ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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生きる意味

ハナ協会北部支部 待機部屋

 

白を基調とした簡素な待機室。

窓の外には北部地域の整然とした街並みが広がり、

遠くに翼のタワーが静かにそびえている。

 

クリフジはベッドの端に腰掛け、膝を抱えていた。

青紫の衣装は埃一つなく整っているが、

その瞳は虚ろで、まるで何も映していないようだった。

 

扉が静かに開き、セントライトが入ってくる。

 

セントライト

「クリフジ……少しお話ししてもよろしいかしら?」

 

クリフジはゆっくりと顔を上げ、

かつての友人の姿を認めて、わずかに目を細めた。

 

クリフジ

「……セントライト。

 やはり私はどこにも所属する気はありません。

 ……ですが、しばらくは貴女と共に仕事をしたい。

 ……それでいいですか?」

 

セントライトは優雅に微笑み、

部屋の中央に進み出た。

 

セントライト

「ええ、構いませんわ。

 ……それで北部地域で住む宛はあるので?」

 

クリフジ

「正直全くありませんが……

 裏路地の空いてるアパートでも探します」

 

セントライトは小さく首を振り、

穏やかだが強い口調で言った。

 

セントライト

「それなら……わたくしの家はいかがですか?

 北部支部からは近いところに住んでいるので仕事には便利ですわよ」

 

クリフジは一瞬だけ視線を逸らし、

やがて諦めたように頷いた。

 

クリフジ

「……好きにしてください」

 

セントライト

「……ではエクリプス支部長に伝えてきますわね」

 

扉が閉まる。

 

クリフジは再び膝を抱え、独り言のように呟いた。

 

クリフジ

「……死ぬのはしばらく先送りになるわね」

 

それからクリフジはセントライトの住まいである

P社16区の高級マンションに居候することになった。

 

セントライトの家

3LDKのかなり広い住まい

 

玄関を入ると、

清潔で上品なリビングが広がる。

白と淡い金色のインテリアが、

セントライトの気品をそのまま映しているようだった。

 

セントライト

「好きな部屋を使っていただいて構いませんわ。

 こちらのお部屋は日当たりも良く、静かですのよ」

 

クリフジ

「……感謝します」

 

それ以上の言葉はなかった。

 

彼女は荷物をほとんど持たず、

ただ一振りの太刀だけを手に部屋に入った。

 

 

それからの日々は、淡々と過ぎていった。

 

ハナ協会に回ってくる都市災害の鎮圧任務。

北部支部での事務仕事の補助。

帰宅後の、最低限の家事。

 

クリフジは感情を表に出さず、

必要なことだけをこなし、

必要な言葉だけを発した。

 

戦場では正確無比に太刀を振るい、

私生活では影のように静かだった。

 

――まるで、生きているだけの亡霊のように

 

1週間後 ハナ協会北部支部 オフィス

 

メジロラモーヌ

「それでどうなの? クリフジの様子は?」

 

セントライト

「まだ立ち直れてはいませんが……

 死ぬのは先送りにすると言ってくれました」

 

エクリプス

「そう、まあ心の傷ってのはそう簡単には治らないわ。

 地道にやっていくしかないわね」

 

メジロラモーヌ

「でも……クリフジの実力は凄まじいわね。

 私も何回か同行したけど、セントライトとの連携もかなりのものだし、

 鎮圧速度もかなり素早かったわ」

 

セントライト

「たしかに彼女は他人と合わせることも出来ますが……

 元々はたった1人であらゆるものを退けれるのが何よりの強みです。

 孤軍奮闘という言葉が何よりもピッタリでしたわ。」

 

エクリプス

「そうなのね、まあ流石は特色といったところかしら」

 

メジロラモーヌ

「それにしても、

 “青紫の孤独”なんて……

 ちょっと重すぎないかしら?」

 

セントライト

「まあ彼女が自分で選んだ名前ですので……」

 

エクリプス

「とりあえず、クリフジはしばらくは大丈夫そうなのね。

 ならハナ協会としては今回は厳重注意の訓告処分で済ませるから、

 セントライトはクリフジのことよろしく頼むわ」

 

セントライト

「分かりましたわ」

 

その夜……

 

セントライトの家 リビング

 

柔らかな照明の下、

クリフジはソファに座り、

向かいのセントライトを見つめていた。

 

クリフジ

「セントライト、話があります」

 

セントライト

「なんでしょうかクリフジ」

 

相変わらずの濁った瞳でクリフジが静かに口を開く。

 

クリフジ

「私は生きる意味をとうの昔に捨てました。

 しかし貴方によって死ぬ機会も失いました。

 ……その代わりと言ってはなんですが、

 私に生きる意味を与えてください」

 

セントライトは言葉を失い、

しばらく黙って彼女を見つめた。

 

クリフジ

「今の私には……何のために生きればいいのか、分かりません

……ですから、貴女が、私に生きる意味を与えてください……どんなものでも、構いません」

 

それは依存だった。

だが同時に、彼女なりの必死な生存の形でもあった。

 

セントライトは静かに息を吐き、

真っ直ぐにクリフジの瞳を見つめ返す。

 

セントライト

「……それは、本来、誰かに委ねるものではありませんわ」

 

クリフジ

「……分かっています。ですが……もう私は考えるのにもなにかを想うことにも疲れました。

 それならいっそ、信頼できる貴方に全てを委ねてその通りにしたい。

 ……お願い出来ますか?」

 

長い沈黙の後、

セントライトはゆっくりと頷いた。

 

セントライト

「……仕方ありませんわね。

 ……クリフジ、友達としての頼みです。

 わたくしを悲しませないでください。

 ……貴方が死ねばわたくしは悲しみます。

 故に、絶対に死なないでください」

 

クリフジは目を閉じ、

初めて、わずかに声が震えた。

 

クリフジ

「……分かりました……セントライト。

 貴方を悲しませないと約束します」

 

セントライト

「ええ……絶対ですわよ」

 

二人の間に、

静かな時間が流れる。

 

青紫の孤独は、

まだ消えていない。

 

だが今は、

セントライトという“生きる意味”に繋ぎ止められながら、

彼女は歩き続けている。

 

ゆっくりと。

静かに、それでも、確かに。

 

――生きるために。

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