外郭 図書館
都市の不純物として放逐された図書館。
荒涼とした外郭の荒野に、ぽつんと佇む巨大な建物。
外壁は風化し、窓は埃に覆われているが、
内部では今も細々と灯りがともり、活動が続いている。
稀に、招待状を持たないゲストが、
この忘れられた場所を訪れることもある。
ステイゴールド
「邪魔するよ〜」
重い扉を押し開け、明るい声が響く。
アンジェラはカウンターの向こうで本を整理する手を止め、
冷ややかな視線を向けた。
アンジェラ
「邪魔するなら帰りなさい」
ステイゴールド
「はいよ〜……ってそうじゃないんだよ」
彼女の後ろから、ミスターシービーがくすくす笑いながら入ってくる。
ミスターシービー
「あはは、ステゴったらコッテコテだね」
ローランは書架の陰から顔を出し、
軽く手を上げた。
ローラン
「誰かと思えばステゴじゃねえか。
それとお前は見ない顔だな」
ミスターシービー
「初めましてだね。アタシはミスターシービーだよ」
アンジェラは本を閉じ、静かに二人を観察する。
アンジェラ
「ああ、貴女が以前頭に喧嘩売って外郭に追放された特色ね」
ステイゴールド
「今となっちゃもう『元特色』だけどな。
私が面倒を見てるんだ」
ローラン
「それで、今日は何の用だ?」
ステイゴールドは肩をすくめ、
周囲の書架を見回した。
ステイゴールド
「大した用じゃないさ。
久しぶりに都市の近くまで戻ってきたから、様子を見にな」
アンジェラは小さくため息をつき、
カウンターから離れた。
アンジェラ
「私たちも暇じゃないんだけどね……
まあいいわ。もてなせはしないけど上がっていきなさい」
図書館 総記の階
薄暗い書架の間に、簡素なテーブルが置かれている。
紅茶の香りが微かに漂い、
古い本の匂いが静かに混じり合う。
四人はテーブルを囲み、
それぞれ椅子に腰を下ろした。
ローラン
「……それで、シービーは脱税で頭から追われる身になったと?」
アンジェラ
「しかも派遣された処刑者を3人も返り討ちにするなんて……
イカれてるわね」
ミスターシービーは苦笑しながら、
髪を軽くかき上げる。
ミスターシービー
「だってオルフェが振り向いてくれなかったんだもん。
それに処刑者っていっても単体が連続で来るだけだったからなんとかなったんだよ。
複数人相手だったら多分終わってたし、
調律者相手には逃げるしか出来なかったよ」
ステイゴールド
「それでも頭から追われて生き残っただけでもやばいものさ。
まあ情けをかけたオルフェには感謝しとけよ」
ミスターシービー
「分かってるよ」
ローランは紅茶を一口すすり、
静かに話題を変えた。
ローラン
「……それにしても、都市では随分ウマ娘の特色が増えてるらしいな」
アンジェラ
「ウマ娘……身体能力に優れていることは有名だけど、
それにしても特色に指定されてる理由は他にもあるのかしら?」
ステイゴールドは肘をテーブルについて、
少し考え込むように答えた。
ステイゴールド
「ああ、身体能力もそうだが、ウマ娘は個性的な連中が多い。
2つ名をつける際に楽なんだよ。
もっとも実力に関しては特色相応である必要がしっかりあるがな」
ローラン
「まあそれでも、特色になってるウマ娘は総じて凄腕だよ。
俺が都市にいた頃でも有名な奴は数多くいた」
アンジェラ
「例えば?」
ローランは指を折りながら、
記憶を辿るように語り始めた。
ローラン
「まずハナ協会の『白い聖光』セントライトと『深碧の老雄』スピードシンボリ、
『桃色の偶像』ハイセイコーだろ。
シ協会にいた『深緑の皇帝』シンボリルドルフって奴も有名だったし、
センクの『水色の女王』アーモンドアイ、
フリーランスだった『深紅の天女』マルゼンスキーってのもいた。
『緑の旅人』ミスターシービーと『金色の暴君』オルフェーヴルのコンビだって、
俺のいた時代じゃあかなり名を馳せてたな」
ミスターシービー
