ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

38 / 198
狂愛

R社18区 創始事務所

 

埃っぽい夕陽が、古びた事務所の窓から差し込み、

テーブルの上に置かれた冷めたコーヒーカップを赤く染めていた。

壁には依頼の完了報告書が雑多に貼られ、埃が薄く積もった棚には武器の手入れ道具が並ぶ。

事務所の空気は、かつての温かさを失い、

今はただ、重く淀んだ沈黙だけが漂っていた。

 

ラヴズオンリーユーは自室のベッドに座り、

血に染まったスケッチブックを抱きしめていた。

彼女の瞳は虚ろで、唇は微かに震え、

時折、誰にも聞こえない声で囁き続ける。

 

ラヴズオンリーユー

「……ねえマルちゃん、私今日もみんなに愛を伝えたよ……♡

 あなたの言う通りに……♡」

 

グランアレグリアはドアの隙間から、震える声で呼びかけた。

 

グランアレグリア

「ら、ラヴズちゃん……」

 

ラヴズオンリーユーはゆっくりと顔を上げ、

歪んだ笑みを浮かべた。

 

ラヴズオンリーユー

「あら? 何かしらグランちゃん?」

 

グランアレグリア

「ラヴズちゃん……こんなこと……やめようよ……

 裏路地に八つ当たりしても……マルシュロちゃんは……」

 

ラヴズオンリーユーの笑みが、一瞬凍りついた。

 

ラヴズオンリーユー

「……グランちゃん、あなた、私の愛を……

 マルちゃんが大切にしてって言った愛を……否定するの……?」

 

グランアレグリア

「えっ……?」

 

ラヴズオンリーユーはゆっくり立ち上がり、

深紅の大剣を手に取った。

 

ラヴズオンリーユー

「そっか……グランちゃんもこの愛を知らないんだ……

 知りたいよね? 私の愛、知った方がいいわよね?♡」

 

グランアレグリア

「な、なにするの……や、やめて……!」

 

ヒュン!

 

振り下ろされた大剣を、クロノジェネシスが咄嗟に防いだ。

 

ガキン!

 

グランアレグリア

「く、クロノちゃん……」

 

クロノジェネシス

「……ラヴズさん、なにしているんですか?」

 

ラヴズオンリーユー

「……クロノちゃん、グランちゃんが私の愛を否定するのよ。

 ……クロノちゃんは否定しないよね?」

 

クロノジェネシス

「はぁ……グランさん、今のラヴズさんには迂闊なことを言わないでください」

 

グランアレグリア

「う、うん……」

 

クロノジェネシスは剣を構えたまま、静かに問いかけた。

 

クロノジェネシス

「……ラヴズさん、あなた自分が何をしているのかちゃんと分かっているのですか?

 ……本当に……これが愛って理解してるんですか……?」

 

ラヴズオンリーユーは首を傾げ、

まるで子供に語りかけるように微笑んだ。

 

ラヴズオンリーユー

「そうよ、マルちゃんがいなくなってから私の心はずっと痛いって言ってるの……

 マルちゃんはあなたの愛を大事にしてって言ったけど……

 私、もう痛いことしか分からないの……

 これって、この痛みが愛ってことよね?

 マルちゃんが大事にしてって言った……本当の愛なのよ。

 だったらこの痛みの愛をみんなに配らないと……

 マルちゃんが感じた分、私が感じてる分、みんなにも体験して欲しいの……♡」

 

クロノジェネシス

「……そう、ですか……」

 

ラヴズオンリーユー

「うん♡……ふふ、マルちゃん、大丈夫よ。もっと、もーっと愛を伝えるから……あなたは安心して見てて♡」

 

クロノジェネシス

「!?ラヴズさん……?誰と話してるのですか……?」

 

ラヴズオンリーユー

「誰ってマルちゃんよ♡ほら、マルちゃんの暖かくて優しい声が聞こえてこない?」

 

グランアレグリア

「……く、クロノちゃん……これって……」

 

ラヴズオンリーユー

「うん♡ うん♡ もっと教えないとダメよね?

 分かったわマルちゃん♡ 私まだまだ愛を広めるから♡

 ……じゃあ2人とも、マルちゃんがもっと愛を広めてって言ってるから、

 私また裏路地に行ってくるね♡」

 

クロノジェネシス

「……ラヴズさん……ま、待ってください……」

 

ラヴズオンリーユー

「何かしら?」

 

クロノジェネシス

「その声……本当にマルシュロさんの物ですか……?」

 

ラヴズオンリーユー

「そうよ♡ だってこんなにも暖かくて優しい声なんだもの♡

 マルちゃん以外有り得ないわ♡

 ……それじゃあまたね2人とも」

 

ラヴズオンリーユーは深紅のコートを翻し、

事務所を後にした。

 

残された二人。

 

グランアレグリア

「……ねえ、暖かくて優しい声って……」

 

クロノジェネシス

「……以前ディエーチ協会の資料で読んだカルメンという人物でしょうか……

 ねじれが発生する元凶……

 マルシュロさんを殺したねじれもきっとカルメンが発生させたものでしょうね……」

 

グランアレグリア

「そんな……!? じゃあこのままだとラヴズちゃんもねじれになっちゃうってこと……!?」

 

クロノジェネシス

「……ええ、可能性はあります。

 もしそうなったら……私たちでラヴズさんを終わらせましょう。

 ……それが友人として私たちに出来ることです」

 

グランアレグリア

「そんな……! 嫌だよ……あたし、ラヴズちゃんを殺すなんて出来ないよ……!」

 

