A社1区 A社本社 調律者執務室
都市の中心にそびえるA社本社。
最上階の一室は、静寂とコーヒーの香りだけが漂う空間だった。
マンハッタンカフェはデスクに向かい、
無数のモニターに映る数字とグラフを淡々と確認している。
マンハッタンカフェ
「……今日も特許料はしっかり収められていますね。
各翼の特異点を保護してる以上は徴収せねばなりません」
彼女の指先がキーボードを軽く叩く。
画面には26の翼の名称と、その月の特許使用料・保護料の入金状況が並ぶ。
A社は他の翼が保有する超技術「特異点」を管理する立場。
勝手に使われないよう特許として保護し、その対価として各翼から特許料を徴収する。
外部の者が使う際も使用料を徴収し、特許を持つ翼へ受け渡す仕組みだ。
マンハッタンカフェ
「次にB社からの報告では……脱税がいくつか起こったものの、
警告を出せばしっかり納めたと……
タキオンさんも仕事は真面目にしているんですね……」
都市に生きる以上、誰もが払わなければならない税金。
滞納すればC社(足爪)から3度の警告が届き、
全て無視すれば処刑者が派遣される。
この特許料と税金こそが、A社の主な財源だ。
マンハッタンカフェはモニターを一つ切り替え、
1区全体の治安データを確認する。
マンハッタンカフェ
「……1区の治安も問題ないようですし、禁忌違反の報告もなし。
……今日は何事もなく終われそうですね」
A社も翼である以上、自身が直接支配する区を持っている。
1区は都市で最も安全な場所であり、
頭の直轄地でもある。
住めるのは最上流階級のみ。
もし何か起きれば、ハナ協会の最高戦力や、場合によっては調律者自らが出動する。
マンハッタンカフェは最後に造幣状況を確認し、静かに息を吐いた。
マンハッタンカフェ
「……造幣も問題なし、都市経済も安定していますか……」
A社は都市の貨幣「眼(アン)」を造幣し、B社が発行する。
この通貨が回り続ける限り、都市は生き続ける。
彼女は椅子に深く腰を沈め、
デスクの隅に置かれたマグカップに手を伸ばした。
マンハッタンカフェ
「……今日も都市は問題なく回っていますね。
この循環を守ることこそ、我々調律者の使命……」
カップを口元に運ぶ。
マンデリンの深いコクが、静かに舌に広がる。
マンハッタンカフェ
「……ふぅ。
やはり、コーヒーは一人で飲むのが一番ですね」
窓の外、
1区の巣は今日も完璧な静寂に包まれていた。
誰もが恐れる調律者の部屋でただ一人の少女が、
コーヒーの香りに包まれながら都市の鼓動を静かに聞き続けていた。