B社2区 B社本社 オフィス
無数のモニターが壁一面を埋め尽くし、
青白い光が部屋全体を冷たく照らす。
ここは都市の「目」——
頭の意志を受け、26の区を24時間365日休むことなく凝視し続けるB社の心臓部だ。
アグネスタキオンは椅子にふんぞり返り、
片手で紅茶のカップを持ちながら、
もう片方の手でモニターをスクロールしていた。
アグネスタキオン
「ふぅん、やはり軽微な禁忌違反は日常的に起こるね〜。
まあ全て処刑者が派遣されて速やかに事なきを得てるから良かったよ〜」
彼女は栗毛の髪を指でくるくると弄りながら、
カップを口に運ぶ。
紅茶の香りが、冷たい空気にわずかに甘さを添えた。
その時、後ろから低い声が響く。
ルダ
「タキオン、お前はもっと真面目に仕事をしろ。
凝視者たるもの都市の不純物を見過ごすようなことがあってはならないんだからな」
白い長髪を靡かせた凝視者・ルダが、
腕を組んで立っていた。
表情は不服そのものだ。
アグネスタキオンは振り返り、にこっと笑う。
アグネスタキオン
「分かってるよルダ君、私だって凝視者の端くれ、仕事は真面目にするよ〜」
ルダ
「全く……お前は普段からA社に入り浸ってるし、
私から見ればほとんど仕事してるようには見えない。
だが上司に聞けば真面目に仕事はしているという。
一体どんな方法を使ってるんだ?
あと随分馴れ馴れしい態度だしな」
アグネスタキオンはカップを置き、悪戯っぽく肩をすくめた。
アグネスタキオン
「それは秘密さ、効率よく仕事出来る手段を知ってるだけだよ〜。
それとこの性格は生まれつきだよ」
ルダはため息をつき、髪を耳にかけながら自分のデスクに戻る。
ルダ
「……まあ、サボらなければいい。
A社とC社が都市の不純物を即座に粛清出来るのはB社あってこそということを肝に銘じておけ。
……お前を見てると、調律者なのに時々B社に来て紅茶飲みながら仕事をサボっていたガリオンを思い出すんだ」
アグネスタキオンは軽く手を振った。
アグネスタキオン
「はいはい、分かってるよ」
ルダが席に着くと、再び静寂が戻る。
モニターの光だけが、二人を青く照らし続ける。
アグネスタキオンはカップを手に、再びモニターに向き直った。
アグネスタキオン
「……でもさ、ルダ君」
彼女は小さく笑う。
アグネスタキオン
「都市って、凝視してる側も凝視されてる側も、
結局みんな同じ『目』で見られてるんだよね〜」
ルダは振り返らず、淡々と答えた。
ルダ
「……余計なことを言うな。
仕事に集中しろ」
アグネスタキオン
「はーい」
彼女は紅茶を一口すすり、
モニターに映る都市の無数の光点を眺めた。
26の区、
無数の命、
無数の罪、
無数の秘密。
B社は今日も、
都市の全てを休むことなく凝視し続けている。