8区 黎明事務所・リビング
午後の陽射しがカーテン越しに差し込み、テーブルに置かれたクッキーがほんのり温まっている。
サイレンススズカは紅茶を淹れながら、優しく微笑んだ。
「ふふ、スペちゃんもようやく都市伝説の案件をこなせるようになってきたわね」
スペシャルウィークは両手を握りしめて、満面の笑み。
「はい! 正直怖い任務ばかりですけど、頑張っています!」
キングヘイローは腕を組み、得意げに鼻を鳴らす。
「スペシャルウィークさんもようやく6級に昇格したんだから、都市伝説程度で怖がっていてはダメよ。
いずれは都市疾病の案件にも関わってもらうんだから」
スペシャルウィークは少し顔を青くして。
「都市疾病……うう、解決できるでしょうか……」
サイレンススズカはそっと肩に手を置いた。
「大丈夫よ。最初の内は私たちがついてるから」
「そうよ、1歩ずつ成長していきましょ」
スペシャルウィークは目を輝かせて立ち上がる。
「スズカさん……所長……! はい! 分かりました!」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「お邪魔するよ〜」
「失礼いたします」
扉を開けると、和やかな笑顔のトレス協会長グラスワンダーと、のんびりしたエイト協会長セイウンスカイが立っていた。
「あら、グラスさんにスカイさん。直接会うのは久しぶりね」
「お久しぶりです、キングさん」
「にゃはは、ここも変わってないね〜。なんだか落ち着くよ」
サイレンススズカは丁寧に一礼。
「ようこそ、グラスワンダー協会長にセイウンスカイ協会長」
グラスワンダーは優雅に微笑みながらスズカを見る。
「貴方がスズカさんね。キングさんから話は伺っています。
都市伝説を一人で鎮圧したとか。流石ですね」
セイウンスカイはスペシャルウィークに視線を向けてにこにこ。
「で、そっちがスペシャルウィークかな?
キングがよく話してるよ〜」
スペシャルウィークはぺこりとお辞儀。
「初めましてセイウンスカイさん! スペシャルウィークです!
所長が話してるって……どんな風にですか!?」
セイウンスカイは悪戯っぽく笑う。
「えっとね〜、『黎明事務所の新人で元気いっぱいだけどかなり危なっかしくて目を離せない新米フィクサー』だったかな?」
スペシャルウィークは顔を真っ赤にして飛び上がる。
「ええ!? ちょっと酷いですよ所長!!」
「だってそうじゃない。
ちょっと前まで貴方、都市怪談の任務で失敗することも多かったでしょ?」
「うう……」
グラスワンダーはくすりと笑って仲裁。
「キングさん、あまり新人をいじめちゃだめですよ?」
「そうね。まあ今はしっかりやってるし、これぐらいで勘弁してあげるわ」
サイレンススズカは優しくスペシャルウィークの背中を撫でる。
「スペちゃん、今の貴方はちゃんと頑張ってるからね」
「それでグラスさんにスカイさん、なんの用かしら?
協会長が二人揃って来るなんて、ただの里帰りじゃないんでしょ?」
セイウンスカイはにやり。
「流石鋭いねキングは〜」
グラスワンダーは静かに告げた。
「実は最近、ある都市疾病の案件が都市悪夢に昇格したのですが、
発生場所が8区だったのです」
「そこでせっかくだから黎明事務所のキングヘイローに任せてみたらいいんじゃないかなって私たちが進言したんだよね〜。
キング、もしこれ鎮圧出来たら……多分1級フィクサーになれると思うんだけど、やってみない?」
キングヘイローの瞳が、ぱっと輝いた。
「都市悪夢ですって? いいわ!
その任務、このキングヘイローがバッチリ解決してあげるわ!」
スペシャルウィークは慌てて立ち上がる。
「ええ! 所長、都市悪夢なんて危険すぎますよ!
もし死んじゃったりしたら……!」
キングヘイローはスペシャルの肩に手を置き、力強く宣言した。
「大丈夫よスペシャルウィークさん!
このキングは都市悪夢なんかには負けないわ!」
サイレンススズカも静かに頷く。
サイレンススズカ
「そうよスペちゃん、所長なら大丈夫よ」
スペシャルウィークは唇を噛み、それでも信じるように頷いた。
「……分かりました……所長を信じてます!」
「ま、何かあった時のために私たちもついて行くから心配しなくていいよ〜」
「あら、そうなの?」
「ええ、キングさんの任務における実力の査定も兼ねていますので」
「そういうことなら……私の実力をとくと見せてあげるわ!」
「それじゃ行こっか〜」
三人は事務所を出て、裏路地へと消えていった。
残された二人は、玄関で見送る。
「頑張ってください所長!!」
「所長……おかえりお待ちしております」
8区・裏路地 夕暮れ
薄暗い路地に、歪んだ空気が渦巻いている。
壁には不気味な落書きが蠢き、地面には血のような赤い染みが広がっていた。
「ここが都市悪夢の発生場所かしら?」
「ええ、案件の名前は『妙日の契約』というねじれですね」
「ふん! どんな相手でも出てきなさい!」
やがて、空気がねじれ、巨大な影が現れる。
無数の契約書が宙を舞い、赤い文字で「永遠の幸福と引き換えに魂を」と囁く。
「こいつがねじれね! 早速鎮圧するわ!」
「さて、それじゃあ今のキングのお手並み拝見だね」
戦闘開始。
キングヘイローの扱う武器はそこそこ高価な工房であるブレーヴ工房製の短剣であり、扱いやすさと威力の両立を体現した武器だ
ガキン!キン!ザシュッ!
