も十分わかったし、ウチとしても大満足だよん! フリオも良い手合わせになったんじゃないの?」

 

「まあたしかに……伝説のフィクサーのローランさんと戦えたのは非常に嬉しいですが……」

 

「でしょでしょ? この経験でフリオもきっともっと強くなるよ! 将来的にセブンの支部長や本部長になったりとかね」

 

「……はぁ、まあひとまずこれで満足したなら帰りますよ。ハナ協会と頭への報告書も書かないと行けませんし」

 

「そうだね〜。じゃあウチらはそろそろ帰るよん。ローランさんはデュランダルさんとウチのフリオと戦ってくれたし、アンジェラさんも許可くれてありがとうね」

 

ローランは、再びいつもの軽い調子に戻る。

 

「まあまた気が向いたら来いよ。接待ならいつでもやってやれるぞ」

 

アンジェラは、相変わらずの冷静な声で返した。

 

「またの来館お待ちしております」

 

「ええ、では失礼します」

 

3人が図書館を去り、アンジェラとローランはそれぞれの仕事へ戻っていく。

図書館に、再び静寂が満ちた。

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