シ協会本部・応接室 夜
赤いカーテンが揺れるたび、室内の空気が重く淀む。
長テーブルの中央に座るシンボリルドルフは、まるで裁かれる被告のように俯いていた。
「……私は、どうしたらいいんだ……」
カツラギエースが腕を組み、ため息をつく。
「あー……ルドルフ。こうなった以上、覚悟決めないとダメだろ」
「そうよ! あの子たち、貴方に会いたくて必死に強くなったんだから!」
エアグルーヴが静かに、しかし鋭く言葉を添える。
「泡沫の叢雲の一件以来、疎遠でしたね。
ツヨシはあの時貴方を責めたことをずっと後悔していますし、
テイオーは最初から何も恨んでいません」
「あの一件は、みんなに傷を残した。
でもようやく……清算する時が来たんだ」
シリウスシンボリが腕を組んで、冷たく言い放つける。
「おいルドルフ。一度だけ聞く。
会うのか、会わないのか。はっきりしろ」
オルフェーヴルは有無を言わさない圧を放つ
「だが、断ることは許さぬぞシンボリルドルフ。あやつらの覚悟を受け止めるのは貴様の義務だ」
シンボリルドルフは拳を握りしめ、掠れた声で叫んだ。
「分かってる……いつか会わなきゃいけないってことは……!
でも普通もっと段階を踏むだろ!?
6級から特色!? 7級から1級!?
そんな昇格聞いたことないぞ!
少しずつ上がっていく2人を、心の準備しながら待つつもりだったのに……!
マルゼンスキーは優しく、でも容赦なく笑った。
「でも、もう昇格しちゃったんだからしょうがないでしょ?
きっと運命が、貴方とあの子たちを早く仲直りさせたいって思ったのよ」
「……余計なお世話だ……!」
メジロラモーヌが静かに立ち上がり、ルドルフの前に歩み寄る。
「ルドルフ、貴方は何をそんなに恐れているの?
あの時ツヨシに言われた言葉?
それとも、テイオーを死なせかけた責任?」
シンボリルドルフの肩が震えた。
「……両方だ。
あの頃、私は『都市で幸福な者を一人でも増やす』なんて理想を掲げて走り回っていた。
でも結局、娘二人さえ守れなかった。
そして私は理想を折ってこのシ協会に来た...
私がもっとしっかりしていれば……」
メジロラモーヌは優しく、しかし力強く首を振る。
「過去を気にするのは貴方の長所でもあるけど、今は短所よ。
過去に縛られて、今の子たちと向き合えないなんて……本末転倒じゃない。
さあ、行きなさい」
「私たちはあの時のお前にはついていかなかった...でもあいつらは違う。どこへでもついていく」
「ええ。あの二人なら、どんな貴方でも慕います」
「だからさっさと会え」
「逃げは許さぬぞ」
「ま、待ってくれ……もう少し、心の準備を……」
その時——
ノック。
ジェンティルドンナが静かに扉を開けた。
「失礼いたします協会長。
先ほど受付に、特色フィクサー・トウカイテイオー様と、
1級フィクサー・ツルマルツヨシ様がお見えですが……いかがいたしましょう?」
部屋が凍りつく。
シリウスシンボリがにやりと笑う。
「噂をすれば影だな。ジェンティル、連れてきてくれ。
ルドルフもそれを望んでる」
「ふふ、かしこまりました」
「えっ!? ま、待ってくれジェンティル!!」
だがジェンティルドンナは優雅に一礼して退室してしまう。
静寂。
全員が息を潜めて待つ。
やがて——
ガチャリ。
「お連れしました」
扉を開ける
「ママー!!」
「お母さん!!」
二人は駆け寄り、ルドルフの両側にぴたりと飛びついた。
シンボリルドルフは目を見開き、震える声で呟く。
「……ツヨシ……テイオー……」
トウカイテイオーはくるりと回って、自分の胸の新しい身分証を見せびらかす。
白い鳥に紫の王冠——特色の証。
「見て見てママ! かっこいいでしょ!?
ボクの称号にぴったりの身分証なんだから!」
シンボリルドルフは言葉を失い、ただ呆然と見つめる。
「テイオー……その……とても、似合っている……」
「えー! もっとビックリしてよー!」
ツルマルツヨシが恥ずかしそうに、でも誇らしげに拳を握った。
「お母さん!私、1級になれたよ!
テイオーちゃんと一緒に、静かなオーケストラを倒したの!」
「……そうか……すごいな……」
だがその声は、どこか遠い。
トウカイテイオーの笑顔が、少しずつ曇っていく。
「……ねえママ。
どうしてそんな気まずそうな顔してるの?
ボクたちに……会いたくなかった?」
「そんなことは……!」
ツルマルツヨシの瞳に涙が浮かぶ。
「じゃあなんで……そんな悲しそうな顔してるの!?
あの『泡沫の叢雲』の時、私がお母さんを責めたこと……まだ怒ってるの!?」
「っ……違う……違うんだ……!」
「違うなら、何!? はっきり言ってよ!!」
シンボリルドルフは、膝をついた。
「……すまない……二人とも……
あの時、私がもっと早く鎮圧していれば……
二人に、あんな傷を負わせることはなかったのに……」
トウカイテイオーは首を激しく振る。
「もうー! いつまでそれ気にしてるのさ!
ボクはとっくに忘れたよ! あの時だってママが必死に守ってくれたから生きてられたんだから!」
ツルマルツヨシも涙をこぼしながら叫ぶ。
「私だって……!
あの時、怖くて、痛くて、ついお母さんを責めてしまって……
ずっと後悔してました!
ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……!」
シンボリルドルフの目から、大粒の涙が零れた。
「……二人とも……
なぜ、こんな私を……慕ってくれるんだ……?
私は、君たちを……守れなかったのに……!」
トウカイテイオーはルドルフの首にぎゅっと抱きついた。
「だってママは、いつもボクたちを守ってくれたじゃない!
だから今度は、ボクたちがママを守る番なんだよ!」
ツルマルツヨシも反対側から抱きしめる。
「はい……! 私たちに、貴女を支えさせてください……!」
シンボリルドルフは、震える手で二人の背中を抱き返した。
「……っ……二人とも……
すまない……本当に、すまなかった……!」
トウカイテイオーは涙をぬぐい、にっこり笑った。
「違うよママ!『すまない』じゃなくて——」
シンボリルドルフは、ようやく笑みを浮かべた。
「……ああ……二人とも……
ありがとう……!」
「こっちこそ! ずっと大好きだよママ!!」
「私も……ずっと、ずっと大好きです!」
部屋にいた全員が、静かに微笑んだ。
「ふふふ……ようやく、ね」
「……何年かかったことか」
「十数年……か」
「やれやれ、ようやく肩の荷が下りたか」
「感動的すぎて泣いちゃうわ!」
「...これで全て終わったか。」
「まったく……遅すぎるんだよ」
「協会長……本当におめでとうございます」
皇帝は、
長い長い冬を越えて、
ようやく春を迎えた。
そしてその傍らには、
白い帝王と、炎の信念が、
しっかりと寄り添っていた。
これからは、もう一人じゃない。