ディエーチ協会本部・協会長執務室 午後3時
薄暗い部屋に、古書の匂いと埃が漂っている。
窓から差し込む灰色の光が、ゼンノロブロイの眼鏡を鈍く光らせた。
ゼンノロブロイは地図を広げ、静かに、しかし確かな口調で告げた。
「ツヨシさん、テイオーさん。今日はあなたたちに遺跡探索に行ってもらいます」
「遺跡探索ですか?」
「ええ、今までにも貴方たち二人はディエーチ協会の遺跡探索に参加してきましたが、今回は二人だけで行ってみませんか?」
ツルマルツヨシは小さく息を呑み、隣のトウカイテイオーと顔を見合わせた。
トウカイテイオーは目を丸くし、すぐに拳を握りしめて立ち上がる。
「二人だけ!? 本当にいいの協会長!?」
ゼンノロブロイは穏やかに微笑みながら、赤い線で囲まれた区域を指差した。
「ええ。貴方たちはディエーチ協会始まって以来の逸材です。
入会からわずか数ヶ月で、テイオーさんは6級、ツヨシさんは7級……
これほどの成長速度は、私の知る限り前例がありません」
彼女は一瞬言葉を切り、二人を真っ直ぐに見つめた。
「だからこそ、そろそろ本当の意味で現場に出てほしい。
ただし——今回は上層のみ。
TETHから下位HE級の幻想体が活動する範囲まで。
それ以上は、絶対に踏み込まないでください」
トウカイテイオーは少し不満そうに頬を膨らませた。
「上層だけかぁ……ちょっと物足りないけど、ボクたちなら楽勝だよ!」
ツルマルツヨシは不安げに眉を寄せる。
「テイオーちゃん!あまり楽観視しないの!」
「ふふ、向上心があるのはいいことですから構いませんよ。それと二人とも、ひとつ忠告があります。」
「何、協会長?」
ゼンノロブロイは静かに、しかし重みのある声で続けた。
「……もし、万が一、上層でもWAW級、あるいはALEPH級の幻想体に遭遇したら、
即座に逃げてください。
まだ貴方たちでは、戦う相手ではありません」
二人は顔を見合わせ、力強く頷いた。
「わ、分かりました...!」
「ねぇ協会長、ALEPHやWAW級の幻想体ってどれくらい強いの?都市災害のランクとはまた別基準なんでしょ?」
「そうですね...単純な比較は出来ませんが大体上位WAW〜ALEPHが都市の星。下位WAW〜上位HEが都市悪夢ですね。もちろん個体によってはHEでも都市の星になることもあれば、都市疾病クラスのWAWもいますけどね。
ただALEPHだけは総じて都市の星の中でも最上位クラスの実力を持っているので決して戦わないようにお願いします」
「分かった!約束は守るよ!」
「なら良いですね、では早速向かってください。」
「了解です!」
──── 1時間後 都市地下遺跡・入口前
崩れたコンクリートの壁に囲まれた、薄暗い縦穴。
湿った風が底から吹き上げてくる。
トウカイテイオーは大きく深呼吸し、ツルマルツヨシの手を握った。
「よーし! 行くよツルちゃん!」
「うん……! 気をつけてね」
二人は梯子を降り、闇の中へと消えていった。
──── 遺跡上層・10分後
苔むした石畳の通路。
壁には古い文字が刻まれ、時折小さな幻想体が蠢いている。
トウカイテイオーは軽やかにディエーチ協会の鍵を振るいながら、口笛を吹いていた。
「今のところ順調だね! 敵も弱いし」
ツルマルツヨシは拳を構えながら、周囲を警戒している。
「幻想体もなんとか倒せてるし……このくらいなら大丈夫そう」
トウカイテイオーは少し残念そうに呟いた。
「あーあ、せっかくだし中層とか見てみたかったなぁ……」
ツルマルツヨシはすぐにたしなめる。
「だめだよ! 協会長と約束したでしょ? 今回は上層までだって」
二人はしばらく歩き、やがて中層への階段が見えてきた。
「あっ、ここから先が中層みたい。もう引き返さないと」
トウカイテイオーは肩を落とした。
「えー、もう? ちょっとあっさりしすぎだよ〜」
その瞬間——
ズズン!
