ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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緑の旅人

Y社25区 果てしなき雪原

 

風は刃のように鋭く、雪は灰色に濁っている。

遠くに見えるのは、都市と外郭を区切る壁。

 

ここまで来れば、もう誰も追ってこない。

 

雪を蹴立てて現れたのは、緑のマントを翻す一人のウマ娘だった。

 

「久しぶりだね師匠! 元気そうで何よりだよ」

 

特色「緑の旅人」ミスターシービーは、凍てつく風の中でも変わらぬ笑顔で手を振った。

腰に吊るされた軽量の短剣が、わずかに鳴る。

 

雪の奥から、紫のスーツに身を包んだ老いた女性が姿を現す。

紫の涙 イオリ。

 

三振りの剣を背負い、まるで蛇のように静かに立つ。

 

「あんたも随分元気そうだね。

 まあ、可愛い弟子が無事でいてくれるなら嬉しいことさ」

 

シービーは胸を張る。

 

「アタシだってもう立派な特色なんだから、都市でも十分やって行けるよ」

 

イオリは小さく笑いながらも、厳しく言う。

 

「あんまり調子に乗るんじゃないよ。

 特色だって限度がある。死ぬ時は死ぬんだから、常に警戒しておくことさ」

 

「うん、師匠って今までにも何人か弟子を育てて来たんでしょ?

 しかも特色になった人もいっぱいいるみたいだし」

 

「ああ、カーリー、アルガリア、アンジェリカ……

 どれも強い子たちだったよ。

 もっとも、ほとんどは死んじまったけどね」

 

イオリの瞳に、一瞬だけ遠い影がよぎる。

シービーは真っ直ぐに師を見据えた。

 

「師匠、アタシは死なないよ。

 アタシにはまだやりたいことが残ってる、それを成し遂げるために

 師匠に弟子入りして、強さを手に入れた。

 ふふ、感謝してるよ」

イオリはしばし目を閉じて思案すると、静かに告げる。

 

「それは結構なことだけどね、シービー。

 この都市で自由に生きたいってんなら、強さだけじゃやっていけない。

 誰からの干渉も受けない、強靭な精神力と信念が必要さ」

 

シービーは笑った。

雪が舞う中で、その笑みは澄んでいたが、儚くもあった。

 

「分かってる。

 例え誰が来ても、アタシは負けない。

 アタシの旅路はずっと続くんだ」

 

「旅路ね……

 まあ、あんたの好きにすればいいさ。

 私は強さを教えたまで。それから先は自分で考えな」

 

シービーは踵を返し、雪原の向こうへ歩き出す。

 

「分かったよ師匠、それじゃアタシはそろそろ行くよ」

 

イオリは最後に、静かに告げた。

 

「せいぜい頭に殺られないように気をつけな。

 あんたはもう不純物に指定されてるんだから。

 一体なんで禁忌なんか犯してしまったんだい?」

 

シービーは振り返らず、ただ小さく手を振った。

 

「……それは師匠相手にも言えないかな。

 アタシにだってプライバシーがあるもん」

 

「そうかい。

 まあ、既に処刑者連中を何人も返り討ちにしてるみたいだし、

 そのうち調律者が出てくるはずさ。気をつけな」

 

「大丈夫。アタシが死ぬときは目的を達成する時だけだから!」

 

一見すると普通の言葉だが、イオリはその言葉の裏にシービーが抱える黒い感情を見た気がした

 

「...そういえば、あんたが禁忌違反して暫くした頃にA社と専属契約を結んだ特色フィクサーがいるらしいけど、...あんたの禁忌違反とは関係あるのかい?」

 

シービーの表情に一瞬陰りが見える

 

「...師匠、アタシと関わると師匠も不純物になるかもしれないよ。...師匠だってやりたいこと、あるんでしょ?」

 

シービーの言葉は師匠への敬愛もあったが、同時に追求を拒む圧もあった

 

「...そうさね、それじゃあ私はもう何もしてやれないけど、あんたがどんな結末を迎えるのか、見守ることにするよ」

 

「ありがとう師匠、アタシもう行くね」

 

緑のマントが雪煙を上げ、遠ざかっていく。

イオリは一人残され、静かに遠くを見た

 

「……やれやれ。

 私の弟子で一番とんでもない奴だね」

 

彼女は空を見上げる。

灰色の雪が降り続く中、遠くで汽車の汽笛が鳴った。

 

「まあ、久しぶりに打算抜きで見守ることにするかね」

 

紫の涙は微笑み、雪の中に消えた。

 

その背後で、

 

「緑の旅人」は誰にも縛られず、誰にも止められず、

ただ一つの目的に向かって歩き続ける。

 

たとえ明日、頭の爪が届いたとしても。

たとえ外郭で肉片になっても。

彼女の旅は終わらない。

 

しかし、その旅の先にあるのが自由か破滅かは...旅人だけが知っていた




ミスターシービー
特色フィクサー「緑の旅人」
とにかく行動が予想できない自由人で、都市のあらゆる場所を移動しており神出鬼没。 一人称はアタシ。 都市の禁忌を犯してしまい、現在はA社こと頭から追われる身。紫の涙に弟子入りし、実力を身につけ特色になった。
一見明るいウマ娘だがその裏には黒い感情を抱えている

イオリ
特色フィクサー「紫の涙」
次元と空間を移動する能力を持つ、謎の多い女性。 育成者としても優れており、特色クラスのフィクサーを複数人育て上げた。 紫色のスーツに身を包み、刀・刺剣・大剣の3つを携える老齢の「特色」。かなり前に息子を亡くしており、息子と再会する方法をずっと探している。その目的の為あちこちに神出鬼没に現れては暗躍している。特色なだけあって指導力はもちろん戦闘力も並外れている。
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