ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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泡沫の叢雲と過去の離散

センク協会本部・協会長執務室

 

窓から差し込む西日が、机の上に散らばった書類を赤く染めている。

 

協会長ヒシアマゾンは椅子にどっかり腰を下ろし、大きく伸びをした。

 

「いやー悪かったね二人とも!

 わざわざ本部まで来てもらって、手伝ってもらっちゃってさ!」

 

アーモンドアイは書類の束をぴしりと揃えながら、涼しい顔で答える。

「別に構わないわよ。

 私の完璧主義にかかれば、こんな書類の山なんて朝飯前」

 

ナリタブライアンは壁に寄りかかったまま、腕を組んで鼻を鳴らした。

「ふん。アマさん。あとで美味いもん作ってくれよ」

「おう! 好きなだけ作ってやるさ!

 ステーキでも鍋でも、何でも来い!」

 

「まったく……ブライアンも協会長に甘えるのはそろそろやめたらどう?

 ハヤヒデさんにも甘えてるって聞いたけど」

 

「私が甘えてるんじゃない。

 姉貴とアマさんが勝手に甘やかすんだ」

「もう……」

 

ヒシアマゾンは腹を抱えて笑った。

「ははは!アタシは全然構わねぇよ!」

 

アーモンドアイは小さくため息をつき、最後の書類にサインを入れる。

「……あ、そうだった協会長。

 西部の実力底上げ、ようやく大体終わったわ」

「おっ!終わったか!どんな感じだい?」

「最後に残ってた5課の指導が年単位でかかったけど、

 1課から6課まで、ハナ協会に準ずるレベルまでは引き上げられたと思う。

 私の完璧主義に不備はないわ」

「流石アイだね!

 じゃあ、元の西部1課に戻ることにするかい?」

「そうするわ。

 図書館の事件が終わった直後に協会長から

 『西部センク全体の実力向上のために指導してくれ』って言われた時は、

 正直どれだけかかるか分からなかったけど……

 思ったより早く終わって、私も嬉しい限りよ」

 

「はは! アイの完璧主義は相変わらずだね!」

「まあ、アイの実力なら1課が妥当だ。

 特色に5課なんて似合わないからな」

 

アーモンドアイはふと手を止めて、ナリタブライアンを見た。

「……ねぇブライアン。一つ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「ブライアンだって1級なのになんで東部5課にいるの?

 私みたいに協会長から特別指令を受けてるわけじゃないでしょ?」

 

部屋の空気が、わずかに重くなる。

「アイ、あんま人の秘密を詮索したりすんじゃないよ」

「……いや、アイになら話してもいいかもな」

 

「ブライアン、いいのかい?」

「アイのことは信頼してる。

 それに色々世話になったしな」

 

ヒシアマゾンは静かに頷き、口をつぐんだ。

 

ナリタブライアンはゆっくりと語り始めた。

「アイ、私が何故5課にいるかを話す前に……

 私の過去を、少しだけ知ってもらうぞ」

 

「ブライアンの過去……?」

 

「……私はセンクに来る前、あるフィクサー事務所にいた」

「フィクサー事務所?」

「ああ、終生事務所って言って、マルゼンスキーが所長をしていた」

 

「マルゼンスキーって...深紅の天女のマルゼンスキー?」

 

「ああ、他のメンバーはシンボリルドルフ、エアグルーヴ、カツラギエース、オルフェーヴル、ミスターシービー、メジロラモーヌだ」

「ええ!?全員現在でも名だたるフィクサーばかりじゃないの!」

「そうだ。同じ事務所でも私はルドルフやエアグルーヴと任務をすることが多かった。3人で色んな都市災害を鎮圧したり、バカ騒ぎしたり……正直、あの頃は楽しかった」

 

彼女は遠くを見るような目で続けた。

「……でも、ある時、D社4区で都市悪夢が発生した。

 名前は『泡沫の叢雲』。

 色々あった末に私たちの事務所に案件が回ってきて総出で出動したこともあって鎮圧には成功したんだが……

 民間人にそれなりの被害が出た。無論私たちにだって。...少し前ミスターシービーが不純物に指定された案件があっただろ?」

 

「えっと...確か頭の禁忌に違反したけど滅茶苦茶逃げ回ったからハナ協会まで出動することになったあれよね?」

 