地面が大きく揺れ、巨大な影が二人に迫る。
「テイオーちゃん危ない!!」
間一髪で横に飛び、攻撃を回避。
「おっと! いきなり来たね!」
現れたのは上層にしては強めのHE級幻想体だった。
トウカイテイオーはにやりと笑う。
「帰る前にこいつだけ倒しちゃおう!」
二人の連携は完璧だった。
ツルマルツヨシが横から拳を叩き込み、
トウカイテイオーが正面から鍵型の剣で貫く。
「今だよテイオーちゃん!」
「てりゃー!!」
一閃。
幻想体が崩れ落ちる。
「さすがだよテイオーちゃん!」
「へへーん!どうよ!」
しかし——
ゴゴゴゴゴ……!
戦いの衝撃で足場が崩壊し始めた。
「うわっ!?」
「きゃあああ!!」
二人は手を伸ばし、必死に掴み合う。
「ツルちゃん! 絶対離れるないで!!」
「うん!!」
闇の中へ、真っ逆さま。
──── 最深部・地底湖
ポチャーン!!
冷たい水しぶきが上がる。
トウカイテイオーはすぐに顔を出し、ツルマルツヨシを抱き寄せた。
「ぷはっ! ツルちゃん、大丈夫!?」
ツルマルツヨシは咳き込みながらも頷く。
「な、なんとか……!」
湖から這い上がり、二人は辺りを見回した。
天井は遥か高く、薄暗い鍾乳石が無数に垂れ下がっている。
「……ここ、めっちゃ深いところまで落ちちゃったね」
ツルマルツヨシは震える声で呟いた。
「きっと……下層、いや、最深部かも……」
「どうしよう...協会長との約束破っちゃった...
「テイオーちゃん、とりあえず帰る道探そうよ」
「そうだね」
──── さまよい、そして
「うーんこっちかな...」
「中々見つからないね...」
何時間も歩き続け、疲労が限界に近づいていた頃。
重厚な鉄の扉が、二人の前に現れる。
トウカイテイオーは息を整えながら、扉に手を掛けた。
「……ここ、開けちゃうよ」
ギィィィ……。
扉が開くと——
広大な円形のホール。
中央に、白い指揮者服を着たマネキンが、音符を散らしながら静かに立っていた。
「……なんだろう、あれ。マネキン?」
ツルマルツヨシは背筋に冷たいものを覚えた。
「テイオーちゃん……なんか、すごくヤバい気がする……」
しかしテイオーは一歩、また一歩と近づいていく。
その瞬間——
マネキンがゆっくりと首を動かし、両手を広げた。
「ほほう……久しぶりの来客ですね。
ではここはひとつ、わたくしが歓迎の演奏をいたしましょう。
——第一公演、開幕!」
轟音。
無数のマネキンが召喚され、狂ったような演奏が始まる。
耳を劈く不協和音。
頭蓋の奥に直接響く精神汚染。
「うわああ!? 頭が……!」
「ううっ……! 耳が……割れそう……!」
「ちょっとヤバそうだよテイオーちゃん!逃げよう!」
「うん!」
しかし扉は開かなくなっており、閉じ込められた
「うそ!?」
「そんな開かない!?」
「公演中の帰宅はご遠慮願います」
トウカイテイオーは歯を食いしばった。
「……こうなったら、倒すしかない!」
「うん……!」
戦いが始まった。
「ツルちゃん!援護よろしく!」
「分かった!」
トウカイテイオーが本体に、ツルマルツヨシが周囲のマネキンを攻撃する
「その演奏さっさとやめてよ!」
「大人しくしてください!」
ガキン!キン!ドゴォン!
「ああもううるさいな!ていうか硬すぎ!」
「でもテイオーちゃん!このマネキン演奏してるだけで攻撃してこないよ!これだったら倒せるかも!」
「へぇ?それなら今ここで倒して見せるよ!」
「ほほう、わたくしの演奏を聴いてもなお平然としてる者は久しぶりですよ。これならわたくしとしても演奏のしがいがありますね」
「何言ってるのか分からないけどボクたちはさっさと帰りたいの!」
「そう!帰ってもっと強くなって!お母さんにもう一度会うんだから!」
「そういうことでしたらわたくしを倒してごらんなさい。」
「言われずとも!」
──── 30分後
二人は汗と血にまみれ、息も絶え絶えだった。
「はぁ……はぁ……全然倒れない……!」
「周りのマネキンは倒したけど……本体が……!」
「ほっほっほ、まだまだ公演は続きますよ」
トウカイテイオーの膝が、地面に落ちる。
「……ボクたち……もうダメ、なのかな……」
その瞬間——
ツルマルツヨシが、思い切りテイオーの背中を叩いた。
「テイオーちゃんしっかり!!
