ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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愛の絆

R社18区 巣 創始事務所 所長室

 

事務所の空気は、ようやく重苦しさを脱し始めていた。

窓から差し込む朝の光が、埃っぽい床を優しく照らし、

散らばった書類や空のコーヒーカップを、穏やかな色に染めている。

壁には、かつての依頼完了の証が雑多に貼られたままだったが、

今はそれさえも、懐かしい記憶のように感じられた。

 

クロノジェネシスは机に座り、疲れた体を預けながら、

静かに息を吐いた。

「ふぅ……ようやく正気に戻ってくれましたね」

 

グランアレグリアはベッドの端に座り、

目を潤ませながらも、明るく笑った。

「うん! ラヴズちゃん良かったよ〜!」

 

カレンブーケドールは壁に寄りかかり、

安堵の表情を浮かべながら、静かに頷いた。

「はい……本当に……」

 

ラヴズオンリーユーはベッドに座ったまま、

膝を抱え、俯いていた。

彼女の瞳には、まだ涙の跡が残り、

声は震えていた。

 

「……ごめんなさいみんな……私……本当に……」

 

クロノジェネシスは優しく、しかし確かな声で言った。

 

「良いんです……もう……終わりましたから……」

 

グランアレグリアはスケッチブックを差し出し、

にっこり笑った。

 

「……うん! そうだラヴズちゃん! はいこれ!

 マルシュロちゃんのスケッチブック! もう大丈夫だよね?」

 

ラヴズオンリーユーはゆっくりと受け取り、

胸に抱きしめた。

「……うん……ありがとう……」

 

クロノジェネシスは静かに尋ねた。

 

「……そういえばラヴズさん。そのスケッチブックには何が書いてあるんですか?」

 

ラヴズオンリーユーは少し躊躇いながら、

ゆっくりとページを開いた。

 

「……ちょっと待って、今見るから……」

 

ところどころ血で汚れていたり滲んでいたが、

そこにはマルシュロが描いた様々な都市の景色や人々の絵があった。

路地の子供たち、夕陽に染まるビル群、

優しい筆致で描かれた日常の瞬間。

 

カレンブーケドールは目を細めて、感嘆の声を漏らした。

 

「うわあ……素敵ですね……」

 

ラヴズオンリーユーはページをめくりながら、

懐かしそうに微笑んだ。

 

「……うん、マルちゃんの絵……いつも優しくて……暖かくて……

 大事にしてたよね……」

 

そして最後のページ。

「あっ……」

 

そこには、ラヴズオンリーユーの似顔絵。

優しい笑顔で描かれた彼女の横に、

「私のラヴな親友」と添え書きされていた。

 

「……マルちゃん……こんなもの残してたんだ……」

 

クロノジェネシスは静かに、しかし優しく言った。

 

「……ラヴズさん、マルシュロさんが大切にして欲しいと言ったのはこういうことですよ。

 あなたの本当の愛……誰かを想う心がマルシュロさんは大好きだったんですよ……」

 

ラヴズオンリーユーはスケッチブックを抱きしめ、

涙を溢れさせた。

 

「……マルちゃん……ごめんなさい……ありがとう……」

 

カレンブーケドールは静かに、しかし確かな声で言った。

 

「……それではクロノさん、これからどうしましょう?

 ハナ協会への報告や裏路地の被害状況など色々課題は残っていますが……」

 

クロノジェネシスはため息をつき、

現実を直視するように言った。

 

「ええ……五本指の報復も心配ですし……

 ひとまず18区からは引っ越すことになりそうですね」

 

「うーん……仕方ないよね……」

「ごめんなさい……私のせいで……」

 

クロノジェネシスは優しく微笑んだ。

 

「……大丈夫ですよ……4人でまた一からやり直しましょう。」

「……うん」

 

「……とりあえず引っ越す先ってどうするの?」

 

「ちょっと待ってくださいね……ここからだとI社9区辺りが近いですね……

 巣の居住権は難しいですし、裏路地でしばらく過ごすしかなそうですね……」

 

「私たち4人なら巣でも裏路地でもやっていけますよ。

 ……とりあえず、今後の予定はハナ協会に今回の件の報告をしてから決めましょうか」

 

「うん……私、絶対にみんなを守るから……!」

 

その後……

 

数日後、事務所の片付けが終わった頃。

 

クロノジェネシスはハナ協会からの通達を読み、

ため息をついた。

 

「はぁ……私たち3人は降格の上、事務所の営業停止処分ですか……

 分かってはいましたけど結構重い処分ですね……」

 

「あたしが4級、クロノちゃんが5級、ブーケちゃんが7級ね……

 で、事務所の営業許可も剥奪か……」

 

「仕方ありませんね……」

 

「ごめんなさい……私のせいで……」

 

グランアレグリアは明るく笑った。

 

「大丈夫だよ、ラヴズちゃんは特色のままなんだし、

 4人でフリーのフィクサーとしてやっていこうよ」

 

「ええ……生きていれば、またやり直せますよ」

「はい……ラヴズさんが戻ってきてくれただけで、私たちは嬉しいんです」

「うん……! ありがとうみんな……!」

 

クロノジェネシスは立ち上がり、

三人を見つめた。

 

「それでは、事務所を畳む準備をしましょうか。

 ラヴズさん、グランさん、ブーケさん、よろしくお願いします」

 

「分かった!」

「はい!」

 

「分かったわ」

 

クロノジェネシスは窓の外、灰色の空を見上げ、

静かに呟いた。

 

「……ここから始めましょう。また4人で……」

 

創始事務所の灯は、

一旦消えた。

 

けれど、

四人の絆はこれからも、

どこかで静かに灯り続ける。

 

愛は壊れても、

再び形を変えて蘇る。

 

これからは、

四人で新しい愛を、

紡いでいく。

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