「この間オルフェーヴルからことの真相を聞かされたが、泡沫の叢雲の時にオルフェーヴルが死にかけて、シービーの恋愛感情が歪んだのが原因だったそうだ。あの時期オルフェーヴルとシービーは喧嘩も多かったが仲のいいコンビでもあった。...あの時のシービーの悲痛な表情は忘れられないさ」

 

アーモンドアイは静かに聞き入る。

 

「...話を戻すとあの案件では冗談抜きで全滅しかけてな、オルフェとエースが早いうちに戦線離脱してマルゼンとシービーがその応急処置をしてる間に残った4人で戦って何とか倒したんだ...」

 

「...でもそれなら良かったんじゃないの?みんな生きてるんでしょ?」

 

「肝心なのはここからだ、民間人の被害者の中に、ルドルフの娘がいた。

 名前は『ツルマルツヨシ』と『トウカイテイオー』」

「……え」

「二人とも命は助かった。

 でも、ツヨシは軽傷だったが、テイオーは重傷で一時は死にかけだった。

 ……それが逆に、ツヨシには辛かったんだろうな」

 

彼女の声が、少し震えた。

「鎮圧後、ツヨシはルドルフに……

 『なんでもっと早く倒してくれなかったんだ!』って泣きながら責めた。

 それがきっかけで、ルドルフは少しずつおかしくなっていったのさ」

 

ナリタブライアンは拳を握りしめた。

「...あの案件を受ける少し前に、ルドルフにシ協会からスカウトが来ていたんだ。もっとも最初アイツはハナ協会に行くために断ると言っていた、あの頃から幸福な奴を一人でも増やすと理想に燃えていたからな。だがあの案件の後、一転してシ協会に行くと言い出したんだ。」

 

「えっ...な、なんで...」

 

「...『この都市で綺麗ごとは通用しない、でも不幸を全て消せば幸せだけが残る』...そう言ってあいつは東部シ協会に異動した」

 

アーモンドアイは息を呑んだ。

「...そしてあいつについていくと言っていたエアグルーヴもその言葉を聞くと失望したかのようにルドルフを見限り、ウーフィ協会に異動したんだ」

 

「じゃあブライアンや他のメンバーは?」

 

「私は元々最後の案件が終わり次第センク協会に来るつもりだったからそのまま離れた。オルフェとシービーはコンビを組んでフリーの特色として動くことになって、エースは事務所を畳んだマルゼンについていき、ラモーヌは都市をしばらく旅した後北部ハナに収まったよ」

 

ヒシアマゾンが静かに口を開いた。

 

「あの時期アタシは東部支部長として働いていたんだが、ブライアンの奴から事情を聞いて絶句したよ。当時の終生事務所の評判は凄かったからな。あいつらが全滅しかけるなんて正直信じられなかったさ」

「私が東部5課にいる理由は……

 エアグルーヴやルドルフと、なるべく顔を合わせないためだ。

 交流イベントは4課以上が主催するから、

 5課なら気まずくならずに済む」

 

アーモンドアイは静かに頷いた。

「そういう理由だったのね……

 テイオーとツヨシは今どうしてるの?」

「あいつらはディエーチ協会に世話になってる。

 ツヨシはルドルフを責めたことを後悔してるし、

 テイオーもいつかルドルフに会う気満々だった。

 二人ともフィクサー志望らしい。

 ……ただ、ルドルフはまだ引きずってるみたいで、会うのが怖いらしいな」

「……ブライアンは、もうルドルフやエアグルーヴと和解したんでしょ?」

 

「まあな。プライベートではそこそこ会うようになった。

 でも、5課の居心地に慣れちまって……

 アマさんに無理言って、まだ置いてもらってるんだ」

 

「ブライアンの実力は1課どころか特色にも匹敵するからな。

 任務は1課や2課レベルのものを回してるよ」

 

ナリタブライアンはアーモンドアイをまっすぐ見た。

 

「アイ、言っておくが……

 この話は他言無用だぞ。

 ルドルフの奴に知られたら面倒だからな」

 

アーモンドアイは静かに微笑んだ。

 

「分かってるわよ。

 誰にも話さない」

 

部屋に、静かな沈黙が流れた。

 

かつての仲間たちは、

それぞれの場所で、

それぞれの傷を抱えながら、

それでも前を向いて歩いている。

 

過去の離散は、

今も誰かの胸に残っている。

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