帰って、お母さんに会うんでしょ!?
謝って、笑って、抱きしめてもらうんでしょ!?」
トウカイテイオーの瞳に、光が戻る。
「……!ごめんねツルちゃん、弱音吐いちゃって。そうだよね、絶対に1級になってママに会うもんね!」
「そうだよテイオーちゃん!じゃあさっさとあいつを倒そうよ!」
「うん!よーし!行くよ!」
二人の動きが完全に同期した。
覚醒したツルマルツヨシとトウカイテイオーは特色同士でも中々出来ないような息のあった連携で静かなオーケストラに攻撃をしかける
「ツルちゃん!このまま押し切るよ!」
「うん!」
そしてついに
「これでトドメだよ!」
「観念しなさい!」
白と紫の軌跡が交差し、マネキンを貫く。
「ぬううう……! ……私は、思い出にはならないさ……」
崩れ落ちるマネキン。
ホールに、静寂が戻った。
「……やった……!」
「やったよテイオーちゃん!!」
二人は抱き合い、涙を流しながら笑った。
「はぁ〜すごく強かった〜!」
「一体なんだったんだろうねあのマネキン...とりあえず帰ろっか」
「うん、帰り道探さないとね」
「あれ...テイオーちゃん、あれなんだろう?」
ツヨシがマネキンがいたところになにかが落ちてるのを見つける
「これって....モノクル?しかも二つも...」
「多分さっきのマネキンが落としたのかな?」
「じゃあせっかくだし持って帰ろうよ!」
「いいのかな...貰っちゃって...」
「まあまあ、戦利品ってことでさ!」
「うーん...そうだね!」
そして二人は部屋の外に出ようとするが扉は相変わらず閉まったままだった
「なんで開かないのさー!?」
「...もしかしてこの部屋のどこかに出口があるのかな...」
二人が部屋を探索すると隠し扉と通路を見つける
「あった!ここだよ!」
「本当!?」
そして二人が隠し通路を進むと遺跡の入口にたどり着くことが出来た
「やったー!出れた!」
「はぁー疲れた〜...」
「じゃあ早速本部に戻ろっか!」
「でも結構帰り遅くなったし...協会長...怒ってるかも...」
「うっ...しょうがないよ。覚悟しておこっか....」
「うん...」
とぼとぼ歩きながら二人は本部に帰宅する
──── ディエーチ協会本部・深夜
ゼンノロブロイは完全に取り乱していた。
「ライスさん!テイオーさんとツヨシさんはまだ見つからないのですか!?2人が出かけてから5時間も経つのですよ!」
「上層にはいないって……!しかも上層と中層の境界付近に大穴が……!」
「大穴...まさか下層に落下したというのですか!?」
「どうするのロブロイさん!」
「直ちに救出に向かいます!ライスさんも準備してください!」
「分かったよ!」
その時——
ドアが開く。
「……ただいま、戻りました……」
「えっ...ツヨシさんにテイオーさん!」
「無事だったの!?」
「協会長に本部長...!な、なんとか....」
「凄い傷だらけ...!ライスさんすぐに手当てを!」
「うん!」
二人は傷だらけで、泥と血にまみれていた。
手当てを終え、報告。
「二人とも...何があったのですか?帰りがあまりにも遅かったので心配してたんですよ。ディエーチのフィクサーたちが上層を探索しても見当たらなかったのですから」
「それがね、上層の突き当たりまで探索が終わったから引き返そうとしたら幻想体と遭遇して、倒したところまでは良かったんだけど、地面が崩れて落下しちゃってさ」
「ええ!大丈夫だったの!?」
「幸い落下した先が地底湖だったので無事ではあったんですけど完全に道に迷って...それで帰り道を探してたら変なマネキンと遭遇したんです」