「ふっ!はぁ!」
風を切り裂く音と共に、
ウマ娘の脚力を活かした素早い移動速度と連撃で少しずつねじれを追い詰める
「キングちゃんの戦い方前より良くなってるね〜、確か最近強化施術も受けたと聞いたけど」
「ええ、リーズナブルなものだったとはいえ、受ける前とは別人の動きです。」
「ふふ!良い調子ね!さあ!そろそろ終わらせるわよ!」
ガキン!ガキン!ガキン!ザシュッ!ビリッ!ドゴン!
「これで終わりよ!」
一閃。
ドゴォォォォォォン!
ねじれは断ち切られ、霧散した。
鎮圧完了。
「はぁ、はぁ!や、やったわ!私ついに都市悪夢に勝ったわよ!」
「お疲れ様でした、キングさん」
「おめでとうキング。とりあえずこの戦いはハナ協会に報告するよ〜。 無事に倒せたし、1級昇格は確実だね〜」
キングヘイローは静かに微笑んだ。
「……ええ! ありがとう二人とも!」
帰り道、夕陽が三人を優しく照らす。
「にしても、あのスペシャルウィークとかいうフィクサー、純粋な性格だったね。
都市じゃ珍しいよ、あんな瞳をするウマ娘は」
「ええ、彼女は巣の出身なんですか?」
「いいえ、裏路地の出身よ。でも確か25区の裏路地だったはず」
「25区? 随分北の場所からやってきたんだね。
あの辺って確かそれなりに平和な場所のはずだし、それならあの性格も納得心いくよ」
キングヘイローは少し遠い目をして、静かに語り始めた。
「……以前話してくれたんだけどね。
彼女、早くに産みのお母さんを亡くして、育てのお母さんに育てられたみたいなの」
「えっ……!? そうだったのですか?」
「でも、愛情たっぷりに育てられたから、
そんな気配微塵も感じさせない、あの性格に育ったみたいよ。
フィクサーになった理由も、『二人のお母ちゃんに誇れるウマ娘になるため』だってね」
「誇れるウマ娘ね……
でもフィクサーって汚れ仕事も結構やるけど、大丈夫かな?」
キングヘイローは静かに、けれど力強く答えた。
「まあ、その時はその時よ。
でも、あの子の純粋さは……上司として、出来るだけ守るようにするわ」
グラスワンダーは優しく微笑んだ。
「流石キングさんですね」
事務所に戻ると、玄関で待っていた二人が飛びついてきた。
「所長おかえりなさい!! 無事でよかったぁ!!」
「所長……お帰りなさい。本当に……よかった……」
キングヘイローは照れくさそうに笑いながら、二人を抱きしめた。
「ただいま。
……そして、報告があるわ。
私、これで1級フィクサーよ!」
「ええええええ!? 本当ですか!?」
「所長……おめでとうございます!」
キングヘイローは緑の短剣を軽く掲げ、誇らしげに宣言した。
「長かったけど...これで私も1級!一流のフィクサーになれたわ!」
スペシャルウィークは目を丸くして、飛び跳ねる。
「すごいすごいすごい!! 所長かっこよすぎます!!
私もいつか1級になりたいです!!キングヘイロー所長に負けないフィクサーになります!!」
キングヘイローは優しくスペシャルの頭を撫でた。
「ふふ、楽しみに待ってるわよ、スペシャルウィークさん」
夕陽が事務所を黄金色に染める。
夢見る少女は今日も、
一歩ずつ確実に、未来へと歩み出していた。
グラスワンダー
トレス協会長
工房を統括するトレス協会の協会長
工房への課税徴収を担当してるだけあって帳簿管理が得意。
おしとやかな大和撫子のウマ娘だがその素顔はとても負けず嫌い
セイウンスカイ
エイト協会長
外郭および大湖関連の調査を統括するエイト協会の責任者
普段はいつも眠そうにしてるつかみどころのないぐーたらなウマ娘だが、内心は闘争心が強く、いざという時は協会長として都市の実力者の風格を出す
釣りが趣味。