ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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しばらく暗い話が続きます


Gone Love

R社18区 創始事務所

 

埃っぽい夕陽が、古びた事務所の窓から差し込み、木製のテーブルを優しくオレンジに染めていた。壁には依頼の完了報告書が雑多に貼られ、埃が薄く積もった棚には古い武器の手入れ道具が並んでいる。事務所の空気は、いつものように穏やかで、ほのかにコーヒーの香りが漂っていた。

 

ラヴズオンリーユーは扉を勢いよく開け、疲れた体を事務所の中に滑り込ませた。彼女の赤いコートには、任務の埃とわずかな血痕が残っていたが、表情は明るい。

「ただいま戻りました〜」

 

グランアレグリアはソファから飛び起き、いつもの天真爛漫な笑顔で迎える。

 

「おかえりラヴズちゃん!」

 

キッチンから顔を出したクロノジェネシスは、穏やかな声で応じた。

「おかえりなさい、ラヴズさん」

 

帳簿を閉じていたカレンブーケドールも、優しく微笑みながら立ち上がる。

 

「おかえりなさい。依頼はいかがでしたか?」

 

ラヴズオンリーユーはコートを脱ぎながら、軽く肩をすくめた。

「大したことないわ。いつも通りに終わったし」

 

グランアレグリアは目を輝かせて飛びついてくる。

 

「流石ラヴズちゃんだね! 創始事務所のエースの名は伊達じゃないね!」

 

ラヴズオンリーユーはくすりと笑い、グランの頭を軽く撫でた。

「ふふ、グランちゃんったら大袈裟ね」

 

カレンブーケドールは静かに、でも確かな敬意を込めて言った。

「でも実際、ラヴズさんのおかげで創始事務所もここまで大きくなりましたから……」

 

クロノジェネシスも頷きながら、柔らかく続ける。

「ええ、本当に感謝してます」

 

ラヴズオンリーユーは三人を見つめ、温かな笑みを浮かべた。

「いいえ、事務所が大きくなったのは私だけの力じゃないわ。

 みんなで協力したからよ……だから私たちみんなの愛で大きくしたのよ」

 

クロノジェネシスは一瞬驚いた顔をし、すぐに優しく微笑んだ。

「!……ふふ、ありがとうございますラヴズさん」

 

グランアレグリアは拳を握りしめて叫ぶ。

「よーし! あたしたちも頑張って、創始事務所をもっと大きくするよ!」

「ええ、もちろんです」

 

その時、グランアレグリアがふと思い出したように言った。

「……そういえばラヴズちゃん、マルシュロちゃんから手紙が来てたよ。はいこれ」

 

ラヴズオンリーユーは少し驚いた顔で手紙を受け取る。

「マルちゃんから?」

「マルシュロさんって確か今は17区に引っ越したと聞きますけど、元気でしょうか……」

 

ラヴズオンリーユーは手紙を開き、静かに読み始めた。

瞳に、懐かしい光が灯る。

「……うん、元気でやってるみたい。

 裏路地とはいえ普通に暮らせてるって」

「そうですか、それは何よりですね」

「うん……あの子が元気で良かった……」

 

「じゃあラヴズちゃん! 今度会いに行ったらどう?

 マルシュロちゃんも喜ぶよ!」

「えっ……でもいいのみんな?」

「構いませんよ。しばらく依頼も入ってませんし、休暇代わりに行ってきてください」

「ええ、最近会えてなくて不安でしょうし、ラヴズさんも様子を見に行きたいと思っていましたよね」

 

ラヴズオンリーユーは三人を見つめ、静かに頷いた。

「……ありがとうみんな。それじゃあ、お言葉に甘えるわね」

「うん! 行ってらっしゃいラヴズちゃん!」

 

Q社17区 裏路地

 

夕暮れの空が血のように赤く染まる中、ラヴズオンリーユーは裏路地の道を歩いていた。

路地の壁には古い落書きが残り、遠くから子供たちの声が聞こえてくるはずの場所が、今日は異様に静かだった。

 

「ふふ、マルちゃん。今何してるかな?」

 

馬耳を研ぎ澄ます。

「……やけに静かね。なんか……胸騒ぎがする」

 

その時、遠くからかすかな叫び声。

 

ラヴズオンリーユーは即座に走り出した。

 

向かった先は、崩壊したビル群。

煙が立ち上り、あちこちに血が飛び散り、瓦礫の下からうめき声が漏れていた。

「な、何よこれ……」

 

叫び声、泣き声が響く。

「……マルちゃん! マルちゃんどこ!?」

 

必死に探す。

 

その時……

 

「な、なにあれ……」

 

おおよそ人型の姿ではあるものの触手が蠢く悍ましい怪物を見つける

辺りには瓦礫に潰されてる者たちや損傷の激しい死体が転がっている

 

「……あなた、何したのよ。……私の幼なじみに……マルちゃんに……何したのよ!!」

 

ラヴズオンリーユーが怪物に向かって飛びだす

怪物は触手で迎撃する

ザシュッ!