「へんなマネキン?それってどんな見た目でしたか?」
ゼンノロブロイが身を乗り出して聞く
「確か白い指揮者みたいなマネキンだったかな。すっごくうるさい演奏してきたから嫌な相手だったよ!まあ倒して何とか帰ってこれたけどさ」
「た、倒した!?それに白い指揮者みたいなマネキンって...ちょっと待ってください!」
ゼンノロブロイは資料をめくり、顔面蒼白になる。
「もしかしてこれでしたか?」
「そうそう!こいつだよ!」
「嘘!?静かなオーケストラ倒しちゃったの!?」
「静かなオーケストラ?あれそんな名前だったの?すごくうるさかったけど...」
「し、信じられません...そんなことが...」
「それとさ協会長、帰り遅くなったお詫びに手土産があるんだけどさ。これで許してほしいな...」
トウカイテイオーは拾ったモノクルを差し出すと
それを見たライスシャワーが目を丸くする
「これって...静かなオーケストラのギフト!?しかも2つも!?ALEPH級幻想体のギフトのドロップ率って確か1%だったはずだから2つなら...2乗で0.01%!?それを1回の鎮圧で引き当てたの!?」
「…。」
「…ロブロイさん? どうしたの?」
「…あ、有り得ません…! 6級と7級フィクサーが静かなオーケストラも倒して、ギフトを2つも手に入れるなんて…! そんなこと有り得な…! うう…。」
ゼンノロブロイがキャパオーバーでふらっと倒れる
「うわあ!? 有り得ないことが起こりすぎて、ロブロイさんがキャパオーバーで倒れた!? ちょっと、ごめん、二人とも! ライス、ロブロイさんの介抱してくるから!」
ライスシャワーがゼンノロブロイを背負って退室する。
「あっ…行っちゃった…。」
:
「静かなオーケストラって、そんなにやばい相手だったのかな…?」
数分後——
ライスシャワーが戻ってくる
「ごめんね...二人とも...ちょっとライスも信じられないことが起こってて...」
「あの本部長...静かなオーケストラってどんな幻想体なんですか?」
「うん…一言で言うなら、ALEPH級の幻想体だよ。精神を乱すWHITEダメージの演奏で、普通のフィクサーなら一瞬でパニックになって、頭が…その、文字通り弾け飛んじゃうような、超危険な存在…。普通は1級フィクサーでも複数人で挑まないと倒せないんだよ…。」
「ええ!ALEPH級!?協会長が闘うなって言った奴じゃん!」
「うそ…そんなの、私たち、よく生きて帰ってこれたね…。」
「うん…だから、二人が倒せたのが、本当に信じられなくて…。しかも、ギフトまで2つ…。ライス、ディエーチ協会に入ってから、こんなすごい話、聞いたことないよ…。」
「えっと…じゃあ、ボクたち、どうなるの? 協会長、めっちゃ怒ってるかな…?」
「ううん、怒ってないよ。ロブロイさん、ただびっくりしすぎただけ。ライスも、さっきハナ協会に報告したんだ。だって、ALEPH級の鎮圧なんて、ディエーチ協会の裁量じゃ判断できないから…。」
その時ライスシャワーのデバイスから通知音が鳴る
「あっ…ハナ協会からの通達だ…。」
確認した瞬間、ライスシャワーが叫ぶ。
「…え、ええええええええ!!!??? う、うそ、こんな…!」
「ど、どうしたのさ、本部長!? めっちゃ叫んだじゃん!」
「本部長、大丈夫!? 何か悪いこと…!?」
「う、ううん、悪いことじゃないよ! 二人とも、これ見て! ハナ協会からの公式通達だよ!」
【ハナ協会緊急通達】
ディエーチ協会所属 トウカイテイオー 特色「白紫の帝王」認定
同 ツルマルツヨシ 1級フィクサーへ昇格
「ええええええ!? ボク、特色!? 1級!?」
「うそ…!? 私、1級フィクサー!? 半年で…!?」
