A社1区 A社本社・会議室
重厚な扉の向こうは、まるで時間が止まったような静寂だった。
壁一面のモニターに映るのは、雪原を疾走する一人の緑の影。
「緑の旅人」ミスターシービー。
既に不純物指定から二ヶ月。
派遣した処刑者は全滅し、監視網は毎度のようにすり抜けられる。
円卓の端に、特色フィクサー 金色の暴君「オルフェーヴル」は腕を組み、冷ややかに立っていた。
「そうか。シービーの奴に、また逃げられたか」
透明なケースの中でグリッチが蠢く凝視者・ルダが、苛立ったノイズを漏らす。
「ええ。目が24時間完全監視しているにも関わらず。
あいつ、本当に神出鬼没でイラつく」
処刑者・バラルは無言だったが、苛立ちと不満を隠せていない。
鉄仮面の下から、低い声だけが響く。
「派遣した足爪をほぼ全員返り討ち。
流石に予想外だった」
調律者・ジェナは椅子に深く腰掛け、指を組んでドヤ顔で語り始める。
「まあでも、既に不純物認定済み。
準備が整い次第、都市から完全に排除するわ。
都市の秩序を乱す者、禁忌を犯す者は、
A社の名の下に存在を許されない。
それが我々の使命であり、都市の均衡を保つための——」
オルフェーヴルが、冷たく遮った。
「余はあやつの実力と性格を理解しておる。
鬼ごっこに飽きたら、そのうち自ら都市から居なくなる。
それがいつになるかは知らんがな」
槍の柄で床を軽く叩く。金属音が部屋に響く。
頬を引きつらせながらジェナが反論する
「それが問題なのよ。
不純物が都市に存在すること自体が許されない。
排除か外郭追放は絶対」
「なら、余が出向くことにするか。
あやつは余の古い知人だ。
貴様らより動きを予測できる」
バラルが即座に低く唸る。
「結構だ。
特色ごときが、我々を出し抜く必要はない」
オルフェーヴルは冷笑し、槍を肩に担いだ。
「ふん。
凝視者と処刑者はともかく、
調律者は話が長いな。
過去にガリオンとかいう女が赤い霧と相打ちで死んだこともあっただろう。
図書館の放逐の際も、アンジェラの始末はできなかったらしいな」
ジェナのドヤ顔が一瞬崩れる。
「……否定はしないわ。
でも、頭・目・足爪を敵に回して、いつまでも生きてはいられない。
そのうちくたばるわよ、シービーも」
その時。
オルフェーヴルの通信デバイスが震えた。
──ドリームジャーニーからの着信。
「……姉上」
「オル、シービーがD社4区に現れたよ」
オルフェーヴルの青紫の瞳が、鋭く細まる。
「でかした。
そのまま動きを見張っておけ」
「分かったよ、オル。気をつけてね」
通信が切れる。
オルフェーヴルは槍を手に立ち上がる。
金色のコートが、部屋の光を一瞬だけ焼き尽くすように輝いた。
「ふむ。では、早速出向くとしよう」
「貴様、さっきの話を聞いていなかったのか?
出向く必要は——」
ジェナが手を上げて制する。
「まあ、こうなったらいっそのことオルフェーヴルに任せる手もありね。
不純物を排除できるなら、なんでもいいわ」
「本気か、ジェナ?」
「頭にとって最も重要なのは結果、過程は関係ないわ。」
オルフェーヴルは扉の前で振り返り、
冷たく、しかしどこか哀しげに微笑んだ。
「では、行ってくる」
金色の暴君は、堂々と歩み去る。
槍の先が床を擦り、静かな金属音が廊下に響き続ける。
残された三人。
「……何故A社はあんなやつを用心棒にした?」
「さあね。上の考えは分からないわ」
画面の中、緑の旅人はまだ走っている。
誰にも縛られず、誰にも止められず。
金色の暴君は、追う。
古い知人を、かつての友を、
都市の秩序のために、
自分の手で終わらせるために。
オルフェーヴル
特色フィクサー「金色の暴君」
現在都市の支配者である翼「A社」と専属契約してる特色フィクサー
実力も折り紙付きで、特色でも上位層に入る
秩序を何よりも優先しているため、都市災害や不純物を容赦なく粛清する
ジェナ
A社調律者
かつて図書館の放逐に出向いた都市の最上位の戦力、調律者の一人
現在はA社と契約したオルフェーヴルに対して契約の窓口代わり兼友人として接している
図書館の放逐でアンジェラの始末が出来なかったことを反省して少し口調がシンプルになった
しかし話は相変わらず長い
ルダ
B社凝視者
都市の監視を担当するB社所属の凝視者
ジェナの仕事仲間
バラル
C社処刑者
不純物の粛清を担うC社所属の処刑者
ジェナの仕事仲間