I社9区 裏路地・深夜
ネオンが濁った雨に滲み、地面に赤と青の水溜まりを作っている。
血と油の匂いが混じった風が、ビルの隙間を這い回る。
ナリタブライアンは、青いコートを翻して路地を歩いていた。
両手に装着された東部センクの手袋が、まだ熱を帯びて赤く光っている。
今日の仕事は、いつものように一人で片付けた。
依頼人の首を拳で潰し、報酬を受け取り、誰とも言葉を交わさない。
それが彼女の流儀だった。
「……ふぅ。
今回の仕事も面倒だった。
だがこれで久しぶりにゆっくりできる……」
その瞬間。
「ああー! ブライアンじゃない!」
跳ねるような明るい声が、雨音を突き抜けて響いた。
ブライアンの肩が、ぴくりと震える。
「うっ……! この声は……!」
振り返るまでもなく分かった。
白いコートに大きな青いハット。
腰に細身のレイピアを吊るした西部センク所属、特色「水色の女王」アーモンドアイが、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「久しぶりね! ブライアンは仕事終わり?」
「……チッ。
面倒な奴に出会った……お前なんで東部にいるんだよ...」
ブライアンは露骨に舌打ちし、踵を返そうとする。
「ちょっと! そんなこと言わないでよ! 同僚でしょ!」
「悪いが私は誰とも馴れ合う気はない。
一人で生きていくだけだ」
アーモンドアイは頬を膨らませ、ブライアンの前に立ち塞がる。
「ええー! そんなの寂しいじゃない!
それにブライアン、野菜嫌いで私がみてないといつも残してるでしょ!」
「ふん。
野菜なんてなくても生きていける」
「そんなこと言ってると、ただでさえ過酷な都市なのにさらに寿命が縮まるわよ!
私がしっかり食生活を管理してあげるから感謝しなさい!」
ブライアンはため息をつき、額を押さえた。
「……個別の仕事の多いセンク協会で、そんなこと言うなんてお前も変わってるな」
「ええー? だって別に私がしたいからしてるだけだし!
それにせっかく出会った友人が死ぬところなんて見たくないからよ」
アーモンドアイは真っ直ぐにブライアンの瞳を見つめ、にっこり笑う。
ブライアンは視線を逸らし、小さく鼻を鳴らした。
「……ふん」
(照れ隠しで)
「何よその不満そうな顔!
とりあえずこれから野菜の大切さをみっちり教えてあげるわ。
ほら、あそこの屋台飯でも食べに行くわよ!」
アーモンドアイはブライアンの腕を掴み、強引に引っ張っていく。
「チッ……分かったよ」
ブライアンは渋々従いながら、ふと呟いた。
「……お前、協会長からの命とはいえ本当に特色なのに5課にいるんだな」
アーモンドアイの足が、一瞬だけ止まる。
「……まあね、ヒシアマさんもちょっと無茶ぶりだったけど、普段世話になってるから。
って、ブライアンも1級で東部の5課じゃないの。お互い様よ。
そんなことより、さっさと野菜食べに行くわよ」
彼女はすぐに笑顔に戻り、再び歩き出した。
雨が少し強くなった。
白と青のコートが、濡れたアスファルトに並んで映る。
東部センク協会・5課の一匹狼と、
西部5課の「水色の女王」。
明日も生きていられる保証なんて、どこにもない。
だからこそ、今夜くらいは。
「……ピーマンだけは勘弁してくれ」
「だーめ♪ 今日は特盛よ!」
「……最悪だ」
ブライアンの小さな笑みが、雨に溶けて消えた。
それでも、彼女は歩いていく。
誰かの温もりを、ほんの少しだけ感じながら。
この都市で、
それがどれだけ貴重なことか、
二人ともちゃんと知っていた。
ナリタブライアン
東部センク協会5課 1級フィクサー
個人単位の仕事が多いセンク協会らしい一匹狼のウマ娘であり、基本的に誰とも関わりを持とうとしない。 アーモンドアイに私生活への干渉をされているのを鬱陶しいと思ってるが本心ではどこか嬉しそうである。
なぜ1級で5課なのかは誰にも言っていない
アーモンドアイ
西部センク協会 特色フィクサー「水色の女王」
特色なだけあって実力は確かだがとにかく完璧主義であり少しの不備でもあると納得しない負けず嫌いなウマ娘。部署は違うが友人であるナリタブライアンの不健康な生活を変えようとしており、ちょっと過保護気味。真っ直ぐな性格であると同時に都市の過酷さを理解しており、明日も生きてるとは限らないという厳しさを教訓にしている。