「う、うん! 本当だよ! テイオーちゃんは特色『白い帝王』に認定されて、ツヨシちゃんは1級フィクサーに6階級特進! ハナ協会が、二人のALEPH級鎮圧とギフトの入手を評価したんだよ! ライス、こんなすごい通達、初めて見た…!」
「やったー! ボク、特色だ! かっこいいじゃん! ね、ツルちゃん、これでママに会いに行けるよ!」
「うん…! 私、お母さんに謝れる…! やっと、ちゃんと仲直りできる…!」
「うう…二人とも、すごいよ…。ライス、こんな幸せな瞬間、初めてだよ…。ディエーチ協会の誇りだよ、テイオーちゃん、ツヨシちゃん…!」
月の光が執務室を照らし、トウカイテイオーとツルマルツヨシの偉業と、母への再会への決意を静かに見守る。
──── 同時刻 シ協会本部
シンボリルドルフは窓の外を眺めていた。
「テイオー、ツヨシ…今、君たちは何をしているんだろうな。君たちがフィクサーとして頑張っていると聞くたびに、会いたいと思うのに…どうしても、あの日の...あの事件の記憶が私を臆病にさせる…。だが、もし君たちが私に会うために努力しているなら、必ず応えなければ…もう少し、時間をくれ…。」
その時、ドアがノックされ、ジェンティルドンナが書類を抱えて入室する。
「失礼いたします、協会長。頼まれていた12区の裏路地調査報告書をお持ちしました。」
「ああ、ジェンティル、ありがとう。いつも迅速で助かるよ。」
「いえ、協会長のご指示があればこそです。…ところで、協会長、今日は少し…物思いに耽っておられるようにお見受けしますが、何かご心配事が?」
「ふっ、鋭いな、ジェンティル。いや、ただ…昔のことを思い出していただけだ。昔所属していたフィクサー事務所でのことや…あの頃の仲間たちのことだ。」
「協会長の事務所時代…あまりお話しになりませんが、随分と過酷な時期だったのですね。」
「そうだな…都市悪夢『泡沫の叢雲』の一件では理想を掲げながらも、現実の重さに押し潰されそうだった。…今、こうしてシ協会を改革できたのも、あの時の悔恨があったからかもしれない。」
「ですが、協会長はその悔恨を力に変え、シ協会をここまで導いてこられた。シ協会の過酷な労働環境も、今では大きく改善されました。それも、協会長の統率力と理想があったからこそです。」
「ありがとう、ジェンティル。君のような部下がいてくれるから、私は前に進めるよ。」
その時、シンボリルドルフのデバイスから鋭い通知音が響く。
「おや、任務でも入ったかな? …ん?」
デバイスに表示されたハナ協会からの通達を読み、シンボリルドルフの目が見開く。
「はあああああ!!? テ、テイオーが特色…!? ツヨシも1級…!? そんな、有り得な…!」
シンボリルドルフが椅子から立ち上がり、デバイスを握り潰しそうになるほどの動揺を見せる。
「協会長!? どうなさったのですか!? テイオーとツヨシとは一体…!?」
「私の...子供たちだ...あの娘たちが…フィクサー歴半年で、特色と1級だと…!? しかも、ALEPH級の『静かなオーケストラ』を倒し、ギフトを二つも…!? そんな、あり得ない…!」
シンボリルドルフが膝をつき、気絶する
「協会長!? 協会長ーー!! しっかりしてください! 誰か、医務室を呼んで!」
ジェンティルドンナがシンボリルドルフを支え、慌ててデバイスで医務室に連絡する。
「テイオー…ツヨシ…一体...何者なの...?協会長をこんな目に…。」
部屋の外で、シ協会のフィクサーたちが騒ぎ始める。月の光が、シンボリルドルフの気絶した姿を静かに照らす。
その知らせは、かつての終生事務所のメンバーにも...