 

しかしラヴズオンリーユーはそれを真正面から打ち破る

 

「死になさい……死ね!」

 

ラヴズオンリーユーが怪物を自身の大剣で滅多切りにする

怪物が断末魔をあげながら消えていく

 

「はぁ……はぁ……マルちゃん……マルちゃん……どこ……?」

 

ラヴズオンリーユーが諦めずにマルちゃんを探す

 

そして――

 

「……マルちゃん」

 

瓦礫の下、片足が潰され、頭から血を流し、横たわる親友

近くには、血に染まったスケッチブック。

 

「ま、マルちゃん……」

 

傍に寄り、震える手で肩を揺する。

「マルちゃん! 起きて! 私だよ! ラヴズオンリーユー!」

 

瞼が、わずかに震える。

「……う、あ……」

「マルちゃん!」

 

「……ラヴズ……ちゃん……」

 

「マルちゃん! 助けに来たよ! すぐに手当てするから待ってて!」

 

「……ラヴズちゃん……ごめん……ね……私、もうダメみたい……」

「そんなことない! 私が助けるから!」

 

弱々しく首を振り、スケッチブックを指差す。

「……ラヴズちゃん……私の……スケッチブック……」

「スケッチブック……これのこと……?」

「うん……それ、あなたにあげる……

 私のこと……ずっと忘れないで……」

「マルちゃん……? なに言ってるの……?

 忘れないよ……忘れないから……死んじゃダメよ……!」

「……ラヴズちゃん……あなたの愛……大事にして……ね……」

 

瞳から、光が消えた。

「マルちゃん……? マルちゃん! マルちゃん!!」

 

大切な親友は二度と目を覚まさなかった。

 

ラヴズオンリーユーはスケッチブックを抱きしめ、

崩れ落ちるように地面に膝をついた。

 

「あ、ああ……アアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

この日、ラヴズオンリーユーの愛は死んだ。

 

翌日 R社18区 創始事務所 ラヴズオンリーユーの自室

 

ラヴズオンリーユーはベッドでスケッチブックを抱き、毛布に深く包まっていた。

目は虚ろで、頬には涙の跡が残っている。

「……ら、ラヴズちゃん、ご飯出来たよ……」

「……いらない」

「う、うん……その……」

「……どっか行って」

「ひっ……ご、ごめんなさい……」

 

ドアが静かに閉まる。

 

「……愛、私の愛……」

 

幼馴染の最後の言葉が、頭の中で繰り返される。

「……痛い……心が引き裂かれて……とても痛い……

 これが……愛……?」

 

その時、ラヴズオンリーユーの中で何かが、

ぽきり、と音を立てて折れた。

 

「そっか……愛ってこんなに痛いんだ……

 この痛いのが本当の愛なんだ……」

 

ゆっくり起き上がる。

「……マルちゃん……私、この愛を大事にするよ……

 それに……みんなにもこの愛を教えてあげないと行けないよね……?

 ……ふふふ♡ ラヴミー♡ ラヴユー♡ ラヴズオンリーユー♡」

 

創始事務所リビング

 

「グランさん……ラヴズさんの様子は……?」

「すっかり落ち込んでるみたい……あれからずっと自室で閉じこもったままだよ……」

 

「ラヴズさん……」

 

すると――

 

ラヴズオンリーユーがリビングに来る。

「ラヴズさん……!?」

「ラヴズちゃん! もう大丈夫なの?」

「ええ、心配かけたわね」

 

しかしその目は、笑っていなかった。

どこか遠くを見ているような、虚ろな瞳。

「……あれ、ラヴズさん、どこかに行くんですか?」

 

「ちょっと裏路地に行ってくるわ。すぐに帰ってくるから」

 

数時間後 18区 裏路地

 

血の海と断末魔の叫びが響く中、

ラヴズオンリーユーは深紅の大剣を振り回していた。

「アハハハ……みんなどう? 私の愛、受け取ってくれた?」

サラザール・シンジケート構成員

「クソ! 黒緑の愛……! いきなりやってきたと思えば何しやがる!」

「あら、まだ足りないのかしら?」

 

ザシュッ!

 

「ぐはあ!」

 

ボス

「お前……目的はなんだ……?

……五本指やその傘下だけじゃない。

規模問わず裏路地の組織をいきなり襲撃しまくって

……何がしたい?」

「目的? 私はただ愛を与えてるだけよ。

 この痛み、喪失感……みーんなに教えて、本当の愛ってものを知ってほしいの♪」

 

「……チッ、狂人の戯言か。

 ……いっそ殺せ」

「……ふふ、分かったわ♡」

 

ザシュッ!

 

「……さて、それじゃあ次に愛を教える人を見つけないとね♡」

 

さらに1時間後

 

創始事務所

「ただいま〜♡」

 

「おかえりなさい……!? ラヴズさん……その血は一体……!?」

「これ? ちょっと裏路地の人達に愛を教えてきただけよ」

「あ、愛を教える……?」

「うん……マルちゃんがいなくなって……私の心がとっても泣いてるの。

 でも、マルちゃんが言ったのよ。私の愛を大事にしてほしいって。

 ……そしたら、この痛いのって愛ってことに気づいたの♡

 この喪失感と痛み……これが本当の愛なんだって……♡」

「ラヴズさん……? なにを……言ってるんですか……?」

「だからみーんなにこの痛みを知ってもらって、

 この都市を私の愛で広めるの♡

 だって裏路地の人達ってみんな愛が足りてないでしょ?

 だったら愛を知らないと行けないわよね?♡」

 

「ら、ラヴズさん……! 貴方自分が何を言ってるのか……分かってるのですか……!?」

「ええ♡ マルちゃんが私に頼んだもの。愛を大事にしてほしいって♡

 だったらせっかくだしその愛をみんなにも知ってもらうのよ♡」

「ラヴズさん……」

「それじゃあ今日はもう遅いし、おやすみなさい、3人とも♡」

 

自室に戻る。

 

「……クロノちゃん……ラヴズちゃん……壊れちゃったよ……」

「……そんな……」

「ラヴズさん……あのままだと取り返しのつかないことに……」

 

愛は壊れ、

歪んだ形で蘇った。

 

黒緑の愛は、

今日も、

誰かに“愛”を教え続ける。

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