ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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青い残響

ハナ協会本部 資料庫

 

静寂に包まれた広大な資料庫。

無数の棚が天井まで伸び、古い紙の匂いと埃が混じり合う。

都市で今まで起こった都市災害の記録、著名なフィクサーたちの経歴、協会の歴史、

——全てがここに眠っている。

 

オルフェーヴルは一つの机に腰を下ろし、

古びたファイルケースを広げていた。

表紙には「特色フィクサー記録 アルガリア」とだけ記されている。

 

オルフェーヴル

「……アルガリア。

 貴様と残響楽団がいなくなってもう2年近くか。

 昔の貴様はいけ好かなかったとはいえ、実力は評価していたんだがな……」

 

彼女はページをゆっくりめくり、

白髪の好青年が穏やかに微笑む写真を見つめる。

目だけが、どこか虚ろで、笑っていない。

 

その時、軽やかな足音が近づいてきた。

 

トウカイテイオー

「ここが資料庫? なんか色々置いてるけど、ツルちゃんが見たいのってどれ?」

 

ツルマルツヨシ

「えっと……ディエーチ協会の歴史についてなんだけど……」

 

ディエーチ協会西部1課の特色フィクサー「白紫の帝王」トウカイテイオーと、

1級フィクサー「ツルマルツヨシ」が、好奇心と少しの緊張を浮かべて入ってきた。

 

トウカイテイオーが資料庫の奥を見回し、

ふと視線を止める。

 

トウカイテイオー

「あれ? あれって前ママに紹介してもらったオルフェーヴルじゃない?」

 

ツルマルツヨシ

「あっ本当だ……」

 

オルフェーヴルは顔を上げ、静かに二人を見た。

 

オルフェーヴル

「トウカイテイオーにツルマルツヨシ……こんなところで会うとはな」

 

トウカイテイオーは無邪気に駆け寄る。

 

トウカイテイオー

「久しぶり! オルフェーヴルは何してるの?」

 

ツルマルツヨシ

「私たちはディエーチ協会の資料を見に来たんですが……」

 

オルフェーヴル

「ふん、別に大したことではない。

 少し、昔の知り合いの記録を見に来ただけだ」

 

トウカイテイオーが興味津々で覗き込む。

 

トウカイテイオー

「えーっと……青い残響アルガリア?

 この人の記録を見てたの?」

 

オルフェーヴル

「そうだ。積極的に関わるほどではなかったが……知らん相手でもなかった」

 

ツルマルツヨシは写真をじっと見つめる。

 

ツルマルツヨシ

「なんか穏やかそうだけどちょっと不気味な笑顔ですね……」

 

アルガリアの写真——白髪の好青年が優しく微笑んでいる。

しかし目は、どこか遠くを見ているようで、笑っていない。

 

トウカイテイオー

「オルフェーヴル、このアルガリアってどんな人なの?」

 

オルフェーヴルは静かにページをめくりながら、淡々と語り始めた。

 

オルフェーヴル

「余や貴様と同じ特色だった男だ。

 無論戦闘能力も並外れていた。

 その上であやつは常に優雅に舞うように戦っていた。

 まるで美しさを求めるようにな」

 

トウカイテイオー

「へー! 凄かったんだね!」

 

オルフェーヴル

「まあな。特色の中でもかなりの上澄みだった上、

 昔こそあらゆる都市災害相手にも負けなかった男だ」

 

ツルマルツヨシ

「そんなに強かったんですか……流石特色フィクサーですね」

 

オルフェーヴルは写真を指で軽く叩き、続ける。

 

オルフェーヴル

「……だが、およそ3年前、ピアニストというねじれによってこやつの妹が死んだ」

 

ツルマルツヨシ

「妹さんが……?」

 

オルフェーヴル

「妹の名はアンジェリカ。黒い沈黙の名を持つ特色フィクサーだった」

 

トウカイテイオー

「兄妹で特色フィクサー!?」

 

オルフェーヴル

「ああ。無論兄に負けず劣らず強かったが……

 ピアニストはそれを上回り、敗北した」

 

トウカイテイオー

「……ピアニストって前に協会長に教えてもらったけど、

 都市で最初に発生したねじれなんだよね。

 確か30万人を殺した都市災害って……」

 

オルフェーヴル

「そうだ。最後に鎮圧されたが……被害は甚大だった。

 今でも影響が残るほどにな」

 

ツルマルツヨシ

「それでアンジェリカさんが亡くなったあと、

 アルガリアさんはどうしたんですか……?」

 

オルフェーヴル

「こやつは妹の死によって狂気に染まった。

 残響楽団を貴様らは知っているか?」

 

トウカイテイオー

「えっと……数年前に都市で暴れていた悪い人達だよね。

 ディエーチ協会で学んだよ」

 

オルフェーヴル

「そうだ。それを団長として率いていたのがこやつだ」

 

ツルマルツヨシ

「えっ! な、なんで……?

 だってこの人特色フィクサーなんですよね?」

 

オルフェーヴル

「フィクサーとて善人ばかりではない。

 きっかけひとつで悪人に堕ちることもある」

 

トウカイテイオー

「……それでアルガリアはどうなったの?」

 

オルフェーヴル

「都市で様々な混乱や騒動を引き起こした後、

 図書館という場所で死んだ。

 最後はハナ協会によって特色フィクサーの資格すら剥奪され、

 都市災害の最上位ランク、『都市の星』に指定されてな」

 

トウカイテイオー

「特色だったのにそんなことしたなんて……

 でも、アンジェリカが死んだことがきっかけって考えるとなんだか憎めないよ……」

 

オルフェーヴルは静かに目を細めた。

 

オルフェーヴル

「……貴様らはあの時期の都市のことを知らぬからそういうことが言えるのだ。

 今でも12のフィクサー協会はどこも復興には苦労している」

 

ツルマルツヨシ

「うーん……私は特色ってフィクサーにとって英雄に近い存在だって思ってましたけど……

 こんな人もいるって思うとなんだかなって……」

 

オルフェーヴル

「まあこやつは例外に近い。

 現在でも特色フィクサーには癖の強いやつも多いが……

 少なくともここまで堕ちた者は後にも先にもアルガリアのみであろう」

 

トウカイテイオー

「そうなんだ……教えてくれてありがとう」

 

ツルマルツヨシ

「それじゃあ私たちはディエーチの資料を探すので失礼しますね」

 

二人は軽く会釈し、資料棚の奥へと消えていく。

 

オルフェーヴルは再びファイルに目を落とし、

アルガリアの写真を見つめた。

 

オルフェーヴル

「……アルガリア。

 余としては貴様の悪業は今でも許し難いが、

 少なくともあやつらは貴様に理解を示そうとしたようだな」

 

資料庫の静寂の中、

青い残響は今も、

都市のどこかで微かに響いている。

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