ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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青紫の孤独

ハナ協会北部支部 支部長執務室

 

白を基調とした清潔な部屋。

窓からは北部地域の整然とした街並みが一望できる。

陽光が柔らかく差し込み、書類の山を淡く照らしていた。

 

「……これで終わりね」

 

椅子にもたれ、肩を回す。

 

エクリプス

「はぁ……。

 フィクサーの階級審査って、本当に骨が折れるわ。

 甘すぎても舐められるし、

 厳しすぎれば都市が回らなくなる……」

 

紅茶のカップを手に取り、小さく息を吐いた。

 

エクリプス

「ま、今日はここまで。

 少しは休ませてもらいましょうか」

 

コンコン。

 

メジロラモーヌ

「失礼するわ」

 

ドアが静かに開き、優雅な物腰の女性が入ってくる。

 

エクリプス

「あら、ラモーヌじゃない。

 何かあったかしら?」

 

メジロラモーヌ

「ええ、ちょっと他の協会では対処が難しい案件が回ってきたのよ」

 

エクリプス

「何? また星になりそうな都市災害の案件?」

 

メジロラモーヌ

「都市災害ではないわ。

 でも――特色フィクサーが関わっている」

 

その言葉に、エクリプスの表情が僅かに引き締まる。

 

エクリプス

「……見せてちょうだい」

 

ラモーヌが差し出した一枚の資料。

必要最低限にまとめられた、ハナ協会形式の報告書。

 

エクリプスは目を走らせ、静かに読み上げた。

 

エクリプス

「――『青紫の孤独』。

 クリフジ……特色、ね」

 

メジロラモーヌ

「ええ。

 最近、北部地域で“悪い意味”で有名になっているわ」

 

エクリプス

「悪い意味?」

 

メジロラモーヌ

「他の事務所、他の協会に割り振られた案件を、

 すべて“先回り”して解決しているの」

 

エクリプス

「……は?」

 

メジロラモーヌ

「ツヴァイの拘束案件、

 シの暗殺依頼、

 センクの決闘、

 セブンの調査……」

 

淡々と続ける。

 

メジロラモーヌ

「全部、よ」

 

エクリプス

「……それは」

 

メジロラモーヌ

「規律違反とは断定しづらい。

 報告は完璧、被害も最小。

 結果だけ見れば、非の打ち所がない」

 

エクリプス

「でも――」

 

メジロラモーヌ

「ええ。

 協会という仕組みを、根本から無視している」

 

エクリプスは資料を机に置き、腕を組む。

 

エクリプス

「……仕事中毒、というレベルじゃないわね。

 これは“壊れかけ”よ」

 

メジロラモーヌ

「ウーフィ協会では対応不能。

 だから、ハナ協会に回ってきたわ」

 

エクリプス

「……なるほど」

 

その時、二人は同時にドアの外の気配に気づいた。

 

エクリプス

「……ん?」

 

メジロラモーヌ

「……セントライト、そこにいるんでしょう?」

 

……ガチャ。

 

セントライト

「……失礼しますわ」

 

白いドレスに身を包んだ特色フィクサーが、

静かに部屋に入ってくる。

 

エクリプス

「セントライト、外で聞き耳を立ててたようだけど、

 何か気になることでもあるの?」

 

セントライト

「ええ……クリフジの対応を考えあぐねているのですのよね?」

 

エクリプス

「ええ。何? 知り合いなの?」

 

セントライト

「昔の友人ですわ。

 ハナ協会の新人だったころからの付き合いで……」

 

メジロラモーヌ

「じゃあ連絡先とか知ってるというの?」

 

セントライト

「一応は……」

 

エクリプス

「……じゃあ呼び出して貰える?

 ハナ協会としては事情聴取をしないといけないから」

 

セントライト

「……分かりました」

 

数日後

ハナ協会 北部支部・査問室

 

重厚な扉が開く。

 

青紫の衣を纏った女性が、静かに入室した。

 

クリフジ

「……失礼します。

 クリフジでございます」

 

太刀を帯びた姿は気品に満ちている。

だが、その瞳は――死んでいた。

 

エクリプス

「座って」

 

クリフジは静かに椅子に腰を下ろす。

 

エクリプス

「理由は分かるわね?」

 

クリフジ

「……規律違反の件かと」

 

エクリプス

「正確には“逸脱”よ。

 貴方は協会の仕組みを無視しすぎた」

 

クリフジ

「……弁明はありません」

 

即答だった。

 

クリフジ

「全て、意図的な行動です。

 処分はご自由に」

 

その声音に、

生への執着は感じられなかった。

 

エクリプス

「……」

 

一瞬、沈黙。

 

エクリプス

「では暫定処分よ。

 任務制限。

 正式な判断が下るまで、北部支部で待機。

 ――監視付きで」

 

クリフジ

「……承知しました」

 

待機室

 

静かな部屋。

窓の外を、クリフジはただ眺めていた。

 

コンコン。

 

セントライト

「……入りますわ」

 

二人は向かい合う。

 

セントライト

「クリフジ……

 あなたが“死に場所”を探していること、分かっています。……あの方のことですのよね?」

 

クリフジ

「……ええ、私が愛したただ一人の人……あの方がいなくなってから私の世界は色を失いました。……それでも、今まで生きてきましたが……もう、生きる意味もありません」

 

セントライト

「……それでも私は――

 あなたに、生きてほしい」

 

クリフジは小さく笑った。

 

クリフジ

「……もう、疲れましたわ。

 彼が死んだ日から、私の心も死んだのです」

 

セントライトは、そっと手を取る。

 

セントライト

「それでも。

 あなたは、まだ誰かの光になれる」

 

長い沈黙。

 

やがて――

 

クリフジ

「……少しだけ。

 考えさせてください」

 

セントライト

「ええ。

 私は、待ちますわ」

 

青紫の孤独は、

まだ完全には癒えていない。

 

だが――

管理と暴力の都市の中で、

たった一つの“例外”が、確かに芽吹き始めていた。

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