クロノジェネシス

「ならばそうなる前にラヴズさんの正気を取り戻さないと……

 どの道、例えねじれにならなくてもこのまま規律違反が続けば

 ハナ協会から追討命令が下るはずです」

 

グランアレグリア

「……分かった……! あたし、元の優しいラヴズちゃんに戻すよ!」

 

クロノジェネシス

「ええ……しかし、ラヴズさんの正気を戻す手段が思いつかないのが悩みですね……」

 

グランアレグリア

「……うん、ラヴズちゃん、もう私たちのことも分かってくれないのかな……」

 

クロノジェネシス

「はぁ……」

 

ガチャ

 

カレンブーケドール

「ただいま戻りました……」

 

グランアレグリア

「あっ、おかえりブーケちゃん……」

 

クロノジェネシス

「ブーケさん、おかえりなさい。

 ……どうでしたか? 裏路地の様子は?」

 

カレンブーケドール

「すっかり闇に染まってます……

 裏路地を支配していた五本指やその傘下組織を

 ラヴズさんがことごとく壊滅させたので……

 無秩序状態が続いています……」

 

クロノジェネシス

「そうですか……裏路地の今後が心配です……」

 

グランアレグリア

「うん……五本指って普段から悪いことしてるけど……

 今回のって完全にラヴズちゃんの八つ当たりだよね……」

 

クロノジェネシス

「……ラヴズさん、お願いですから……

 どうか止まってください……」

 

18区 裏路地

 

血の雨が降り続き、断末魔の叫びが響く。

 

中指 長妹

「赤い愛! あなたよくも中指の家族を害してくれたわね!

 それが何を意味するか分かってるの!?」

 

ラヴズオンリーユー

「ふふふ♡ 害した? 私はただ愛を教えただけよ♡

 とーっても幸せな愛をみんなに広めてるだけ♡」

 

長弟

「くそ! 特色の狂人が……!」

 

末姉

「こうなったら全員でかかりなさい!

 家族の絆を思い知らせるのよ!」

 

末弟

「分かりました姉貴!」

 

ラヴズオンリーユー

「ふふ……♡」

 

ザシュッ! ズシャッ! ドゴォン!

 

ラヴズオンリーユー

「あはは♡ アハハハハ♡ あはは♡ あははははあははは♡」

 

末妹

「きゃあ!」

 

末姉

「くそ……! こいつ、本当に同じウマ娘かよ……!」

 

長兄

「……こうなったら俺が出よう」

 

末姉

「兄貴……でももし兄貴までやられたら……!」

 

長兄

「その時はそん時だ。

 ……中指の義理として家族の仇は取らないとな」

 

長弟

「兄貴! 俺たちも一緒に……!」

 

長兄

「……お前たちは逃げろ、こいつは俺1人で相手する」

 

末姉

「えっ! な、なんで……!?」

 

長兄

「……かつて黒い沈黙に南部の中指が半壊させられた事件があった以上

 二の舞になるのはあってはならない。

 お前たちだけでも逃げろ。

 北部や西部……南部の手伝いでも良い。

 他の家族を頼れ。

 そして時が来れば再び東部の中指を再興するんだ。

 ……中指は不滅だ」

 

末姉

「あ、兄貴……」

 

長兄

「早く行け」

 

末姉

「……も、申し訳ありません……!

 みんな! 怪我が酷いやつは背負いな!

 兄貴が引き付けてくれてる間に行くぞ!」

 

末姉、末兄クラスの幹部以下中指の構成員数十名が逃げる。

 

長兄

「……来い、赤い愛。

 貴様の愛とやら、ここで止めて見せる」

 

ラヴズオンリーユー

「アハハハハ♡!」

 

ガキン! ドゴォン! ザシュッ! ズバァン!

 

愛の暴走は止まらず、

裏路地に血の雨が降り続ける。

 

赤い愛は今日も、

誰かに“愛”を教え続ける。

 

その歪んだ愛は、

いつか、全てを飲み込むかもしれない。




……ああ、苦痛よ……

あなたはいつも、私の傍にいる。
影のように、息のように、
決して離れず、決して薄れず、
私の胸を、静かに、でも確実に蝕み続ける。

私には、もう他に何も残っていない。
喜びは遠く、希望は消え、
愛した人は、もうこの手には触れられない。
残ったのは、あなただけ。
この、焼けるような、引き裂かれるような、
果てしない痛みだけ。

どうしてあなたを恨めようか。
誰もいなくなった夜に、
あなただけが、私を抱きしめてくれた。
涙で枕を濡らす時も、
息が詰まって叫びたくなる時も、
あなたは黙って、私の心の奥に座り続けた。

ああ、苦痛よ……
私はようやく、あなたを尊敬するようになった。
あなたは決して裏切らない。
最愛の人が去った後も、
あなたはここにいる。
私を離さない。

ああ、苦痛よ……
私はようやく、あなたを理解した。
あなたは、ただ存在するだけで美しい。
暗く、冷たく、哀れなこの心の、
唯一の暖かさのように。

あなたは……
あの人の残した温もりより、
なお深く、私を抱きしめてくれる。

苦痛よ……
私は知っている。
死の床に私が横たわるその日まで、
あなたは私の隣にいて、
私の心の奥底で、
永遠に、私と共にあることを。

だから……
どうか、離れないで。
この痛みを、
この哀しみを、
ずっと、ずっと……
私に与え続けて。

これが、私の……
最後の、
愛だから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。