ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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皇帝の後悔

シ協会本部・応接室

 

窓の外は、いつもの灰色の空。

赤いカーテンが揺れるたびに、室内がわずかに血の色に染まる。

「久しぶりね、ルドルフ」

「おう! ルドルフ! 元気してたか?」

 

シンボリルドルフは静かに立ち上がり、二人の前に歩み寄った。

「君たちも元気そうだな、マルゼン、エース」

 

マルゼンスキーは優雅にソファに腰を下ろし、長い髪をかき上げる。

「もちろんよ!

 リンバスカンパニーの契約フィクサーとして、エースちゃんと一緒にバリバリ働いてるわ!」

 

カツラギエースは拳を軽く鳴らしながら、にやりと笑う。

「おう! 最近も黄金の枝集めで大忙しだぜ!」

 

シンボリルドルフは小さく微笑み、二人に向き直った。

「そうか……君たちが元気なら、それでいい」

「それで、ルドルフはどう?

 シ協会の協会長として、ちゃんとやってる?」

「ああ。最近は協会も落ち着いている。

 そこまで忙しくはなっていないな」

「それは良かった。

 一昔前のシ協会は過密労働で死にそうだったもの」

 

シンボリルドルフは苦笑いを浮かべた。

 

「はは……私が配属された頃は、まさに地獄だった。

 協会長になるまでには、随分と骨を折ったよ。

 だが、協会長になってからは改革を断行した。

 今では、どの支部もそこまで酷い環境にはなっていない」

 

「ルドルフの改革って、相当大変だったんだろ?

 どうやって押し通したんだ?」

 

「反対派の幹部を全て辞めさせ、

 私に賛同してくれた者を登用した。

 あまり綺麗なやり方ではなかったが……

 各支部の部長たちが味方してくれたおかげで、何とか成功した。

 ただ、南部支部の改善は特に時間がかかったが……」

 

「でも、図書館の事件が終わる頃には、全支部の業務が改善されたって聞いたわ!」

 

「まあな。今では、どの支部も最低限の休息は取れるようになった。

...当時2課部長だったユジンが支部長だったセルマの不正の証拠を色々掴んでくれてな。しかもセルマが何故か行方不明になったこともあって何の気兼ねも無く南部支部の改善に動けたよ、ユジンは今南部支部長として頑張ってもらってる。一応支部長代理には1課部長を任命していたんだが2課が図書館から生還したらわざわざ推薦してきたんだ、ユジンの功績はデカいとな」

 

「へぇ、それで今そのユジンちゃんは?」

 

「南部支部長になってから以前とは別人のように働いてるよ、私でもちょっと怖いと思うぐらいの気迫だったな...」

 

「ふふ!でもユジンちゃんがそんな仕事を出来ているのもルドルフが協会長としてまとめているからよね!」

「流石ルドルフだ!

 特色に認定されたのも、統率力ってのがよく分かったぜ」

 

マルゼンスキーはふと目を細め、静かに言った。

「……でも、昔からルドルフは人の上に立つのが上手だったわよね。

 ほら、終生事務所時代から統率力凄かったでしょ?」

「そういやそうだったな。

 あの頃からマルゼンの補佐をしつつみんなをまとめ上げて、色んな都市災害を解決してたよな」

 

シンボリルドルフは少しだけ視線を逸らした。

 

「はは……生まれつき、といったところかな」

 

部屋に、わずかな沈黙が落ちる。

 

マルゼンスキーは静かに、けれど確かに言った。

 

「……ねぇルドルフ。

 もしかして、まだテイオーちゃんとツルちゃんのこと……気にしてる?」

 

シンボリルドルフの肩が、わずかに震えた。

 

「……ああ。正直、まだ会う気にはなれない」

 

「だけど、もうあいつらだってあの時のことは気にしてないはずだぜ。

 テイオーは相変わらずお前のこと尊敬してるし、

 ツヨシもお前を責めたことは反省して、もう一度会いたいってさ」

 