──── ハナ協会北部支部
メジロラモーヌは、通知を受け取ると静かに微笑んだ。
(ルドルフ……二人は、もう貴方を待たせないって言ってるわよ)
A社本社
通知を受け取ったオルフェーヴルが窓の外を眺める
「...シンボリルドルフ、貴様もケジメをつける時だな。...にしても、あのひよっこどもが立派になったものだ」
「オルフェどうしたの?随分嬉しそうだけど」
「...いや大したことではない、昔のことを思い出していただけだ」
リンバスカンパニー本社
マルゼンスキーとカツラギエースは偉業を聞くなり直ぐにシ協会に向かう準備をし始めていた
「ふふ!テイオーちゃんとツヨシちゃんったらやっちゃったわね!」
「ああ!ルドルフの奴どんな顔してるか楽しみだな!」
ウーフィ協会南部支部
エアグルーヴは珍しく優しそうな微笑みを浮かべていた
「...テイオー、ツヨシ。お前たち、やったんだな。...偉いぞ」
センク協会東部支部
ナリタブライアンは二人の成長に想いを馳せる
「...あいつら、いつの間にかこんなに強くなってたんだな」
外郭
ステイゴールドのデバイスに送られてきた通知で昇格について知るミスターシービー
「...テイオーもツヨシも凄いよ。アタシびっくりしちゃった」
「...マルゼンの事務所にいた頃のことか?私もあいつから色々聞いてるからある程度は知ってるが...」
「うん、まあ色々あったんだよステゴ。...あの時の事件...ようやく清算出来るね。ルドルフ」
そして──── ハナ協会本部
紅茶を飲みながらドリームジャーニーがビワハヤヒデに問いかける
「ハヤヒデさん、通達は完了しましたか?」
「はい、トウカイテイオーの特色認定およびツルマルツヨシの1級昇格に関する全協会およびフィクサーへの通知、完了しました。…正直、こんな通達を出す日が来るとは思いませんでした。」
「そうですか、ご苦労様です。…確かに、異例中の異例ですね。フィクサー歴半年での特色認定と1級昇格…都市の歴史でも前代未聞ですよ。」
「それにしても、テイオーとツヨシがこんなに早く…。ALEPH級の『静かなオーケストラ』を倒し、ギフト『ダ・カーポ』を二つも入手だなんて…。私、こんな報告、信じられないんですけど。」
「おや、知り合いですか?」
「ええ、正確には私の妹、ブライアンが知り合いなんです。、昔マルゼンスキーさんの事務所で働いていた時に、ルドルフさんからテイオーとツヨシを紹介されたと聞いています。ルドルフさんの娘たちだとか。」
「なるほど、シンボリルドルフ…深緑の皇帝ですね。彼女の過去には、そんな繋がりがあったとは。」
「しかし、本部長、昇格はともかく、1級や特色認定は早すぎるのでは? まだ二人ともフィクサーになって半年ですよ…。」
「ハヤヒデさん、彼女たちはディエーチ協会所属のフィクサーとして、これ以上ない戦果を挙げました。ALEPH級の『静かなオーケストラ』を倒し、1%の確率でしかドロップしないギフト『ダ・カーポ』を二つも手に入れたのです。…正直、私もまだ頭整理しきれていませんよ。ふふ。」
「改めて聞いても、全くわけがわかりません…! 6級と7級フィクサーが、ALEPH級を倒すなんて…。しかも、ギフトまで…。あの二人の『強運』、いや、『信念』は、常識を超えてますね。」
ビワハヤヒデが情報を改めて精査する
「ええ、この都市では常識は通用しないということでしょう。特色の条件である『卓越した何か』…トウカイテイオーの場合は、その圧倒的な『強運』と、母親への想いから生まれた『信念』が認められたのでしょう。ツルマルツヨシも、同じくルドルフへの強い想いが、彼女を1級に押し上げた。ハナ協会としても、この判断に異論はありません。」
「…ルドルフさん、この通達を知ったら、どう思うでしょうね。ブライアンから聞いた話だと、彼女、テイオーとツヨシに対して、過去のことでかなり心を痛めてるみたいです。」
「そうですね…。シンボリルドルフの理想主義は、都市の過酷な現実とぶつかり、彼女を苦しめてきた。でも、この二人の偉業は、彼女に過去と向き合うきっかけを与えるかもしれません。…ハヤヒデさん、シ協会への連絡、問題なければ私から直接ルドルフに話を通しておきますよ。」
「了解しました。…この二人、都市の歴史を変えるかもしれませんね。」
「ええ、協会長も珍しく動揺していましたからね」
ハナ協会 協会長執務室
スピードシンボリが静かに微笑みながら幼いテイオーとツヨシの写真を撫でる
「...ふふ、ルドルフ。君も母親としての務めを果たす時が来たようだね。...逃げは私が許さないよ」
トウカイテイオーとツルマルツヨシの偉業が都市に新たな波紋を広げる。
新米の二人は、
たった一日の遺跡探索で、 都市の歴史を塗り替える大金星を打ち上げた。
そして、 遠くにいる「皇帝」へ、
確かな一歩を踏み出した。
「もう、守られるだけの子どもじゃない」
そう告げる日が、もう、すぐそこまで来ている。