「あはは、ありがとう。あとはディエーチの『黒い刺客』ライスシャワー辺りかな」
ステイゴールド
「ああ、こうして見ると本当に強い奴らばかりだな……」
アンジェラは興味深そうに身を乗り出した。
アンジェラ
「そうなのね。で、その上で最強のフィクサーというなら?」
三人
「「「赤い霧」」」
アンジェラ
「……やっぱりそうなるのね」
ローラン
「だってお前赤い霧だぞ、都市の最強伝説。
あいつに勝てるのは調律者とかっていうならまだしも、
フィクサーではそうそういないだろ」
ミスターシービー
「正直アタシはあんまり名声とかには興味ないけど、
それでも赤い霧は別格かなって思うよ」
ステイゴールド
「まあその筋ではサシでやるなら赤い霧って何度も言われたほどだしな」
アンジェラ
「ふーん、本当に凄かったのね」
その時——
ゲブラー
「私はそうは思わないけどな」
赤い霧の異名を持つ言語の階指定司書、
ゲブラーが静かに現れる。
赤い大剣を肩に担ぎ、落ち着いた姉御肌の笑みを浮かべていた。
ローラン
「噂をすればゲブラーじゃないか」
ゲブラー
「ああ、ちょっと聞いていたが、特色の連中の話だって?」
ミスターシービー
「そうだよ。まあ赤い霧に勝てそうな娘はいないって結論になったけどね」
ステイゴールド
「ああ……でもゲブラーはそう思ってなさそうだな」
ゲブラー
「私だってそれなりにフィクサーの噂は聞いていた。
私がいた都市西部でなら、ヂェーヴィチ協会の『灰色の怪物』オグリキャップ、
『青白の稲妻』タマモクロスのコンビとかな」
アンジェラ
「オグリキャップとタマモクロス?」
ゲブラー
「ああ、ヂェーヴィチで名を馳せていたコンビだ。
今もいるならまだまだ現役だろうな」
ミスターシービー
「どんなウマ娘なの?」
ゲブラー
「オグリキャップが道を拓き、タマモクロスが荷物を抱え突き進む。
そのやり方で数多の配達をこなしたヂェーヴィチの最強コンビ……
そんな噂だったな」
ステイゴールド
「ほう、そりゃまた凄いな」
ゲブラー
「ああ、私は自分の噂には興味なかったが、
他人の興味深い話はいくつか聞いたさ」
アンジェラ
「例えば?」
ゲブラー
「さっきサシでやるなら赤い霧と言ったが……
本当にごく一部のフィクサーマニアの間では
『赤い霧か青紫の孤独の2強』って奴だ」
ローラン
「青紫の孤独? 聞いたことないがどんな奴なんだ?」
ゲブラー
「私も気になって1回聞いてみたんだが……
個の戦闘力としては知ってる奴なら文句なしに最強と言えたそうだ。
圧倒的な力と精密な技術……
少なくとも赤い霧とて正面からでは多少の深傷は覚悟するべき……
そんな噂だ」
ミスターシービー
「そうなの? でもそんなに強いならもっと有名でもいいんじゃないの?」
ゲブラー
「どうも極端に自分の存在を消してるような奴でな……
見た事ある奴もほとんどいなかったし、
その噂を言ってたヤツもさらに人伝で聞いただけ……
それでも、知ってる奴なら赤い霧の次点を上げるなら青紫の孤独は外せない。
そう言えたそうだ」
ローラン
「おいおいまじか……前にゲブラーと今の都市で1番強い奴について話したけど、
そんな奴もいたのか……なんで言ってくれなかったんだよ?」
ゲブラー
「私だって最近まで忙しくて忘れてたんだ。
……ふと昔の記憶を思い返してた時に思い出した」
アンジェラ
「青紫の孤独ね……そんな噂が出る辺り、本当に強いんでしょうね」
ローラン
「俺も情報にはそれなりに詳しい自信があったんだが……
そんな奴がいたなんてな」
ミスターシービー
「じゃあステゴ、君って都市にいつでも戻れるよね。
ちょっと青紫の孤独に会ってきてよ。
どんなフィクサーなのか気になるからさ」
ステイゴールド
「まあ出来ないこともないが……分かったよ、1回調べてくる」
外郭の風が、
図書館の古い扉を軽く揺らす。
青紫の孤独の噂は、
静かに、しかし確かに、
外郭の図書館にまで届いていた。