シンボリルドルフは目を伏せた。

「……分かっている。

 頭では分かっているんだ。

 あの事件はもう終わった。

 エアグルーヴもブライアンもオルフェもシービーもラモーヌも、ツヨシにテイオーだって……

 今を見て生きている。

 なのに私は……未だにあの時の言葉が忘れられない」

 

「……ルドルフって、完璧なように見えて、結構脆いところもあるわよね」

 

シンボリルドルフは自嘲気味に笑った。

 

「はは……確かに、そうかもしれない」

 

「でも、いつかは会うんだろ?」

「もちろんだ。

 二人が今でも私を母親と思ってくれるなら……

 それに応えるつもりだ。

 ただ……今はまだ、心の準備が……」

「そう……それなら、ゆっくり整えればいいわ。

 二人は、いつまでも待ってると思うわよ」

「けど、あんまり待たせすぎると……

 あいつらの方から会いに来るかもな」

 

「……?」

 

カツラギエースはにやりと笑った。

 

「数日前、ついに協会の試験に受かってフィクサーになったらしいぜ」

 

「な……!? それは本当か!?」

 

「ええ。今はディエーチ協会の6課に配属されたみたいね」

 

シンボリルドルフは、言葉を失った。

 

「そんな……なぜ……」

 

「ルドルフ。

 あの子たちの選択を止める権利は、貴方にだってないはずよ」

 

「……あの二人には、昔からフィクサーの危険性を何度も教えてきた。

 死ぬかもしれない。汚れ仕事もする。

 そんな世界に、あの子たちを入れたくなかった……」

 

「ルドルフ。

 二人の気持ちも、分かってあげたら?

 きっと、守られてばかりじゃ嫌だったのよ。

 だってルドルフって、いつも一人で全部背負うでしょ?」

「それは……」

 

「もっと、誰かに頼るってことを覚えたらどう?

 昔よりはマシになったけど……まだまだ足りないわよ。

 もっとわがまま言ってもいいと思うわ」

 

シンボリルドルフは、しばらく黙っていた。

 

そして、静かに呟いた。

 

「……誰かに頼る、か。

 ……ああ、そうしてみるよ。

 私の悪癖に、気づいてくれていたんだな」

 

「そりゃ、あいつらは昔からルドルフのこと、よく見てたからな」

「そうか……あの二人も、もう成長していたんだな」

 

「そういえば、いとこのシリウスちゃんは今何してるの?

 あの事件以降、テイオーちゃんとツルちゃんの面倒見てくれてたよね」

「シリウスなら今はウーフィ協会東部支部長だ。

 裏路地関連を主に担当していて、五本指相手にも一歩も引かないらしい」

「へー、親指や中指に契約履行強制させるなんて、相変わらずぶっ飛んでるな」

 

その時、

 

ガチャリ。

 

「邪魔するぜ」

 

「あら、シリウスちゃん」

 

「噂をすればだな」

 

シリウスシンボリは部屋に入るなり、ルドルフを睨んだ。

 

「ルドルフ。

 テイオーとツヨシをなんとかしろ。

 わざわざ私に会いに来て、お前とどうやって仲直りすればいいかうるさいんだ。

 さっさと会いに行けば解決する話だろ?

 私だってウーフィの仕事で忙しいし、裏路地の連中の相手は命懸けなんだからよ」

 

「はは……シリウス、すまない。

 まだ心の準備が……もう少しだけ待ってくれないか」

 

「ちっ。

 特色の皇帝サマが、そんな臆病者だったとはな」

 

「シリウスちゃんったら、相変わらずルドルフのこと気に入らないのね」

「甘ったれた理想主義をまだ掲げてるような奴に、優しくしてやる義理はねぇよ」

「まったく、お前も変わらねぇな」

 

シンボリルドルフは苦笑しながら、

けれどどこか安心したような顔で、

静かに呟いた。

 

「……ありがとう。

 みんな」

 

天女は優しく微笑み、

エースは拳を鳴らし、

アウトローのいとこは舌打ちしながらも、

皇帝は、

ゆっくりと、

前に進む準備を始めていた。

 

いつか、必ずあの娘たちの元へ。

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